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62話ー① 条理を超える極低氷





 隣を歩くルシアが、泣きそうな目で僕を見つめる。



「ルーク……」


「どーしたの?」


「すごい、寒い……」


「ここの寒さを舐めてたルシアが悪い。魔法でどうにかなる~とか、舐めてかかったんでしょ?」



 僕たちは天上神界主神惑星に付随する衛星、『ティコース』に足を踏み入れていた。

 ここは神々ですら敬遠する極寒の地。主神惑星の衛星群の中で最も辺鄙で、最も寒冷なこの地に何故か僕たちは立っている。

 ティコースの異常性は単なる極寒を超えていた。


 この地の温度は物理的な限界を超え、電子の停止する絶対零度さえも下回っている。

 環境要因だけではここまで温度が下がらないらしく、超極寒の衛星となっている理由は未だ不明だ。

 いくら神界の物理法則に生きる神々でも、生身で踏み込めば凍死を免れない。



「こんな所に住んでる生命がいるの!?」


「いるよ。僕の友達が住んでる。」


「ねぇ……まともな友達いないの!? あなたも含めて変神だらけじゃない!」


「まぁ……友達の中だとガリブが一番まともだしね?」


「え、は……? 嘘でしょ……?」



 ルシアが言うように、この異常な地に住むという時点で普通ではない。

 ……といってもあいつは、僕のことなんてこれっぽちも友達とは思ってないだろうけど。

 しかし、強力な個人戦力を確保するという点においては、彼以上の適任者はいないだろう。


 なにせ以前……全力の僕に勝った男なのだから。

 劇的に強くなった今の僕ならどうだろう? 胸の奥で密かにくすぶる。



「とにかく……!?」



 ――そう言いかけた瞬間。



「ルーク! 危ない!!」



 突然、空気が凍るような冷気と共に、巨大な氷の柱が轟音を立てて僕たちを襲った。

 寸前でルシアの声に反応し、その場から飛び退く。



「相変わらずだなぁ?」



 巨大な氷柱の上に立つ影――その薄い灰色の髪は、まるで冷気に晒されていないかのようにたなびいている。

 しかし周囲の寒さとは裏腹に、その目は怒りの炎が宿っているかのように血走っている。

 そして何より......腕が露出するような装備で、何事もないかのようにそこに立っている。



「チッ......クソが。」


「久しぶりだね? アルク。」


「死ねぇ!!」



 アルクは言葉の後に続けるように、巨大な氷塊を僕たちに叩き込んできた。

 それはまるで彗星が地表に激突するかのような破壊力を秘めていた。

 氷塊は着弾すると周囲の地面と共に砕け散り、津波のような冷気が押し寄せる。



「ちょっとあなた! ルークに何のつもりかしら!」


「あぁ? 黙れ女。ここはカップルが逢引きする場所じゃねぇんだよカスが! 殺すぞ!!」


「口悪……」


「おちょくってんのかクソ雌が! 脳髄ぶちまけっぞ!!」



 ルシアが憤りの表情を浮かべながら応じる。だがアルクは相変わらずの態度だ。

 でも今回は戦いに来たわけじゃない。こいつをスカウトしに来た。



「アルク~。話を聞いてくれ。」


「うっせぇ死ねぇ!!」



 アルクの攻撃は止まることを知らない。氷塊が次々と生成され、僕たちに向かってくる。

 砕けた氷からは極寒の暴風が吹き荒れ、瞬く間に周囲の温度はさらに低下していく。



「新しい精鋭組織ってのを作ることになったんだ。そこの幹部としてお前を招きたい。」


「何勝手に話し進めてやがる! とっとと死ね雑魚が!!」


「お前には現場での軍事最高責任者になってもらいたいんだ。どうだろう? 天上神界屈指の組織になると思うんだけど?」


「話聞けや、カスが!!」



 アルクの攻撃はますます苛烈になり、周囲の空間そのものが凍りついていく。

 この環境下では、通常の魔法や技術では対処が難しい......神術さえも思うような出力が出ない。

 これは魔力の粒子が超低温の影響を受けている証拠だ。魔術のような妨害されやすい理論はもはや使い物にならない。



「はは。凄いな......ますます、君に来て欲しいよアルク!!」


「誰が行くかボケ。なんの組織だクソが! テメェが王になる足掛かりに、俺様を巻き込んでんじゃねぇよ!」


「この組織はな。仮名:ヴァラル対策局って言うんだ。」


「は? テメェ気は確かか?」



 アルクの動きが一瞬止まる。空気が張り詰め、彼の瞳が冷たく鋭い光を放つ。

 ヴァラル――その名は、神界において絶対的な恐怖を象徴する存在。

 流石のアルクでも一瞬の動揺を見せるほど、神界にとって根深い邪悪なのだ。



「ヴァラル実在の公表は知ってるだろ? はっきり言う。このまま放置すれば近い内に天上神界は滅亡する。嘘かホントかはすぐに分かる話だよ。」


「で? 滅んで? 俺様に何か関係があんだ?」


「ちょ! あなたいい加減に......」



 僕は憤りを露わにするルシアを手で制した。

 彼女の怒りは正当だが、今この状況でそれを向けるべきではない。



「関係はある。ヴァラルは全ての存在の幸福を許さない。君の幸福も日常も、ヴァラルは絶対に認めはしない。」


「だったら全てを凍結させりゃいい。徒党を組ませる都合のいい口説き文句に、俺様が騙されるわけねぇだろうが!」


「あはー。やっぱバレるか!」



 彼の冷笑にも似た口調は変わらない。僕の勧誘文句を完全に見抜いている......。

 そして彼は動じることなく静かに冷気を纏い始めた。



「テメェの魂胆は分かってんだよ雑魚。もういい、死ぬか去るか……特別に選ばせてやる。」



 その瞬間、周囲を覆っていた冷気が一斉に消え去った。

 いや消えたのではなく、正面に構えた両の手に全て集約されているのだ。

 全てが彼の掌で収束し、限界まで圧縮されていく様は恐怖を超えてもはや感動に値する。



「ルーク! あれは不味い! 流石に根源共鳴をしないとただじゃすまない!」


「......尚更連れて帰らないとな。あれは最高の戦力になる!」


「そんな事言ってる場合!?」



 ルシアの声が鋭く響くが、僕の目は彼の手に集中していた。

 圧縮された冷気が小さな球体となり、極限まで密度を高めている。それはただの冷気ではない――

 次元さえ歪ませるような、圧倒的な『点』の力......十神柱さえ無視できないほどの脅威がそこにはある。



「なら、ここで死ね。」



 より圧縮されたエネルギーは直径数ミリの超高密度の固体を形成する。

 そしてその圧縮は遂に限界点に辿り着き、そして――


 ――爆ぜた。



極低氷纒爆ごくていひょうてんばく......」



 球体が破裂すると同時に、一瞬で視界の全てが凍結した。

 大気は軋み、光すらも凍るような感覚が襲いかかる。

 あまりの力に意識内の時間が圧縮されるほどに......。



「ルー.......」


「おぉ......」



 その言葉を最後に、僕たちの意識はホワイトアウトした……。




 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 番外編......とか言ってますが、ほぼ本編みたいなものです。


 ルークたちの意識を一撃で刈り取るほどの氷瀑.......

 そしてルシアの訴えかけを無視して【根源共鳴】を使わなかったルークの意図とは?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!



 【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。





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