06 おしまい
「魔王様、報告致します」
副官の声に魔王は「うむ」と肯きました。
「王国より降伏の使者が着きました」
「そうか。例の馬車を見付けた様子はあるか?」
「はい。壊れた馬車の中を確かめていたとの報告が上がっております。そして到着するといきなり、姫が来なかったかと訊かれましたので、この魔王城を初めて訪れた人間はそなただと答えておきました」
「うん。確かにそうだな。ウソは言ってない」
「はい」
「では後程会おう。これで王国は我が国の物だな」
「はい。名実共に魔王様の物でございます」
「そうすると、国境にちょっかいを出している隣国は、我々の敵だと言う事だな?」
「向こうはとうにその積もりの様ですな。避難しようとする王国の人間共の入国を拒むだけではなく、こちらに越境してきて焼き払っておりますから」
「また焼き払いか。隣国にも賢者がいるのか?」
「いえ。避難民を追い集めて、上から油を掛けて火を付けるのだそうです」
「それ、直ぐには死にきれずに、火傷で苦しむのではないか?」
「そうでしょうな」
「非道い事をするものだな。同じ人間なのに」
「国が違えば文化や風習や宗教が違いますので。自分とは違う人間は攻撃して良いと言う事だけが、各国で共通しておる模様ですな」
「なるほど。しかし人間同士でそこまでするなら、なんだか魔王の存在意義を問われる気がするな」
「それなのですが、どうやら人間達の歴史書を見ますと、自分達の醜い行いを魔王の仕業にしている節がございます」
「罪を魔王に被せているのか?」
「はい。これまでの魔王は滅んでおりますし、いずれの魔王城も焼き払われておりますので、証拠はございませんが」
「そうか。死んだら負けな感じだな」
「そうですな。魔王国を存続させませんと、色々と濡れ衣を着せられるでしょう」
「それを着させられない為にも、隣国の行いを止めさせないとな」
「はい」
「魔王軍は国境に向かっておるのだろう?」
「はい。しかし予定の速度は出ておりません」
「それは何故だ?」
「途中で人間共の抵抗があるからです」
「何故だ?王国は降伏したではないか?」
「国王は降伏しましたが、国民は別、と言う感じですな」
「なんだそれは?人間共の被害を減らしてやる為に、先に王都を落としたと言うのに、地方地方を服従させる必要があると言うのか?」
「地方地方と言うより、一人一人ですな。これまで滅ぼした村でも、反対するのは実は一人の村人だけだったのかも知れません。降伏しておいて攻撃して来たので殲滅した村がいくつもありますが、それらの村では決まって、反乱を起こした一人が悪いだけで、他の村人は逆らう気はないと言い訳をしていた模様です」
「つまり、村長なり町長なりは、配下の人間を制御出来ていないと言う事か?」
「はい。状況を見るに国王も同様かと」
「面倒臭いな」
「そうですな」
「まあ人間がそうだからと言って、こちらが合わせる必要はない。王国は我が国の物であり、隣国の者が王国内に踏み込んで暴虐を行っているなら、隣国が責任を取るように戒めるだけだ」
「どの様になさいますか?」
「まず王国内だが、国王に任そう。ちょうどまだ王位を剥奪していなかったから、やらせろ」
「反乱を行いませんか?」
「反乱も裁かせろ。国王が反乱の首謀者なら、次の者に王位を継がせろ」
「それはつまり王国は、普段は放置と言う事ですかな?」
「そうだな。もともと細かい事まで人間の面倒を見る積もりはないだろう?」
「そうですな」
「なので魔王国を守る兵力を残し、それ以外は隣国との国境に送れ。部隊毎に進むと王国内でも人間共が反抗してくるかも知れんが、軍団で進めば手も出せないだろう」
「それでも手を出してくる人間は、材料でよろしいですね?」
「それで良い。誰か一人の所為で村を殲滅する必要はないが、村人全員が約束を守らぬ愚か者なら、結果として村が無くなるのも仕方ない。それは国王に伝えて置いた方が良いな」
「面倒ですから、王国から軍団への同行者を出させましょう。国王への報告はその者にさせればよろしいでしょう」
「そうだな。任せる」
「はい。ではその方針で進めます」
「ああ。頼んだ」
「承りました」
頭を下げる副官に対して、魔王は満足げに肯きます。
「ところで、例の村はどうだ?」
「特段、変化はございません」
「結界は解かれたままか?」
「はい」
「それでも勇者は村から出て来ないと」
「左様でございます。賢者は相変わらず、たまに結界の範囲の外まで来て暴れる様ですが、村から一定以上は離れません。挑発すると悔しそうにはしている様ですが、スゴスゴと村に引き上げるそうです」
「本当に、村から出る気がないのだな」
「その様です」
「それなら放置で良いか」
「お会いになったりしませんか?」
「勇者に?イヤだよ」
「仕方ありません。魔王様も引き籠もりですからな」
「何を言う?勇者と違ってこちらは、魔王城から出る必要なんてないだろう?」
「それで言うと勇者も村を出る必要を感じてないのかも知れませんな」
「確か、村は自給自足をしていて、他の町村とは交流がないのだったな」
「はい。王国はかの村の存在を把握してもいなかった模様ですので」
「完全に孤立しているのか」
「はい」
「それなら王国の危機だからと言って、村から出る訳はないな」
「左様ですな。危機を感じたら、村や身近な者だけを守るのでしょう」
「つまり、このまま隣国を攻めたとしても、勇者は村から出ない」
「そうでしょうな」
「良し。早速、隣国を攻めるぞ」
「はい、魔王様。しかしまず、王国の降伏の使者にお会い下さい」
「ふっ、そうだったな。では準備が出来たら喚んで参れ」
「畏まりました」
こうして魔王国と隣国の戦争が始まりました。
その戦いは他国も次々と巻き込み、年々激しさを増していきました。
けれど勇者の村の中では、魔王が魔の手を出して来る事もなく、勇者と村人達は日常を過ごしました。
ただし、聖女がいつもピリピリしていて村の雰囲気を悪くしたり、賢者がたまに大暴れをして村人に被害が出たりしたそうです。
おしまい。
魔族は人間より長生きで、勇者が寿命で死んだ後も魔王(と副官)は現役でした。
勇者が死ぬと新たな勇者が生まれ、その新たな勇者は村から出る事を嫌がりませんでした。
それなので、新たな勇者は魔王城に迫りますけれど、それはまた、別のお話。