良い夢?
仲の良い兄妹が歩いている。妹の名前は金華、そして兄の名前は湊介だ。今日は兄妹の父親がつとめている神社のお祭りで兄妹は遊びに来ている。
「今日は遊べるね!お兄ちゃん」
元気な声が響いた。
すぐ後に、少し声変わりが始まった男子の声が響いた。
「あんまり走るなよ、転んで泣いても知らないぞ?」
金華は紅い浴衣を着ていて、帯には大麻が刺してある。湊介は袴で、手首には陰陽玉を模したガラス玉の数珠を身に付けている。
「別に泣かないもん!」
むくれた顔で少し上ずった声だ。
「ほんとに~?」
少し小馬鹿にしたように湊介は言った。
「私はまだ未熟な巫女だけど」
少し口ごもった後に、喧嘩腰で声を荒げた
「私だって巫女修行してるもん!」
「修行していても痛いものは痛いぞ。」
そんな言葉を聞いてか否か、金華は大きく頬を膨らませた。
「さて、何時までも拗ねてないで早く本殿に行こう。」
「父さんが待っていらっしゃる。」
「早く終わらせて寒ちゃんにお土産を持っていかなきゃ。」
「そうだなー····」
そんな微笑ましい言葉にも考え事のせいで空返事になってしまった。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
湊介の顔を心配そうに金華が覗き込んでいる。
「いや~なんでもないよ。」
作り笑いでごまかして自分の頭を横に振り、思考を強引に振り払う。それでも疑問は消えなかった。
(にしても小学生ぐらいの女の子が夜遅くに友達に会うか···?)
それは数時間前の出来事で、俺と金華がいつもの御茶会に参加し、寒桜と会話したときのはなしだ。
「へぇー、お祭りがあるのね。」
まるで知らなかったとでも言いたげである。
「そう!」
「寒ちゃんも来ない?」
「うちの神社でやるんだ!」
楽しげな声の後に、落ち着いた声が後を追う。
「迷惑じゃなければ、ぜひ」
すると寒桜は大きく机に身を乗り出した。
「迷惑だなんて、そんなことないわ!」
「えっと···」
普段こんな風に感情を高ぶらせるところを見たことがなかった湊介は少し困った顔をしていると、寒桜はやってしまったと言う顔をした。
「ごめんなさい。お行儀が悪かったわ···」
湊介は優しい顔をして、
「お気になさらず、いつも妹がやってて慣れていますから。」
すると金華が恥ずかしそうに声を荒げ、反論とも呼べない反論をした。
「ちょっとお兄ちゃん!」
寒桜は柔らかなほほ笑みを浮かべて呟いた。
「本当に仲の良い二人ね。」
だがそんなほほ笑みもすぐに消えた。
「残念だけど、今日はお祭りに行けないの。」
「行きたいけど···」
その後の言葉は本当に消え入りそうなほど小さく、か細い声だった。
「····あの子達は····神社に近付きたがらない····から···」
そう言い終えると、寒桜は残念そうな顔をしている。だが、瞳の奥にはまるで獲物を見定めた覚悟のある瞳を宿している。だが、その場にいた誰も気が付くことはなかった。
そして表情を切り替え、困った顔でこう言った。
「今晩、ここにお友達が来るの。」
「無理に連れて行くのも悪いし···」
「分かった!それじゃあ、その子の分もお土産持ってくるね!」
悪意のない純粋な言葉が一つ上がった。
「ありがとう。」
少し間をおいて、名残惜しそうに湊介は声を上げた。
「そろそろ帰らないと、父さんたちにお叱りを受けるな。」
すぐ後に「大変だ!」と慌てて帰る準備を始める金華を横目に、湊介はお礼を言い、金華の準備を手伝い始めた。そして寒桜は独り言の様に呟いた。
「そっか、じゃあね。」