表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バツイチ鬼道少女と心臓外科医  作者: かぐつち・マナぱ
バツイチ鬼道少女と心臓外科医 第2章 『創世記戦争』
31/60

第1話 『新しい海の民と竜王』⑫放たれる、その行方は

@<今回は、サブキャラメイン回・・・書いてて凄く楽しかったんや・・・

薙<・・・(訳:頑張るよ)

ミコ<私も出番ありますよ!

ぴちゃり・・・ずりずりずり・・・ぴちゃり・・・ずりずり・・・


いつまでも尽きること無く、打ち返し打ち寄せる黒い波のように・・・俺たちの周囲に這い廻る黒いモノたちが、ひしめき合っていた・・・もう、逃げ場は無い。


妹たちと別れた後、今まで何とか生き延びて、神殿近くの建物の屋根に陣取っていたが・・・遅かれ早かれ、最後の時を迎えるのも時間の問題だろう。


唯一、抵抗する手段である背中の矢も、最早、四本しか残っていなかった。


さんざん駆けずり回り、服は破け、体中に打ち身や泥だらけで、全身が悲鳴を上げている・・・肉体の限界は、もうとっくに超えているだろう・・・弓を構える力もない・・・精神力で何とか立っている様なものだ。


眼下の黒い波が足場を、身体を支える精神力を、ごりごりと削っていく・・・


(疲れた・・・とりあえず、座りたい・・・)


そう思う背中に何かが当たる感触がした。


「どうした、親友よ?、もう諦めるのか?・・・オレは諦めないが?」


その背中の感触は、自身も相当疲労していると思うが、不断の意思を伝え、そう話し掛けて来た。


「・・・お前が戦う限りは、俺も共に戦う・・・前に、そう言っただろう?戦友よ!」


その背中に応えるのは、あの時、互いに誓った言葉だ・・・お互いの背中にかかる力が均等になり、身体を支える足が少し楽になった気がする。


そして、腕には弓を構える力が戻ってきた・・・前の俺とは違う・・・俺には共に戦う友がいる・・・その存在が、俺に力をくれた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・俺は、幼い頃より父から弓を教えられ、今までずっと弓を扱ってきた。


自分で言うのも何だが、俺より上手い者がいなかったから、必然的にずっと弓使いを任されていた。


弓を扱う者は、いつも集中して標的を狙う必要があり・・・孤独だった・・・


ある日、成長して正式に聖域の守り人に任命された俺は、それでも変わらない生活を送るのだろうと思っていた。


常に何かを狙い、孤独に戦い続けていた俺は、それが当たり前だと思っていた。


『みんなを引っ張らなきゃいけない』『誰よりも頑張って皆を守らなきゃいけない』


・・・同じ時期に任命された、そんな言葉を放つ奴に出会うまでは・・・


今、感じる背中は、そんな重圧を生まれた時から背負い、その事から背を向けず、誰にも弱音を吐かない存在・・・大司祭クー様の「長男」だった。


互いに名乗り合った日から様々な事を分け合い、共に苦難を乗り越え・・・ふたりとも通った道は同じはずなのに・・・気が付いたら俺よりも先を走っている気がして・・・絶望した。


走っても走っても、その距離は縮まらない・・・


今まで誰かと比較されて生きて来なかった俺は、無意識のうちに長男と自分を比較して、その度に落胆した。


(俺は、こんな事も出来ないのか・・・俺は、聖域の守護者に向いていない)


そう思う心に蓋をして、吸盤を見せ合い、絆を深め合った友・・・必死に長男と仲の良いフリをしていた。


・・・いずれ死んだ時は、軟骨を拾ってくれと言い合った仲でもあるのに・・・


そんな矛盾した毎日を送っていた俺は、その心の弱さ故に、悪事に加担してしまった。


大切な家族を人質にされたとは言え、そんな長男を俺は裏切ってしまった・・・父親たる大司祭クー様の命を危険にさらしてしまったのだ・・・


ヒトガミ様の助けを経て、無事、事件は解決されたが、罪を犯した俺は、聖域守護者を辞して、裁きを受け入れる覚悟をクー様と長男に告げた。


「同じ状況ならばクーも同じ行動をするだろうて」「お前は家族を守ろうとしたんだ」


だが、クー様も長男もそんな俺を理解し、許してくれた・・・


その言葉は、俺の心に深く深く突き刺さった・・・俺は号泣しながら、今まで感じていた苦しかった事、つらかった事を全部、ふたりにぶちまけた。


「我らは、仲間ではなイカ?」


クー様は、そんな俺を仲間だと言ってくれた・・・何と懐の深い方なのだろうかと・・・


「お前だけじゃないぞ・・・オレもそうだよ」


長男から出たのは、信じられない一言だった・・・お前が俺と一緒だって?


「ずっと重荷を背負って来た・・・弱音を吐きたかった・・・でも、ひとりで頑張る、お前の姿が俺に力をくれたんだ」


どういう事か話を聞くと、どうやら長男は、以前、孤独に戦い続けていた俺を見ていたらしい。


「孤高に戦うお前の姿は、オレの理想の姿だった・・・正直、その強さと姿に憧れていた・・・だから、自分も頑張れたんだ・・・一緒に戦える事が、嬉しかったんだ・・・」


長男は、真っすぐに俺を見つめて、そう言った。


「これからは、オレの弱音も聞いてくれるか?・・・これからも、共に戦ってくれるか、親友よ?」


友は、そう言って、手を差し出してきた。


握り返したその手は、「ひとりじゃない」と告げて来て、今までの心の重みを軽くしてくれた。


狭くなっていた視野が広がり、ずっと前を走り続けてたと思ってた長男は、俺と同じ場所にいた事が分かった。


「・・・ああ、もちろんだとも、心の友よ!・・・俺たちの戦いはこれからだ!」


お互いに強く相手の手を握り合う・・・そんな奴が背中を預けてくれるのなら、自分は折れたり出来ないだろう?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・その後、俺たちは弱音や愚痴だけでなく色んなことを話した。


そして、今、命を懸けるこの戦場で、俺たちは、親友から戦友となり、一緒に戦い続ける・・・


肉体の限界は、もうとっくに超えているが、気力をふるい力一杯、ふたりで必死に抵抗していた。


「ミコ様と妹さんは、どうなっただろうか・・・ナナシ様は、何をなさっているのだろう・・・おりゃっ!」


夜の闇は深く、未だ朝日が訪れることは無い・・・その背中が、弱気な発言を見せた。


「ここからだと何とも分からんな・・・ナナシ様、ミコ様か・・・ふんっ!」


・・・まず、ナナシ様のことを思い返してみる・・・


最初に会った時から、まさに「神」と呼ぶに相応しい力を持った方だった・・・あの指導者との件で戦われている姿を拝見したが・・・


あれは遊びの様なモノ・・・その実力の一角も見せておられなかっただろうが・・・凡庸な我々とは、一線を画す孤高の存在なのだと思えた。


・・・それよりも自分が警戒するのは、もう一方のあの御子ミコ様という名のヒトガミ様だった。


あの指導者をバラバラにした事といい、ナナシ様以上に危険なモノが、その皮の奥に潜んでいる・・・弓使い・・・狩人として培われた俺の本能が訴えている・・・そういえば・・・


「お前の一番下の妹・・・あれは、いい狩人になるぞ?俺の直感が告げている・・・失せろっ!」


おそらく、自分と同じモノを感じ取ったのであろう・・・幼いのに、その素質は俺以上のモノがあるのかも知れない。


「はぁ?、何の冗談だ?・・・妹は、戦いのたの字も知らない素人だぞ?・・・どっせーい!」


長男は、真面目に取り合う気が無かっただろうが、俺の直感は確かに告げている・・・


「ふぅ、この感覚は、狩人としての本能を持たぬ者には分からないだろう・・・研ぎ澄まされた直感を持つ者にしか理解出来ないものなんだよ。直感を持つ者にしかな・・・しつこい奴等だ、消えろっ!」


・・・俺ひとりでは、とっくの昔にやられていただろうが、流石は頼りになる戦友だ・・・何とか合流した長男と俺は次々と襲い来る、這い寄るモノを放り投げたり、屋根から突き落として排除しながら、会話していた。


(妹か・・・頼れるコイツなら大事な妹を任せられる・・・だが、物事には順序が大切だ・・・)


俺の自慢の世界一、気立ての良い可愛い優しい、他人をほめ思いやり、責任感と行動力のある、いつも頑張っている至上で最高の妹・・・ずっと手元に置いておきたい本心ではあるが・・・俺の心の中では、そう決まって・・・



「妹と言えば・・・実はオレ、お前の妹さんと神様の前で、結婚の約束をしたんだ・・・うぁわぁ!?」


ヒュゥン!・・・ドス!・・・ボテ・・・ゴロゴロゴロ・・・パカーン!!!


今のは、その男めがけて放った矢が残念なことに、ちょうど出て来た黒いモノに刺さって、それが屋根から転がり落ちて、下にいた這い寄る者たちをなぎ倒した音だ。


「ちぃっ!・・・今度は、外さん!」・・・次の矢を構える。


「助かった・・・って、ちょっと待てぇ!?弓をなぜ、オレに向ける!?というか、外さんって・・・オレ、オマエに殺される!?」


その男が、その手をぶんぶん振って、狼狽えている・・・


「マテ!・・・前に、ふたりで遊びに行く約束は、認めてくれたじゃなイカ!?」


その男は、懸命に弁明しようとしているが・・・


「それとこれとは話が別だ・・・安心しろ・・・一撃で仕留めて見せる・・・」


おそらく、今までの生涯で、これほど冷酷な声を出したことはないだろう・・・俺の狩人としての本能が研ぎ澄まされていくのを感じる・・・


「マテマテマ!・・・オレとお前は、親友ジャマイカ!?」


・・・獲物は、そう言って無駄な弁明を繰り返しているが・・・


「・・・ああ、そうだな・・・友は生き続ける・・・この俺の心の中で・・・」


片方の手で目頭を押さえながらも、キリキリと弓を引き絞っていく・・・目頭を押さえながらも、弓は獲物の位置を正確に捉える向きに合わさっている・・・次の一矢は、決して外れることが無いと確信できる!


「く、くそっ・・・完全に・・・弓使いとして覚醒している!?」


その男も狩人に狙われた獲物としての自分を自覚したのであろう・・・その顔に焦りを浮かべている。


「マテマテマテ!?・・・・異議あり!見てみろ、奴等がまた近づいて来たみたいだぞ!?」


哀れな獲物は、狩人の注意を引くための悪あがきを・・・いや、確かにイヤな予感がする!?


「・・・黒いヤツらが仲間を呼んだ?」「うん?、黒いヤツらの様子が・・・?」


俺と親友の目は、集落のそこら中から、黒い這い廻るものたちが集まっていくのを映していた・・・



「「な・・・なんと、黒い這い廻るものたちが・・・・・!?」」


黒いヤツらがどんどん融合し、大きな黒い水のようなモノに合体していく!!!


それは、俺たちの周りにいた奴等も例外では無かった・・・そして、それらは合わさり、黒い濁流のような状態になり、ごうごうと音を立て、ある一点に向けて飛び上がって行く!!!



「「あの方角は・・・神殿の方に向かっている!?」」



長男と俺は、その光景に圧倒され、そう言うだけで精一杯だった・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・黒い玉の亀裂に水色の光が吸い込まれると、またしても玉は動きを止めました。


負傷された御子(ミコ・代)様と私は、事の成り行きを見届けるしかありません。


そうして、暫くの後・・・


「・・・くしゅん!・・・誰か、ウワサして・・・あっ!?」


びしっ!・・・ばきんっ!・・・


私がくしゃみをしたせいではないでしょうが、天井に刺さっていた黒い足の全てに亀裂が走ります!


がらん!がらん!がらん!・・・びしっ!びしっ!


そして、その足が崩落していき・・・・悶え苦しむように震え、亀裂が更に大きくなっていき・・・


・・・ばりんっ!!!


そして、大きな音を立てて、黒い玉が上から真っ二つに割れます!


「やった!?我々の祈りが、奇跡を!?・・・あれはっ!?」


流石に今度こそっと思い、喜びの声を上げる私は、真っ二つに割れた玉から何かが飛び出すのを目撃しました。


「よかった!、娘ちゃん!!!・・・じゃぁ、ない・・・?」


それが解放された娘ちゃんだと思って、駆け寄ろうとした私の足が止まります・・


まるで黒い卵から産まれた白蛇のような・・・白地に水色の線が走った見事な長い布が、娘ちゃんの代わりに飛び出したからでした。


ばらばらばら・・・


布が飛び出した衝撃で千切れた大きな黒い玉の破片が、床に落ちて散らばっていきます。


ころころ・・・


いつの間に出てきたのか、元の大きさの黒い玉が、御子(ミコ・代)様の足元に転がって来ました。


すーっ・・・


不思議なことに蛇の様な長い布も、その隣に位置するかのように同じ足元に飛んで来ます。


(何だか序列を示すような・・・漆黒の刀身様が、一番ご身分が高いようで?)


両者そろって、御子(ミコ・代)様の前に佇む様子は、そんな印象を私に与えました。



その御子(ミコ・代)様が、無言で右手を黒い玉に向けられると、玉は宙に浮かんで、その掌に収まります。


そして、「漆黒の刀身」様の柄が、その玉に当てられ・・・


きぃーーーん・・・・・


玉からの反響する音が、部屋中に響き渡ります・・・中を調べている・・・そんな風に感じられました。


調べ終わったのか「漆黒の刀身」様が、力なくゆっくり下がって行きます。


今度は、「漆黒の刀身」様の剣先が、ビシッと長い布に向けられます。


すると、長い布は、その先端の部分を地面に打ち付け・・・まるで、臣下の礼のような動作・・・いえ、何か謝罪している・・・そんな様子に見えました。


「・・・、・・・・・・・・・」


その動作を確認された御子(ミコ・代)様が、私の方に振り向かれ、何か言葉を発せられました。


(左手の「漆黒の刀身」様が何故か、ぷるぷる震えていらっしゃいます?)


今だ、その瞳は閉じられ、その表情は伺い知れませんが、何故か胸騒ぎがしてきました・・・


続けて、御子(ミコ・代)様が左手の「漆黒の刀身」様を高く掲げ上げると、長い布は、それに蛇のように絡み付いていきます。


(娘ちゃんたちの事を聞きたいけど・・・まだ何かされますよね?)


まだ邪魔してはいけない・・・我慢して、そう思っていると・・・


ふらっ・・・とっとっと・・・ふらっ・・・


「・・・あっ、御子ミコ様!危ないですよ!?」


一連のやり取りを見守っていた私は、「漆黒の刀身」様を高く掲げたまま、あちら、こちらにふらふらとされている御子(ミコ・代)様の体を支えます!


多分ですが、持っているモノが予想よりも重くなって、重心が崩れた!・・・そんな風に見えました。


「漆黒の刀身」様に直接触れれば火傷する、と学習したので、御子ミコ様の身体と左手を支えようとしますが・・・


「何って重い!?御子ミコ様の左手、凄く重いですよっ!?・・・これ、無理っ!?」


とっとっと・・・どごおんっ!!!


しかし、尋常ではない重さ故、私の支えも役に立たず、大きく体勢が崩れます!


長い布が巻き付いたままの「漆黒の刀身」様が床を直撃して、これまた尋常ではない重い音を立てて、床に大きな穴が開いてしまいます!


「ああっ!?天井の穴といい、今度は床にも穴が開いて、娘ちゃんの部屋が、もっとひどい有様に!・・・うん?」


ぴっかぁーーー!


そして、長い布が巻き付いたままの「漆黒の刀身」から激しい水色の光が、辺りを輝き照らします!!!


「眩しい!目が、目が!?・・・でも、これで娘ちゃんが!?・・・あれ?」


眩しさに目がくらむ私でしたが、光はすぐに収まり・・・またまた期待した私は、辺りを見回しますが・・・特に変化は無しと思いましたが・・・


御子ミコ様、重くなりました?変わりに、左手軽くなりましたよね?」


御子ミコ様を支えていて、そんな感触がしました・・・些細な事ですよね?


(漆黒の刀身様・・・娘ちゃんたちは、どうなりま・・・)


・・・もぞもぞ・・・「ひゃあっ!?」


支えて接触していることもあり、事の結果を「声」で尋ねようとする私の手の平が、こそばゆい違和感を訴えます!


ぴょんっ・・・のちのち・・・・ぺとっ


突然、私の手の中あった翡翠色の玉が、独りでに動き出して、御子(ミコ・代)様の頭に乗っかります!


「えっ!?この子、動くの!?」


今まで自分で動くことのない物と思っていたので、つい驚きの声を上げてしまいます!


「ただの玉とは違うのですね・・・ただの玉とは・・・」


みよ~んっ・・・ぺちぺち・・・


すいと呼ばれるモノは、その一部を伸ばすと、御子(ミコ・代)様の額を叩きます。


(起きてっと言わんばかりに?・・・もしかして、御子ミコ様の魂が戻られたのかしら?)


そう思って、御子(ミコ・代)様のお顔を拝見すると・・・今まで閉じられていた御子ミコ様の目が!?


「少しだけ開いたような気が・・・本当にうっすらと・・・まだ寝てます?」


不敬ですが、私も一緒にほほを叩いてみようかと思った、その時・・・



ぴちゃん・・・(ぞくりっ)


部屋に水の音がしました・・・我々、「海の民」は、受け継がれて来た「水」への親近感を持っています。


我々、海の民の歴史は、「水」との共存の歴史と言っても過言では無いからです。


・・・ですが、その水音は、背筋の凍るような恐怖心を私に与えます・・・それは、先ほどの「蟲」よりも強烈なモノで・・・


千切れて、床に散らばっていたはずの大きな黒い玉の破片が、いつの間にか、一つの小さな黒い水たまりを作っていました。


にゅるり


その水たまりが、姿を変えます・・・それは、今までの「黒い小さいモノ」ではありませんでした・・・


その頭には頭髪のようなものが生え、手足もすっきりと長く・・・それは、闇を凝縮したような・・・ヒトガミ様に近い姿・・・「新しい海の民」とでも言うような・・・


黒い「新しい海の民」の動きに合わせるかのように長い布が、ゆっくり「漆黒の刀身」様から離れていき・・・右手の黒い玉と並んで、宙に浮かびます。


「・・・・・・・・・・・・」


御子(ミコ・代)様が、左手の「漆黒の刀身」様を構え、鈴のような澄んだ声で何か唱え始められます・・・


すると、黒い玉と長い布から水色の光が立ち登り・・・それが、私達の周囲に満ちていきます。


そして、黒い「新しい海の民」は、ゆっくりと私たちの方にその手を向けます。


その頭髪によって、その顔は良く見えませんが・・・その手にある吸盤の形は、特徴的なクー様の吸盤と似ていて・・・


(・・・まさか・・・!?)



ばちんっ!



・・・そう思う私の目の前で、何かが弾けるような音がしました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 『・・・高天原たかあまはらに・・・』


・・・暗闇の世界から、薄っすらと光が差し込んできます・・・それと共に何処からか聴こえてくる、鈴のような澄んだ声をぼんやりと捉えていました・・・この声と感覚は、覚えがあります・・・



 『・・・大宇宙根元だいうちゅうこんげんの・・・』


・・・以前、私が、クーを助けようとした時です・・・私の一部であったなぎに身をゆだねて、神宝かんだからの力を発揮していた時のこと・・・思い出すにつれて、私の意識と身体の感覚も少しずつ鮮明になっていきます・・・



 『・・・一切を産み一切を育て・・・』


・・・私の目に入る光が、像となって形を捉えます・・・前を見ると、黒い「新しい海の民」の姿がありました・・・黒い色ということは「敵」・・・なぎが、魂の離れた私の身体を守り、戦ってくれていたのでしょう・・・



 『・・・立所にはらい清めたまい・・・』


・・・「敵」に対抗するための祝詞のりと奏上そうじょうして、「けがれをはらい清める」・・・この「敵」は「けがれ」、「けがれ」は「敵」、だから「はらい清めない」と・・・でも、それって・・・



 『・・・祈願きこしめしてこいねがいたてまつることのよしを・・・』


・・・祈り・・・願い・・・私は、誰かに私の願いを言葉で伝えたはず・・・私の胸が苦しさを訴えて来ます・・・それが誰のか思い出せず・・・なぎの今の行動が「良いこと」なのか、疑問をもたげてきて・・・



 『・・・大願だいがん成就じょうじゅなさしめたまへと・・・』


・・・願いをすこと・・・そして、私は、その誰かの思いを聞いたはず・・・「誰か」と一緒に何かしようと「約束」して・・・なぎは私の一部、「悪いこと」はしないと信じて・・・いいはずなのに・・・何故か・・・



 『・・・かしこかしこもおす!!!』


天上に届くかのような高らかな声が・・・奏上そうじょうの「終わり」を伝える『言霊ことだま』が、部屋中に響き渡り・・・


そして、なぎの先端から放たれた水色の光が凄まじい奔流ほんりゅうとなり、黒い「新しい海の民」をまるで「いなかった」かの様に易々と突き抜け・・・


その奔流ほんりゅうは止まることなく、その奥の部屋の窓・・・いえ、部屋の壁、天井全てを突き破って行きます・・・


まるで強制的に、その部屋自体を「なかったこと」として消し飛ばすように・・・


その全てを「けがれている」と否定し、拒絶するように・・・



がらがらがら・・・



光が通過した後の崩壊した部屋の壁、天井から瓦礫が床に落ちてきます・・・


今日まで私が引きこもっていた部屋です・・・


今は、部屋として使えないほど無残な状態になってしまいました。



ひらひらひら・・・



その威力で飛ばされてきたのか、一枚の紙が、私の足元に落ちてきました。


いつの間にか、なぎから解放された私は、その紙を右手で拾い上げてみます。


紙は、ぼろぼろでしたが、何とか見える状態です・・・それは、見覚えのある、描きかけの絵でした。


・・・その絵を描いた主が、もともと使っていた部屋は、無残な状態になってしまいました・・・


もう、その主が、二度と使うことは出来なくなってしまいました・・・


もう、その主が、その絵を完成させることは出来なくなってしまいました。



けがれは、はらい清めねばならない・・・ごめん、こうするしか方法が無かったんだ』


なぎの声は、「私」以外には聞こえません・・・それは謝罪の声でしたが・・・


それは元々、私の一部だったのに・・・私が信じられなくて・・・もう触れているのが嫌で・・・左手から、それを手放し・・・自分がやった光景を目に映します。



壁を吹き飛ばしたことで、ぽっかりと空いた大きな穴から目に映る外の景色は、何刻も知れぬ夜の闇が広がっていました。


何故か、私の胸の奥にも、ぽっかりと大きな穴が空いてしまって、何をする気にもなりません。



「・・・御子ミコ様・・・?」


私の後ろから声が聞こえてきます。


その声の波に、びくりと震え・・・絵を拾い上げた私の右手が、膝が、身体中が、目に見えない波が来たかのように、続けて震えを訴えてきます。



なぎが、私の身体を使った反動でしょうか・・・


・・・いいえ、その理由は、分かっています・・・


自分が犯した過ちが・・・その罪の意識から来る、恐れの感情が・・・悲しみが・・・



後ろからの声が、また聞こえてきます・・・



        「娘ちゃんは、どこですか?」と・・・

親友<っは・・・し、静まれ・・・俺の弓よ・・・怒りを静めろ!!

長男<さすが親友!オレができない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる!あこがれるゥ!

娘<おにいちゃんたち、なかよしなんだね?

クー<育て方を間違ったか、それとも責任感の反動が来たのかのう?

@<ついカッとなってやった、今は反省している。

お姉さん<シリアスかと思ったらギャグで、ギャグかと思ったら、どシリアス・・・ツッコミが大渋滞ですね(汗)


拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!

ブックマークやコメント、誤字脱字、こうしたらいいよ、これはどうかな?、何でもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いずれ死んだ時は、軟骨を > 軟骨なのか!? 海産物…………軟骨…………開いて、干したい……、う、頭が! 友は生き続ける・・・この俺の心の中で > つまり殺す気満々。見事にシスコンだね(≧▽≦) 絶…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ