第1話 『新しい海の民と竜王』㉖波の下にも都のさぶらふぞ
蛇ミコ<鬼道少女ミコまーく弐、いっきまーーす!
クー<ふむ、黒色・・・てぃたーんずバージョンですかな?
薙<そんな大人・・・じゃない、御子、修正してやる!?
@<また更新遅くなりました!、ごめんなさい!、寒いと仕事忙しくなり・・・いえ、クリスマスに合わせたんですよ?(爆死)
『煌めいているもの・・・これが、マナ・・・あぁ、鏡のおかげで見える・・・ふふっ、やっと見えるようになった・・・感じられるようになった・・・』
土の陽たる神宝、『沖津鏡』は、高い所に置き、遠くを見る、言わば『道しるべの鏡』・・・『鏡』とは、その内に太陽の分霊とも言われる『か(が)み』を内包するもの・・・『王権の象徴』たる『鏡』に連なるモノ・・・
『これも、とても綺麗・・・これが、あの方が見ていらっしゃるもの?、感じていらっしゃるもの?・・・あの方と同じものを見て、同じものを感じることができる・・・なんて素敵なことなんでしょう・・・』
・・・その鏡を飲み込む事で、その権能を奪い、以前よりも鋭敏な感覚を得たのだろう・・・何も見えないはずの虚空に指を這わせる・・・
『だから・・・今も見ていらっしゃるんですね?、聞いていらっしゃるんですね?・・・では、包み隠さず、私が蛇であることをお伝えしないと・・・』
新たな赤い瞳を幾多も開眼した異形の蛇が、クー達の所へゆっくりと着実に近づいて行く・・・その足取りは、傷を負ったモノとは思えないほど軽い・・・
・・・にゅるり・・・ぎりぎりぎり・・・
僕の影に潜んでいた『蛇』が、刀身に絡み付いて、僕の動きを束縛してくる・・・その蛇も同じく赤い双眸を大きく開き・・・合計で、十四もの鋭い瞳が、睨みを利かせている・・・状況は、悪化の一途を辿っていた・・・
・・・きゅーん・・・・きゅーん・・・
再度、何度目かの収束の音がする・・・僕が、動けなくとも権能の発現に問題は無い・・・しかし、御子の歩みは止まらない・・・巻き付いている蛇を通し、権能が放たれる瞬間を感知して、致命傷を避ける事が出来ると考えているのか・・・
・・・ちりちり・・・ちりちり・・・
権能の副次的な熱に晒され、巻き付いている蛇から、その身が焼かれている音がする・・・しかし、熱を受けているはずの蛇も平然としている・・・恐らく、より強化された生玉の権能によって、この程度ならば、問題にもならないのか?・・・
・・・だけど、最大出力の熱を直接与えれば、蛇の一頭は確実に討ち滅ぼせる!
『止まれっ!・・・でないと、僕に巻き付いた分け身の蛇を焼き切って、破邪の権能が、始祖も皆も巻き込む事になる!・・・それでもいいのかっ!?』
・・・だけど、蛇は避ける事が出来ても、始祖達ならば権能で消滅は必至!
そして、この蛇も御子の魂を構成する大事な一部・・・その魂を失う事は、御子から記憶など、多くのものを奪う事になるだろう・・・それは、『どうしても食べたい』という蛇の抑えきれない欲求、本能に訴えるはずだ・・・
・・・クー達の方に向かっていた足が止まる・・・御子が、僕の方に振り返る・・・やっと、御子が僕を見てくれる!、そうだ、僕を見るんだ!
器物である僕には想像するしかないが、『思い入れのある食べ物』ほど、食べた時に『美味しく感じられる』という感覚を・・・『食べようと思っていたもの』が無くなる、『食べ物を奪われる』という気持ちを利用してやる!
『やっぱり、それだけでは封じられてくれないのね?・・・私の一番、嫌いな事にも躊躇がないのね・・・草薙の剣・・・』
十四もの瞳が、ぎらぎらとした赤い光を僕に放つ・・・間違いなく、他のモノなら、その眼力に委縮し、屈服し、逆らう事など到底出来ないだろうが・・・
『当たり前だっ!、僕は、ずっと君を見てきた!、君の事を想っているから!』
しかし、僕は、元の八つの頭、十六の瞳に睨まれようとも意見をぶつけて来たんだっ!、ずっと、一緒に過ごしてきたんだっ!!、何より君が大切だからっ!!!
『・・・貴方は、いつも見ていてくれるのね・・・間違いを犯す悪い私を・・・叱り、励まして、怒って、悲しんでくれる・・・大切な・・・でも、ね・・・』
・・・にゅるん・・・あぐっ・・・
『なっ、翠を食べるつもりなのか!?・・・なに!?』
突然、僕に絡み付いていた蛇が首を伸ばし、床に転がり落ちていた翡翠色の玉を、その口に咥えて、僕の刀身へ近づける!?
『翠を食べない』という自らの宣言を破るのか!?、と驚愕したが・・・
・・・きゅぅぅぅん・・・
『破邪の権能が、止まった!?』
その途端、何故か、力の収束が静まっていく!?、熱を失っていく!?
『・・・やっぱり、翠は、天津神様の一柱なのね?・・・だから、献上された剣は、翠を傷付けることが出来ない・・・今の薙の反応で確信を持てた・・・』
・・・天津神とは、高天原にいる神々、または高天原から天降った神々の総称を示す・・・権能とは、神威・・・故に破邪の権能は、神に仇なさないように停止したと!?・・・そこまで考えて、僕に翠を渡したというのかっ!?
・・・そう言われれば、思い当たる節がある・・・聖域と呼ばれている海岸で、僕の斬撃を翠が、受け止めていた・・・その事実を意図的に考慮できないとは・・・くっ、何て不都合な知性体なんだ、僕は!?
『翠に触れて、じっと見つめて・・・ぼんやりと感じられた・・・今は、より身近に感じられて・・・うふふっ、これで草薙の剣は、私に手出しできない・・・もう誰も私の楽しい食事を邪魔できない、じっくり味わえる・・・あははははっ!』
異形の蛇が、楽しそうな笑い声を上げ、またクー達の方に迫っていく!
『待て!、御子!!!・・・翠!、翠!、何とか出来ないのか!?』
万事休すの僕は、刀身に触れている翠に『声』を掛けるが・・・
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
駄目だ、熟睡している!?、なんて寝言だ!?、寝る子は育つは、今じゃないでしょう!?、大きくなったら食べられてしまうぞ!?
『・・・薙様のお言葉が聞こえなくなって、状況がよくわからんのじゃが・・・』
一連の緊迫した殺り取りを見ていたはずのクーは、ただ困惑しているだけで危険を感じていない!?・・・伝達が出来ないだけで、ここまで鈍感になるのか?
『クーも、みんなも私にとって大事な存在・・・だからこそ、食べることで一緒になれる・・・もう、どこにも行かないように・・・もう、なくさないように・・・みんな美味しく食べてあげるからね・・・』
獲物を見つめる多頭の蛇が、その瞳を怪しく光らせている・・・やはり、分けられた御子の魂の影響で、クーが違和感を感じないようにしているのか!?
『あぁ~、自ら火の中に~飛び込む兎の逸話のように~、今一度、我らの心を試しておられるのか~?・・・ま~イ~カ~、美味しくなれよ~?』
いくら何でも不自然過ぎるだろう!、好意的に捉えすぎだろう!?・・・ゆらゆらと、クーの目の焦点が合わなくなっていく!?
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
クーに組み付かれて動けない始祖も、束縛され、権能を封じられた僕も、それを眺める事しか出来ない!?
『確かに~我ら海の民の~神である始祖様が~ヒトガミ様に手を上げる事など断じて・・・わんぱくでもいい、逞しく育ってほしぃ~?』
クーの言葉がゆっくりになって・・・魔魅られ、自ら食べられようとしている!?
『ふふっ、いい子ね・・・でも、このままじゃ大き過ぎて、私の中に入らないみたい・・・うふふふっ・・・』
・・・ちゃりちゃりちゃりん・・・かちゃり・・・
御子が、ゆっくりと篭手に覆われた両手を動かし、触れ合った鱗の重なりの音がして、手のひら同士をしっかりと合わせる!?・・・言い方が、何か卑猥だぞ!?
『・・・蛇はね、自分の頭よりも大きな獲物を丸呑みにすることができるのよ?』
・・・がちゃん!、ぐわぁっ!!!
その手のひらを上下に開くと篭手の形状が、四つの眼を持つ巨大な蛇の頭に変化していく!?
・・・じゃりじゃりじゃりん!!!
そして、『けたたましい』音を鳴らせながら、蛇腹が、クー達を取り囲む様に、蜷局を巻く様に伸びていく!
・・・ぎゃりぎゃぎぎゃり!!!
その伸びていく体が、頭が、床や神域の天井部にぶつかり擦れて火花を散らす!
『・・・こうやって、自分の顎を大きく広げることができるから!!!』
・・・くぱぁっ!!!
そして、鎌首をもたげた蛇が眼下へ、その口を大きく開き、万物を飲み込む様な漆黒の口腔を見せつける!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・『けたたましい』とは、人を驚かすような仰々しい音や声が発せられる様をいい、『消魂しい』が語源である・・・そして、それを聴いてしまった者は、驚き、慄き、『たまげる』・・・『たまげる』とは、『魂消る』と表される・・・
故に、巨大な咢を開いた蛇を見たクー達は、まさに『蛇に睨まれた蛙』のように、『魂が消えてしまった』かの様に不動の体勢で固まって・・・
どんっ!!!
『・・・アナタ!、逃げて!!!』、『・・・ふぁあっ!?』
突然、始祖が大きな声をあげ、一対の手で組み合っていたはずのクーを突き飛ばす!?・・・魅入られていたクーは、拘束する力を失っていたのだろう・・・手は二本だけだが、体の大きなクーが飛ばされるような勢いで・・・
しかし、それは悪手なのだ、蛇よりも先に動いてはいけないのだ・・・何故なら・・・
『やめろっ!?、やめてくれ、みこぉぉぉ!?』
しゃぁぁっ!、がぶりっ!!!
・・・『蛇に睨まれた蛙』は、恐怖で動けないんじゃない・・・下手に先に動く事は、その動線を悟られ、飲み込まれてしまうからだ!・・・幾多の目を持つ蛇は、動きを読む事など・・・クーの巨体が一瞬で、その大顎に咥えられてしまう!
『・・・アナタぁっーーー!?、いやぁぁっーーー!?』
その光景を目の当たりにした始祖が、手を顔に当て、恐怖の悲鳴をあげる!・・・いや、始祖じゃない?、目に怒りの炎が見えない!、『赤黒い怒りの衣装』に覆われていない、火傷のある両腕だけが動いている!?
ばくりっ!、ごっきゅぅん!・・・ぐびぐびぐび、ぎゃりぎゃぎぎゃり!!!
そんな始祖の変化を意にかける事無く、クーを容赦無く、頭を上向きにして腔内に収める蛇!・・・そして、クーの大きさ分に喉を膨らませて嚥下し、胃袋に移動させつつ、伸びていた蛇腹も縮めていく!
『もう!?、せっかく、一緒に食べてあげようと思ったのに急に動くから、びっくりしてクーだけ食べちゃったじゃない!、どうしてくれ・・・んがっ!?』
自分の思っていた通りにならなかった腹いせの様な文句を御子が、始祖にぶつける!・・・何て酷い言動なんだっ!?、もう、優しい御子は完全に消えて・・・いきなり、しゃくりあげる様な声を出す!?
『くっ、苦しい・・・息が、でき、ない!?・・・大きすぎて、つまって!?』
蛇腹は、確かに根元の方が細くなっている!?、クーが胃袋に向かうほど、御子が背を曲げ、苦しそうな声をあげる!?・・・蛇は、獲物を飲み込んでも窒息しないはず・・・何故なら、空気の通る道の構造が普通の動物と違うからだ・・・でも、人の身を土台とする御子は!?
『うぐっ!?・・・ひゅぃ・・・だ、だめ・・・もう・・・しにゅ・・・』
ぎゅりゅんりゅん!!!、かしゃぁん!!!
息が出来ない苦しさに激しく身悶えする御子!、頭と体の衣装を構成していた主と成る蛇が、その拘束を解除し、御子から離れ落ちて、床に硬質な音を立てる!
『かはぁっ!!!・・・ぜぃ、はぁ、これで、ぜぃ、はぁ、最後まで・・・』
そして、素顔の露わになった御子が、不足していた空気を人の口鼻で貪る様に吸い込んで、呼吸を整える!・・・だけど、クーを飲み込む動作は、そのままだ!?
・・・ごきゅんっ!!!
『んぐぅ!・・・ふぅー!、はぁ~、また息ができなくて死ぬかと思った・・・』
・・・大きな嚥下音をさせて、クーの姿は消えてしまった・・・
・・・じゃらららん・・・かちっん!
『蛇は一度、飲み込んだものは決して、吐き出さないの・・・よ?』
役目を終えた蛇腹と蛇の頭が、元の篭手の形に戻り、御子が、安堵する様に胸を撫で下ろす・・・クーは、完全に蛇に飲み込まれてしまった!!!
『・・・あぁっ・・・アナタ・・・クー様・・・』
クーの危機に際し、目的の御霊が、始祖の支配から一時的に体を取り戻したのだろう・・・クーを逃がそうとしたのに・・・だが、結果は非情なもの・・・がっくりと膝を床につけ、呆然自失の状態だ・・・
『息が、また苦しかった?・・・あの時も息が苦しかった、もがいていた?』
それとは別に・・・御子の様子がおかしい・・・何かをつぶやいている?
『どちらが上で、どちらが下か、もまれる波に翻弄されて、区別がつかなかった・・・ゆらゆらと揺れる私の身体を重く沈んで、落としていって・・・』
・・・詠う様に・・・何かを思い出す様に・・・いや、何かを取り戻す様に・・・
『誰もいない・・・底は闇・・・命の灯が消える・・・遥か頭上に差し込む光に手を伸ばしても・・・もがいた腕は、わずかな抵抗を伴って、音の無い音を立てるだけで・・・吐き出した泡がキレイで・・・』
・・・見えない泡が立ち上るのを見えるかのように、御子が、頭上を見上げる・・・そして、頭上に差し込む光に手を伸ばす・・・見上げた先は、神域の天井・・・御子の紅い瞳が、その先にある色を映す・・・
『波の下にも都のさぶらふぞ・・・誰かが言ったの、私に・・・あの壇ノ浦で・・・私をしっかりと抱きしめて・・・揺れる船の上で・・・』
・・・その視線の先にあるのは、幽世の青い、蒼い『海』・・・確かに、今の僕たちがいるのは、海の『波の下』に合致する情景だろう・・・まさか、取り戻したのか!?
『それは、私の祖母・・・他にも大切な人が、多くいたのに・・・離れてしまった・・・お母様もいたのに・・・争いが、多くの人を巻き込んでしまった・・・多くの命を奪ってしまった・・・だから、戦うことが嫌だったのに・・・ごめんなさぃ・・・クー・・・』
御子が、自分の震える黒色の手を見つめる・・・先ほどまでの紅い瞳が、蒼い光を受けて、潤みを帯びて、震えて・・・声も震えて・・・
『クーを喰らう事で・・』『クーの力を私に貸し・・・』『クーを返してー!』
ぼごぉっ!!!
一瞬だけ、紫色を見せた御子の顔面に、拳がめり込んでいったぁぁぁー!!??
クー<これが、若さかのう?、草葉の陰から見守っておるぞ~
薙<僕も傍観するしかない~
蛇ミコ<ごめんなさい、クー・・・美味しかった・・・
御霊<うわぁぁーん、あの人を返してーーー!
@<食べ物を喉につめて、窒息で臨死体験、人の記憶を取り戻す主人公!、ぶっちゃけありえなーい!?