05 勇者情報
「魔王様、急報です!」
「こんな時間にどうした?」
緊迫した副官の声に、魔王はカトラリーを置きました。
「勇者の情報が入りました!」
「なに?!本当か?!」
「はい。神聖剣を持っているとの事で、間違いございません」
「よし!でかした!それで、どの様な情報なのだ?」
「勇者はかの村におります」
魔王はちょっとイヤな顔をします。
「聖女と賢者の村か」
「はい」
「村には潜り込めないのではなかったか?」
「正確には人間を潜り込ませましたが、村から出ては参りませんでした」
「まあ教育期間も短かったし、寝返られても仕方ないな」
「それがどうやら違いまして、手の者は村に侵入した途端に見付かり、処刑されたそうです」
「そうだったのか。なぜバレたのだろうな?」
「それが、外から村に入り込んだ者は、見つけ次第に問答無用で殺しているそうです」
「はあ?なぜ?」
「閉鎖的な村で、ヨソ者は嫌いだとの事でした」
「そう言うものなのか?」
「どうでしょうな。他の村や町では聞かぬ話ですが、確認させます」
「では勇者の情報はどの様にして手に入れたのだ?」
「村の結界への飽和攻撃が功を奏し、一部の綻びから中への侵入に成功いたしました」
「おお!とうとう破ったか!」
「はい。ただしすぐに押し返され、今はまた結界の穴は閉じられております」
「構わない。ここまで破れなかった結界が破れたのだ。聖女もやはり疲れるのだと言う証拠であるし、一度破られたとなれば、今後は余計に神経を使うだろう。前線の者共には褒賞を用意しろ。それとは別に前線に褒美を贈っておけ」
「畏まりました」
「それで?侵入した時に勇者の情報を掴んだのか?」
「いいえ。中で村人達を捕らえ、それを結界の外に連れ出して、情報を得たのです」
「良くやった。その村人共を魔王城に連れて参れ」
「それが、情報を聞きだしている途中で賢者が出て参りまして、村人達を焼き払ってしまいました」
「焼き払うと言うのは、人間に対して使う言葉ではないだろう?」
「そうですな。しかし賢者の行いは焼き払いだった模様です」
「村人達は助からなかったのか」
「はい。体の内部から炎が上がったそうで、消火が出来ませんでした」
「魔族は賢者にやられなかったのか?」
「村人を守ろうとした者達が、犠牲になっております」
「・・・そうか。手厚く葬ってやってくれ」
「畏まりました」
魔王と副官の間に、しばし沈黙が澱みます。
「それで?勇者の情報は他に何かあるのか?」
「はい。勇者はあの村で生まれたそうです。日々剣の鍛錬と、剣の手入れを行っているそうです」
「剣の手入れ?」
「はい」
「神聖剣なら我が魔邪剣と同じで、加護から形作る物だから、手入れなど不要の筈だが?」
「どうなのでしょう?知らぬのかも知れませんな」
「そんな事があるのか?神聖剣を顕現出来るなら、自然と分かりそうだが」
「そうすると、もしや、偽者でしょうか?」
「そうかも知れんが、間もなく王都が落ちようとしているこの状況で、勇者が現れないのだぞ?他ではもう現れんだろう?それに村に籠もっているなら、わざわざ勇者を騙る必要もあるまい?」
「それもそうですな」
「しかし勇者か。面倒だな。本物なら物量では倒せんぞ」
「魔邪剣、つまり魔王様がかの村まで出向かねばなりませんな」
「勇者を倒すならな」
「はい」
「・・・よし。飽和攻撃を中止させろ」
「・・・よろしいのですか?」
「ああ。勇者を相手にしたら、無駄に戦力を消費する事になる」
「しかし攻撃を止めたら聖女が回復してしまいますぞ」
「それもそうだが、そうだ!賢者のやっていたしっぺ攻撃。飽和攻撃の代わりにあれをやらせろ。結界の周囲を囲ったまま、あちらこちらからペシペシと絶え間なく結界を突け」
「なるほど。まれに大き目の魔法で攻撃したりするのもありですかな?」
「お、それは良いな。無理しない様に、飽くまで遊びの範囲なら許す」
「畏まりました」
「それと四天王か八将に村の周囲を固めさせろ。もし勇者が村から出て来ても、王都に行くのに時間を掛けさせる為にだ」
「誰でも良いのですか?」
「構わんが、勇者は村から出て来ないと思う」
「そうですな」
「なので戦闘がなくても耐えられる者を宛てがえ」
「畏まりました。普段から戦いたくないと言っている者がおりますので、その中から選びます」
「戦いたくないって、その中からって、複数いるのか?」
「はい」
「良く四天王なり八将なりなれたな」
「戦わずとも、成果を出せば昇進出来ますので」
「そうか。その、複数いるなら複数で当たらせても構わないからな?勇者を足止め出来る事を最優先に選任してくれ」
「畏まりました」
勇者の事は心配ですが、魔王は気持ちを切り替えました。
「良し。では全力で王都を落とすぞ」
「はい」
魔王の力強い言葉に、副官は深々と頭を下げました。