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バツイチ鬼道少女と心臓外科医  作者: かぐつち・マナぱ
バツイチ鬼道少女と心臓外科医 第ゼロ章 『根源』
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第4話 『御門 仁人(ミカド マサト)』(前編)

・・・その日は、「僕」が受けた大学の合格発表の日だった。


今時は、大学の合格発表なんて、わざわざ現地の掲示を見に行かなくとも、インターネットで確認できるらしいが、生憎あいにくと「僕」が高校生の頃は、現地で確認するしか無かったんだ。


「・・・あった・・・」


思わず、何度も目の前の番号と、握りしめていた受験票の番号を見比べてしまう。


その番号に間違いがないことを確信した「僕」は、喜びのあまり、ぐっ、とガッツポーズを取ってしまった。

・・・周りには惜しくも不合格となってしまった人もいるというのに・・・


合格に、はやる気持ちを抑えて、小走りで人の少ない場所へ向かう。

真っ先に合格したことを伝えたい人がいるからだ。


この合格までの道のりは、自分の努力もあるだろうが、何より「僕」を親身に支えてくれた人がいたからだ。

事故で亡くなった両親に代わり、ここまで「僕」を支えてくれた人。


「その人」に、「合格したよ、ありがとう!」と、

真っ先に伝えたかったからだ。



人の少ない場所へ移動した「僕」は、携帯を取り出すと、「大事な人」の番号にかけようとした。


だが、それは先に「僕」の携帯にかかってきた、見知らぬ番号からの着信で遮られてしまう。


不信に思いながらも、「僕」は、その着信に出た。


・・それは、僕の「大事な人」、「姉」が倒れ、病院に救急搬送された、という内容だった・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「姉さん!」

勢いよく「僕」は、「姉」がいる救急治療室に飛び込んだ。

その間の事は、あまり覚えていない、無我夢中で、「姉」の元に向かったからだ。


「わっ!、ちょっとー、びっくりさせないでよー」

治療室のベッドに上体を起こした体勢で、「姉」は、普段通りの明るい声を出した。


ただ、その身体には酸素のチューブや、心電図、点滴などのラインがつながっていたけれど・・・


「・・・姉、さん、・・・大丈夫、・・・なのか?・・・」

息を切らせながら、僕は怪訝けげんそうに尋ねた。


「大丈夫よ、ちょっと疲れが出ちゃっただけだから」

と「姉」は、手を振って応えてみせた。


何も大袈裟おおげさな事は無い、と身振りも交えて否定し、逆に

「大事な発表の日なのに、ごめんね・・・」、と「僕」を気遣う素振りも見せ、

「その・・・どうだったの・・・?」、と心配そうに問いかけてきた。



その問いに「僕」が答えようとした時、対応されていた看護婦さんから

「担当した医師の説明がありますので、こちらに来ていただけますか」

と声をかけられ、「僕」は、その答えを「姉」に告げないまま、そちらに向かった。



・・・「姉」の病名は、「拡張型心筋症」というモノだった・・・



拡張型心筋症とは、心臓が通常よりも大きくなってしまい、血液を適切に全身に送ることができなくなってしまう病気で、発症すると、少しの運動での疲れ、手足の冷え、むくみを自覚、重症になると日常生活を送ることも、ままならなくなる。

その原因としては、遺伝子異常や、ウイルスに関連したものなど様々で、その進行度により、治療方法も変わる。

軽度では、内服などで対応できるが、症状が悪化した場合、ペースメーカーや、最終的に心臓移植が必要になる場合がある。



・・・淡々と、「姉」の病状を説明する医師の言葉が、「僕」の心に突き刺さっていった・・・



「・・・今後、無理をさせないほうが良い・・そう言うことですよね・・?」

「僕」にはそう言うのがやっとだった。



・・・その後、医者がどう答えてくれていたのか、記憶に残らなかった・・・


(僕が、姉に無理をさせていたのでは?)

「僕」の脳裏に後悔の念が強く押し寄せていたからだ・・・



・・・「僕」は、これまでの事を振り返っていた・・・


亡くなった両親の代わりに、ここまで「僕」をお世話してくれた「姉」。


両親が亡くなった時、自分も泣きたいだろうに「僕」の為に、無理に明るく振る舞ってくれた「姉」。


持ち前の明るい性格で、学校でも友人が多く活躍していた「姉」が、進学せずに卒業後、働いて「僕」を支えてくれた「姉」。



・・医師の返事が何であれ、「僕」は、「姉」にどう伝えるか決めていた・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「姉」の容態は、落ち着いていたが、詳しい病状を調べたり、経過を確認するために、しばらく入院する事となった。


「姉」も自分の病状を説明されただろうが、「僕」も「姉」もいつも通りの明るい様子で過ごしていた。


・・心配させまいとするための行為であることは、お互い気付いていた・・・



「・・で、仁人マサト、どうだったの?」

「姉」が切り出してきた。


・・・無論、合格発表の事だ・・・


「ごめん、姉さん、だめだったよ。不合格だったよ」

「僕」は、「姉」に聞かれる事を想定した「答え」を口に述べる。


「嘘」だとわからせないように、心の中で練習した通りに。


「いやー、頑張ったけど、やっぱり難しかったよ。ごめんね、いっぱい応援してもらったのに」

「僕」は努めて演技を繰り返す。


「まあ、これでハッキリしたよ。姉さんの事もあるし、諦めて僕も働こうかな?」

少しおどけた様子で「僕」は、「姉」の方に向いて・・・、ビクリっと、身体が震えた。



「嘘・・・」


そう「姉」は言い切った。



「姉」の目が「僕」の目をしっかり見つめる。


そこには、「僕」が最も恐れる「姉」の怒りの色があった。


「本当は、合格したんでしょ?・・・マサトの嘘は、すぐわかる・・・」

それは確信めいた言葉だった。


「いや、ちが・・・」

言いかけた「僕」の顔を、病人と思えぬ速さで、「姉」は両手で押さえつけ、自分の顔に近づけた。



「私のせい?私が病気になったから、それを言い訳にして、マサトのずっと願っていた夢を諦めるの!?」

思わず顔を背けようとした「僕」を阻むように「姉」の手に力が入る。



「アンタの夢、『医者になる』って言う夢を諦めるの!?」

「姉」の大きな声が辺りに響いた。



・・・「僕」の夢・・・それは『医者になること』・・・



両親を事故で失い、「僕」も生死を彷徨う重症を負ったが、医療に関わる多くの人のおかげで救われた命。


その恩を返すため、自分も多くの人の命を救うために、「僕」が選んだのは「医学部への進学」だった。



・・しかし、「姉」には、もう負担をかけられない・・それが「僕」の考えた「答え」だった・・


「私の為に、自分を犠牲にしようって、アンタも言うの!?・・ずっと、二人で頑張ってきたじゃない・・」

激しい感情を「僕」にぶつけてくる「姉」・・・



「私が今まで頑張ってこれたのは、アンタのおかげ!マサトの『医者になりたい』っていう、強い想いを叶えるため!だから、何でも我慢できた!自分を犠牲にしてもいいって思えた!一番でなくていいって思えた!一番を諦めることができた!だから、マサトの夢を叶えることが・・・」



・・「姉」は、学生時代、陸上部のエースだった・・・


いつも全力を尽くして走り、「1位」になっていた。

その姿は、眩しく輝いていた。


・・だけど、高校卒業後は、走ることを止めた・・「1位」になることを諦めたんだ・・



「・・それが、死んじゃったお父さんお母さんへの一番の・・私が誇れる一番なんだから!!」

「姉」が今まで耐えてきた想いをぶちまけるように言葉を放っていた。


「・・だから、ねぇ・・合格したんでしょ・・?だったら、あきらめないでょぅ・・」

感極まったのか、「僕」の顔から手を放し、「姉」が両手で自分の顔を覆い、号泣し始めた・・。


「私なら、大丈夫だからさぁ・・マサトは、マサトを犠牲にしないでょぅ・・我慢なんて、しないで・・お願いだからぁ・・」

「姉」が泣きじゃくっていた・・両親が死んだ時にも泣かなかった「姉」が・・・



「・・でも、それじゃあ・・」

「僕」は、「答え」を迷っていた・・・



「・・マサトが・・医者に・・なって・・私を助けてょぅ・・」

「姉」が嗚咽しながら、「僕」に助けを求めてくる・・あの気丈で明るい「姉」が・・



「僕」の中で、「答え」が変わった・・


いや、最初からそうだったのかも知れない・・


「わかったよ・・頑張って、僕は『医者』になるよ・・姉さんを助ける」

僕は「姉」の両肩に手を置き、そう告げた。


「僕」の声は、震えていたけど、その声は、「姉」にしっかり伝わったのだろう。


「姉」が、「僕」の腰に両手をまわして、抱き着いて、顔をうずめる・・・


「・・絶対に・・姉さんを・・助けてみせるよ・・」


「僕」も力いっぱい「姉」を抱きしめ、嗚咽しながら、そう宣言した。



・・それが、「僕」、「御門ミカド 仁人マサト」の


 「医者になる」を大きく決定づける一歩であった・・・・

拙い作品ですが、読んで頂いて、ありがとうございます。

ブックマークやコメント、誤字脱字、こうしたらいいよ、これはどうかな?、何でもお待ちしております。

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止めてぇぇっ! ふたりして助からないフラグを建てまくらないでぇぇぇっ!!
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