雪の町 【月夜譚No.339】
そこは、雪の溶けない町だった。一年中白い氷に覆われ、厚い雲が空を覆っている時間が長く、太陽を見ることが少ない。
常に寒さが隣にあるそこでは、しかし人々は懸命に生きていた。少しでも暖かさを保って凍えてしまわないように工夫をし、脈々と子孫を残し続けている。
町に立ち寄った旅人は、不思議でならなかった。こんなに寒い場所に根を張らず、もっと暖かい地方に移り住めば楽な生活もできるだろうに。そう言う旅人に、住人は笑うばかりだった。
その日の夜。旅人は町の祭りに参加した。
泊まらせてもらう民家の玄関を出て、旅人は目を丸くした。
白い雪に真っ黒な空。深々と降る雪の中で、あちこちに飾られたランタンが温かく火を灯す。
それは幻想的だった。吹く風は冷たいのに、吐く息は白いのに、目にしたその光景は、暖かかった。
(――ああ、そうか)
それを見て、やっと解った。この町の先祖が繋げてきたもの。残したかったもの。――ここで生きたいという、強い願い。
自分の考えは浅はかだったと、旅人は一人ランタンの火を瞳に映した。
賑やかな声が雪に吸い込まれるのに負けることなく、大きく谺する。
夜は始まったばかり。雪の中の祭りは温かに賑わう。