第1話 『新しい海の民と竜王』⑰招魂(たまむかえ)の儀
@<突然ですが、挿絵(写真)を挿入します!見にくかったらごめんなさい!、ちょうど話に合うから(自分撮影)
ミコ<白い彼岸花ですね、珍しいです!、ご近所に咲いていたそうで?
ナナシ<そう珍しくはない、九州地方では群生する所もある・・・劣性遺伝的が原因だ、気に入らん・・・
薙<花言葉は、『また会う日を楽しみに』、『思うのはあなた一人』だよ
お姉さん<まあ、何てロマンチックな・・・
この世界の大いなる理・・・生きるモノの世界は『顕世』と呼ばれ、死んだモノの世界は『幽世』と呼ばれ、ふたつは交わらず、隔てられています。
顕世を光とするなら、幽世は闇・・・しかし、それは善悪や優劣の区別ではありません・・・光ばかりの世界では、眩しくて何も見えず、逆に闇ばかりの世界では、何も見通すことが出来ません。
死という休息のない世界では、そこに存在するモノたちは、いずれ精神を疲弊していき・・・また生という循環のない世界では、魂の停滞が起こり、過去に縛られ続けることになり・・・どちらも、いずれ擦り切れてしまうでしょう・・・
生と死は、大きく分かれているように見えますが、右という概念がなければ左も存在しないように、片方があることによって、初めてもう一方も成り立つ関係・・・元水の神・山の神である私には、とてもなじみ深い自然の摂理・・・生と死を繰り返すことは、この世界の大いなる理なのです。
その厳かに別られた、『顕世と幽世』・・・
『亡きクーの番である、娘の母の招魂の儀を行う!』
・・・招魂とは、幽世から顕世に降霊や降神を行う霊媒の儀式・・・
今、私たちは、その境界を犯す禁忌を行おうとしているのです!
・・・そして、祭司である私の言葉・・・宣誓の言霊が響き渡ると、私の左手の足玉が青色の光の輪となり、ふわりと私たちの頭上に浮かび上がります。
『今、天叢雲の剣の名において、顕世に幽世を顕現させ給え!』
薙の『声』と共に、右手に掲げた剣から光の柱が伸び、その青い光の輪を貫くと徐々に、その輪は広がっていき・・・
『海を産み出すなんて!?』『ギョギョっ!?、これはイカに!?』『海って綺麗・・・素晴らシーですわ!』
気付けば部屋の中であったはずが、その様相は、青く深い海の中へと一変したのです!
思わず私たち三人は、動揺した声を出してしまいます!
私たちの遥か上には波打つ海面が広がり、周囲にはごつごつとした海底の岩と、そこに付着した巨大な海藻たちが樹木のように無数にそびえ立ち、あたかも密集した森に迷い込んだかのような錯覚を与えます!
『今、僕たちがいる水の比和の領域から出ちゃダメだよ!・・・この外は、海の民の魂が休息する、海の民たちの祖霊が連綿と作り上げてきた幽世の世界・・・この領域から出たら、生きたまま、あの世に閉じ込められることになるよ!』
すかさず、薙が私たちに注意を促す『声』を上げます!
その言葉通り、娘さんを中心とする私たちがいる水色の領域だけは、元の部屋の状態を保っています。
『ヒトガミ様に仕えるクー様方が、おっしゃられていた通り、我々の魂の故郷とは、その名の通り、海の中なのですね・・・何だか、心休まりますね・・・私のご先祖様もいるんでしょうか?』
『うむ!、遥かな昔、マナによる影響で生態系が乱れ、海が危険になってしまい、陸上に安息の地を求め、母なる海から離れることになってしまったがのう・・・そういえば、臨死体験したという者から、海の風景を見たと話を聞いたことがあったのう・・・しかと、この目で見ることになるとは・・・』
お姉さんとクーは、感慨深く、外の海の様子を見回しています。
『ぷっしゅ~、はぁー、よかった息できる!・・・うん、出ちゃダメぜったい!、わかったよ!・・・これから、どうしたらいいの?』
私は海の中だと思って、ほっぺを膨らませて溜め込んでいた空気を吐きながら、薙に尋ねます。
・・・娘さんを救うための概要は、あの鏡の声の主が直接、私の頭の中に伝えてくださいましたが・・・あまりにも大雑把すぎて、五里霧中でしたが・・・
『本来ならば、木の陽たる足玉を金の陽たる八握剣で相克することで、境界を曖昧にして、幽世から御霊を招くんだ・・・そして、招魂した御霊の呪力で国家の安泰を願う祭祀なんだけど・・・』
そんな私に薙は、ちゃんと丁寧に説明してくれます!
『相克の儀式・・・例えるなら、金属の斧で樹木を切り倒して・・・他の形に変えて、新たな家を作るような?・・・それで、その種の繁栄をもたらすのかな?』
そう考えると、神宝の働きも理解できます!・・・流石は、天のあわい(間)の雲も晴らしてくれる『天叢雲の剣』です!
『・・・褒めくれるのは嬉しいけど、残念ながら僕の力では逆に、こちら側に幽世を引き寄せることで、目的の御霊があると思われる場所に案内するまでしか出来なかった・・・曖昧な境界は、危険で何が起こるかわからない・・・ここから先は、何とかして探さないといけない・・・』
・・・霧を晴らしてくれましたが、残念ながら、その先は、暗中模索の闇の中でした・・・
『でも、何か考えがあるんだろう、御子様?・・・全力で支えるから、心配せずにやってみて!』
暗中模索の状況ですが、薙は頑張って三千世界・・・この世界の全てを探す労を省いて、私たちを目的地まで連れて来てくれました!
流石は、天のあわい(間)の雲を走る光の剣です!、もしもの時の備えもあるということは、何と心強いことでしょうか!?
お姉さんもクーも私に注目しています!
その信に応えずして、どうしてヒトガミ様などと名乗れるでしょうか!?
今の私は、その闇を照らす、いくつかの光芒を見出しているのです!
『では、幽世で、娘さんのお母さんを尋ねて作戦を説明します!』
昔の無謀な私とは違うのだと証明するのです!
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今の娘さんは、『穢れ』が身体も魂にも取り憑かれている状態で、そんじょそこらの祓いでは何ともできないと薙は言いました。
おそらく、外にいる『黒い蠢くモノ』よりも、危険で厄介な状態でしょう・・・
ところで、『穢れ』とは何でしょうか?・・・『穢れ』とは『汚れ』とも言います・・・死・疫病・血、罪などによって汚れ、忌まわしく思われる不潔・不浄等、理想ではない状態・・・それは、生命力が弱っている時や、精神的に病んでいるとき、疲れているときに起こされるもの・・・
ですが、例外的に、顕世と幽世の狭間で彷徨う『目に見えぬもの』・・・言わば、『霊』によって起こされる『汚れ』もあります。
元々、私も『自然の気(鬼)』から生まれた、少し近いモノなので、色々と顕世に影響を及ぼしていますからね。
しかし、すべての生き物が『霊』によって害されることはありません・・・霊がいるとしても、直接的に危害を加えることはできません・・・
なぜなら、『生きている者の方が強い』からです!・・・『肉体がある』ということは、それだけでも強い力があるのです!・・・『生きたい』という意志は、何よりも強い、跳ね返す力になります!
時に、つけこまれ、影響を受ける可能性もあり、軽視できないこともあると思いますが、自分をしっかり持っていれば、負けません!
娘さんは、精神的に弱くなって、『元気がなくなっていた』のを『汚されてしまった』・・・言わば、『気枯れ』の状態なのです。
ならば、娘さんを『元気』づけよう!・・・生きる希望を、娘さん自身の強い『気持ち』を持ってもらうこと!・・・それによって、娘さんの内と、そして、外の私達と協力して、『穢れ』を引き剥がすのです!
部屋に入る前、クーの長男さんが、私の頭に取り憑いたモノを剥がしてくれました・・・私が特別なのかも知れませんが、外と内が合わされば引き剥がせる可能性はあります!
ならば、娘さんを『元気』づけるのに最も重要な人は!?・・・ずばり、『お母さん』でしょう!
娘さんのお母さんへの想いは、とても強いことを知っています・・・死返玉の中で、父であるクーの説得にも応じず、蛇の姿の私に放たれた水流は、凄い威力でした・・・それだけ、母に縋る子の思いは強いのです。
お母さんを『生き返らせる』ことは、流石に神宝の力でも難しいでしょう・・・死にかけていたクーを救うのにも、私の魂の蛇がなければ難しかったです・・・
なので、こうして『お母さんの招魂の儀』を行っている訳です!
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私が説明している間も、クーが持っている生玉が深紅の光を放っており、そのおかげで説明も誤解を招くことなく、とても速い時間で済みました!・・・便利で、ずっと使っていたいです。
『なるほど、確かに・・流石は、御子様じゃ!』『それなら、娘ちゃんを助けられますね!』
クーとお姉さんが納得したというように、頷いてくれますが・・・
『だけど、どうやって、一部とは言え、この膨大な魂の慰霊碑・・・延々と受け継がれた魂の大樹から見つけるつもりだい?・・・人と違って、名前が無いから呼びかけることも難しそうだ・・・無関係な魂も含めて良いなら、僕が呼び寄せることも出来るけど・・・』
薙から真っ当な疑問が飛びます・・・確かに、あてもなく探すわけにはいけません・・・広大な海に、一粒の真珠を探すようなものです・・・時間が無いと言ってましたから・・・ですが、安心して下さい!、その点も考えてますよ!
『うん、薙には呼び寄せをお願いするつもりだったから、ありがとう!・・・そこで、関わりの深い方々の出番です!・・・クーには、お母さんの魂を選別する『審神者』の役を果たしてもらいます!』
あらかじめ、『招魂の儀』を行う前に、ふたりには『伝えて』、承諾してくれた内容ですが・・・ふたりの意思を最終確認するために、改めて説明します!
・・・『審神者』とは、降霊や降神といった霊媒の儀式において、降りてきたモノの性質を見極める役割、場合によってはそれを祓う役割も担うとされる役を持つ者を指します・・・
『お任せ下され!、嫁の事なら、何でも判るクー以外に適任者はおりますまい!、しかと、審神者として見極めてみせますぞ!』
クーは、その手に持つ大切な想いがこもった絵を掲げ、そして、私に向けて、その目に強い意志を見せてくれます!・・・故人に所縁の深い物も準備できてます!
『うん、クー以上の適任者は私もいないと思う!・・・多分、生玉の力で声も聞こえてくるかも知れないけど、惑わされずに絵をしっかり見つめて、頑張って!』
・・・顕世にいる者すべてが、無意識にでも生きたいと思うように、幽世にいる関係のない魂たちも、また生きたい、生き返りたいと思い、この機会に再び顕世に戻ろうとするでしょう・・・縋る手を振り払うことになりますが、今回ばかりは仕方ありません・・・
『もちろんですじゃ!、あの黒い玉の中でも惑わぬクーですから、ご安心を!・・・それに他の誰にも、長男の嫁には触手一本、触らせませんからな!?』
続けて、クーは、お姉さんの方に振り向き、腕を上げ、強い意思表示をします!
・・・今回の招魂で、最も不安も負担も大きいと思われるお姉さん・・・
『お姉さんにはクーが選別してくれた、お母さんの魂を降ろす『巫女』の役をやってもらいたいのです!』
・・・審神者は、神との間に媒体者を必要とし、『巫女』とは、神が憑依する媒体者・・・一時的とは言え、自分とは違う魂を宿す役です・・・
今の私は、蛇と人の魂が混在する存在ですが、他の魂に乗り移られたことはありません・・・飲み込んで、自分の一部にしてしまうことはありましたが・・・はっきり言って未知の領域です・・・私でも不安に感じるでしょうが・・・
『ありがとうございます、クー様!、そう言ってもらえると心強いですわ!・・・御子様、私も全身全霊を懸けて、巫女の役を務めさせていただきますわ!』
ですが、お姉さんの口調にも、その目にも一切の迷いや不安は感じられませんでした!
『御子様は、ご存じでしょうけど、私は娘ちゃんを実の妹のように思っているんです!・・・そんな私が、新しい家族として迎え入れられるためには、お義母様に認めてもらう必要がありますわ!・・・これは、私が長男さんの嫁に相応しいか見極めるための、ヒトガミ様とお義母様からの試練なのですわ!』
そう強く告げる、お姉さんの意気込みは、私が想像以上のモノでした!・・・これが、『愛』の力でしょうか!?
『おおー!?、何という心意気じゃなイカ!?、これは、クーの方が頭を下げて、是非ともと言わねばならぬ!・・・まあ、あの嫁のことじゃから、絶対に反対せんじゃろう・・・いや、喜んで迎え入れてくれるに違いないて!』
その意気込みを聞いて、クーも感無量なようです!・・・ふたりの固い決意、確かに受け取りました!
『なるほどね・・・正しい魂を探し呼ぶために、つながりの深いモノをそろえ、その魂を降ろすための器も用意したのか・・・これなら、君は祭祀に集中できるし、成功する可能性がぐっと高まったね・・・やるじゃないか!』
珍しいことに、薙まで私を褒めてくれますよ!?・・・いや~、それほどでも~・・・道具みたいな扱いと思っているのは、いただけませんが・・・不確かで、危険な賭けですが、私は、私を含め、みんなの強い意志を信じています!
『では、作戦・・・母を尋ねて、を開始します!』
・・・母を訪ねるのではなく、問いかけるの尋ねるです!、私も娘さんのお母さんに会ってみたいです!
『天叢雲の剣の神力にて、審神者と巫女の前に御霊を降ろし給え!』
薙の『声』を通して、私の中に神力が流れ込んで来るのがわかります!
そして、平穏で青い海が、一気に薄暗くなると・・・ざわざわ・・・ざわざわ・・・と周囲の海の森から、何かが蠢き、近づいて来ている気配を感じます!
クー<母を訪ねて、三千世界!?、次回、審神者のクーが大活躍の予感!?
お姉さん<巫女ねぇさんも活躍できますかねぇ~?
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
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