第1話 『新しい海の民と竜王』⑫放たれる、その行方は
@<今回は、サブキャラメイン回・・・書いてて凄く楽しかったんや・・・
薙<・・・(訳:頑張るよ)
ミコ<私も出番ありますよ!
ぴちゃり・・・ずりずりずり・・・ぴちゃり・・・ずりずり・・・
いつまでも尽きること無く、打ち返し打ち寄せる黒い波のように・・・俺たちの周囲に這い廻る黒いモノたちが、犇めき合っていた・・・もう、逃げ場は無い。
妹たちと別れた後、今まで何とか生き延びて、神殿近くの建物の屋根に陣取っていたが・・・遅かれ早かれ、最後の時を迎えるのも時間の問題だろう。
唯一、抵抗する手段である背中の矢も、最早、四本しか残っていなかった。
さんざん駆けずり回り、服は破け、体中に打ち身や泥だらけで、全身が悲鳴を上げている・・・肉体の限界は、もうとっくに超えているだろう・・・弓を構える力もない・・・精神力で何とか立っている様なものだ。
眼下の黒い波が足場を、身体を支える精神力を、ごりごりと削っていく・・・
(疲れた・・・とりあえず、座りたい・・・)
そう思う背中に何かが当たる感触がした。
「どうした、親友よ?、もう諦めるのか?・・・オレは諦めないが?」
その背中の感触は、自身も相当疲労していると思うが、不断の意思を伝え、そう話し掛けて来た。
「・・・お前が戦う限りは、俺も共に戦う・・・前に、そう言っただろう?戦友よ!」
その背中に応えるのは、あの時、互いに誓った言葉だ・・・お互いの背中にかかる力が均等になり、身体を支える足が少し楽になった気がする。
そして、腕には弓を構える力が戻ってきた・・・前の俺とは違う・・・俺には共に戦う友がいる・・・その存在が、俺に力をくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・俺は、幼い頃より父から弓を教えられ、今までずっと弓を扱ってきた。
自分で言うのも何だが、俺より上手い者がいなかったから、必然的にずっと弓使いを任されていた。
弓を扱う者は、いつも集中して標的を狙う必要があり・・・孤独だった・・・
ある日、成長して正式に聖域の守り人に任命された俺は、それでも変わらない生活を送るのだろうと思っていた。
常に何かを狙い、孤独に戦い続けていた俺は、それが当たり前だと思っていた。
『みんなを引っ張らなきゃいけない』『誰よりも頑張って皆を守らなきゃいけない』
・・・同じ時期に任命された、そんな言葉を放つ奴に出会うまでは・・・
今、感じる背中は、そんな重圧を生まれた時から背負い、その事から背を向けず、誰にも弱音を吐かない存在・・・大司祭クー様の「長男」だった。
互いに名乗り合った日から様々な事を分け合い、共に苦難を乗り越え・・・ふたりとも通った道は同じはずなのに・・・気が付いたら俺よりも先を走っている気がして・・・絶望した。
走っても走っても、その距離は縮まらない・・・
今まで誰かと比較されて生きて来なかった俺は、無意識のうちに長男と自分を比較して、その度に落胆した。
(俺は、こんな事も出来ないのか・・・俺は、聖域の守護者に向いていない)
そう思う心に蓋をして、吸盤を見せ合い、絆を深め合った友・・・必死に長男と仲の良いフリをしていた。
・・・いずれ死んだ時は、軟骨を拾ってくれと言い合った仲でもあるのに・・・
そんな矛盾した毎日を送っていた俺は、その心の弱さ故に、悪事に加担してしまった。
大切な家族を人質にされたとは言え、そんな長男を俺は裏切ってしまった・・・父親たる大司祭クー様の命を危険に晒してしまったのだ・・・
ヒトガミ様の助けを経て、無事、事件は解決されたが、罪を犯した俺は、聖域守護者を辞して、裁きを受け入れる覚悟をクー様と長男に告げた。
「同じ状況ならばクーも同じ行動をするだろうて」「お前は家族を守ろうとしたんだ」
だが、クー様も長男もそんな俺を理解し、許してくれた・・・
その言葉は、俺の心に深く深く突き刺さった・・・俺は号泣しながら、今まで感じていた苦しかった事、辛かった事を全部、ふたりにぶちまけた。
「我らは、仲間ではなイカ?」
クー様は、そんな俺を仲間だと言ってくれた・・・何と懐の深い方なのだろうかと・・・
「お前だけじゃないぞ・・・オレもそうだよ」
長男から出たのは、信じられない一言だった・・・お前が俺と一緒だって?
「ずっと重荷を背負って来た・・・弱音を吐きたかった・・・でも、ひとりで頑張る、お前の姿が俺に力をくれたんだ」
どういう事か話を聞くと、どうやら長男は、以前、孤独に戦い続けていた俺を見ていたらしい。
「孤高に戦うお前の姿は、オレの理想の姿だった・・・正直、その強さと姿に憧れていた・・・だから、自分も頑張れたんだ・・・一緒に戦える事が、嬉しかったんだ・・・」
長男は、真っすぐに俺を見つめて、そう言った。
「これからは、オレの弱音も聞いてくれるか?・・・これからも、共に戦ってくれるか、親友よ?」
友は、そう言って、手を差し出してきた。
握り返したその手は、「ひとりじゃない」と告げて来て、今までの心の重みを軽くしてくれた。
狭くなっていた視野が広がり、ずっと前を走り続けてたと思ってた長男は、俺と同じ場所にいた事が分かった。
「・・・ああ、もちろんだとも、心の友よ!・・・俺たちの戦いはこれからだ!」
お互いに強く相手の手を握り合う・・・そんな奴が背中を預けてくれるのなら、自分は折れたり出来ないだろう?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・その後、俺たちは弱音や愚痴だけでなく色んなことを話した。
そして、今、命を懸けるこの戦場で、俺たちは、親友から戦友となり、一緒に戦い続ける・・・
肉体の限界は、もうとっくに超えているが、気力を奮い力一杯、ふたりで必死に抵抗していた。
「ミコ様と妹さんは、どうなっただろうか・・・ナナシ様は、何をなさっているのだろう・・・おりゃっ!」
夜の闇は深く、未だ朝日が訪れることは無い・・・その背中が、弱気な発言を見せた。
「ここからだと何とも分からんな・・・ナナシ様、ミコ様か・・・ふんっ!」
・・・まず、ナナシ様のことを思い返してみる・・・
最初に会った時から、まさに「神」と呼ぶに相応しい力を持った方だった・・・あの指導者との件で戦われている姿を拝見したが・・・
あれは遊びの様なモノ・・・その実力の一角も見せておられなかっただろうが・・・凡庸な我々とは、一線を画す孤高の存在なのだと思えた。
・・・それよりも自分が警戒するのは、もう一方のあの御子様という名のヒトガミ様だった。
あの指導者をバラバラにした事といい、ナナシ様以上に危険なモノが、その皮の奥に潜んでいる・・・弓使い・・・狩人として培われた俺の本能が訴えている・・・そういえば・・・
「お前の一番下の妹・・・あれは、いい狩人になるぞ?俺の直感が告げている・・・失せろっ!」
おそらく、自分と同じモノを感じ取ったのであろう・・・幼いのに、その素質は俺以上のモノがあるのかも知れない。
「はぁ?、何の冗談だ?・・・妹は、戦いのたの字も知らない素人だぞ?・・・どっせーい!」
長男は、真面目に取り合う気が無かっただろうが、俺の直感は確かに告げている・・・
「ふぅ、この感覚は、狩人としての本能を持たぬ者には分からないだろう・・・研ぎ澄まされた直感を持つ者にしか理解出来ないものなんだよ。直感を持つ者にしかな・・・しつこい奴等だ、消えろっ!」
・・・俺ひとりでは、とっくの昔にやられていただろうが、流石は頼りになる戦友だ・・・何とか合流した長男と俺は次々と襲い来る、這い寄るモノを放り投げたり、屋根から突き落として排除しながら、会話していた。
(妹か・・・頼れるコイツなら大事な妹を任せられる・・・だが、物事には順序が大切だ・・・)
俺の自慢の世界一、気立ての良い可愛い優しい、他人をほめ思いやり、責任感と行動力のある、いつも頑張っている至上で最高の妹・・・ずっと手元に置いておきたい本心ではあるが・・・俺の心の中では、そう決まって・・・
「妹と言えば・・・実はオレ、お前の妹さんと神様の前で、結婚の約束をしたんだ・・・うぁわぁ!?」
ヒュゥン!・・・ドス!・・・ボテ・・・ゴロゴロゴロ・・・パカーン!!!
今のは、その男めがけて放った矢が残念なことに、ちょうど出て来た黒いモノに刺さって、それが屋根から転がり落ちて、下にいた這い寄る者たちをなぎ倒した音だ。
「ちぃっ!・・・今度は、外さん!」・・・次の矢を構える。
「助かった・・・って、ちょっと待てぇ!?弓をなぜ、オレに向ける!?というか、外さんって・・・オレ、オマエに殺される!?」
その男が、その手をぶんぶん振って、狼狽えている・・・
「マテ!・・・前に、ふたりで遊びに行く約束は、認めてくれたじゃなイカ!?」
その男は、懸命に弁明しようとしているが・・・
「それとこれとは話が別だ・・・安心しろ・・・一撃で仕留めて見せる・・・」
おそらく、今までの生涯で、これほど冷酷な声を出したことはないだろう・・・俺の狩人としての本能が研ぎ澄まされていくのを感じる・・・
「マテマテマ!・・・オレとお前は、親友ジャマイカ!?」
・・・獲物は、そう言って無駄な弁明を繰り返しているが・・・
「・・・ああ、そうだな・・・友は生き続ける・・・この俺の心の中で・・・」
片方の手で目頭を押さえながらも、キリキリと弓を引き絞っていく・・・目頭を押さえながらも、弓は獲物の位置を正確に捉える向きに合わさっている・・・次の一矢は、決して外れることが無いと確信できる!
「く、くそっ・・・完全に・・・弓使いとして覚醒している!?」
その男も狩人に狙われた獲物としての自分を自覚したのであろう・・・その顔に焦りを浮かべている。
「マテマテマテ!?・・・・異議あり!見てみろ、奴等がまた近づいて来たみたいだぞ!?」
哀れな獲物は、狩人の注意を引くための悪あがきを・・・いや、確かにイヤな予感がする!?
「・・・黒いヤツらが仲間を呼んだ?」「うん?、黒いヤツらの様子が・・・?」
俺と親友の目は、集落のそこら中から、黒い這い廻るものたちが集まっていくのを映していた・・・
「「な・・・なんと、黒い這い廻るものたちが・・・・・!?」」
黒いヤツらがどんどん融合し、大きな黒い水のようなモノに合体していく!!!
それは、俺たちの周りにいた奴等も例外では無かった・・・そして、それらは合わさり、黒い濁流のような状態になり、ごうごうと音を立て、ある一点に向けて飛び上がって行く!!!
「「あの方角は・・・神殿の方に向かっている!?」」
長男と俺は、その光景に圧倒され、そう言うだけで精一杯だった・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・黒い玉の亀裂に水色の光が吸い込まれると、またしても玉は動きを止めました。
負傷された御子(ミコ・代)様と私は、事の成り行きを見届けるしかありません。
そうして、暫くの後・・・
「・・・くしゅん!・・・誰か、ウワサして・・・あっ!?」
びしっ!・・・ばきんっ!・・・
私がくしゃみをしたせいではないでしょうが、天井に刺さっていた黒い足の全てに亀裂が走ります!
がらん!がらん!がらん!・・・びしっ!びしっ!
そして、その足が崩落していき・・・・悶え苦しむように震え、亀裂が更に大きくなっていき・・・
・・・ばりんっ!!!
そして、大きな音を立てて、黒い玉が上から真っ二つに割れます!
「やった!?我々の祈りが、奇跡を!?・・・あれはっ!?」
流石に今度こそっと思い、喜びの声を上げる私は、真っ二つに割れた玉から何かが飛び出すのを目撃しました。
「よかった!、娘ちゃん!!!・・・じゃぁ、ない・・・?」
それが解放された娘ちゃんだと思って、駆け寄ろうとした私の足が止まります・・
まるで黒い卵から産まれた白蛇のような・・・白地に水色の線が走った見事な長い布が、娘ちゃんの代わりに飛び出したからでした。
ばらばらばら・・・
布が飛び出した衝撃で千切れた大きな黒い玉の破片が、床に落ちて散らばっていきます。
ころころ・・・
いつの間に出てきたのか、元の大きさの黒い玉が、御子(ミコ・代)様の足元に転がって来ました。
すーっ・・・
不思議なことに蛇の様な長い布も、その隣に位置するかのように同じ足元に飛んで来ます。
(何だか序列を示すような・・・漆黒の刀身様が、一番ご身分が高いようで?)
両者そろって、御子(ミコ・代)様の前に佇む様子は、そんな印象を私に与えました。
その御子(ミコ・代)様が、無言で右手を黒い玉に向けられると、玉は宙に浮かんで、その掌に収まります。
そして、「漆黒の刀身」様の柄が、その玉に当てられ・・・
きぃーーーん・・・・・
玉からの反響する音が、部屋中に響き渡ります・・・中を調べている・・・そんな風に感じられました。
調べ終わったのか「漆黒の刀身」様が、力なくゆっくり下がって行きます。
今度は、「漆黒の刀身」様の剣先が、ビシッと長い布に向けられます。
すると、長い布は、その先端の部分を地面に打ち付け・・・まるで、臣下の礼のような動作・・・いえ、何か謝罪している・・・そんな様子に見えました。
「・・・、・・・・・・・・・」
その動作を確認された御子(ミコ・代)様が、私の方に振り向かれ、何か言葉を発せられました。
(左手の「漆黒の刀身」様が何故か、ぷるぷる震えていらっしゃいます?)
今だ、その瞳は閉じられ、その表情は伺い知れませんが、何故か胸騒ぎがしてきました・・・
続けて、御子(ミコ・代)様が左手の「漆黒の刀身」様を高く掲げ上げると、長い布は、それに蛇のように絡み付いていきます。
(娘ちゃんたちの事を聞きたいけど・・・まだ何かされますよね?)
まだ邪魔してはいけない・・・我慢して、そう思っていると・・・
ふらっ・・・とっとっと・・・ふらっ・・・
「・・・あっ、御子様!危ないですよ!?」
一連のやり取りを見守っていた私は、「漆黒の刀身」様を高く掲げたまま、あちら、こちらにふらふらとされている御子(ミコ・代)様の体を支えます!
多分ですが、持っているモノが予想よりも重くなって、重心が崩れた!・・・そんな風に見えました。
「漆黒の刀身」様に直接触れれば火傷する、と学習したので、御子様の身体と左手を支えようとしますが・・・
「何って重い!?御子様の左手、凄く重いですよっ!?・・・これ、無理っ!?」
とっとっと・・・どごおんっ!!!
しかし、尋常ではない重さ故、私の支えも役に立たず、大きく体勢が崩れます!
長い布が巻き付いたままの「漆黒の刀身」様が床を直撃して、これまた尋常ではない重い音を立てて、床に大きな穴が開いてしまいます!
「ああっ!?天井の穴といい、今度は床にも穴が開いて、娘ちゃんの部屋が、もっとひどい有様に!・・・うん?」
ぴっかぁーーー!
そして、長い布が巻き付いたままの「漆黒の刀身」から激しい水色の光が、辺りを輝き照らします!!!
「眩しい!目が、目が!?・・・でも、これで娘ちゃんが!?・・・あれ?」
眩しさに目がくらむ私でしたが、光はすぐに収まり・・・またまた期待した私は、辺りを見回しますが・・・特に変化は無しと思いましたが・・・
「御子様、重くなりました?変わりに、左手軽くなりましたよね?」
御子様を支えていて、そんな感触がしました・・・些細な事ですよね?
(漆黒の刀身様・・・娘ちゃんたちは、どうなりま・・・)
・・・もぞもぞ・・・「ひゃあっ!?」
支えて接触していることもあり、事の結果を「声」で尋ねようとする私の手の平が、こそばゆい違和感を訴えます!
ぴょんっ・・・のちのち・・・・ぺとっ
突然、私の手の中あった翡翠色の玉が、独りでに動き出して、御子(ミコ・代)様の頭に乗っかります!
「えっ!?この子、動くの!?」
今まで自分で動くことのない物と思っていたので、つい驚きの声を上げてしまいます!
「ただの玉とは違うのですね・・・ただの玉とは・・・」
みよ~んっ・・・ぺちぺち・・・
翠と呼ばれるモノは、その一部を伸ばすと、御子(ミコ・代)様の額を叩きます。
(起きてっと言わんばかりに?・・・もしかして、御子様の魂が戻られたのかしら?)
そう思って、御子(ミコ・代)様のお顔を拝見すると・・・今まで閉じられていた御子様の目が!?
「少しだけ開いたような気が・・・本当にうっすらと・・・まだ寝てます?」
不敬ですが、私も一緒にほほを叩いてみようかと思った、その時・・・
ぴちゃん・・・(ぞくりっ)
部屋に水の音がしました・・・我々、「海の民」は、受け継がれて来た「水」への親近感を持っています。
我々、海の民の歴史は、「水」との共存の歴史と言っても過言では無いからです。
・・・ですが、その水音は、背筋の凍るような恐怖心を私に与えます・・・それは、先ほどの「蟲」よりも強烈なモノで・・・
千切れて、床に散らばっていたはずの大きな黒い玉の破片が、いつの間にか、一つの小さな黒い水たまりを作っていました。
にゅるり
その水たまりが、姿を変えます・・・それは、今までの「黒い小さいモノ」ではありませんでした・・・
その頭には頭髪のようなものが生え、手足もすっきりと長く・・・それは、闇を凝縮したような・・・ヒトガミ様に近い姿・・・「新しい海の民」とでも言うような・・・
黒い「新しい海の民」の動きに合わせるかのように長い布が、ゆっくり「漆黒の刀身」様から離れていき・・・右手の黒い玉と並んで、宙に浮かびます。
「・・・・・・・・・・・・」
御子(ミコ・代)様が、左手の「漆黒の刀身」様を構え、鈴のような澄んだ声で何か唱え始められます・・・
すると、黒い玉と長い布から水色の光が立ち登り・・・それが、私達の周囲に満ちていきます。
そして、黒い「新しい海の民」は、ゆっくりと私たちの方にその手を向けます。
その頭髪によって、その顔は良く見えませんが・・・その手にある吸盤の形は、特徴的なクー様の吸盤と似ていて・・・
(・・・まさか・・・!?)
ばちんっ!
・・・そう思う私の目の前で、何かが弾けるような音がしました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『・・・高天原に・・・』
・・・暗闇の世界から、薄っすらと光が差し込んできます・・・それと共に何処からか聴こえてくる、鈴のような澄んだ声をぼんやりと捉えていました・・・この声と感覚は、覚えがあります・・・
『・・・大宇宙根元の・・・』
・・・以前、私が、クーを助けようとした時です・・・私の一部であった薙に身をゆだねて、神宝の力を発揮していた時のこと・・・思い出すにつれて、私の意識と身体の感覚も少しずつ鮮明になっていきます・・・
『・・・一切を産み一切を育て・・・』
・・・私の目に入る光が、像となって形を捉えます・・・前を見ると、黒い「新しい海の民」の姿がありました・・・黒い色ということは「敵」・・・薙が、魂の離れた私の身体を守り、戦ってくれていたのでしょう・・・
『・・・立所に祓い清め給い・・・』
・・・「敵」に対抗するための祝詞を奏上して、「穢れを祓い清める」・・・この「敵」は「穢れ」、「穢れ」は「敵」、だから「祓い清めない」と・・・でも、それって・・・
『・・・祈願奉ることの由を・・・』
・・・祈り・・・願い・・・私は、誰かに私の願いを言葉で伝えたはず・・・私の胸が苦しさを訴えて来ます・・・それが誰のか思い出せず・・・薙の今の行動が「良いこと」なのか、疑問をもたげてきて・・・
『・・・大願を成就なさしめ給へと・・・』
・・・願いを成すこと・・・そして、私は、その誰かの思いを聞いたはず・・・「誰か」と一緒に何かしようと「約束」して・・・薙は私の一部、「悪いこと」はしないと信じて・・・いいはずなのに・・・何故か・・・
『・・・恐み恐み白す!!!』
天上に届くかのような高らかな声が・・・奏上の「終わり」を伝える『言霊』が、部屋中に響き渡り・・・
そして、薙の先端から放たれた水色の光が凄まじい奔流となり、黒い「新しい海の民」をまるで「いなかった」かの様に易々と突き抜け・・・
その奔流は止まることなく、その奥の部屋の窓・・・いえ、部屋の壁、天井全てを突き破って行きます・・・
まるで強制的に、その部屋自体を「なかったこと」として消し飛ばすように・・・
その全てを「穢れている」と否定し、拒絶するように・・・
がらがらがら・・・
光が通過した後の崩壊した部屋の壁、天井から瓦礫が床に落ちてきます・・・
今日まで私が引きこもっていた部屋です・・・
今は、部屋として使えないほど無残な状態になってしまいました。
ひらひらひら・・・
その威力で飛ばされてきたのか、一枚の紙が、私の足元に落ちてきました。
いつの間にか、薙から解放された私は、その紙を右手で拾い上げてみます。
紙は、ぼろぼろでしたが、何とか見える状態です・・・それは、見覚えのある、描きかけの絵でした。
・・・その絵を描いた主が、もともと使っていた部屋は、無残な状態になってしまいました・・・
もう、その主が、二度と使うことは出来なくなってしまいました・・・
もう、その主が、その絵を完成させることは出来なくなってしまいました。
『穢れは、祓い清めねばならない・・・ごめん、こうするしか方法が無かったんだ』
薙の声は、「私」以外には聞こえません・・・それは謝罪の声でしたが・・・
それは元々、私の一部だったのに・・・私が信じられなくて・・・もう触れているのが嫌で・・・左手から、それを手放し・・・自分がやった光景を目に映します。
壁を吹き飛ばしたことで、ぽっかりと空いた大きな穴から目に映る外の景色は、何刻も知れぬ夜の闇が広がっていました。
何故か、私の胸の奥にも、ぽっかりと大きな穴が空いてしまって、何をする気にもなりません。
「・・・御子様・・・?」
私の後ろから声が聞こえてきます。
その声の波に、びくりと震え・・・絵を拾い上げた私の右手が、膝が、身体中が、目に見えない波が来たかのように、続けて震えを訴えてきます。
薙が、私の身体を使った反動でしょうか・・・
・・・いいえ、その理由は、分かっています・・・
自分が犯した過ちが・・・その罪の意識から来る、恐れの感情が・・・悲しみが・・・
後ろからの声が、また聞こえてきます・・・
「娘ちゃんは、どこですか?」と・・・
親友<っは・・・し、静まれ・・・俺の弓よ・・・怒りを静めろ!!
長男<さすが親友!オレができない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる!あこがれるゥ!
娘<おにいちゃんたち、なかよしなんだね?
クー<育て方を間違ったか、それとも責任感の反動が来たのかのう?
@<ついカッとなってやった、今は反省している。
お姉さん<シリアスかと思ったらギャグで、ギャグかと思ったら、どシリアス・・・ツッコミが大渋滞ですね(汗)
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
ブックマークやコメント、誤字脱字、こうしたらいいよ、これはどうかな?、何でもお待ちしております。