第1話 『新しい海の民と竜王』㉔『(元)大蛇』対『神剣』
@<触らぬ神とは、どちらだったのか・・・更新遅くなりました!、すいません!
蛇ミコ<生玉ちゃんは、私が美味しくいただきました!、うふふっ、あはははっ♪
薙<生玉、お前の犠牲を無駄にはしない・・・御子、悪い事は言わない!・・・今すぐ、ぺっ、するんだ!(真剣)
・・・全てのモノに『陰と陽』が存在するように、ひとりの人間である御子の中にも『陰と陽』が存在する・・・御子にとって『陽』とは『人の部分』であり、『陰』とは『蛇の部分』である・・・この二つは、お互いに切り離せぬ『互根』の存在・・・『流転する水』のように、常に割合を変えながら変化を繰り返す『対立』の存在・・・どちらか一方のみでは存在することが出来ないはずであったのに・・・
・・・ぱり・・・ぱり・・・
僕の周囲にある空気が帯電し、物騒な音を立てる。
『・・・大事な友達の翠も食べるつもりかい?・・・』
漆黒の刀身である僕は、宙に浮かびながら、血塗れの美しい幼女・・・いや、人間という皮を被った愛しい多頭の蛇に問いかける・・・その剣先をゆっくりと彼女の心臓の向きに変えながら。
御子が、手のひらにある翡翠色の玉を、その紅い瞳で見つめている・・・頭上に波打つ幽世の海の青い光を受け、その濡れたような赤と緑は、より艶やかに輝いて見えた。
・・・『消長』の状態・・・『陰陽』はどちらかが盛んになると、もう一方は衰えるといった関係を絶えず繰りかえす・・・祭司である御子の状態が揺らいでいることで、どちらも『幽世』の『陰』の影響を受けているのだとわかる・・・
『翠は、とても綺麗で・・・とても美味しそう・・・だけど・・・私の危機を何度も救ってくれた、私の大事な友達・・・だから・・・私は・・・』
御子は、優しく翠を撫でながら呟き、今までの翠とのやり取りを思い出すかの様に、その紅い瞳を閉じる。
・・・八岐大蛇様は、正に『陰』の化身・・・『陰』は『陽』に『転化』し、『陽』は『陰』に『転化』する・・・黄泉の水と始祖の霊障の影響で、人の瞳から変じた、その異形の赤い目は、互いの調和が破られたことを意味する・・・
(翠が何者なのか・・・玉と鏡なら、何かわかったかも知れないけど・・・まだ食べるか否か、逡巡しているなら・・・)
・・・きぃぃぃん・・・
・・・その境界に揺れる御子と同調するかのように、僕の権能も正邪の判断を保留して低速に切り替えた振動を伝えてくる・・・
残念ながら、武力の象徴である僕は翠の正体を『知らない』・・・知っているはずの御子の『失った人の名』も伝えることが出来ない・・・正確に言うならば『干渉できない』・・・それは、僕が道具である限り、不変の事実として存在するんだ。
『そうだよ?、御子にとって翠は大事な存在なんだ・・・クーやお姉さん、あの娘もそうだろう?・・・必要の無い獲物は、決して摂らない・・・思い出してほしい・・・それが君の信条だったよね?』
・・・御子の為ならば、他を切り捨てることも厭わない僕が言える事ではないのだが・・・その迷いを足掛かりに、最悪の結末を回避しようと言葉を続ける・・・
『八絃為宇・・・天地四方八方の果てに至るまで、この地上に生存する全ての者が、あたかも一軒の家に住むように仲良く暮らすこと・・・それが悠久と受け継がれてきた大切な祈り・・・帝として、人としての君が行うべきことなんだ』
・・・非常事態だ、蛇と人と帝の狭間で揺れる御子に届くならば、詭弁も許してもらいたい・・・ただ、僕が言えるのは、御子にとって翠は、『大事な友達』なのだ・・・それは、つながっている間も常に感じられた紛れも無い事実・・・だからこそ、『人』であるのなら、『情』があるのならば・・・
(僕に蓄積された尊い、その祈りが、御子という人間の心と魂を拠り所として、八岐大蛇様に影響を与え、「情」というモノを与えていたのだとすれば・・・その人の心と魂が無くなれば、必然的に元の荒振神に戻ってしまうのか・・・?)
・・・長いような短いような沈黙の後、御子は、再び、その紅い目をゆっくり開けて答える・・・翠を取り囲んでいた蛇たちが、そこから離れていく・・・
『そうよね・・・わかったわ、翠は、食べない・・・だって、私の、とても、とても大切な存在・・・私の大事な友達だから・・・』
(良かった!、翠を躊躇なく食べるようならば、人の心と魂は亡くなってしまったかと思ったけど、これなら、それを糸口に・・・)
・・・僕が、そう安堵したのは、まだ早計であった・・・何故なら、続けて・・・
『それに翠は、まだ小さな赤ちゃんなのよ?、もっと大きくなってから食べてあげなきゃ!、あぁっ、楽しみだわ!、だから、今は、大人しく待ってるね♪』
御子は、翠をその手にのせたまま、無邪気に満面の笑みを浮かべ、その紅い瞳を星のように輝かせて、溢れ出す喜びで、その場でくるりと回って嬉しそうに言う!?
『結局、食べるんかーーいっ!?、翠以外は、食べちゃう気だろーー!?』
ばしゅん!!!、じゅうぅぅっ!!!
僕から発せられた高圧高熱の光が、対象に照射され、問答無用に見事な穴を創り出す!、煙が立ち上る!
『きゃあっ!?』、びたーーん!、ぽーんっ!、『いたっ!・・・いやんっ!?』
御子が衝撃に驚いて、床に尻餅をついて座り込む!・・・その勢いで、手に乗せていた翠が宙を飛ぶ!・・・御子の白く細い足が剥き出しになってしまったので、恥ずかしくなって隠す?
『びっくりした・・・薙、そんなことも出来るんだ・・・でも、仕方ないじゃない?、大怪我して血が足りなくなって・・・血が無くなった分、身体が軽くなるかと思ったけど、逆にすごく重いし、まだ全身痛いんだからね~?』
まだ、僕の制御が効く段階だったこともあり、御子の足元へ威嚇として力を放出したが・・・御子は、何でそんな事するの!?みたいに、不満そうに蛇と自分の頬を膨らませて・・・
『よいしょっと・・・』・・・ひゅ~ん・・・ぽよょ~ん・・・
御子が、体勢に直したところに翠が落ちてきて・・・うまい具合に、その頭に翠が着地して・・・座ったまま姿勢で言葉を続ける・・・
『前に魂を失った分も合わせて、私は、とーってもお腹が空いてるのよ?、魂が足りないの!、血が足りないの!、何でもいいから、食べ物じゃんじゃん持って来てほしいのに・・・うぅっ・・・どうしても、だめなの?』
翠を頭の上にちょこんっと乗せて、両方の拳を握って、あごに当てて上目使いに、その大きな瞳をうるるるさせて・・・とても可愛いけど、それとこれとは別だ!
『人を食べたことで、悪として退治された事を忘れてしまったのかい!?・・・それに君は、僕に告げた!・・・我が身が魔ならば、破邪の神剣として我が身を滅せよ!、と・・・僕が果たす約束を悲しい別れにしないでくれ!』
ぎゅぃぃーーん!!!
僕の悲観的な思考によって、抑えていた破邪の権能が、再び、けたたましい音を立てる!!!
『ごめんね、薙・・・でも、我慢できないの、切ないの、苦しいの・・・昔、私と一緒に厳しい空腹に耐えてくれた貴方なら、わかってくれると思ったのに・・・』
御子が、自分の身体を自らの手で抱きしめる・・・蛇の激しい飢えに耐えるかのように・・・その苦し気な表情と声音は、僕の気持ちを揺らがせるが・・・
ぞわ…ぞわ…
そんな御子の意志とは別に、黒い蛇たちは僕を見据えて、その鎌首を持ち上げて来る・・・生玉が、恐怖で動けなくなるのも頷ける・・・その凄まじい圧は、あの海の民の始祖より何倍も強い!
(陽が、陰に転化しつつあるのか!?、展開された神域の中で、これほどの力とは・・・本来の八頭では、どこまで強力だったのか・・・だけど、本当に危険なのは、その力じゃ・・・くっ、駄目だ!、戦う事を前提に考えてしまっている!?)
・・・恐らく、蛇の敵意に反応した、僕の微かな戦意を嗅ぎ取ったのだろう・・・
『・・・破邪の神剣、草薙の剣・・・どうしても、私の邪魔をするのね?』
がらりと声音を変えて、御子が、ゆっくりとその身を起こす・・・
ぞわ…ぞわ…ぞわ…ぞわ…ぞわ…ぞわ…
・・・ますます、その圧が強くなっていくのを感じる!
『次は、威嚇じゃ済まない・・・痛いのは嫌だろう?、怖いだろう?・・・きっと食べちゃたら後悔する、人に戻れなくなる・・・いい子だから、やめるんだ・・・元の優しい御子に戻ってくれ!、これが、本当の最終確認だ!』
ちゃきり・・・きぃぃーん!
微かな気配にすら敏感に感知する蛇に、本気ではない勧告など無意味だ・・・御子の足元に向いていた剣先を再び、その心臓の高さに合わせる・・・力が、早く解放しろ!、早く魔を倒せ!、と煩い!
『そう・・・残念ね・・・でも、知ってるでしょう?・・・蛇は、執念深い生き物なのよ?・・・あの焦げ付いてしまった、赤黒い怒りと同じように・・・』
御子と多頭の蛇の視線が、僕から逸れ、始祖の方を凝視している?・・・今の生玉の伝達の権能を奪われた状態では、何が起きているか、わからない・・・よそ見を許してくれるほど、優しい相手ではない・・・その圧を無視することなど出来はしない・・・
・・・ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん・・・
だが、次の瞬間、一斉に六匹の蛇が、水中へ沈むように御子の影に戻って行く!?
『・・・私は、決めたことは必ずやり遂げる・・・でも、この人の身体は、あまりにも非力で弱くて、傷付きやすくて重くて・・・とても都合が悪いから・・・』
御子が、再び、その紅い目を閉じ、両手を握り、まるで祈りを捧げるように・・・
独り残った御子からは、先ほどまでの強大な圧が、冗談であったかのように消えている。
・・・だが、諦めたのでは無いと、わかっている・・・何をするつもりなんだ?・・・一層の警戒のため、僕が身を硬くする。
御子は、自分自身に言い聞かせる様な響きの言葉に続いて・・・
『・・・だから、今、私は・・・力を欲する!!!』
そう強く告げると同時に、その紅い瞳を大きく見開く!!!
ぶおぉぅぅぅっ!!!
溜め込んでいたであろう圧が、急激に解放され、周辺の空間が黒く歪む!!!
その異常な力場は、神域の理を超え、その小さな身体を浮き上がらせる!!!
『・・・だから、今、私は・・・』
僕の返答として、御子は、その両腕を大きく広げる!!!
ごおぉぅぅぅっ!!!
御子の影が、世界を侵食するかの如く広がっていく!!!
『・・・人間をやめるわ!!!』
その影から、突然、二匹の蛇が飛び出し、御子の両足に巻き付いていく!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『御子!?、何をするつもりだっ!?』
全てを飲み込むかのような影が、僕の真下に届くほど広がっていく!?
ずばっ!!・・・ぎゅりゅりゅん!!
そして、その影から突然、二匹の蛇が飛び出し、御子の両足に巻き付いていく!
しゃりーん!、しゃりーん!
巻き付いた蛇たちが、その姿を黒光りする『蛇の麟の衣装』に変えていく!
『蛇たちがっ!?、蛇の陰の気がっ!?』
ずばっ!!・・・ぎゅりゅりゅん!!
続けて、またも影から二匹が飛び出し、今度は、両腕に纏わり付いていく!
しゃりーん!、しゃりーん!
今度も、その姿が、漆黒の『蛇の麟の衣装』に変化していく!!
『そうか、それで始祖を凝視していたのかっ!?』
ずばっ!!!・・・ぎゅりゅりゅんりゅん!!!
ひと際、大きな音を立てて、あの紅い瞳を持った蛇が影から現れ、御子の身体に絡み付いていく!
・・・八岐大蛇様の真の恐ろしさは、その力強さだけではない・・・『蛇としての優れた特性』と、『流転する水の神』として様々な状況に適応する、その『根源』にあるのだ!!!
『蛇の魂を、その身に纏う事で、人を捨てるつもりなのか、御子!?』
生玉を取り込んだ事で、その権能を応用し、凌駕する力を発揮しようとしていた!!!
『・・・うぅっんん・・・うぁあぁんん・・・あぁぁんっ・・・』
蛇が身体に巻き付いていくと、その締め付けが苦しいのか、御子が声を上げる・・・ちょっと、嬌声ぽいぞ?、危ない快感を覚えている!?・・・えっちなのはいけないと思います!?
そして、絡みついた部分から順に闇色の蛇麟に変わっていき・・・蛇が御子の頭上まで登ると、その頭を一飲みするかの如く、その咢を大きく開けて!?
『あっ、ちょっと待って!・・・そのままだと、翠を食べちゃうから移動させないと・・・よいっしょっと・・・』
・・・変身の途中だったけど中断して、御子が、頭の上にいた翠を手に持つ!?
(・・・確かに、あのままだったら翠を飲み込んでいただろうけど・・・・)
・・・蛇も仕方ないなぁ~という感じで律儀に待っている!?
『・・・ええっと、どうしよう?・・・ごめん、薙、翠持っててくれる?』
・・・何を思ったのか、相対するはずの僕に翠を渡してくる!?
蛇ミコ<ついに鬼道少女に変身する時が来ましたよ!、みんなの力をひとつに!
薙<うわわっ!?、えっちなのはいけないと思うぞ!?・・・思わず、ずーっと見ちゃったけど(赤面?)
クー<変身中は手出し無用が、お約束ですからなぁ(?)
@<変身中に自分で中断して、敵(?)にモノ渡す稀有なシュチュエーション!、恐らく世界初!?(マテ)
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
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