第1話 『新しい海の民と竜王』㉒燃えるお姉さん!?
ミコ<大魔神様、じゃなかった、御霊様、怒りをお鎮め下さい!
薙<だから、触らぬ神にって言ったじゃないか!?
娘ちゃん<たすけるのおそい~、おかあさ~ん、おねえちゃ~ん
クー<クーは!?、クーは、お呼びじゃない!?
・・・『・・・おかぁ・・・さん・・・』・・・
水色の神域の中で拘束され、前よりも自由が奪われているはずなのに・・・「黒い穢れ」に身を染められた娘さんが、必死に手を伸ばして、そう呼ぶのです・・・
「白い孤独」に捕らえられているはずなのに・・・声を絞り出して、『母を慕う娘の切なる想い』は、それらを凌駕するのです・・・
その想いが向けられた先には、「赤黒い怒り」の衣装を身に纏い、瞳の色を「海の青色」に変えた、お姉さんが立っています。
『・・・やはり・・・お前なんじゃなイカ?・・・どうして、そんなに怒っておるんじゃ・・・』
そして、審神者のクーは、その姿の中に亡くした番の存在を見出します。
『これが、目的の御霊だって?・・・おかしい、それにしては霊圧が大き過ぎる・・・この大きさは、まるで・・・』
・・・薙が、訝しむ声を上げる中・・・お姉さんは、自分が鏡を持っていることに気付いて、その鏡を覗き込みます・・・娘さんの必死で伸ばされた手と、絞り出された声には、まったく反応せずに・・・
『なっ!?・・・この娘を見て、何も感じんのか!?、大事な娘のことを忘れてしもうたのかっ!?、今、大変な時なんじゃ!、お前の助けが必要なんじゃ!』
そのまったく関心がない様子に、クーも声を上げます!・・・しかし、鏡を見る動作を中断することはなく・・・娘さんにも、クーにも興味が無いかのようです。
・・・私は、娘さんの感覚の鋭さを、クーと妻との愛情を、描かれた瞳の青さを知っています・・・ならば、お姉さんに憑依した魂は、『お母さん』に間違いないのでしょう・・・ですが、この違和感は・・・
・・・かっつん!・・・
・・・お姉さんの手に握られていた鏡が、硬質な音を立て、床に転がります・・・そして、青く虚ろな瞳で、その手で自分の体を確認していきます・・・まるで、生まれて初めて自分の姿を見て、感じるのように・・・
『そうか!、負の感情を抱く荒魂に魂が取り込まれてしまったのか!?・・・だから、なかなか見つけられず、判断に迷った・・・そうだろう、クー?』
その違和感が何か、薙が、別の観点からクーに問います。
『なるほど、正しくその通りで!、妻の姿がぼやけて、はっきり見えないのですじゃ!・・・確かに、生まれ持った障害を恨んだり、健康な者への憤りもあったと思うが・・・妻は、それを前向きに受け入れておった・・・というか、おかげでクーと結婚できたぁ♪、と変に喜ぶような性格でしたからな・・・』
薙の言葉を肯定するように、クーが答えます。
『こんなに怒るはずはないと思っておったんじゃ!、命と引き換えに残してくれた大事な娘のことも気にかけず・・・どこの誰かは知らぬが、不届き千万!、不埒な悪行三昧!、今すぐ、妻と長男の嫁を返すんじゃっ!』
そして、クーが語彙を荒く、相手に言い寄よろうとすると・・・初めてクーに気付いた、お姉さんが青い瞳で一瞥し・・・
しゅるんっ・・・ごおぉうっ!!!
「赤黒い怒り」の衣装の一部が変化して、お姉さんの一対の拳を包み込み、赤黒い炎を宿します!
『むぅっ!?、長男の嫁の拳が、真っ赤に燃える!?』
体格で比べれば、クーの方がはるかに大きく有利ですが、流石に燃えている拳に真っ向から向かうわけにはいかず、踏み止まります。
『薙!、お姉さんの体に影響は!?、あれに殴られたら、どうなるの!?』
本当の炎じゃないだろうけど、お姉さん大丈夫でしょうか、熱くないでしょうか!?、また、それに触れたらどうなるか尋ねます!
『今、お姉さんと憑依した荒魂は、肉体と精神が繋がっている状態だ・・・自分の身体を傷付けるような歪んだ精神は無いと思いたいけど・・・あの炎を受ければ、肉体の負傷以上に魂への損傷が起こるはず・・・最悪、肉体は無事でも、魂だけが崩壊することも考えられる・・・僕ならば問題なく攻撃は受け止められると思うし、火傷程度なら、すぐに生玉の力で治せるけど・・・』
お姉さんの体を傷付ければ、憑依した魂にも痛みが反映されてしまうから、今のところ、火傷することは無いと?、ですが、魂が崩壊するとは!?・・・想像以上に恐ろしい答えが返ってきました・・・今のところ無差別に、お姉さんの体を傷付けるようなことや、問答無用に殴りかかってくる訳ではなさそうですが・・・
『このままでは、強い怒りに引き込まれて、目的の魂とお姉さんも分離させることが出来ない・・・主導権は、相手が握っているんだ・・・』
とりあえず、お姉さん(の体)と殴り合うわけにも、相手とお母さんの魂を傷付けるわけにいきませんので・・・相手の動きを警戒しながら・・・
かちゃり・・・
『悲しいけど全て断ち切ってしまうか、何とかして怒りを鎮めるか、あっ!?、こらっ!、危な・・・』
こちらに戦う意思は無いことを示すために、薙を床に置きます・・・私の手から離れたので、ちょっと薙の声が小さくなりますが・・・完全に繋がりが、切れたわけではないと感じます。
私の身を案じる薙には申し訳ないけど、話をするのに武器は必要ないから・・・それに何かあれば、すぐに助けてくれると信じていますから!
『海の民の先達よ、どうか、怒りの矛先を降ろし、その憤りの理由を教えて頂けませんか?・・・同族である海の民を大事に思われるならば、争うことは本意ではないはず・・・』
言葉は通じているようですから、何とか穏便にと思い、声をかけます・・・
『全ての元凶であるニンゲンが、我に怒りを鎮めよと、海の民を大事にと語るのか!?・・・いつまで、偽りの創造主を気取るのかっ!?』
ぼおぉうっ!!!
『火に油っ!?、御子様を倒せと、轟き叫ぶ!?』
残念なことに先ほど同様、お姉さんのもう一対の拳が、赤黒い炎を宿してしまいます!、それほど、気に障る一言だったのでしょうか!?・・・海の民の御霊ならば、仲間を大事に思っておられると考えたのですが・・・その燃え盛る拳を私に向けて・・・
『我の怒りは、ニンゲンによって歪められた、全てのモノの怒りである・・・我の憤りは、ニンゲンによって虐げられた、全てのモノの憤りである・・・』
・・・普段の優しいのお姉さんとは全然、違う者の声が、その口を借りて重々しく語り始めます・・・
『旧世界に生きていた、全ての生き物を計画という名の下に集め・・・劣悪な環境の檻に閉じ込め・・・実験という名の元に、数え切れぬほどの命を奪ったニンゲンを許しはせぬ・・・』
・・・激しい口調ではありませんが、「旧世界」、「計画」、「実験」?、まったく身に覚えがない言葉ばかりで戸惑いますが・・・しかし、その奥に溜め込んだ感情は、本当に肌が焼けるような、じりじりとした怒りの熱を感じます!
『肉体という枷と精神の楔から解放された今・・・その存在を蔑ろにされて死んだ全てのモノたちの久遠の恨み・・・それら全ての無念を一身に抱き、復讐するは、第一世代の我にありぃぃぃ!!!』
ごおぉぉぉうっ!!!
宣言に呼応して、お姉さんのもう一対の拳が、続けて赤黒い炎を宿しますが、その炎の勢いは轟轟と強く、他の炎もそれに合わせるかのように大きくなります!!
『・・・・・・・・、・・・・・・・』
もはや「敵意」という言葉では生ぬるい、正に「殺意」と呼ぶべき激しい感情です!、その「殺意」に気圧されて、一歩下がってしまった私の足元の薙が、そう言います!
『・・・でも・・・それは駄目!、私は・・・』
・・・恐怖のため、一瞬、逡巡しますが・・・
『お待ちくだされ!・・・第一世代と言われましたか!?、クーは第二世代という名を受け継ぎましたぞ!?・・・では、あなたは・・・貴方様は!?』
迷う私の前に大きな影が現れます!・・・クーが、相手と私の間に入り、続けて問います!、その声には、この相手が何者なのか心当たりがあるようで、先ほどの語彙の荒さはありません!
『・・・我は、ニンゲンによって造り出された、マナに適応する能力を持つ、第一世代型の頭足類・・・故郷である青い海から引き離された、呪われた種にて、愚直な道具・・・』
虚ろであった青い瞳が初めて、強い感情の光を灯します!
『我は、「海の民の始祖」である!!!』
その青い瞳が、音も無く「赤黒い炎」を噴き上げるのです!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『海の民の始祖様!?・・・では、海の民の神様!?・・・だから、これほど強い力をお持ちになっていて、薙が三倍とか言っていたのですね・・・』
名乗られた相手は、「海の民の始祖」様・・・亡くなった方の魂は、崇め奉られ、いつしか一族を護る神となり・・・また神への信仰は、年月を経ることで大きな力のある存在になると聞いています。
・・・海の民は、ヒトガミ様と呼ばれる人間によって創り出された・・・それを実際に知る者の口から放たれた言葉と感情からは、偽りのない事実が感じられます・・・そして、その憤りの理由を知ることが出来ましたが・・・
『・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・』
・・・その為に、人が多くの命を犠牲にしているなら・・・人が命を弄んだならば、その怒りは、私も当然のことと思いますが・・・青かった瞳が、「赤黒い炎」を噴き上げ、元の色が見えません!、このままでは、お母さんとお姉さんの魂が、その怒りに完全に取り込まれてしまいます!
ぞわ…ぞわ…
『!?、だめ、だめっ!・・・みんな出て来ちゃ駄目!・・・うぅっ・・・』
そんな私の焦りと不安、そして、私に向けられた激しい「殺意」に反応したのか、私の影から「みんな」が出てこようとしているのがわかります!・・・出てきたら最後、抑えられず、ばらばらにしてしまう感覚があります!・・・出てこないように必死に抑えますが、このまま「殺気」を向けられていたら・・・
『ですが、始祖様!、こちらの御子様は、クーの命を救って下された素晴らしい方!、今もクーの娘を、同胞たちを助けようとされておられるのですぞ!?、感謝こそすれ、恨むのは筋違いですじゃ!、恨むのならば、非道を行った、そのニンゲンを怒るべきでありますぞ!』
クーが、始祖様の怒りの炎から私を擁護しようと必死に訴えます!・・・大司祭の立場であるならば、始祖とは神として敬うべき存在なのに・・・
『・・・ありがとう、クー・・・ふぅ・・・』
だけど、そんな相手に異を唱えてくれるなんて・・・「殺気」の多くが、クーに向けられることを感じます・・・あのままでは、私までその炎が燃え移り、飲み込まれてしまうところでした・・・黄泉の水の影響が、まだ残っているのでしょうか?・・・クーに感謝を伝え、心を落ち着かせようとします・・・
『大司祭などという道化を演じるモノが、このニンゲン同様、我の怒りを否定するかっ!?・・・同族という縛りを強制したニンゲンを庇うと言うのかっ!?』
ごぅおぉおう!!!
ですが、割って入る反論や弁明は逆効果のようで、ついに始祖様が、その燃える拳を振り上げ、私の前に立つクーに殴りかかるのです!!!
がっしっ!!!
『ぬうぉっ!?・・・ぐぐぬぬっ、何という力じゃっ!?、熱々なのは、新婚だけで十分じゃぞ!?』
上手く燃える拳に触らぬよう、その腕を捕らえることが出来ましたが、体格で勝るはずのクーが徐々に押されていきます!
今にも、その炎にクーが焼かれてしまいそうです!!!
『ならば、その肉体を焼き尽くし、我が怒れる魂の同胞に加えてみせようぞっ!』
更に始祖様は、残りの燃える拳を振り上げ、赤黒い炎がクーに迫ります!、腕一本抑えるのも大変なのに!?・・・魂が崩壊したら、もうクーを助けられない!?
一旦、落ち着いたはずの私の心が、大きく揺れて・・・
『・・・・・・・・、・・・・・・・』
危機的状況に、薙が叫びます!
(でも、薙を使ったら、お姉さんもお母さんも始祖様も一刀両断してしまうのでしょ!?、そんなことしたら、娘さんはもう助けられない!!!)
・・・怒りを鎮められないのなら、その怒りを受けるのはっ!?
だっ!!! 『クー!!!』
『・・・・・』
ぶぅん!!!・・ばぁあんっ!!!・・・どんっ!!!・・・ずるり・・・べちゃっ・・・
『・・・なっ!?、御子さまぁっ!?』
・・・その時のことは、あまり覚えていません・・・
・・・激しい衝撃の後に、真っ赤に染まった視界からは・・・
・・・自分が床に倒れていることを感じ・・・
・・・暖かくて、懐かしい薙の匂いが広がっていきます・・・
(クーがころされるのは・・・いや・・・わたしがみんなを・・・ころすのも・・・いや・・・むすめさんが・・・たすけられない・・・のも、いや・・・いや・・・いや・・・でも、どうしたら・・・どうしたら・・・どうしたら・・・)
ぞわ…ぞわ…
・・・暗くなっていく意識の中、ただ、嫌なのだと繰り返すのです・・・どうしたらいいのか、わからないと迷い、戸惑い・・・こんな時、昔の私なら・・・どうしていたのか・・・
ぞわ…ぞわ…
(『迷うなら、この上なく明確な解を与えよう・・・お前は、何者だ?』)
・・・漏れ出す「わたし」を感じながら、あの『声』が聞こえたのです・・・その『声』を聞かなくなって、まだ一日も経っていないのに・・・でも、確かに聞こえたのです・・・すごく懐かしくて・・・そして、恋しくて・・・
ぞわ…ぞわ…
・・・あぁ、確かに・・・あの方に、「わたし」は、こう答えたはず・・・出てきた「わたし」の六つの頭・・・そして、邪魔な人間の頭も仕方なく持ち上げて、名を告げましょうか・・・
『・・・わたしは、蛇です・・・』
・・・名乗ったならば、行動に移しましょう・・・わたしは、蛇は、どうしたらいいか、わからないものは・・・昔と同じように・・・
・・・『・・・食べてしまいましょう・・・』、と・・・
@<赤黒い玉の正体は、お母さんの魂を取り込んだ海の民の始祖でした~正解者には・・・座布団1枚?(どケチ)
ナナシ<久々の出番は、この一言だけか・・・まあ、良い・・・
ミコ<お疲れ様でした、ナナシ様!・・・って、私、みんなを!?
クー<バットエンドへのフラグが立った!?
お姉さん<次回、ほにゃらら死す!?、デュエルスタンバイ!?
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
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