第1話 『新しい海の民と竜王』⑮今一度、その名を呼べば
@<ミコが娘さんに「必殺!ダイナミック体当たり!」をかました、前回からの続きです!
ミコ<「必殺」とは何ですか!?私は、娘さんをたすけ・・・
お姉さん<そんな・・・御子様・・・・
ミコ<えぇーー!?、ごかい、誤解ですーーー!?
私が目を回して気絶している娘さんを前にして、お姉さんに振り返り、
「お姉さん!・・・これで、妹ちゃんをどうにかできるかも!?」
などと、うっかり言ってしまったので、あの時の記憶が呼び戻されたのか、
「まさか、御子様・・・娘ちゃんを食べちゃうのですか・・・?」
お姉さんの表情が引きつり、不安そうな声を伝えてきて・・・
「いえいえいえっ!?違います!違いますから!誤解ですよ!?」
両手を振って、違うと表現したかったのですが、痛いので仕方なく・・・私は、否定の意志表示のために、ぶんぶんと全力で首を横に振り・・・
・・くらぁ~・・・
「御子様!?・・・お顔が真っ青ですわ!?お気を確かに!」
急に目の前が暗くなって・・・倒れそうになるところをお姉さんが、抱き止めてくれます・・・天地がぐるぐると回って、どきどきと動悸もしてきます・・・先ほどまでの無茶な動きと、血を失い過ぎたせいでしょうか?
(誤解・・・説明しないと・・・息も苦しい・・・あれ、クーは、どこに?・・・前は、クーが仲介を・・・私と一緒に外に出たはず・・・まさか、クーも?)
目を閉じているのに、星が瞬いて・・・思考も、ぐるぐる回っています・・・なぜ、血が無くなると、こうなるので・・・やるべき事は、はっきりしているのに、頭と体が動いてくれなくて・・・そんなこと、やってる場合かっーーーー
ぴっかぁーーーっ!!!
「きゃっ!?、何ごと!?」「・・・」
突然、娘さんの頭に当たって床に転がっていた丸い鏡、沖津鏡が光り輝き!?
『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!?』
同時に鏡から聞き覚えのある声が、大音量で聞こえて来て!?
「お呼びですか、ごしゅじ・・・じゃなかった、御子様!・・・オリョ!?真っ赤ですぞ!?・・・大丈夫でございますかぁぁぁーーー!?」
なぜか、鏡から見慣れた八本手足の海の民・・・娘さんの父であるクーが飛び出して来たのです!!!
「クー様!?」「・・・・・・・」
突然のことで、お姉さんも驚き、大きな声を上げます!・・・・私も驚いたのですが、弱々しい声しか出ましぇん・・・そのクーが血まみれで、お姉さんに寄りかかっている私の姿を見て、驚きの声を上げ、近づいてきます。
・・・そんな、騒動に反応したのか、ぴくりと、娘さんが反応したような・・・今の娘さんのまま、目を覚ますと・・・クーも私を支えるように手を伸ばしてきたので・・・頑張って『声』で娘さんの状況と、肩の傷だけ、ということを伝えます。
「ふむむ~、安静にして下され・・・と言いたいところですが、状況が状況ですからな・・・とりあえず、あの後、気付いたらクーは、何故か聖域に出てきまして・・・ナナシ様が、同一の存在が引き合った結果とか、何とか?・・・詳しい事はさ~っぱり、わかりませぬが・・・」
クーから心配している感触が伝わり、事情を簡単に説明してくれますが・・・理解できなかった、というようにクーは両手をあげて、首を傾げ・・・
「天が呼ぶ!、地が呼ぶ!!、ヒトデ汁!!!・・ナナシ様が鏡を通して、クーをこちらに移動させて下さったのですじゃ!、娘たちの危機を察して駆け着けぬ父など、何処にもいませんですぞぉ!」
と、倒れている娘さん、私、お姉さんを交互に見つめ、両手を高々と天に突き上げます!・・・その元気を分けてほしいです・・・
(そういえば・・・翠が、べとべとにした辺津鏡は、クーが持っていたっけ・・・?でも、それがどういうことで・・・?)
鏡を通って遠い距離を移動するとは、驚嘆すべきことですが・・何か引っ掛かるものがあるような・・頭の回転が鈍くなっている私にも、よく分かりません。
・・・その大きな声と仕草で、また娘さんがぴくぴく反応しているような・・・疲労感で声が出ないので、また『声』で、クーに静かに話すようにお願いしてみます・・・まだ、娘さんを起こすのは早いから・・・来てくれて、心強いけど。
「あと、ナナシ様は、この神宝も持って行けと・・・どう使うのかは、御子様、次第と・・・御子様の怪我も、娘も何とかなりますかのう?」
クーは、わずかに声を小さくして、心配そうに私と娘さんを見つめながら、赤色の丸い玉、『生玉』と、青色の小さな玉を数個結んだ紐、『足玉』を私の左手に渡してくれます。
(生玉は、火をつける・・・足玉は、声を伝える・・・でも、その使い方じゃない・・・こんな時でも自分で考えて、答えを導き出せということですか・・・?)
明確な応えを与えて下さらない・・・それが、鏡の声の主と似通っているように感じられて・・・やはり、親子ということでしょうか・・・口に出せば、怒られるでしょうね?
「・・・ふふっ・・・」
そんなナナシ様らしい気遣い(?)を久しぶりに感じて・・・なぜだか少し嬉しくて、弱っている私の唇から笑い声が洩れます。
(弱気じゃだめですね・・・久しぶりに、ナナシ様の声も聞きたいし、お姿も見たい・・・気合いだ!気合いだ!)
ふぅ~・・・気力で呼吸を整えて・・・よし、少し元気が出てきましたよ!
「翠、生玉と足玉、両方に触ることができる?」
はっきり言って、さっぱり答えがわからないから、今まで試したことのないことをしてみます!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私の頭の上にいる「翡翠色の親友」から、にょろろ~んっと手(?)が伸びていきます・・・でも、いつもより遅いような・・・元気がないような・・・
「あっ・・・翠も疲れているんだね・・・ごめんね、無理させちゃって・・・」
そんな翠の様子から、玉の中で出会った赤ん坊の姿であったことと、今までの翠の頑張りを思い出して・・・私は、その健気さに、心苦しさを覚えずにはいられませんでした・・・後で、いっぱいお礼しないと・・・どんな、お礼が喜ばれるのか、わからないけど。
「・・ひふみよ いむなや こと・・ふるべ・・ゆらゆらと・・ふるべ・・生玉!、足玉!」
翠が、二つの神宝に触れてくれたので、神宝を元気づける祝詞を奏上してみます!・・・今まで、ふたつ同時に試したことは無かったのですけど。
ほわん!・・・
すると、生玉が赤い光、足玉が青い光を放って・・・足玉の姿が青い光の輪に変わっていき・・・何だか、クーを治した時のような?
ひゅーん・・・ぐるぐるぐる・・・かぁーーーっ!
そして、生玉の周りを回って・・・生玉の赤い光が深紅の光になり、辺りを照らします・・・火のように熱くはありませんが、その光は、なぜか温かみを持っていて・・・私の身体全体に染み入るようで・・・
「はぁ~、何だか、楽になってきました!」と私が言うと、
「はぁ~、何だか、クーも筋肉痛が楽になってきましたぞ?」と同じようにクーも言います。
生玉の新しい働きは、疲れを癒してくれる効果があるようですね?
(もくとひ・・・そうせい・・・いくたま・・・かつりょく・・・つなげる・・・むりだめ・・・)
頭の上から何だか、疲れて眠そうな感触の『声』が聞こえてきました・・・どうやら、翠が私に語り掛けているようです。
しばらくして力尽きたのか、生玉と足玉が元の状態に戻り、私の左手に収まり・・・と思ったら、両方とも深紅と、青い光を弱く点滅させています。
「翠、無理させてごめんね・・・木と火で・・・木を燃やして火を生む?・・・お互いが相で、生むが生だから、相生・・・木の足玉が、火の生玉の力を強くして、活力を与えてくれたんだね?」
言葉は少なかったけど、翠は私にちゃんと、この神宝の働きのことを教えてくれます!疲れているのに、なぁんと良い子なんでしょう!?
(たるたま・・・ひだり・・・みぎ・・・つるぎ・・・ねがいを・・・ねむねむ・・・おや・・す・・み・・・)
その言葉を最後に翠からの『声』は、聞こえてこなくなりました・・・こんなに頑張ってくれる翠の親神様は、とても善い神様なんでしょうね?・・・ナナシ様に伝えると、怒られそうかな?
『ありがとう、翠!後は、私、頑張ってみるね!・・・おやすみなさい・・・』
たぶん、眠ってしまったであろう翠に感謝を伝え、
「お姉さん、ありがとうございます、もう立てそうです!・・・よっこらしょっ、どっこいしょっと・・・」
と、かけ声をかけて、再び、私は大地に立ちます!・・・右手もまだ痛むけど、動かせるようになりました!
「立ーった立った! 御子様が立った! わーい!」とクーが喜んでます。
「よかったわ!顔色も良くなったようで!」とお姉さんも喜んでくれます。
「しーーっ!、ふたりとも静かに!娘さんが起きてしまいます!」と注意しつつ・・・娘さんの方をちらり・・・よかった、まだ起きてこないようです・・・
(もう翠に援助は乞えない・・・足玉と、剣?・・・立ってしまったからには、今後は自分の足で歩まねばっ!・・・よぉーし!、もうひと頑張りっ!)
新たな覚悟と共に、翠の伝えてくれた言葉を考え・・・まず、生玉をクーに返して、左手に足玉の紐を通して・・・動かせるようになった右手で、決意を込めて!
「薙、おいで!」
と呼びます!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私の呼びかけに、素直に応じてくれた薙が音も無く、私の右手に収まります。
・・・祝詞の奏上を中断し、私から離れたためか、姿を変じた神宝の光の領域は、薙を薄っすらと水色の輪郭を纏わせるぐらいの大きさになっていました。
『・・・やれやれ、無理やり止めておいて・・・必要になったら、また呼ぶとは・・・勝手なもんだね、我が大君様?・・・大変だったんだからね?』
神宝の力の影響を受けているのか、右手の薙から、はっきりとした『声』が聞こえてきました・・・ちょっと、怒っているような感じです・・・うぅっ、弁解の余地なしですか?
『ごめん・・・でも、ああでもしないと、止まらないかと思って・・・私、どうしても娘さんを助けたくて・・・それに薙にも、嫌な思いをしてほしくないから・・・私のことを想ってくれて、守ってくれて、ありがとう』
そう伝えると・・・続けて、今まで薙が、私の身体を使っていたときの出来事も伝えてきて・・・薙は、もともと私の一部なので、直ぐに理解することができます。
『・・・その言い方は、卑怯じゃないかな・・・もう・・・まったく・・・』
・・・うん、もう怒ってはいないようで、弁解の余地ありのようです?
私も今までの出来事を薙に伝えてみます・・・もしかしたら、私の『声』に関する能力が、成長しているのかも?・・・いろんなことがありましたからね・・・
『それもあるけど、さっきの生玉の影響が大きいね・・・あれは、神と人をつなぐ、神人合一のための光の玉・・・神の言葉を心で聞き、受け取るものだから・・・正しい相性は、善い加護となるよ』
伝えた薙から、すぐに的確な説明が返ってきます・・・何と、わかりやすい!
『なるほど、それだけじゃなかったんだ・・・いろいろ知ってるんだね?教えてくれて、ありがと!・・・薙の親神様は、優秀だね~・・・あれ?、それって私じゃない?・・・すごいぞ、私!?』
我が子の優れた成長を感じる親の気分でしょうか?・・・違うかな?
『何を言ってるんだか・・・でも、今の君が行おうとすることは、今まで以上に、無茶と無謀というものだよ?・・・陰陽の欠けた神宝の危険性は、身をもって知ったはずだよね?・・・本来は、右手に金の陽たる、八握剣が必要なんだ・・・僕が代用するにも十分じゃない・・・どうするんだい?』
そして、私の考えも薙に伝わったのでしょう・・・これから私が行おうとしていること・・・薙の言うとおり、正直、不安は大きいですが・・・その真剣な問いへの返答の代わりに・・・
「お姉さん・・・その絵を守ってくれて、ありがとう・・・これで、娘さんを助けられるかもしれません」
お姉さんの方・・・正確には持っている紙を見つめます。
「こちらの絵のことでしたか・・・すいません、早とちりしてしまいましたね?」
お姉さんが、その絵を私によく見えるように広げてくれます。
クーの家族が描かれた絵・・・どんなことを考えて描かれたのか・・・それから、どんな時を過ごしてぎたのか、私にはわかりませんが・・・
「娘が生まれた時の絵ですな・・・あぁ・・・懐かしいのう・・・」
この絵を描いた作者の、その言葉の重さは・・・
「他の絵は、残念ながら守れませんでしたが、これだけは、娘ちゃん・・・いいえ、クー様たち、ご家族にとって大切なものと思って・・・」
その絵を大事に思ってくれるひとが・・・
「でも、それで私が飛び出してしまって・・・そこを漆黒の刀身様が身を呈して守って下さって、御子様の大事な御身体に傷を・・・本当に申し訳ありません!」
私に対して、お姉さんは全ての手足を広げ、頭を下げ、謝罪します。
「そうじゃったのか・・・そこまでして、この絵を守ってくれたとは・・・娘さん、漆黒の刀身様、御子様、ありがとうですじゃ・・・」
クーも感謝を込めて、頭を深々と下げてきます。
たった一枚の紙に描かれた絵だけど・・・関わる様々なひとたちの、とても大切な想いが込められていること・・・それを感じることができるのです。
『なるほど、込められた想いが凄く強かったから・・・それに影響されて、僕も庇うように動いてしまったのか・・・何でだろうって思ってたんだ・・・』
・・・その想いは、異質な器物である薙さえも動かしてしまうほどで・・・その事実は、不安を抱える私に次の一歩を踏み出す勇気をくれます・・・もう、転ぶことはできないから・・・そして、ぎゅっと右手に力を込め・・・
「どうか、ふたりとも頭を上げて下さいな?・・・たぶん、ふたりにも協力してもらわないといけないから・・・それに、私の怪我は、お姉さんとお相子だから、気にしないで下さい!・・熱かったでしょう?痛みは、大丈夫ですか?」
私は、お姉さんの手を見て言います・・・その手には、酷い火傷の跡がありました。
・・・昔、私が飲み込み、その一部となった薙は、元々、製鉄で燃え盛る炎、流れ出す鉄滓や、炉の中の溶けた鉄でした・・・更に権威の象徴となったことや、不思議な力を備えたことで、自分に触れる者を選別するようになったのでしょう・・・ナナシ様にお貸しする時も、何か不機嫌な感じでしたからね?
ちらりと薙を見ながら、お姉さんに立ち上がるよう促します。
「私の魂が離れている間、怖かったですよね・・・誰もが皆、生存の本能をもって自分の命を優先するのに・・・だけど、お姉さんは逃げずに・・・むしろ、礼を言うのは私の方ですよ?、ありがとうございます!」
にっこり、お姉さんに笑顔でお礼を言います!
「御子様・・・お心遣い、ありがとうございます・・・これは、名誉の負傷というべきもの・・・それに先ほどの光のおかげで、全く痛みがないのですよ?」
お姉さんは顔をあげて、火傷した手をほかの手で触れます・・・あの光は傷も治すようで、確かに大丈夫な様子ですが・・・痛々しい跡は残っています。
「でも、嫁入り前に傷を・・・これは、責任を取らねば・・・あ、あと、漆黒の刀身じゃありません、薙という名前なのです!・・・良ければ、今度から、そう呼んであげて下さいな?」
傷を負ったもの同士で、対等な状況かと思いましたが・・・長男さん、お姉さんを嫌いになったりしませんよね?・・・ちょっと不安・・・とりあえず、絵はクーに持っててもらいましょうか。
「薙様・・・海の民は、特別な地位のものしか、名を名付けず、名乗らないのですが・・・良い響きのお名前ですね・・・ありがとうございました、薙様!」
お姉さんは、薙に、ぺこりと頭をさげて感謝の意を示します。
『ただの偶然だよ・・・最初に、お姉さんが君を庇ったは知っているけど・・・』
そっけない『声』が・・・私の右手が、ほんのり温かいです・・・ふふ、喜んでいるようですね?・・・では、ふたりに薙のことも紹介しないとね!
「別の名前が付いたことで、昔と違って山の私みたいに、ちょっと気難しい性格になっちゃったみたいだけど・・根っこは、私と同じで・・・じゅわっちーー!?」
そう言ったら、薙を握った私の右手が熱を伝えてきて、思わず手を離します!?
・・・涙目になりながら、右手をふーふーしますよ!?どーいうことですか!?
そんな私を尻目に、薙は、心地よさそうに空中に、ぷかぷか浮かんでいます・・・
・・・むむ~、解せぬ・・・
「あらあら、うふふ?」、お姉さんは、そんなやり取りを見て、おっとりした笑い声を・・・
「いや~、仲がよろしいですな?」、クーは、そんなやり取りを見て、朗らかな笑い声を・・・
「・・・・・・」、黒い娘さんは、無言で、ゆっくりと身を起こそうとしています・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぱしっ!・・・ぶぉんっ!
娘さんの動きを感知したのか、すぐさま、薙が私の右手に収まると・・・薙を中心として、また神宝の水色の光の領域が広がっていきます!
それは、私、お姉さん、クーを包み込み・・・そして、黒い娘さんも、その領域の範囲に飲み込まれて・・・
『薙!?娘さんを消しちゃだめだよ!?』
黒いモノと共に消滅させてしまう!?・・・あの光景が甦った私は、思わず『声』を上げます!
『祝詞の奏上はしない・・・それを君は望んでいないんだろう?・・・水の陰陽を合わせ、比和してるから、今は動きを封じることだけはできるけど・・・』
慌てる私に薙は、そう伝えてきて・・・立ち上がろうとしていた娘さんは、水色の光に押さえつけられたかのように、また地面に寝かされます!
どうやら、薙は、私の思いを読み取って、とどまってくれるようです!
その娘さんは、うなされているかのように表情を歪めて・・・
『娘ちゃん!』『娘よ!』
お姉さんとクーは心配そうな声を上げ、娘さんに触れようとしますが・・・
『待って!、まだ駄目!、取り込まれてしまうから!』
心苦しいけど私は強い制止を叫び、ふたりの手を留めようとします!
『御子様・・・』
ふたりは、つなぎたいであろう手を、ぐっと握り込み、我慢してくれます。
『クーと、お姉さんの娘さんを想う気持ち・・・それが、娘さんを助ける要です・・・もしかしたら、悪い結果になるかもしれない・・・それでも、私を信じて、力を貸してくれますか?』
私は、私を信じてくれる、ふたりの意志を確認し・・・
『もちろんです!』『もちろんですじゃ!』
私を見る、ふたりの瞳は、娘さんを助けたいという強い想いを宿していました。
(迷いのない心が標となる・・・でも、まだ足りない・・・もうひとり・・・)
・・・右手の黒色の神剣から、真剣な『声』が聞こえてきます・・・
『でも、ずっとは抑えておけない・・・予想以上の結びつきで、引き剥がせなかった・・・このままでは、いずれ、この娘を媒介に大きな穢れになって・・・祓えなくなって・・・君も飲まれることになる・・・そうなれば・・・』
薙の『声』には、娘さんより私のことが大事なんだ・・・他の誰よりも大切なんだ、という切ない気持ちが込められていて・・・
『君の願いを叶えてあげたいと思うけど・・・狭間に揺れる君の願いは、呪いに変わるかもしれない・・・今の僕には与えられた役割がある・・・その時は、僕は君を・・・今度は・・・僕が、八岐大蛇様を・・・』
その硬質な姿に似つかぬ、自らに課せられた責務と、己の感情の間で葛藤する繊細な心の『声』を響かせて・・・私の右手に握られた剣は、小刻みに震えるのです。
・・・懐かしい私の名を呼ばれたことで・・・私と薙は、共に過ごした遥か悠久の昔のことに想いをはせました・・・ですが、それは、刹那のことです・・・
・・・私は、剣の柄を握っていた右の手のひらを開きます・・・
『海に沈む、一人としての過去の私は、何も・・・何も成すことができなかった・・・何も残すことができなかった・・・せっかく生まれてきたのに・・・』
・・・私は、目を閉じ、水面に身を投げることになった経緯を思い出します・・・
『だからこそ、その境界に立つ、今の私は、ここに・・・生きた証を残したい!』
私は、今、ここに、私が生きていることを確認するように、両腕で震える刃を胸に抱きしめます!
『真の名を失った、御子と名乗る、紛い物の私が何を残せるか、わかりませんが・・・私が、貴方を持つに相応しい人でなければ・・・私の身を焼きなさい!』
・・・そして、狭間に生きる私が、その覚悟を決めたように・・・
『我が身が魔ならば、破邪の神剣として我が身を滅せよ!・・・我が身が聖ならば、守護の神剣として我が身を助けよ!・・・草薙の剣として、その名を与えられた者よ!!!』
・・・同じ狭間に生きる貴方にも、覚悟を決めてほしいと望むのです!!!
ミコ<私が身は、既に覚悟完了です!・・・ところで、たまに、クーは、変わった言動するよね?
クー<説明しよう!・・・古来より大司祭に伝わるヒトガミ様の碑文があってのう・・・
お姉さん<海の民は、それを伝え聞いてるのですよ~
@<・・・という設定なのだ!
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