――第9話ー① 静寂の蹂躙 (旧:神の術)――
「なに勝った気でいるんだよ。雑魚が。」
剣を構え、臨戦態勢に入った僕に対して、呪術師の目が鋭く光る。
周囲の空気が一瞬にして緊張に包まれ、風が木々を揺らし、鳥たちが静かに身を潜める。
闇が深まり、月明かりが鋭く剣の刃を照らし出す中、呪術師の声が静かに響いた。
「気でも狂ったか?」
彼の声には不信感と軽蔑が混じり合い、その言葉は冷たく鋭く僕の心に突き刺さる。
静寂の中、二人の呼吸音だけが微かに聞こえ、緊迫感が高まる。
「4人であの戦いだったのだぞ。手負いのお前1人など。」
「本当にそうかな?ほら見てよ。」
そう言って、僕はゆっくりと両腕を掲げ、呪術師に見せつけた。
毒にまみれたはずの腕は、驚くほど無傷だ。
まるで初めから何もなかったかのように、傷一つないその姿に呪術師の目に見張っている。
「バカな!信じられん!!完治したというのか!?」
「気づくの遅いなー。」
今回の戦いでは、僕は一度たりとも本気を見せていない。
あの巨大なベヒモスとの戦闘でも、同じように力を抑えていたのだ。
「この結界って外からの監視を遮るんだよね?」
「何を今更。天界の監視をも遮断する最強の結界呪法ぞ!」
僕は胸中で安堵の息をついた。
念のため、先ほどの修復の際に、僕が結界の遮断性能をさらに強化しておいたのだ。
そのため、ここで何をしようとも、外界には決して知られることはない。
「なら。僕が何しても外からは見えないんだね?」
「お主。何を……まさか負をそのまま扱えるのか?」
負をそのまま扱う?そんなもの原素エーテルを直接操ることよりも不可能だ。
呪術師は明らかに混乱している。
しかし、僕にとっては好都合だ。
久々に力を発揮できる舞台が整ったし、少しだけ運動させてもらうことにする。
一先ず......
「この腕は誰の腕かな?」
「んぁ?ぁああああ。わ…わしの腕がぁ!!」
僕は呪術師の目で追えない刹那の時間で腕を切り落としてみせた。
「何だ……何なのだお前は」
どういうことだ?これほどの実力を隠していたのか?
これだけの力があれば、私ごとき、いつでも倒せたはず。
こいつ……仲間が瀕死になったのに、その実力で助けることもできたはずなのに、あえて助けなかったというのか!?
呪術師の思考は混乱していた。
「血も涙もない怪物が!確かに不可解だった!!お前は飛沫を全身に浴びたにも関わらず無傷だった!」
「ちなみにさっき両腕に負った傷は自分でつけた傷さ。見られたら困るからね。」
僕は特殊な生前の事情から、あらゆる毒や呪いに対して高い耐性を持っている。
もしエリーがならば、あの結界内でも平然と暮らせただろう。
そんなことを思うと、今回の任務に彼女が来ていないことが悔やまれてならない。
「そもそもあの呪い毒ほぼ効かないんだよ。」
「何のためにそんな真似を……」
エリーからは「用心深さが病気」とよく言われるけれど、あいつも同じように色々隠しているから、お互い様だろう。
そんな雑念を頭の片隅に置きながら、僕は視界の限りに万を超える小型魔法陣を展開した。
その瞬間、空間が圧倒的な魔力で満たされ、まるで星空に無数の星々が輝いているかのような光景が広がった。
「楽しもう。どうせ死ぬんだからね。」
「ふざけるな!!ワシにはまだやりたい事が……!?」
天空、地上、地表......視界に入る全ての空間に魔法陣が展開された。
呪術師を取り囲むように配置された魔法陣の数は一万以上。
それは呪術師にとって......
......『絶対不可避』の絶望であった......