第1話 『新しい海の民と竜王』⑳赤黒く光る、羅睺(らごう)星
クー<通常の三倍で赤いと言えば、知っとるよ!アレじゃろアレ!・・・えぇっと、赤いスイ・・・トピー?
?<それは曲の名で、違うんじゃないかな?・・・3ということから、シャ〇ンスパーク?
@<赤いから、V-M〇Xレッドパワー(添加剤入り)をイメージしております!
・・・どぉんっ!!!・・・ぐらぁっ!!!
『うわっ!?』『きゃあっ!?』『ぬあっ!?』
凄まじい速さで飛翔する「赤黒い色の光の玉」が、激しい音を立てて水色の領域に激突し、中にいる私たちは海に漂う小舟のように揺さぶられます!!!
『水の比和の領域を揺るがすとは、なんて威力なんだ!?・・・こんな存在を気付けなかったなんて!?・・・いや、こちらの集中が乱れていたからか!・・・くっ、速すぎて捕捉できない!・・・また、ぶつかってくるはずだ!、皆、激突の衝撃で投げ出されないように!』
ぶつかってきた「赤黒い色の光の玉」は、一旦、距離を取るようで海藻の大樹の陰に隠れ、姿が見えなくなり・・・薙の緊迫した声が響きます!、余裕がなくなるほどの危険な相手だと警戒しますが・・・
『ごめん!、薙!、私が余計なことを考えちゃったからっ!・・・くぅっ!』
集中が乱れた原因は、間違いなく祭司である私でしょう!?・・・色恋など考えている場合ではなかったのに・・・悔やんでも、なってしまったことは仕方ないですが・・・あぁっ、水でもかぶって反省したぃっ!
ぴきっ、ぴきっ!・・・ぱりんっ!、ぶっしゃーーー!!!
『ぴゃあぁぁん!?』『穴が、水が!?』『パリンっと割れる領域じゃあ!?』
そんなことを考えたせいか、水が私の顔めがけて浴びせかけられますぅ~!?、願いどおりですけど、びっちゃびちゃですうぅ!?
もしや、祭司である私の影響って、想像以上に大きいのではないですかっ!?
『いけない!、さっきの衝撃で領域に綻びが!?・・・まずいことになった、このままだと・・・御子が、溺れ死ぬ!?』
・・・私が願ったからではないみたい?・・・先ほどの衝突の影響で、領域の壁に亀裂が入り、そこから外の海水(?)が中に入ってきたようです!・・・ちょうど私の目の前が破損するとは、なぜに?・・・だが、しかし、薙の恐ろしい予告を裏付けるように、侵入してくる水が私たちの足元をどんどん濡らしていきます!
『たかが水、クーが押し返してやる!・・・いや、押さえてやるじゃなイカ!』
そこへすかさず、クーが、その破損した部分を自分の体を使って防いでくれます!・・・良かった、入ってくる水の量が格段に減りました!・・・が、完全に塞ぐことは出来ず、ちょろちょろと水が滴っています・・・
『私も調子に乗って失礼を・・・御子様、薙様、申し訳ありません!・・・私にも何か、お手伝いできませんか!?』
お姉さんも、この事態を招いた責任を感じて、私と薙に謝罪します・・・いえ、流された私が悪いんです・・・謝罪するのは、私の方・・・しょぼん・・・
『・・・相手が幽世の存在である以上、幽世の中では強い力を発揮する・・・強い負の魂は、他の御霊にも影響を与え、最悪、取り込んで、ますます力を強めてしまう・・・かと言って、僕たちが幽世に出て、対峙するわけにはいかない・・・ならば、相手をこちらの領域・・・顕世の神域に誘い込み、力を弱めて祓うしかない』
この窮地を打開すべく、薙が冷静に状況を判断しています・・・
『どっちみち、領域が綻んでいるから、張り直す必要がある・・・相手が領域にぶつかる瞬間に今の領域を解除して、もう一度、強化した領域を一瞬で縮小展開して、相手を領域内に捕らえる・・・これなら、相手の弱体化と、侵入してくる黄泉の水を最小限に抑えることができるはずだ・・・』
・・・む、むずかしぃ・・・えぇっと、先に領域を二重に張ることはできないということ?・・・薙を信頼して任せたら良いのでしょうか?・・・役立たずの主で、ごめんなさい!・・・うぅっ、水に濡れているせいか、なぜか余計に悲しい気分が・・・だめだめっ!
『問題は、その瞬間を合わせることだ・・・遅すぎれば、水によって僕たちは幽世に侵食され、早すぎれば、相手を領域内に封じることが出来ず、結果、対処できなくなり詰みだ・・・そのためには相手が来る方向、瞬間がわからないといけない・・・あと、領域に侵入した際の相手の勢いをどうするかは・・・お姉さん、鏡を持っているね?』
『はい!、ちゃんとこちらにありますわ!・・・黒い玉の時のように相手を照らすのですか?』
薙の声に、お姉さんが要領よく反応されます!・・・確かに黒い玉の中で、鏡が偽物のお母さんの正体を暴いてくれましたね!
『うん、鏡は正邪を区別し、邪を照らし弱める・・・お姉さんは、鏡を相手に向けるだけでいい、それで相手の勢いは殺せるはずだ!』
薙の適切な指示により、お姉さんの役割は決まりました!
『クーは、相手が近づいて来たら、娘の近くまで下がって・・・その間、また水が入り込むけど許容範囲内だ・・・むしろ、早く下がらないと体が大きいから再展開する領域に切断されるよ』
・・・クーの役割は下がるだけですが・・・ごめんなさい、クー・・・
『ギョギョっ!?、輪切りは、流石に勘弁願いたいのう・・・下がれば良いのですな、了解しましたぞ!』
・・・一瞬ですが、輪切りのクーを想像してしまい、それがおいしそうに思えてしまった、私を許して下さい・・・思えば、今まで飲まず食わずでした・・・水だ!水だ!水もってこーい!・・・などと、皆、同じ状況なのに私だけ不平不満を口に出すわけにはまいりません!
あっ、さっき被った水が、私の前髪から垂れてます・・・不潔なことですが、何だか・・・海水だから、しょっぱいのでしょうか?・・・よい子は、まねしてはいけませんよ?・・・ぺろり・・・うん?、甘い?、不思議な味ですね?・・・もっと欲しくなるような・・・
『で、君の役割は・・・って舐めてる場合かぁーーーい!!!、そ、それは・・・その行為は・・・黄泉戸喫だぞぉ!!!』
『『『な、なんだってー!?』』』
続いて、私の役割を告げようとしていた薙から出た『衝撃の一言』は、他の三人、揃って瞠目させながら、ひどく驚いた『声』を上げさせてしまいます!!!
『あわわっ!?、なんということでしょう!?・・・って、知っているのですか、クーとお姉さん!?』
動揺しながらも、海の民にも何か言い伝えがあるのかと、ふたりに聞いてみます!、打開策につながるような話が聞ければっ!?
『いえ、御子様の感覚に引っ張られたみたいで?』
『クーもですな・・・よもつへぐい、とは?』
・・・がくっ・・・ふたりとも小首を傾げます・・・うぅう~、私、みんなの邪魔ばかりしてます・・・せめてもの償いに、説明でもさせていただきます・・・
『黄泉戸喫とは、あの世で料理されたご飯を、死者たちと同じように口にするという意味です・・・これをしてしまうと、死者と同化して、よぽどのことがない限り、幽世からは抜け出すことはできない存在になってしまうのです・・・』
伝え聞くところによるならば、おそらく、ナナシ様の親神様にも関係する話でしょうが・・・もしかすると、暗い気分になったのも、もっと水が欲しくなるのも、黄泉の水の影響がっ!?・・・あぁーっ、私の阿呆ですっ!、思慮が至りませんでした!、好奇心、蛇を殺すです!、厄介者ですぅ~!!!
『そんなっ!?』『何とかならなイカっ!?』『本当の厄介者になったね』
私の説明を聞いたふたりが慌てふためく中・・・薙の言葉が、ぐさりっと胸に刺さり、背中まで突き抜けそうです!、反論の余地も、取り付く島もありません・・・
『これで相手は間違いなく、御子めがけて飛んでくるだろう・・・一直線に・・・これで、相手が来る方向を絞れる・・・文字通り、厄を助ける者だね、君は?』
・・・続けて伝えられた薙の言葉・・・その意味するところ・・・まさか!?
『・・・それって私が囮となって、相手を誘導できるってことですよね!?、私、役に立つんですよねっ!?、立てるんですよね!?、やります!やります!、やり遂げてみせます!、やらせて下さい!』
空いてる左手を上に伸ばして、ぴょいぴょい跳ねて、主張しますよ!、名誉回復です!!、汚名返上です!!!
『今の君は、黄泉戸喫の影響により、死者に見つかりやすい状態になった・・・でも、しっかりした固形物を摂取した訳じゃないし、飲み込んだ量も少ないから、完全に幽世の存在になったわけじゃない・・・』
薙が、今の私の状態について説明してくれます!
『それでも、死者にとって十分な目印になっている・・・生きる者は、闇夜を照らす灯なんだ・・・それは、逆に君からも相手を・・・・寄ってくるよ!』
説明の途中で、私は何かの気配を感じます!・・・赤黒い・・・その来る方向と速さが・・・これは、怒り?・・・つながっている薙にも、それが伝わったようです!、説明を中断して、警戒の声を上げます!
『薙!、私の感覚をクーと、お姉さんにも共有できる!?』
勝負は一瞬です!、少しのずれが、皆の命に関わっているのです!、そのためには、皆の動きを合わせねばなりません!・・・祭司である私の影響を、ふたりが受けるのならばっ!!!
『わかった!、共感覚開始!・・・ふたりとも難しいと思うけど、力み過ぎないで心を開いて!、後は、この僕が調律するから!』
『わかりましたわ!』『了解ですじゃ!』
直ぐに私の指示を理解して、薙が支えてくれます!、緊迫した状況ですが、ふたりも怖がらずに受け入れてくれます!
『・・・見えるっ!!!』
私の感覚は、通常なら大樹の陰に隠れて見えぬはずの「赤黒い光の玉」を捉えています!
例え、見えていたとしても反応できないほどの勢いで飛翔する「赤黒い光の玉」の動きを捉えています!
中断された薙の説明ですが、おそらく、相手が私を「見る」ことができるなら、私も相手を「見る」ことができるのでしょう!
・・・ちらりと後ろにいる、黒いままの娘さんの様子を伺います・・・私たちの背には守るべきものがあるのです!、この危機を乗り越えねば、母と娘の再会は叶わぬでしょう!
『千載一遇きたりて好機!、この機会を逃すものですかっ!』
・・・以前は、むずむずすることがあった額の奥が、今は、ぴりぴりとします!、また感じる力が強くなっているようです!
両手で薙を構え、その時を待ちます!
そして、再度、私たちと「赤黒い光の玉」が相対する時が来たのです!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・きらんっ!
(それは、一瞬の煌く閃光・・・)
『・・・今だっ!!!』
薙の号令の元、三人がそれぞれの動きを見せます!
『転身だ~!、魚、魚、魚・・・いや、転進じゃ~!』
クーが、破損していた部分から離れ、娘さんのところまで下がってきます!
ばきんっ!・・・どばぁっ!!!
急に押さえがなくなった影響で、領域の壁が更に破損し、先ほどよりも勢いよく水が浸入していきます!
『領域解除!・・・』
私たちを守っていた水色の領域が一瞬で消えて、そそり立っていた巨大な水壁が崩れ、頭上より四方八方から押し寄せてきます!
まさに、私たちを黄泉の世界へ押し流そうと誘う、逃げ場のない津波です!
(それは、瞬きすれば、見逃す流星・・・)
瞬間、その津波を突き破って、「赤黒い光の玉」が、薙の予想通り、真っすぐ私の元に向かってくることが「見え」ます!
『・・・瞬時、領域縮小再展開!!・・・』
新たな領域が展開されると同時に、既に私の眼前には、「赤黒い光の玉」が迫ってきています!!
・・・突然、目の前に現れたモノを瞬時に対応することは出来ない・・・本能的な恐怖で足が竦み、縛られてしまうから・・・
(それは、待ち構えていても、反応できぬ刹那の存在・・・ですがっ!)
「見る」とは、即ち「認識」すること!・・・その存在を認め、識ったのならば、もはや距離も空間も、そして、時間さえも関係ないのです!
『及び、連動発動!!!』『お姉さん、今です!!!』
極限の集中の状態で、私の目は、飛び散る水の一滴の雫さえ、止まって鮮明に捉えているのですっ!!!
『はい!、鏡よ!、照らし給え!・・・テクマクマヤコン?』
きらんっ!!!・・・かあぁぁぁっ!!!
私が瞬時に、その場から飛び去ると、入れ替わりに後方からの眩い光が「赤黒い光の玉」を照らし出します!
お姉さんが持つ鏡から発せられた強い光が、その動きを、その勢いを完全に止めてくれるのです!
どばぁぁぁ!!!
一呼吸する間もなく、私たちの頭上から激しい濁流の音が生じます!
しかし、再展開した半円状の領域は、水壁から生じた津波を完全に遮断し、中にいる私たちを完璧に守っているのです!
ぐぐぐぐっ・・・
そして、領域内に封じられた「赤黒い光の玉」は、必死にもがこうとしていますが、空中に浮いたまま、止まっています!
・・・めまぐるしい、一瞬の「動』の反動で、皆、逆に「静」の沈黙の状態で固まって、喋ることができません・・・
『・・・流石に、今回ばかりは、冷や汗ものだよ・・・僕は、剣だけどね?・・・みんな大丈夫!、成功だよ!』
・・・その沈黙を破って、薙が喜びの『声』を上げます!
『・・・やったっ!』『・・・やりましたわ!』『・・・やったのう!』
ぴょん!ぴょん!ぴょん!
その成功の実感が、少し遅れて伝わってきて・・・・私たち三人、互いに手を取り、喜び、飛び跳ねます!
ほんの少しでも、ずれていれば、濁流に流され、領域で輪切りにされ、どんな霊障を受けていたのか・・・珍しく薙が、冗談を言うほどなので、薙自身もすごく緊張していたんでしょうね?、ふふふっ♪・・・こうして皆で喜ぶことなど出来なかったでしょう!!!
『・・・あれ?、入ってきたはずの水がない・・・床も濡れてない?』
ひとしきり、喜び、飛び跳ねた後、少なからず領域内に入ってきたと思われる水が、まったくないことに気付きました・・・跳ねても、びちゃびちゃ音がしませんでしたから・・・
『幽世の影響を弱める、強化した領域の力で黄泉の水が消滅したのさ・・・逆に、この神域で、その存在を保てるとは、よほどの無念があるのか・・・何にしろ、邪魔な存在だから消さないと、目的の御霊を招くことが出来ない・・・さくっと祓ってしまおう!』
薙の言葉に反応したのか、「赤黒い光の玉」は、抵抗するようにぶるぶると身動ぎしますが、縫い付けられたかのように、空中で固まっています。
・・・おそらく、神剣である『草薙の剣』を振り下ろせば、草を薙ぐように跡形も無く、その存在を消すことができるでしょう・・・先ほどの水のように・・・あの時の娘さんのように・・・
集中して見つめてみると、クーの言っていた通り、ぼんやりと生前と思われる、海の民の姿が浮かび上がってきます・・・物の怪などの怪異ではないようです・・・ただ、じりじりと肌が焼け付くような「怒り」を感じるのです。
・・・かと言って、このまま放っておけば、また動き出して、私たちの障害となるかもしれません・・・既に、どれだけの時間が過ぎ、外がどうなっているのか、わかりません・・・悪いことをしたら、罰せられなければならない道理も・・・それは理解しています・・・
・・・でも・・・
『なぜ、怒っているのか・・・どんな無念を抱えているのか、聞いてみてはいけませんか?』
・・・私は、そう薙に乞うのです。
ミコ<(ティキーン!)見えるっ!・・・完全に鬼道少女として覚醒しちゃいましたかね~?ふっふっふふ(自慢げ)
お姉さん<良い子のみんなは、黄泉戸喫しちゃダメですよ~、お姉さんとの約束ですよ~♪
薙<焼けた鉄を飲み込むのも駄目だぞ~
ミコ<んがっぐっぐ
?<窒息の危険性もあるから、喉に詰まりやすい物には注意するんだよ~
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
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