自然遺産登録
会議は二百時間目に突入した。議題はそう多くはないのだが、参加国が多いだけに進みが悪く、また場は異様な熱気に包まれている。
『えー、新規登録は以上に』
――うちだうちぃ!
――なぜダメなんだ! 厳重に抗議する!
――おいおいおいおいおかしいぞ! 賄賂か? あそこは要件を満たしてないだろぉ!
――言いがかりはよしてもらおう。うちはしっかりと魅力をアピールできているだけですよ。
――登録登録登録ぅ!
「う、うちこそ、今回登録されるべきだ!」
と、大臣も周囲に負けじと、そう声を張り上げるのだが、やはり当人も無駄だと分かっているので声に勢いがない。あの議長は一度決めたことを覆さない性質で大臣もそれを知っていた。
結果。今回もまた見送りとなってしまったが、それもやむなし。美しさをアピールした自然遺産登録狙いだったのだが、いかんせん、ゴミの放置が目立つのだ。大臣の部下は手元にあるモニターを眺め、そう思った。
『えー、皆さん、お静かに。今回の新規登録は以上になります。えー、次は危機遺産リストと登録抹消についての審議を行いたいと思います。では、その前に四十分の休憩を取りたいと思います』
議長が重い腰を上げてのそりのそりと退出すると大臣はフンと鼻を鳴らし、背もたれに寄りかかり腕を組んだ。
「……だから大規模な清掃活動をすべきと、わしは言ったのだ。お陰で面目丸つぶれだ。次回までに絶対やってやるぞ絶対だ絶対ぃ……」
「ですが大臣。以前、おこなったときは却ってゴミを増やしてしまったじゃないですか」
「だからだよ。今度はあの星の住民に向けてだな」
「いやいやいや、それはマズいですよ。現地生物に手を出してはならない決まりじゃないですか」と、大臣の部下はややオーバー気味に言った。大臣はまだのぼせあがっているのだ。すると大臣はフーッと、それはわかっているとばかりに大きく息を吐いた。
「せっかく我々の領にあんなにも青く美しい星があるというのに……。それを汚すあの連中が悪いのだ。星の周りにゴミを打ち上げやがって。全部叩き落してやろう……」
大臣が眺めるモニターに映る地球の周りには各国が打ち上げた核兵器が黒い毛穴のように点在していた。