第1話 『新しい海の民と竜王』⑱『バツイチ』って何ですか?
@<やっとタイトルの一部『バツイチ』を回収できる時が来た!
ミコ<そうなると題名通り、私、『バツイチ鬼道少女』になってしまう流れですか!?
@<今頃、気付いたんかい!?、運命は変えられないのだー!(非情)
・・・いつの間にか、私たちのいる水色の領域の外を橙色や白色、青色の光の玉が浮かんで取り巻いていました・・・ざわ…ざわ…と、何か見かけ以上の存在感のようなものを覚えます。
呼びかけを聞いて、幽世で静かに眠っていた海の民たちの御霊が集まってきているようです。
『白や青は、善霊を表している・・・肉体という表層を覆う衣がない分、相手を見るということは、その魂の深層まで覗くことになる・・・危ない赤や黒色はいないけど、元は生き物の魂・・・今は、大人しいけど、いつ肉体を奪おうという邪念を帯びてもおかしくは無い・・・刺激しないよう、注意して見極めるんだ!』
薙が、審神者のクーに助言を与えます。
『確かに、誰もが生き返りたいと願うじゃろうな・・・ふむ~、生きとる我らの体色の変化とは違うんじゃな・・・白や青色の魂は、何か崇高な感じがするのう・・・第一世代のご先祖様かのう?・・・さて、妻の、魂の色は何色ですか?』
クーは、その光の玉の中から番の魂を探すため、きょろきょろと大きな目をせわしなく動かしています・・・私には浮かんでいる光の玉の色の違いだけで、さっぱり区別がつきませんが・・・
『集中して見ておると、ぼんやりとじゃが、生前の姿が見えてくるようじゃ・・・元の姿であれば特徴があるんで、すぐわかると思うんじゃが・・・バツイチのクーが、また嫁を探すことになるとは・・・どこにいるんじゃろか?』
そんな風に、クーが探し始めると次々に光の玉が、そびえ立つ大きな海藻から海の中での産卵のように、ゆらゆらと無数に揺らめきながら現れてきます・・・きらきらと輝いて、幻想的な雰囲気です。
・・どうも、クーには生前の海の民の姿として見えているようです・・・流石は、皆の信仰を束ねる大司祭のクー?、それとも種族的な魂の違いでしょうか?・・・ところで、『バツイチ』とは何でしょう?・・・『罰いち』?
『こちらが覗いていることが、わかったからさ・・・見るということは、相手にも見られているということ・・・関心が集まって来ているんだ・・・生前の相手のことをよく思い出しながら、集中して・・・早くしないと厄介なことになるよ・・・別のことを考えている、君もだよ?』
再度、薙からクーに急かす『声』と・・・私が『バツイチ』に気を取られていることが、つながってる薙には、ばればれです!
祭祀に集中しないといけないと、わかっているのですが・・・一度、気になったら、そのことを考えてしまう『私の悪い癖』が・・・いけません!、もう考えません!、集中です!
・・・でも、『バツ』とは、『神罰』?、『悪い事』?・・・だめです、考えないでおこうと思うと、ますます考えてしまうのですぅ~!?
『薙様・・・御子様が、こうなってしまわれると何とも・・・神聖な儀式の最中ではありますが、私から手短に説明させていただいても宜しいですか?』
短いお付き合いのはずですが、すでに私の癖を見抜いている、お姉さんから、そんな提案が・・・薙からも、さっさと説明しちゃってっと投げ槍な言葉が・・・貴方は剣なのに・・・ううっ・・・そんなに、わかりやすいですか?私?
『ご存じの通り、私達は、大事な約束を神前で誓う習わしがあります・・・バツイチとは何らかの事で、その約束を破ってしまった者につけられる、ヒトガミ様から海の民へと伝承された戒めの古い言葉なのですが・・・』
そんな私にお姉さんは、『バツイチ』について説明してくれますが・・・途中で、クーの方を向き、何か気になることがあるのか、言い淀んでしまいます。
『うん?・・・あぁ、クーと妻のように、死に別れてしまうこともバツイチというのですじゃ・・・神の前で一生と永遠を誓いながら、その約束を破ってしまう罰当たりな不信心者の烙印とも言われておるのう・・・』
絵をじっと見て、大切な相手のことを思い出していたと思われるクーが、お姉さんの言葉を継いで説明してくれます・・・海の民は、神と調和を尊ぶ方々なので私の想像通り、『罰が、ひとつ下された』という意味合いも含まれているのでしょう・・・
『クー様・・・ですが、最近の若い群れでは、その呼び方が悪いのではないという意見もあるのですよ!?・・・例えば、ピカイチとか、マルイチとか!・・・大司祭であられるクー様を前にして、こんな意見は不遜でしょうか?』
お姉さんは、古い因習が好ましくないと意見を述べます!・・・神の敬虔な信者である海の民の一員としては、異端と思われてしまうかもしれませんが・・・
『生き死には等しく天が定めたもの、どうにもならないこともあります!・・・私もバツイチという言葉が、悪い印象を与えるのならば、その言葉を使い続けることに意見を述べたいです!・・・これもヒトガミ様としては駄目ですか?』
私もお姉さんの意見に同調します!・・・意見や価値観の相違によって生じた、約束や関係の解消などの『バツイチ』については、人間としての経験が少ない私には、何とも述べられませんが・・・自然において、番と死に分かれることなど日常茶飯事です!
理想としては、『共に生き、共に死ぬこと』でしょうが、いくら頑張って長生きしようとしても、生きている限り、いつか必ず死が訪れます・・・それは、『愛の力』でも覆せず、全てに平等なもの・・・早いか遅いかの違いですが・・・『バツイチ』という言葉の与える印象と受け取る印象・・・これも人の心の複雑さが成すことなのでしょうね。
『いやいや、そのような意見があって良いと思いますぞ!、海の民たちは、秩序や決まりを重んじる余り、変化を禁忌とする所がありますからのう・・・ですが、言葉を使うのは良いが、言葉に使われてはならんのですぞ!』
いつもヒトガミ様優先の大司祭という立場で行動するクーですが、そんな言葉を語り始めます・・・
『信仰とは信じる心・・・その心が頑なでは、他の心を信じ、受け入れることは出来ないじゃろうて・・・また、それを強制してはならぬ・・・心は皆、違う形をしておるのが当たり前ですからな・・・前にならえ、は楽じゃが、善いかは別だからのう・・・言葉と共に歩むこと、それが大切なんじゃ・・・』
責任のある大司祭という立場だからこそ、より善い信仰の形と衆生のことを考えているのですね。
『こうして、ヒトガミ様が降臨されたのも、大きな変化がもたらされる始まりなんじゃと思うておる!・・・まあ、反発を生まぬように、ゆっくり対話していきましょうぞ・・・・実は、そう言うクーも昔、バツイチが怖くて、ずーっと妻を娶ろうとは思わんかったんじゃよ?』
クーは、大きな目を細めて、照れくさそうに告げて来ます。
『奥様が、そんなクー様を変えられたんですよね!?・・・実は私、その話を長男さんから聞いたことがあるんです!・・・大司祭であるクー様を恐れず、積極的に行動された奥様!・・・私、そんな奥様に憧れていて!』
それを聞いた、お姉さんが突然、大きな『声』を上げます!・・・そして、『本人の口から聞きたい』と言わんばかりの熱い視線をクーに向けています!・・・あれ、お姉さんの持っている鏡も光っているような?・・・何か『洗いざらい、喋ってもらおうか?』みたいな念を感じます?・・・『取り調べ』ですか?
しかし、また女性から積極的に行くとは・・・きょろきょろ・・・大丈夫!、今のところ、娘さんも周りの御霊も大人しいですよ!・・・では、この流れに乗るしかありません!、気になって祭祀に集中できません!
『クー・・・巫女である、お姉さんが、こうなってしまわれると何とも・・・神聖な儀式の最中ではありますが、クーから手短に説明してもらっても宜しいですか?・・故人を知ることは、故人の御霊を呼ぶ標になるのです・・・たぶん・・・ねっ、薙?』
極めて重大なことだと真摯に、クーへ提案します!、ついでに、薙にも確認してみます!
『手短にって言ったじゃんかっ!?・・・確かに、故人への縁を辿るのは、有効な手段だけどさぁ・・・・あぁーー、どいつもこいつもーー!?、勝手にしろぉぉぉっ!?・・・生玉の伝達の力を高める!、単刀直入に!』
薙の怒ったような大きな『声』が領域内に響くと、クーの持っている生玉がふわりと宙に浮くと、ますます、その深紅の光を強めます!・・・何だかんだと言っても、私の願いを聞いてくれる薙が本当に大好きです!
『はうっ!?、長男め、クーと妻のことを喋ったんか!?・・・それだけ、娘さんを信用しとるということか・・・まあ、新しい家族になるなら、いずれ話すことかのう・・・正直、恥ずかしいが仕方ないのう・・・』
そう言って、クーは亡くなった番のことを思い出しならが語り始めました・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ワタシは必ず先に死ぬから、その覚悟を準備しておけるでしょ?、大司祭様がバツイチを怖がっては、不条理にもバツイチになっちゃった者の心を救うことは出来ないでしょ?・・・だから結婚して!」
クーに抱き着いておる若い娘は、また、そんなことを言い出しよった・・・外見も変なら、言動も変な娘じゃった・・・それが、クーの嫁になるとは・・・
・・・海の民たちの生活は、規則正しい・・・日の出と共に起き、日の暮れと共に皆、家に帰る・・・何年も何年も変わりない生活・・・多くの者が、その生活に慣れ親しんで、疑問も無く過ごす・・・無論、災害や事故、逸れた蟲の民が、我々のナワバリを侵した時・・・定められた命の終わりを待たずに、先に別れを告げるモノもいる・・・そして、治しようのない病で命を落とす者も・・・
その娘は、決まって日の暮れと共にクーのいる神殿に来よった・・・原則として、一般の者に夜間の礼拝は禁止されておる・・・規律を守る海の民じゃが、やはり夜間などの警備は必要じゃからな・・・しかし、娘は例外的に礼拝を許可された者じゃった・・・クーが特別に許可したんじゃが・・・
「こんばんは~!、ワタシが来た!・・・クー様~♪」
礼拝堂におるクーを見つけると、その娘は着ていたフード付きの外套を脱ぎ、明るい笑顔を見せて、元気よい声を響かせて・・・それだけでは、何もない普通の娘なんじゃが・・・うむ~、何回も注意したんじゃが、小走りに近づいて来よる・・・これは、また・・・
たったったった・・・こけっ!・・・はしっ!
「いつも」、その娘は、礼拝堂の段差に足を引っかけて倒れそうになる・・・病のせいで、目が悪いとは聞いておるが・・・流石に、こう何回も転ぶし、注意しても小走りで来るのは、わざとやっているのだと気付いたわい・・・
「・・・えへへっ、ありがとうございます、クー様♪・・・神殿というか、集落の全部の段差なくしません?、ワタシに優しくないですっ!、クー様は、とっても優しいですがっ!・・・あっ!、この礼拝場の段差は、そのままでいいですよっ!・・・むしろ、無くしちゃだめですっ!」
「いつも」、それを抱き止めるのがクーの役割になっておった・・・娘は、遥かな故郷に似た明るい青色の目でクーを見上げて、そう嬉しそうに話しかけてくる・・・普通の海の民には見られない、珍しい目の色じゃった・・・
「ふむ・・・必要な段差もあるからのう、どうにか出来るか、また相談しておこう・・・ところで、クーがやった杖はどうした?、杖があれば、段差も注意できよう?・・・無くしたか?」
もう離れても良いはずなのに、娘はクーに抱き着いたまま、離れようとせん・・・まあ最近、その「いつも」が、心地よく感じてしまっているのも事実なんじゃが・・・自重すべきかのう?
「まさかっ!、クー様にいただいたものを無くすなんて、とんでもない!、無くしたら、死に物狂いで探します!・・・使うのが、もったいなくて大事に家においてありますよっ!・・・それに杖があると、こうやって転べないじゃないですか!?・・・うん?・・いいえ、無くしました!ありません!、だから、クー様がワタシの杖になってください!」
直接、触れているから伝達に何も問題ないはずなんじゃが、娘は、それでは足らぬようで、モーレツに言葉を発してきよる・・・まあ、日中は外に出れず、家にこもりぱなしで話し相手もおらん・・・その反動じゃと思って聞いておるんじゃが・・・クーが、大司祭というのを忘れておらぬか?
「でも、ワタシにとってクー様は、クー様ですっ!・・・最初、皆が反対したことも聞いていますよ?、なのに、こうして夜の礼拝も特別に許可していただいて・・・クー様は、ワタシの希望の光!・・・ヒトガミ様の教えで、恋愛に年の差とか立場を控えよって無いですよねっ!?・・・クー様もワタシに会えて嬉しいでしょ!?」
その大司祭に怖がらず、恥も外聞も年の差も身分も超えて、その感情を隠すも何もない、純粋にクーを好きじゃと伝えてきよる・・・普通の海の民なら、茹でられたみたいに真っ赤や、桃色に体色が染まるところじゃが、その娘は、白い体色のまま変わらぬ・・・それが呪いじゃと言う者もおる・・・じゃが、常識的に考えて、イカんじゃろうが?
「常識っていう囲いは、キライです!・・・ワタシが普通じゃないのを気づかせる・・・そこから外れた者は、すべて悪いみたいに言って・・・ワタシだって決まりや、常識が大事だって、わかってます・・・わかってますけど・・・ワタシだって好きで、こんな風に生まれたわけじゃないのに・・・ワタシも皆みたいに、お日様の下で働きたい!・・・夜明けに輝く、太陽の黄色の眩しさを感じたいのに!」
その娘は、生まれ背負った、『青い目と白い肌』を震わせて、その重みに耐える、心の内に溜め込んだ声を叫んだ・・・娘は、生まれつき身体の色素が薄かったんじゃ・・・長生きしておるクーは、珍しいが同じような者を知っておった・・・色素が薄いということは、見た目以外にも様々な障害があるんじゃ・・・
まず、その青い目は、光をうまく感じとることが出来ないようで、物を見る力が弱く、また、その見える範囲も狭いと・・・それも徐々に悪くなってきていると聞いておる・・・あまりに強い光を見ると、目が見えにくくなることもあると・・・
そして、その白い肌は、短時間でも日光に当たっていると皮膚を傷めてしまうのだと・・・日差しの強い日には特に・・・だから、日中は家にこもり、外出するのはフード付きの外套を着て、日が暮れた頃しか出られんのじゃった・・・日が暮れての外出は、その弱い目では危険じゃから杖をあげたんじゃが・・・それに・・・
「・・・長い時間を生きてらっしゃるクー様なら、ワタシのような者が皆、短命だったのを知ってらっしゃるんでしょう?・・・だから、ワタシに、こんなに優しくして下さるんですか?」
・・・娘の言う通り、クーの知っている者は皆、短命じゃった・・・定められた命の終わり・・・治しようのない病で命を落とす者の名簿に、この娘の名が刻まれるのも、クーにとっては、そう遠くない先の話になるじゃろう・・・そう思うからこそ、優しくしてしまったのが『悪かった』ようじゃ・・・『勘違い』させていまったようじゃ・・・
「じゃあ、なんで振り払ったり、嫌だって拒否されないんですかっ!?・・・ワタシがこうして、わざと転んだふりして抱き着いてるのに・・・クー様こそ、ヒキョー者です!、オクビョー者です!・・・そんなの勘違いのままになっちゃうじゃないですか!?」
娘は、その全身全霊を懸けて訴えてきよる・・・短い命の必死の覚悟は、非常に長い時間を生きてきた、小山のように大きなクーにも響いてしまうんじゃよ・・・困ったもんじゃ・・・ため息をついて、クーは娘に、こういったんじゃ・・・
「・・・クーも覚悟を決める時が来たのかのう・・・では、部屋に行くかのう」
いやいや、決して、やましい気持ちで言ったわけじゃないんじゃよ!?・・・後に、妻となる娘も、クーのその言葉を聞いて、今まで色が変わらなかった体色が珍しく変わったのを覚えておるが・・・
いや、ホントなんじゃよ!?、まだ、話には続きがあるんじゃ・・・変な期待をするんではないぞっ!?
?<現代日本での『バツイチ』とは違った意味合いになっているようだけど・・・
クー<長い時の中で、ヒトガミ様の言葉も、受け取る側も変化するんですじゃ!
@<その違いも後で重大な伏線に・・・なれば、いいな~(楽観)
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
ブックマークやコメント、誤字脱字、こうしたらいいよ、これはどうかな?、何でもお待ちしております。