第1話 『新しい海の民と竜王』㉜追われるのは五度目です!?
@<やっとテンプレの追放がキタ---(゜∀゜)---!!
始祖<被告人ミコに無期限の追放処分を求刑する!
ミコ<また、ここでも追われる身になってしまうのですね・・
クー<果たして、ミコ様の運命はイカに!?
『残念ながら、良き隣人とは成り得ぬようだ・・故に、我はこの場において・・・ミコの無期限の追放処分を提案する!!!』
始祖様の声が、どよめきと共に顕世と幽世中に響き渡ります。
為政者として、民の命を脅かす存在は排除せねばなりません。
この提案が、双方の折衷案として最良の選択であることは、誰の目からも明らかでしょう。
・・私の自業自得です・・海の民の方々にとっても大切な存在である、大司祭のクーを私が食い殺してしまったのです・・致し方ありません。
群れの輪を乱した者は、その制裁を受けねばなりません・・甘んじて、どんな処罰も、この身に受けると自ら申し上げたのですが・・・その言葉は、私の心を大きく、大きく揺さぶる波紋を起こすのでした。
・・心地よい住処を離れるのは、人の身として数えると、今回で五度目になりましょうか?
一度目は、確か治承四年、私が一歳で践祚し即位した後、京の都から福原へ遷都した時のこと・・
この時は、我ら一門だけでなく上皇である父と、私にとってもう一人の祖父にあたる院も一緒の行幸だったので、とても賑やかだった、らしいです・・さすがに幼すぎて、私は覚えていませんが・・
二度目は、同じ年の霜月、関東の源頼朝らの蜂起に対応するため、遷都を断念して福原から再び京の都へ・・しかし、京の住み慣れた住処に戻って来たというのに、皆の顔が険しかったのを覚えています・・帰郷の喜びなど無かったのです。
何よりこの時は、悲しいことが立て続けに起きてしまったから、特に覚えているのでしょう・・
翌年の治承五年、正月だというのに私も含め、周りには悲しみが溢れていました。
かねてより、院と岳父の板挟みになり、心労の絶えなかった父が亡くなりました・・二十一歳の若さで崩御されたのです。
形式的にではあるものの、院政が始まって間もないことでした・・これからは誰にも左右されない、ご自分の政を、と思っていらっしゃったのに・・
その後、元号が「寿永」に変わって同じ年の如月、外祖父も熱病で亡くなってしまったのです。
その強引な姿勢で、多くの反感を買ったせいでしょうか?・・でも、一門を大事に思われ、その未来を案じておられた方を私は悪と断じることは出来ません。
こうして、私の身近な、大切な父と祖父が続けて亡くなって・・悲しかった、寂しかった・・お二人のやり切れない思いは、如何ばかりかと、物悲しく心を痛めたものです・・だから、私は遺された思いをすくってあげたいと思うのでしょう・・
そして、三度目は、寿永二年に木曾義仲が平家の軍を破って入京し、我ら一門は迫る義仲から逃れるように都落ちして、三種の神器とともに西国へ・・この時は二歳になる、弟の守貞親王も伴われていました。
私とは異母の関係でありましたが、ひとつ違いの弟が一緒だったので、私は兄として立派な振る舞いをせねば!っと男として気を張っていたもの・・あの可愛らしかった弟は今、果たしてどうしているのでしょう?、息災ならば良いのですが・・
その後、私達は筑前国の大宰府に入り、讃岐国の屋島で行宮を設けて、しばらくの拠点としましたが・・源義経ら源氏の軍に敗れ、またしても住処を追われ・・寄る辺も無く、海上に逃れて・・最後は、冷たい波の下に・・その時が四度目ですね。
自分で言うのも何ですが、こうもよく覚えているのは、蛇が人間の記憶を流されぬように、忘れぬようにしたのと・・皮肉にも、クーに分けていた魂の一部を取り戻したからでしょう・・依然、自分の諱は、忘却の彼方なのですけれど・・・
だから、今度は五度目になりますね。
五という回数は・・たぶん、六歳という私の年齢で考えると多いのではないでしょうか?・・だから、もう、すっかり慣れたもので、平然と、こう答えるのです。
『承知いたしました、始祖様』
不服を申し立てることなく、毅然たる態度で・・
『・・その命、謹んで、お受けいたします』
ええ、そうなのです・・・平気なのです。
『今までの・・海の民の方々からの御恩は・・決して・・・』
・・・なのに・・平気な・・はずなのに・・・
『・・忘れる、ことなく・・・・・・っっ・・』
・・私の視界を・・ゆらゆらと・・歪ませるのは何でしょう?
『・・その命に、背くことなく・・・ぅぅ・・』
・・そこから溢れ出して・・私の頬に・・流れるのは何でしょう?
『・・二度と・・この地に・・・・・っぅ・・』
・・私の顎から・・伝い落ちるのは何でしょう?
『・・・戻ることはないと・・・・・ぅっ・・』
・・床に滴の後を・・遺すのは何でしょう?
『・・・うっ・・・うぅっ・・・・・・・・・』
・・我が身を斬られるよりも痛みを感じてしまう心は何でしょう?
『・・・くっ・・・ふぅっ・・・くぅ・・・・』
・・食いしばった口から出てしまう、嗚咽の声は何でしょう?
もう、五度目だというのに、どうして私は涙を流して、泣いてしまうのでしょう?
悪いのは私のせいなのに・・こんな多くの方々が私を見ておられるというのに・・こんな無様を晒しては、弟にも示しが付かないというのに・・あのナナシ様にも見られているのに・・幼い子どもの皮を被った、醜い化け物だというのに・・・
・・その理由は明らかです・・今までの別れの全ては、私ひとりではなかったから・・ここで触れ合ってしまった『優しさ』という『温かさ』が逆に、『寂しさ』という『冷たさ』を、強く私に感じさせてしまったから・・ここを追い出されたら、私は、『ひとりぼっち』になってしまうから・・
だから、身勝手に泣くことなど許されていないのに・・震えるほど強く手を握って耐えようとするのに・・私自身の不甲斐なさが悔しくて・・弱い人の心をさらけ出してしまう自分が情けなくて・・孤独が怖くなってしまって・・
(お姉さん、ごめんなさい・・私を信じてくれたのに・・クー、ごめんなさい・・海の民の方々に尽力するって・・約束したのに・・娘ちゃん、ごめんなさい・・・一緒に絵を描こうって・・約束したのに・・)
・・・優しかったヒトたちのことを余計に思い浮かべてしまって・・・
どうしても、こぼれ落ちる涙を止めることができなかったのです。
『・・・異議あり!!!』
・・・ですが、悲しみで茫然と立ち尽くしていた私の耳に・・・
『・・・その提案を認めることは出来ない!!!』
・・・強い否定の言葉が飛び込んできたのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『・・ぐじゅっ・・な゛、な゛な゛じ・・・ずずっ・・・ざま゛・・?』
驚きと共に、みっともなく鼻水をすすり上げ、情けない震え声で、その言葉の主を見上げます。
『それは実質、処刑と同義では無いか!?、ミコはヒトガミとして力ある存在だが、ご覧の通り、まだ幼い子供なのだ!、厳しい外の環境に放逐されれば、ひとり生きていける存在ではない!』
信じられないことに、『あのナナシ様』が、激しい語気の声を出されたのです!?
あの冷静沈着なナナシ様が、声を荒げるような強い感情を込めて、必死に訴えて下さったのです!、私は、こんなナナシ様を初めて見ました!
こうなってしまったのも私の悪行のせいなのに・・私を庇いだてすることは、ナナシ様のお立場を悪くすることに繋がってしまうでしょうに・・・
『この世界において、どれほど外が危険か、始祖を始め、多くの方がご存じのはずだ!、再考の余地を、賢明なる判断を、海の民の方々にお願い申し上げたい!』
更にそう述べられると・・『あのナナシ様』が皆に頭を下げられます!?
聡明なナナシ様ならば、始祖様の提案が、互いの落とし所であることは重々、ご理解されているはずなのに・・それも、ご自分のことではなく、愚かな私なんかの為に!?、理に適うことよりも、情を優先されるのですか!?
『・・あぁぁっ・・・ナナシ様・・・』
上に立つ者として、頭を下げるという行為は、生半可な覚悟で出来るものではありません!、なんというお心遣いなのでしょう!?、今、私の胸は感動に打ち震えています!、先の冷たい涙を押し流すように温かい涙が溢れます・・
『その言い分ももっともであるが、罪を犯した者は、それ相応の咎を受けねばならぬ!!!、これも我らを守る為に必要な決断なのだ!!!』
そのナナシ様の言葉を打ち消すような荒々しい言葉を始祖様が放たれ・・・
『ならば、今一度、全ての者に問おう!、同胞を食い殺したニンゲンを追い出すか、自分や親しい者を喰い殺す危険な存在であっても受け入れるか否かを!』
再び、顕世と幽世の方々に問いかけられます!
『ミコ様かわいそうだよ!』『横暴だわ!』『ミコ様、殺されちゃうよ!?』『俺は絶対にミコ様を信じる!』『オイラ、虫コワイ・・』『まだ子供なのよ!?』『ミコ様を追い出しても、お父さんは帰ってこないよ!』『神にはイケニエが必要なのだ!』『大物を釣る為には餌が必要だ!』『謹慎が相応しいのでなイカ?』
・・・という声が上がる一方で・・・
『平和を守る為には仕方がない』『お兄ちゃん、お父さんが食べられちゃって悲しくないの!?』『確実に死ぬとは限らぬ!』『調和を乱すものには罰を!』『干しモノの刑よりはマシだ!』『ヒトガミ様だから何とかなさるでしょう?』『わたし、アンタが食べられちゃうのやだ!』『えっ!?、な、なに言ってるんだよ!?』『オイラ食べるのスキだけど、食べられちゃうのは』『イケニエが必要な神など不要だ!』『始祖様がおられれば、ニンゲンなど邪魔な存在なのだ!』『ニンゲンは愚か』『厄介者は追い出すしかない!』『仲間が食い殺されるのはゴメンだ!』『よくわからないモノは追放するしかない!』・追放だ!』・追放だ!』・追放だ!』・追放だ!』・追放だ!』・追放だ!』・追放だ!』・追放だ!』
・・・それを上回る凡そ三分の二以上の声が、始祖様の『無期限の追放処分』という提案を支持する形となったのです。
・・『追放せよ!』という声が、私を取り巻く全ての方向から聞こえてきます・・ぎらぎらと身を焼かれるような強い光を四方八方から浴びせられます・・
『ふっふっふ・・ミコよ、ナナシよ、汝らは民の総意ならば従うと申したな?、ならば従ってもらうぞ!、危険な存在は、追放処分なのだぁぁ!!!』
その状況を確認した始祖様が、勝ち誇ったような声を上げられます。
ナナシ様が私を守ろうとして下さいましたが、まさに四面楚歌というべき状況・・もはや、大きな流れを変えることは叶わぬようです・・
『皆様の総意、確かに・・世の中は今はかうと見えてさうらふ・・ですね』
・・いえ、それ故に、私はこれ以上、醜態を晒すべきではないと、ナナシ様を煩わすべきではないと、強い覚悟と決意を込めて、始祖様に向き変ります。
『謹んで、この身は無期限の追放をお受けいたします!・・ただし、ナナシ様には何の罪科も問われませんよう、伏してお頼み申し上げます!』
せめて、私の大切なナナシ様への咎は、不問としていただくように、最後のお願いを視線に込めます!
・・・しかし、私の始祖様への返答を待たずに・・・
『お前が何と言おうと、あの誓約を反故にはさせん!、ミコに追放の処分を言い渡すならば、私も同様の追放の咎を負おう!・・海の民の方々に安寧をもたらす為、私が全責任を以って、私の一生を懸けてミコを見守ると、民と神の前で誓おう!』
・・・ナナシ様が、重大な言葉を伝えられるのですぅぅ!!!???
ちゅくぅぅーーーん!!!???
『ナナシ様!?・・そ、それは・・けっ、けっこ・・ひゃあぅぅー!?』
私の胸に聴いたことのない音がしましたぁー!?、先ほどまでの滂沱の涙も、どこかに吹き飛んでしまいますぅー!?、私と一緒に来て下さるのですかぁー!?、それも全責任!?、一生を!?、民と神の前で誓う!?、こんな多くの方々の前ですよ!?、恥ずかしさ極まれり!?、もうダメです、ナナシ様を直視できませ・・・
ごつっうんーー!!!、『うごぉぉぅ!?』、・・もぞ・・
そんな私の頭部に物凄い固いモノが殴りかかってきて!?、私の口から聴いたことない音がしましたぁ!?、私たち、これから、いいところ、だったんですよ!?、激痛が脳天から!?、頭に違和感が!?、追撃防止の為に殴った犯人を掴みます!
『う、うむ、我も鬼では無い・・今回は、オマエのみを』・きゃー、神前の誓いだわ!』・今の若いモンは恥じらいが無いのかのう?』・無期限の追放処分にす』・俺はミコ様に絶対ついて行くぞ!』・待って、ボクも一緒に行くよ!』・ちょっ、おい、間に入ってく』・仕方ないわね、危なかっしいから、わたしもついて行ってあげるわ』・オイラどうしようかな?』・次々に喋るなぁ!?、でだが』・えっ、キミもついてくるの?』・そうよ、悪い?』・じゃあ、オイラも行こうかな?』・お父さんを食べたミコ様が悪者か見極めないと』・子供たちだけで行かせる訳にはいかない!』・自殺行為だわ?』・行きたいと言うヤツは調和を乱す半端者だぞ!』・一緒に追放してしまえ!』・前から外の世界に興味があって』・狭い集落から出たかったのよ!』・キミ怖くないの?』・怖いからついていくのよ?』・外にウマイ物あるかな?』・ご結婚おめ』・聞いて!?最後まで言わせてぇ!?』
嬉しいことに先ほどから私の味方をして下さった方々が、ナナシ様と同じように追放される私について行くと申されたりして、あれやこれやと騒然とする場に・・
『皆の者!!!、お静まりなさい!!!』
ふあぁぁーーーぃぃん!!!、『『『『『ひゃぁ!?』』』』』
お姉さんの一喝する大声と共に、甲高い不協和音が響きます!、生玉の最大出力!?、背中がぞわぞわして、耳がきぃーーんとしておかしいです!?、私も含め、みなさん一斉に静かになっています・・が・・
(あーもう、ムリ!、なんて茶番だ、見てられない、黙ってられない、我慢の限界だ!?・・もう、熱も冷めて自我も固まった頃だろう?、大音量で目覚めただろう?、絶好の機会じゃないか、何か言ってやりな!)
私の握っているモノ・・周囲の閑さから頭に染み入る『薙の声』?・・この感じは・・私だけしか聞こえない『薙』の声・・でも、何か違和感が・・私に話しかけているのではない?、意味も、よくわからな・・
・・もぞ、もぞ・・・『ひょえぇぇ!?』・・もぞ、もぞ、もぞ・・・
私の頭が勝手に動いてる!?、思わず、奇声を発します!?、薙に殴られて、打ち所が悪かったから!?、痛みはもうありませんけどぉ!?、更に纏っている装いも、それに呼応するように動き出しました!?、私、どうなっていますか!?、制御不能!、制御不能!?、あいはぶのっとこんとろーる!?・・何語と!?
そんな私ひとりで、慌てふためいている処に!?
にゅるるんん!
私の纏った装いの頭と手足の部分が、確かな形を創って!?
「クー、なにんにゅ・・・めにゅろん・・・みんめんまー!!!!」
『私の頭』から『私じゃない声』で『海の民の言葉』が響いたのです!!!
突然のことで、皆、騒然として驚かれますが・・当の本人(?)の私が、全く想像の及ばぬ驚愕の出来事が起きてしまって・・・
『きぇぇぇぇぇあぁぁぁぁぁぁしゃべったぁぁぁぁぁぁぁ!?』
この世の全てを震わせるような絶叫が、私の口からあふれ出たのです!!!???
始祖<追放処分の決定が覆ることなど無い!
ミコ<あぁ、ナナシ様があんなに私のことを想って下さるなんて・・
薙<・・・(返事がない、ただ呆れているようだ)
@<まぁー、皆様の予想通りかと?
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
ブックマークやコメント、誤字脱字、こうしたらいいよ、これはどうかな?、何でもお待ちしております。(ツッコミも宜しくお願いします!)