甘く、溶けていく
あさみとあさこは双子の姉妹。今日は暑い夏の日。
2人で喫茶店に来てただだべっているだけではない。
あるものを目当てに来ていた。
あさみは文系のインドア派でクールな性格。
あさこは理系のアウトドア派で楽天的。
2人は容姿はそっくりだけれど、昔から性格が全然違った。
好きな音楽も得意な教科も異性の好みも、まったく違う。でも気が合う。
そんな2人だけれど醬油ラーメンとメロンクリームソーダが大好き。
性格はまるっきり違うのに好物はピッタリ同じ。
夏の間は2人ともこのスイーツを目当てに喫茶店へと足しげく通う。
カウンターからウェイターが2つのクリームソーダをお盆にのせてやって
来た。
「お待たせしました。クリームソーダです。」
テーブルにクリームソーダが置かれた。
みどり色の甘いメロンソーダ水の上に、ミルクアイスクリームが浮かんだ
クリームソーダは見た目は可愛く、味はシュワっと爽やか。
一粒の真っ赤なさくらんぼが乗っている王道のルックス。
森鷗外も愛したその夏の楽しみを2人は獲物に飛びかかろうとする
ハンターのような目で見つめている。
「これ食べないと夏が来た気がしないよね」
とスプーンでアイスクリームを頬張るあさみの顔は、本当に嬉しそう。
あさこも負けずにストローでメロンソーダを一口飲んだ。
「うん!カラカラに乾いた喉をシュワっと駆け抜けていく、炭酸の爽快感。
心地よい刺激だ!小さかった頃はお出かけの時にしか食べられなかったよね」
あさみはクリームソーダを堪能している。
「お出かけの後はデパートで必ず食べてたのが懐かしいよ。まだ私たちが小さかった頃だけれど、よく覚えてる」
気持ちを明るくしてくれる清涼感のあるグリーンカラー。
アイスでこってりした口の中を、爽やかにするのはシュワシュワの
メロンソーダ。
だんだんと溶けていき、白とみどりのグラデーションとなり
不思議な飲み口になる。
家族でお出かけの時に食べた思い出のあるご馳走。贅沢品。
あさこは赤いさくらんぼをつまみ上げた。
「因みにあさみさん、これはいつ食べるの?」
あさみは不敵な笑みを見せてさくらんぼを口の中に放り込んだ。
同じタイミングであさこもさくらんぼをほおばる。
二人はお互いの顔を見て微笑む。笑った表情もそっくりである。
メロンソーダとミルクアイスクリームのシャリシャリを食べる食感。
上のほうはクリーミーな味。グラスの下のほうに残ったふわふわは
ストローで一気に吸ってしまう。
あさみとあさこは恍惚の表情になっている。
「甘くて冷たいメロンクリームソーダは「見る」「食べる」「飲む」
1杯で何度も楽しめる素敵な飲み物だ。日本の宝だね」
「ねー。」
夏の暑い日にクーラーの効いた涼しい喫茶店で、好物を堪能して
休日を満喫している2人。
と、そこへあさみが小声で言う。
「あさこさん、ところでさー。さっきの店員さん。生物の秋山先生に
似てなかった?」
「秋山先生、か・・・、確かにねー」
あさこは横目でウェイターを見やりながら気だるそうに言う。
「秋山先生って頭の回転早いし、クールだし生徒から人気あるよねー
あさこさんはどう見てるの?」
あさみはにやけながら言った。
あさこの顔が少し引きつる。
「あー・・、ごめん。私あの先生完璧すぎて、チョット無理だわ。」
あさこの色気のない返事に、
「あちゃー。やっぱりこういうところは合わないか」
頭を抱えたあさみ。
やはり好物の趣味以外は全然違う2人であった。
あさみとあさこの夏の日の喫茶店での風景をコミカルにデザインしました。
好物のメロンクリームソーダを堪能するところだけは意見が同じなのに、秋山先生への印象は全然真逆なところなどはこの双子の特徴で面白いところです。
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