23話ー➁ 人の心とか無いんか?
「は?」
「え?そうなの?どの方と会ったの?」
いや、何で??
開口一番のインパクトが強すぎる。
しかし……もしアファフティア様やソロモン様でないなら、新たなる人脈になるかもしれない。
「えーとな。十神柱2位の人でよ。物凄い気があってな!あたしらで酒を交わしたんだよ!」
「あのおっさん強かったなぁ!恰幅もいいし正に漢の中の漢!って感じだったぜ!!飲み方も豪鬼で憧れちまうな!」
マジか……こいつら十神柱と酒を飲んでたのかよ。
てか何で、こいつらが行ける安酒屋に十神柱が居るんだよ……。
「それで?その方とはその後どうしたのかしら?」
「ん?飲み終わって普通に別れたぞ?また飲もうって話だけどよ、連絡手段ねんだよなぁ。」
あぁ……折角の人脈をよくも……
にしても随分フレンドリーな十神柱だな……
十神柱序列2位、覇道王バシレウス。
彼は天上神界に属している、巨大な星間帝国の現役の帝王だ。
現在では政治の第1線から退いているらしいが......
あまりにも臣民に慕われすぎたため、望まれて未だ大王の座にいるらしい。
しかしこいつらは、そんな話どうでもいいらしく......
「にしてもこうやって飯食うのもいつぶりだ?昔はルークの嫁がここでピーピー泣いててよ~懐かしいぜ!」
「記憶を勝手に捏造するの......やめて貰えるかしら……?」
続いてベレスも話し出す。
「おいおいガリブ。ルシアっちがあんたの前で泣くわけないっしょ?あたしの前で半べそかいたことはあっけどな!」
ベレスのやつまで嘘を言い始め……
「ちょ!ベレスそれは言わない約束のはずよ!!」
おおっと!?……どうやらこっちは本当らしいぞ!?
これは夫として早急に把握する必要がある!
からか……僕の知識欲が求めてやまないからだ!
「ベレスさん。その話、詳しく教えて下さいな。最高の酒があるんですよぉ。」
僕はもうプライドも恥もすべて捨てて、ゴマすりをしながらベレスにすり寄った。
これが僕の羞恥心をゼロにする最終奥義……「プライドゥバァイバイ」だ。
「!?ルークっちそれ大マジ?」
「龍の舞って酒ですよ。ベレス先生。」
ベレスは大の酒好きだ。
滅多に手に入らない酒をチラつかせれば口の硬さなど……無いに等しい。
所詮、脳みそまで筋肉でできた下等な獣……
餌を目の前に吊るせばこの通り。
「ベレス。分かってるわよね?酒なんかで買収されないよね!!」
「ルシアっちがさ、レゾ.....なんたら?が失敗続きだった頃によ。自分のせいだってあたしに泣きついて来たんだよ。だからこのペェに埋めてヨシヨシしてやったんやよ~!」
「ぃああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ルシアもそんな弱音を、他人に吐いた事があるんだなぁ。
事実ベレスは、ルシアが神界に来る前から、冒険者として活動していた。
神界に来たての頃のルシアにとっては、頼れるお姉さんポジだったのだろう。
今でもその傾向はあるし……多分?
てか......昔のルシアめ。根源共鳴について口走ったな??
「ベレスぅぅ!約束したじゃん!おかしいじゃん!!」
「許してちょー。流石にもう時効かと思ってな。」
友情に時効があるとは……これだから女の友情ってのはコワイ。
そしてベレスは、期待の眼差しでこちらを見てくる。
「んじゃ!ルークっち約束のブツ!」
「ん?あーあれ嘘だよ?」
「?????????????」
そう。僕は息を吐くように嘘をつく男だ。
ちなみに言うと……
ベレスは現実を受け入れるのに、少し時間がかかっているようだ。
「あんな幻の酒を?上位神ごときが?手に入れられるわけないじゃん?」
「ちょっ、ルークっち!?これじゃ、あたしがただ友情裏切っただけじゃんか!?」
僕はアホになって誤魔化す。
「ほぁ?あなたどなたぁ?」
「ふざけるな!アホ面でごまかすなぁ!」
そして、そんなベレスの耳に、冷え切った冷たい声が届く。
「ベレス?覚えててね?酒と友情を天秤に掛けたこと、後悔させてあげるから。」
「ル、ルシアっち!?に、ににに肉でも食べるっしょ!」
しかし……食卓に目を向けると。
そこには何も無かった。
その代わりに......
野菜だけを綺麗に残している肉食獣と、口の汚れているエリーがいた。
「ごちそうさま、でした?」
「お?話終わったか?置いてあった肉は俺とエリーで全部食っちまったぜ?」
こいつら……人の心とかないんか?
「そう……全部ルークのせいね。そうよねルーク。」
「あたしも賛成~。ルークっちがぜーんぶ悪い。」
これが!女同士の謎同盟……なのか!?
「いや、流石に無理あるだろ?」
「残りの肉は全部ルークが焼いて?返事は?」
「……あい。」
僕はその後の残り時間、ひたすら肉を焼き続けたのだった。