04 姫の行方
「魔王様、報告致します」
副官の声に魔王は「うむ」と肯きました。
「侵攻は順調です。王都までの進撃は予定通りに進みそうです。かの村以外は」
「そうか。あの村に攻撃を仕掛ける魔獣達の準備はどうだ?」
「間もなく総攻撃の準備が完了いたします」
「魔獣使い達は油断していないだろうな?士気は上がったのか?」
「はい。聖女に魔人達が全滅された時の生き残りの魔族達が、今回の攻撃のアドバイス等をいたしました。魔獣使い達も同じ魔族。魔人達の無念に皆、心を熱くしておる様子で、それが生き残り魔族のメンタルケアにも影響を与えた模様です。生き残り魔族達も皆、今回の攻撃の裏方を勤めております」
「そうか。良かったと言い切れはしないが、先ずは前進だな」
「はい」
魔王の言葉に副官は肯きます。
「そちらは良いのですが、一点ご報告が」
「なんだ?問題か?」
「良く分かりませんが、多分」
「勿体振らずに申せ」
「はい。こちらをご覧下さい」
副官が一通の書状を魔王に差し出します。
「これは?」
「破壊された馬車から見つかった物です」
魔王は中の文書を読みました。
「これには姫を生贄に差し出すと書いてある様に読めるが?」
「はい。わたくしにもそう読めました」
「人質ではなく、生贄?」
「はい。その様です」
「姫を私に食わせる積もりなのか?」
「人間の考える事は分かりませんが、文章からはそう読み取れますな」
「差出人の国王と言うのは、姫の父親ではないのか?」
「はい。その筈です」
「人間と言うのは、子や孫を慈しむのではなかったか?」
「はい。人間が読んでいる本には親や子孫を慈しめとありました」
「それなのに、自分の娘を生贄にするのか?」
「そうですな。慈しめないからこそ、慈しめと戒めているのやも知れません」
「なるほど、胸クソ悪い話だな」
「はい。しかしこの話、胸クソ悪いでは終わらせられません」
「うん?と言うと?」
「その書状ですが先ほども申しました通り、破壊された馬車より見つかりました」
「ほう?どう言う事だ?」
「グールとスケルトンの混成部隊が対応し、護衛を含めて馬車の一行を殲滅した模様です」
「魔王の支配地に踏み込んで来ていたと言うのか?」
「その様でございますな」
「なんと不用意な」
「人間同士ですと、戦争中の相手国とも使者の行き来はする様ですので、勘違いしたのかも知れません」
「呆れたものだが、勘違いで殲滅された者達は、呆れたでは済まないな」
「左様ですな」
「それで?これに返事をしろとの提案か?」
「それがですな、紋章や荷物を見ますに、どうやらその破壊された馬車に姫も乗っていた模様でして」
「こちらの都合も考えずに、いきなり姫を送り付けて来たのか?」
「どうやら、その通りの模様で」
「こちらには生贄の風習などないのに、それを確認もせず、人間同士だとそうなのか?」
「人間の残した物にそれらしい記述はありませんでしたが」
「忌まわしき風習なので、書き残してないとかか?」
「あるいは当たり前過ぎる常識なので、記録を残す必要は無い事も」
「それと同列にされるのはイヤだぞ」
「生贄を断ったら常識知らずと責められたかも知れませんな」
「ますますイヤだな。それで?姫を受け入れろと言う提案か?」
「いえ。その姫ですが、おそらく死んでおります」
「・・・そうか。殲滅したと申しておったな」
「はい」
「こう言う時は、亡骸を返すのか?」
「どうでしょう?返された亡骸を丁寧に埋葬する事もあれば、役立たずと罵って足蹴にして野晒しにする事もあるようです」
「娘を生贄にする父親なら、罵りそうだな」
「そうですな。しかし問題は姫の亡骸が見当たらない事です」
「見当たらない?」
「はい。馬車が見付かった近隣で生産したグールを確認しましたが、それらしき者はおりませんでした。スケルトンになっておるやも知れません」
「スケルトンか・・・見分けは付かんだろうな」
「はい」
「何か策はあるのか?」
「馬車の中に手紙を戻そうかと」
「つまり、気付かなかった事にするのか?」
「はい」
「確かに、それしかないだろうな」
「では、その様に手配いたします」
「ああ。それから前線に人間の言葉を喋れる魔族を送れ」
「それはどの様な理由でしょうか?」
「村や町を襲う前に、降伏を勧告させろ」
「人間が降伏して来たらいかがなさいますか?」
「その場所は素通りで良い」
「しかし降伏した振りをして、我々を騙すやも知れませんぞ?」
「そうしたら殲滅する様に。手間にはなるが」
「いいえ、手間は問題ございません。畏まりました」
「そして降伏勧告の際に、生贄はいらないと伝えさせろ。子供をゾロゾロと押し付けられては敵わん」
「承りました」
その日の魔王は少し、食欲がありませんでした。




