第1話 『新しい海の民と竜王』㉕蛇、開眼!?★
蛇ミコ<人間には能力の限界があるの・・・薙、私は人間をやめるよ!・・・あっ、でも、ちょっと待って・・・まだ、翠は食べたりしないからね~♪
薙<完全に、その身を魔に堕とすのか、御子!?・・・と思ったら、中断するんかーい!?、食べない約束を守る、お利口さんかーい!?
@<魔法少女に変身と思ったら、融合合体でファイナルフュージョンだった件...
・・・圧倒的な力によって、厳格な神域の理を捻じ曲げ、その身に己の源泉たる蛇の魂を纏わせる御子・・・海の民の始祖が、巫女である、お姉さんを依代にして姿を変化させたのとは訳が違う・・・
一方は、異物同士が無理やり重なりあって『憑依』している状態であり、その能力も制限されてしまうが、『八岐大蛇』様と『御子』は同一の存在で、その親和性は言うに及ばず・・・まさに、純粋な『融合』とも呼べるモノ・・・だが?
『あっ、ちょっと待って!・・・そのままだと、翠を食べちゃうから移動させないと・・・よいっしょっと・・・』
・・・黒色の『蛇の鱗の衣装』をほぼ全身に纏った御子が、頭の上にいる翠を篭手で覆われた手に持つ・・・弾力のある翡翠色の玉を、その尖った指先で傷つけないように優しく、そっと・・・
その言葉を受けて、今にも御子の頭を一飲みするかの如く、その咢を大きく開けていた、赤い目の蛇が動きを止める・・・(今は)食べないという約束を律儀に守るように・・・
(確かに、あのままだったら翠を飲み込んでいただろうけど・・・暴走する事なく、陰の気を自分の意志で制御しているのか?)
・・・不確かな人と違い、決めたことは必ず守る化生の神、八岐大蛇様らしい『優しさ』と言えば、そうなのだが・・・『僕』と『蛇』・・・『聖』と『魔』の相反する存在と成って、つながりが切れてしまったので、よくわからない・・・
『・・・ええっと、どうしよう?・・・ごめん、薙、翠持っててくれる?』
そんな御子が何を思ったのか、敵対するはずの僕に翠を渡してくる!?・・・いや、そうはならんやろっ!?っと言いたくなったが・・・
(待てよ・・・翠は、神宝の力を媒介する存在・・・どうなるかわからないが、御子が何かの拍子に翠を食べてしまう事態は避けねば・・・)
そう判断した僕は、柄の向きに姿勢を変え、ゆっくりと御子の手の高さまで下がって行く・・・柄は、力の収束中であっても主を傷付けない安全な領域である・・・
警戒しながら近づくにつれて何故か、力の制御がしやすくなる?・・・翠に近づいた影響なのだろうか?
『近づいた時、急に、ぱくりはしないでくれよ?・・・その時は、容赦なく撃つからね?、内側から焼き溶かして突き破るからね?』
・・・だが、柄を掴まれても、飲み込まれても敵に一切の容赦はしないぞ?・・・現時点では、善悪は保留中だが・・・
『うんうん!、大丈夫、安心して!、神様に誓って、そんなことだけはしないから!・・・じゃあ、落とさないようにお願いね?』
御子と赤い目の蛇が、同調して頭を上下しながら言って、僕の柄の上に、ぽにょんっと翠を置く・・・一体、何の神様に誓うのやら?・・・その素直な行為に対して複雑な心境になりながらも、御子から翠を預かり、また少し離れると・・・
『よーし、これで、最後までいけるね!・・・はぁぁっ!!!』
ごおぉぉぅ!!!
気合いの叫びと共に、また再び、圧倒的な霊圧が御子から噴き出す!、蛇の赤い目が、ぎらりっと怪しく光る!、そして・・・
・・・がぶりっ!・・・ぐぃ~~ん・・・
蛇が、御子の頭をばくりっと咥えたまま、上に引き上げ・・・御子の足が、地面から離れて宙に浮いて・・・
『うわぁっ!?、蛇が、御子をまみ・・・いや、身罷った!?』
・・・ぶら~ん、ぶら~ん・・・
えぇっ!?、今までみたいに、ぱぱっと変身しないのかい!?、御子の頭が蛇に嚙み千切られるぅぅっ!?
・・・『罷る』、とは移動する事で、『身罷る』とは、貴人が死んで現世から、あの世に逝ってしまう事を意味して・・・あまりの衝動で言葉遣いがおかしい!?
『人間を捨てる為に、その命を粗末にするなんてっ!?、君の命を奪うのは、僕だって約束したじゃないかっ!?・・・みこぉぉぉっ!?』
僕は、叫んでいた!、さぁーっと血の気が引くのを感じて・・・生き物じゃないけどっ!?・・・暴走したんだっ!?、蛇の陰の気を制御しきれなかったんだっ!?
・・・ぼとりっ・・・
宙づりになっていた御子が落下して、地面に転がる!?・・・あぁっ!?、こんな事なら変身の途中で、無理やり割り込んで止めさせるべきであったと後悔し・・・
・・・むくり・・・
『・・・あぁ~、びっくり!、急に視界が真っ暗になっちゃったから、慌てちゃった!・・・まあ、初めてだから仕方ないよね?・・・うん?、薙、どうしたの?』
・・・すっぽりと頭全体を覆うような蛇の兜を着けた御子が、男か女か判別できない声を発しながら起き上がって、狼狽している僕を見る!?・・・頭がちゃんとあるんだっ!?、生きているんだっ!?、現場に血は流れていないんだっ!?
『し、心配したじゃないか、この馬鹿御子がぁ!?・・・あっ、いけない!?』
きゅーん!きゅーーん!!きゅーーーん!!!きゅーーーーん!!!!
一連の騒動で、不安定になってしまった僕の制御を離れ、破邪の権能が放たれようとしている!?、限界まで収束した空気と熱が、僕の先端に集まっている!!!
その身を蛇の力で覆ってしまった事で、御子を完全に『魔』と認定してしまったんだっ!?、『邪悪』として判断されてしまったんだっ!?
『だ、駄目だ!、もう止められない!!!・・・御子、避けろぉぉっ!!!』
かぁぁぁぁっ!!!・・・ばしゅぅぅぅん!!!
僕の忠告を掻き消すように、世界が、無慈悲に輝く白い閃光に包まれる!!!
『・・・えっ・・・な、に・・・』
ぎゃりゅりゅりゅーーん!!!!!!
凄まじい光の奔流が、御子を目掛けて一直線に突き進む!!!
どっがぁぁぁぁぁーーーん!!!!!!・・・ばらばらばらばら!!!!・・・しゃりりりーん・・・
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
御子のいる場所に突き刺さった光が、一瞬、遅れて爆裂し・・・周囲に激しい音と衝撃を伴って、砕け散った破片を撒き散らして・・・吹き飛んでしまった黒色の鱗が、空中から堕ちて来て・・・場違いなほど、綺麗な音を立てる・・・
『・・・あっ、あっ・・・みこぉ・・・そ、そんなぁ・・・』
圧倒的な熱量によって、黒く光っていた鱗の衣装は、見る影もないほど赤熱し、歪み、焼き焦げ、融けて・・・ばらばらになって、床に散らばっていて・・・
煙を立てる、硝子状に熱変成してしまった大きな穴を呆然と見つめて・・・
(『境界に揺れる私の願いを貴方の固い決意で支えてほしいの!・・・確かな貴方という存在が、私には必要なの!・・・』)
・・・ほんの少し前に交わした、あの子の必死な姿と言葉が甦ってきて・・・
だけど、そこには僕の好きだった、あの子の姿は喪くて・・・境界に揺れていた、あの子の願いを支えきれなくて・・・必要だって言ってくれたのに・・・
・・・ふらっ・・・どすっ!
力を無くし、僕は堕ちて、鈍い音を響かせて、その切っ先を床に埋めていた・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・ぽろり・・・ころころころ・・・
『御子が・・・・溶けて・・・蒸発して・・・しまった・・・』
無様に斜めに突き刺さったまま、呆けたように呟くことしか出来なかった・・・翡翠色の玉が、柄から転がり落ちた事すら気付かない・・・
(『私を本当に大事に想うなら、全力で私を助けて!、全力で私を殺して!・・・そして、また貴方の心に傷をつけてしまう私を許して!・・・薙!』)
あの子との約束が、最悪の終焉を迎えてしまって・・・失ってしまった大切な存在の重さ・・・傷なんてモノじゃない・・・ぽっかりと、僕の心に大きな大きな虚無が広がって・・・
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
恐らく、僕が人であったのなら止めどなく、その目から涙を流していただろう・・・しかし、僕は血の通わぬ黒鉄の刃だ、涙を流す事なんて出来ない・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
権能を自制しきれなかった自分の不甲斐なさ・・・主の役に立てなかった不完全な道具だ・・・目の前の惨状を招いてしまった後悔が・・・
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・』
・・・あまりの衝撃に、ついに幻聴まで聞こえて・・・いや、違う!?、確かに、クーの頭上から御子の声が聞こえた!?、死んでいないっ!?、生きてるのか!?
『そんな、まさかっ!?、直撃したはずだっ!?、あれを受けて無事なのか?、避けたのか!?、どうやって!?』
・・・僕が、御子を失ったと思い込んだのは、光の速さで放たれる権能を避ける事は不可能であり、そして、その必滅の威力を知っているからだ・・・現に僕の目の前には、床に散らばる焼け焦げた蛇の鱗があるのに・・・
・・・ぱきぱき・・・しゃり~ん・・・ぱきぱき・・・しゃり~ん・・・
御子の声がした頭上を見上げる・・・そこには、左腕を神域の天井部に突き刺し、ぶら下がった体勢の蛇を纏った御子がいた・・・
右腕に神宝の丸い鏡、沖津鏡を咥えている・・・左右の篭手が、蛇腹状に形状を変化させて長く伸びている!?、よく見ると全身の鱗は、ぼろぼろだ?
『御子様でしたか、何故、そんなに腕が長く?、元蛇じゃから?、成長期じゃから?・・・まあ、そんなことよりも傷は、大丈夫でございますか?・・・とりあえず、降りて下さいますかのう?』
クーも御子を見て、声をかける・・・・・・クーの中には、御子の魂が別けられているので、その異形な姿が気にならないのだろうか?・・・それにしても驚嘆せざるを得ない・・・
(権能が放たれる瞬間を蛇の感覚で察知して、腕を伸ばして頭上に逃れたが、完全には避けられなかった・・・しかし、脱皮する事でその熱と衝撃から身を守ったのか・・・何という適応能力なんだ・・・)
・・・あの強固な神域の壁も難なく突き刺す力・・・権能で受けた熱損傷を剥がれ落とし、次々に生え変わる新しい鱗・・・それが、頭上から床に落ちている音の正体だったのか・・・
『うん!、私もクーたちの近くに行きたいと思っていたから♪・・・よいしょ、よいしょ・・・あれ、なかなか外れない・・・仕方ない・・・とうっ!』
しゅる~ん・・・ぐいぐいぐい・・・くるん・・・ばあん!
天井に張り付いていた御子が、蛇腹を縮めて・・・左手が外れないので反転して・・・逆さになった体勢で、天井に足を着けて・・・天井を蹴る!
『・・あっ、勢いが、体勢がっ!?・・・きゃあぁ~!?』
・・・ずどおぉぉんっ!!!
『天井から御子様が落ちて、人型の穴が開いた!?、大丈夫ですかのう!?』
その反動を利用して腕を外したけれど、勢いが強すぎて床にめり込んだ!?・・・今はまだ、その身に宿る力を制御し切れていないようだ?
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
小さな声が聞こえる・・・いつの間にか、始祖の拳の炎が消えて、その場に膝をつくような体勢で、クーが押さえ込んで・・・憑依が、解け始めている?
今までの騒動の中、クーは始祖に『鏡』を見せる事で、憑依した逆の手順・・・『神』から『我』を取り戻そうとして・・・それで弱体化しているようだった。
『いたたたっ・・・よいしょっ、と・・・ふぅ~・・・』
御子が、穴から這い上がって来る・・・蛇は、古い皮を脱ぎ捨てる・・・床に転がっているのは、その残骸に過ぎなかったんだ・・・脱皮する事は、蛇が受けた傷を浅くする意味もあるが・・・
『うーっ、余計に全身が痛くなったよぉ~・・・早くクーを食べないと駄目ね?、ねぇ、ク~♪』
傷付いた鱗の奥から見えるのは、まさに『無明の闇』というべきモノ・・・蛇は、脱皮することで、より強く、大きく成長を遂げるんだ!・・・御子が、再び、物騒な事を言って、クーたちに近づいて行く!?
『やめろ!、御子!?・・・クー逃げろ!?』
生玉の権能が無いので、伝わらないとわかっているが、クーに叫ぶ!
『御子様、クーを喰うとは、面白い冗談はよし子ちゃんですぞ?・・・さあ、クーが始祖様を押さえている中に、その鏡で一旦、仕切り直しを!・・・ラミパスラミパスルルルルル~・・・レモンを齧るんじゃったか?』
しかし、クーは冗談だと思っているのか気にしていない!?・・・黒い面貌に覆われて、可愛らしい顔は見えないが、その奥の瞳は、ぎらぎらと紅く光っている!?
『鏡は使っちゃ駄目、始祖様が依代から離れちゃう・・・みんな一緒に、美味しく私が食べてあげるんだから♪・・・鏡も生玉と一緒がいいよね?・・・じゃあ、いただきます♪』
・・・ひょい、ぱくり・・・
『あぁ!?、御子様が、鏡を食べた!?、流石に、お腹が空いていても、食べて良いものと悪いものがっ!?・・・何か深いお考えが・・・?』
無情にも、右手の篭手の蛇が、咥えていた沖津鏡を空中に投げると、落ちてきた所を一飲みにしたっ!?・・・クー、呑気過ぎるぞ!?
『うふふっ♪・・・・やっぱり、神宝と言うだけあって、これも美味しい・・・これで、もう戻せないよね?、邪を弱めるものは無くなったかな?、あははっ♪』
・・・きぃーーん・・・
心底、嬉しそうな声をあげる御子!?・・・再び、権能が準備状態に入る!?、御子と始祖を敵と認識している為だっ!?
(しまった、鏡で陰を弱める事も出来たか!?、とりあえず、僕も近くに!)
・・・ずばっ!!!、ぎゅるるんん!!!、『なにっ!?』
そう思い、切っ先が床から離れる時だった!、突然、僕の下から飛び出た黒いモノが、巻き付いてくる!?・・・がんじがらめにされる!?、動けない!?
・・・にゅるん・・・ぎらり・・・
僕に巻き付いた者が、その鎌首を持ち上げ、その赤い目を僕に向ける!
『影の蛇!?、一体、いつの間に!?』
・・・間違いない、八岐大蛇様の一頭だっ!?、それに開眼している!?
『あはははっ、良かった、気付かれなかった♪・・・実はね、蛇を纏う時に薙の影に隠れてたんだよ~?・・・ほら、私の身に纏っているのは、五匹分しかいないでしょ?』
くるりっと、御子が、自分の衣装を僕に見せびらかすように、その場で回転して、楽しそうに言う!?
確かに、言われてみると、頭・両手、両足の五匹分しかない!、元は六匹だったのに見逃していた!?、何と狡猾な罠かっ!?
『沖津鏡を食べたことで、自分と同じ者は、離れてても動かせるようになったんだよ?、これで、また一歩、ナナシ様に近づけたかな?・・・ねぇ、みんな~?』
・・・びし!びし!びし!びし!、ぎら!ぎら!ぎら!ぎら!
御子の呼びかけに応じるように、纏っている左右の腕、足の蛇も赤い目を開眼していく!?、鏡の『視る、映す』という権能を奪ったのか!?
・・・きゅーん!きゅーーん!・・・
・・・その力と異形さを増す蛇に、破邪の権能を止める事など・・・
@<六匹のはずが、五匹だった件・・・伏線ばれてましたか?(汗)
クー<敵を欺くには、まず、味方から!、流石は、御子様!(←え?)
蛇ミコ<うんうん、私も一皮脱いだ甲斐があったというものですよ~♪(←え?)
薙<いや、そうじゃないだろー!?、次は、クーが狙われる番だぞー!!!(←だよねぇー)
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
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