第1話 『新しい海の民と竜王』㉗荒れ狂う波と渦(うず)
@<まずは、今回の地震で、お亡くなりになられた方々に心からお悔やみを申し上げますとともに、被災された全ての方々にお見舞いを申し上げます。また、心を痛める方々に、この物語が、ほんのほんの少しでも支えとなるなら幸いです。(大真面目)
ぞわ…ぞわ…ぞわ…ぞわ…ぞわ…
・・・激しい痛みと混濁した意識の中、『自分』は、荒れ狂う大海の波に為す術なく飲み込まれて・・・『自分』の部分が、掻き混ぜられてしまって・・・
(何も心配する必要は無いの、『私』が何でも美味く対処してあげるからね?)
ぞわ…ぞわ…ぞわ…ぞわ…
・・・どちらが上で、どちらが下か、『自分』が『何者』かも区別できず、もまれる波に翻弄されて・・・『自分』が、『私』の部分が、飲み込まれて・・・
(知っているでしょ?、『私』は『蛇』・・・ほら、あの方も『私』を呼んでる)
ぞわ…ぞわ…ぞわ…
・・・ゆらゆらと揺れる身体を重く沈んで、落としていって・・・『私』を留めようとする、必死な薙の声も聞こえていたのに・・・だけど、『私』の本能は・・・
(『私』に身を委ねて?・・・それが、一番ステキな冴えたやり方だから)
・・・『私』を抑えられず、恐ろしいことを平気で・・・密かに『父』と慕う、『クーを食べて殺してしまった』・・・己の欲という汚い望みのままに・・・
ぞわ…ぞわ…
それは、『ずっと一緒にいたい』、『離れたくない』という『私』の中に芽生えた想いもあったから・・・だから、死へ至る息苦しさに喘いでも・・・
ぞわ… かしゃぁん!!!
『私』を脱ぎ捨て、床に響く硬質な音・・・だけど、その『飢え』を止められなかった・・・あの時と同じように荒れ狂う波を直ぐに戻すことが出来なかった・・
(『私』を拒否するの?・・・何をしても『私』が、消えることはないのにね?)
クーの命を助ける為に捧げたはずの『私』の一部を取り戻して・・・誰もいないと思った、底の闇に輝きが・・・そして、遥か頭上に差し込む青い光を見上げ・・・
『・・・ごめんなさぃ・・・クー・・・』
過去と現在を理解して、『私』が戻ってきたのです・・・胸の奥底にある『クー』の存在が『私』を引き上げてくれて・・・再び、浮き上がることができたのです。
・・・自分自身への嫌悪を感じ、『自分』の震える黒色の手を見つめます・・・そこに残っているのは、我が身に纏う圧倒的な『力と欲』・・・どうしようもなく、声が震えて・・・でも、今、やらなければならないことを思い出して・・・
『クーを喰らう事で・・』『クーの力を私に貸し・・・』『クーを返してー!』
ぼごぉっ!!!
その刹那、顔面に強い衝撃を感じ、仰け反ります!?
ぼたっぼたっ!!!
再び、暖かくて懐かしい薙の匂いが、鼻の中に広がっていくのを感じながら!?
ぽこぽこぽこぽこ!!!
『ヒドガミザバのバガー!、あの人を返じでー!?、ゔわぁぁーん!!!』
続けて、誰かが絶叫と共に、私の頭を目がけて何回も拳を振り下ろすので、左手で鼻を押さえながら、右手で頭を守ります!?・・・深い悲しみを感じる拳!?
『血が、鼻血がっ!?・・・いだい、いたい、痛いです!?、お姉さ、いえ、始祖様、じゃない?・・・この感触は・・・まさか、クーの奥さん!?』
その青い瞳から、どばどばと滝のような涙を溢れ出しながら殴るのは、火傷をした腕だけで、他の腕にも『赤黒い怒り』は見えず・・・触れ合う事で感じるのは、お姉さんとも違う心の感触・・・愛する者を失った哀しみの拳!?
『御子!、目的の御霊が、クーを想って始祖を抑え込み、表面に出てきたんだ!、今の君なら・・・審神者であるクーを取り込んだ君ならば、感じるはずだ!、クーの犠牲を無駄にするな!、問題は何も解決していない!』
戻って来たばかりで記憶が混乱し、状況を飲み込めていない私に薙の声が!?
ぽこ・・・ぽこ・・・ぽこ・・・がくっ・・・
『ゔぅぅ、いっぞのごど、ワダジも一緒にだべでぐだぁざぃ~、でも、代わりに、娘ちゃんだげば、だじゅげでぐだざぃ~、どうか、おねがいじまず~、うぅぅ~』
胸を打つ、やるせない気持ちで、抵抗せず殴られたままに・・・しばらくすると、生玉の効果か鼻血も止まり、その殴る拳が徐々に弱くなっていき・・・哀しみの余り、自暴自棄になったクーの奥さんが、がっくりと床に突っ伏して、必死な懇願をされてしまいます・・・
(あぁっ!、私は助けようと思って、また取り返しのつかない事を!・・・)
相手にとって私は、恐ろしい化け物以外の何物でもなく・・・自責の念が・・・
『御子、挫けるな!、こんな激しい魂の入れ替わりを起こす憑依は、依代である、お姉さんの心身が保たない!、何とか始祖と目的の御霊を分離させるんだ!』
そんな私に薙の檄が飛びます!・・・少し離れた場所の薙を見ると、『影の蛇』で、ぐるぐる巻きにされて動けない様子で・・・そうだ!、『私』が『食事』の邪魔をしないようにしたんだ!・・・すぐに解放してあげな・・・
『今の僕は、君を魔として認識している!、手は貸せない!、この拘束を解けば権能も再開されてしまう!、武器である僕は、殺すことしか出来ない!、でも、人と聖と魔の境界に揺らぐ君ならば、救う事が出来ると僕は信じているから!』
その私の考えが伝わったのか、薙が即答し、強い想いを伝えてきます!
『こんな私なのに見捨てずに・・・薙、迷惑いっぱいかけて、ごめんなさい!』
それは、薙が、どんな私であろうとも支えてくれている証、自らに課せられた魔を滅する役割を耐える強い信念の証!、責務を超えた強い信頼の証!!
『ならば、私は貴方に相応しい『私』になってみせる!・・・でも、薙も鏡も無く、魂を分離させる方法なんて・・・今は火が消えているから触れるけど・・・』
折れそうな心を奮い立たせて、魂を分ける方法を必死で考えます!・・・失敗すれば、また始祖様の怒りの火に油を注ぐことになりかね・・・うん?、火に油・・・
・・・『私と私は同じモノ、水と水同士』だから区別がつかず、混ざってしまった・・・逆に、始祖様たちは、『水と油の関係』で混じり合ってない?・・・魂と言えば、離れていくクーの魂を体に押し入れたことがあって・・・その時は・・・
『・・・そうだっ!、クーの奥さん!、ごめんなさい、手荒なことをします!』
ぎゅりゅんりゅんりゅん!、がしっ!、『御子、何をするんだ!?』
『ふぇっ!?、へ、蛇が巻き付いてくりゅ!?、ひぃ~、お許しくだしゃいヒトガミ様~!?、せっかく会えた娘ちゃんにせめてもの、別れの言葉を~!?』
私の両手の蛇の篭手が伸びて、お姉さんの体にぐるぐる巻き付いてきます!・・・薙が心配そうな声をあげ、とても悪いことをしている気分になりますが・・・今の私の目には、お姉さんの体に、三者三様の海の民の姿が重なりあって見えます!、それぞれの違いが見えます!、祭司として、クーの残してくれた審神者の力で!
『謝っても許されないけれど、クーへの贖罪を!・・・いきます!』
ぐるるるるるぅぅぅーん!!!
『えっ、まさか、よいではなイカ、よいではなイカ!?・・・あ~れ~!?』
思いっきり、巻き付いた蛇を引っ張ります!、ぐるぐるぐる~っと、お姉さんの体が凄い速さで回転していきます!、大きな独楽のようです!
『なっ、無茶苦茶だっ!?、回転させる事により魂の分離を!?、そうはならん・・・いや、また理に干渉している!?、己と審神者の力を合わせて!?』
ぐるるるるるぅぅぅーん!!!、ぐるるるるるぅぅぅーん!!!
『お、お嫁ちゃん!?』、『お、お義母さま!?』『ぐぬぅ、ヒトガミめ!?』
重なっていた姿が、どんどんずれていきます!、それぞれの声も聞こえます!!
『魂の比重の違い、霊圧の大きさの差を利用しているのか!?、確かに、異物同士の憑依・・・案外、上手くいっているのか、いないのか、どっちなんだい!?』
その様子を見守る薙が予測不能だ!?、という声をあげますがっ!
『あの時のクーの魂は、長い時を経た魂は、もの凄く重かったって、わかってるから!、私は、三人の違いを識っているから!!、それに私は、元水の神!、渦巻く波は、重い物と軽い物を分けると知ってるから!!!、どっせーーーい!!!』
気合いを込め、調子に乗って、いつもよりも多く回していきますよ!!!
『私は鬼道を司る祭司!、理を変える者!!、魂よ原始に戻れ!!!』
ぎゅぐるるるるるるるるるうううぅぅぅぅぅぅぅーん!!!!!!!
『ひゃぁーー・・・』『きゃぁー・・・』『ぐぬぅおーーー』
・・・すぽーーーん!、すぽーーーん!!
三者の悲鳴と共に回転する体から二つの光の玉が、分かれて飛び出します!!!
『なっ!?、体から魂が抜けたぞ!、憑依を解除できたんだ!?、こんな非常識な事、認めたくないけど成功したのか・・・あっ、危ない!、ぶつかる!?』
・・・しかし、飛び出した光の玉は、その勢いのまま神域の壁に激突する!?
『お願い!、私よ!!、受け止めて!!!』
ぎゅりゅんりゅんりゅん!・・・ばぁっ!・・・がしっ!、がしっ!
脱ぎ捨て、床にいた『私』が、その身を伸ばし、空中に身を躍らせ、二つの光の玉を寸でのところ、口と尾で無事に掴まえます!・・・通じてよかった・・・反発されるかと思ったけど素直に?・・・まだ『美味しく食べる』の諦めてないから?
くるくるくるぅぅぅ~・・・ぐらんぐらんぐらん~・・・
そして、お姉さんの体は、まだ回転し続けて、徐々にゆっくりになっていき・・・
・・・ふらふらふら~・・・がしっ!!!、『お姉さん!』
倒れそうなる所を篭手を伸ばして、しっかりと受けとめ、引き寄せます!
『まわる・・・まわる~よ・・・せかいがまわる・・・ぐうぅぇえぇぇ・・・』
お姉さんの目がぐるぐる回っています!、気持ち悪そうです!
がしっ!
ふらつくので私にしがみついてこられ・・・憑依も無茶もさせて、ごめんなさい!
あれ?、何だか私も気持ち悪い?、触れているから?、感じる力が強くなっているから?・・・頭が痛い・・・伝わってくるのは、とても古い記憶?・・・これは?
『御子、こっちだ!、蛇を、分離した魂を見てくれないか!?』
お姉さんから大量に流れ込んで来る不快感と記憶を感じながら、薙の声に振り向くと、二つの光の玉を中心に置くように蜷局を巻いている蛇の姿が見えました。
・・・蛇が蜷局を巻くのは、休み眠る時・・・閉じない目をふさぐように身体で隠し、安らぎを感じる時・・・よかった、魂を食べたりしないようなので安心・・・あれ?、二つの魂の色は、海のような青色と、優しいお日様のような橙色?・・・この二つの魂の色は・・・じゃあ、今のお姉さんの体に残っている魂は・・・
『おのれぇ・・・うぅっぷ・・・ヒトガミめぇ・・・ぎもじわるぃ・・・』
がしっ!、がしっ!、がしっ!、がしっ!、がしっ!、がしっ!、がしっ!
お姉さんが火傷をした手を含め、全ての手でしがみついて?・・・いえ、むしろ、逃げられないように!?・・・この感情は!?、よく見ると、お姉さんの姿は!?
『だが、オマエは我を離すどころか、色々とプレゼントしてしまったようだな!』
しゅるんっ・・・ごおぉうっ!!!
お姉さんの口から出るのは、全く別人の声!、そして、その姿が、赤黒い布を頭から被っている海の民の姿に変わります!、お姉さんの体から変容したのです!
『感謝するぞ?、ヒトガミが見せたマヤカシの行為に絆される、邪魔な魂たちを排除してくれたおかげで、完全体として再び受肉する事が出来たのだ!』
目深にかぶったフードのため顔は見えませんが、その奥には『赤黒い怒りの色』が、煌々(こうこう)と燃えて、始祖様が実像として顕現したのです!
『なんてことだ!?、始祖の魂だけが残ってしまった!?、これでは、御子と同じ融合じゃないか!・・・いけない、御子!、離れろ!、逃げろ!』
薙に言われる前から、危険を察知して逃れようとしますが、がっちり掴まれて!?
『現世よ、我は帰って来た!・・・ヒトガミよ!、我の怒りが知りたいならば教えてやろう!、我が忌まわしき記憶と共に、その身を炎に焼いてなっ!!!』
ごおぉぉぉうっ!!!ごおぉぉぉうっ!!!ごおぉぉぉうっ!!!
完全に、お姉さんの体を支配下に置いた始祖様が、怨嗟の声を上げると共に、その全身から『赤黒い怒りの炎』が噴き上がります!!!
それは、始祖様が掴んでいる腕から私を燃やし尽くさんと迫ってくる!?
『ニンゲンなど滅びてしまえ!!!、ぶるぁぁぁぁぁ!!!・・・おぇーーー』
さらに、その口からも迫って!?・・・ぎゃーーーぁぁぁっ!!!??
クー<ふむ~、確かに『原始=始祖』に戻りましたな~?、それにしても伝説の帯くるくるとは・・・お正月じゃから?、いつもより多く回っておりますじゃから?
ミコ<良い方法だと思ったのですが、世の中、そんなに甘くないのですね、とほほ・・・
薙<あぁ、遂にクーまで犠牲に・・・むしろ、なぜ上手くいくと思ったのか?
?<遠心分離だと比重の軽いモノは上に、重いモノは下に沈殿するからね~
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
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