第1話 『新しい海の民と竜王』⑦ぬくもりに別れを告げて
@<お待たせしました!「薙」の出番ですよ!
薙<・・・・(訳:僕は、無生物だから喋らないよ)
お姉さん<では、代わりまして・・・最初は、前話からの続きになります!
ミコ<そして、途中で私のターン!
お姉さん<また戻って、私と薙様の話でターンエンドになります!
・・・じゅわぁっ
御子様が切断されて、びちびちと床を跳ねていた黒い触手が、消滅しました・・・
その跡には何も残っていません・・・まるで元々、存在しなかったかのように・・・
こちらを警戒するかのように黒い玉は、先ほどまで伸ばしていた触手を一旦戻して、元の玉の姿のまま動かなくなりました・・・大きいままですが・・・
対する御子様も相手の出方を伺われているのか、「漆黒の刀身」を構えられたままです・・・
「・・・御子様、ありがとうございます・・・危ないところでした・・・意識を取り戻されてよかった・・・」、私も警戒しながら、御子様の後ろに控え、話しかけます。
御子様が握られている見事な「漆黒の刀身」・・・突然、現れたようでしたが・・・
私達では何とも出来なかった、あの「黒い水」を消滅させることが出来るとは・・・流石は、ヒトガミ様と感服いたします。
(あの黒い玉をその剣で切っていただければ、事態を解決することが可能かも・・・でも・・・)
「御子様、お気を付け下さい・・・娘ちゃんが・・・えっ?」、話しかけた御子様のお顔・・・その瞳は、閉じられたままだったのです。
驚く私の方に何故か、その「漆黒の刀身」を向けられ・・・えっ?私、切られます?・・・
いえ、そうでも無い?・・・その剣を上下する動作をされて・・・
御子様の「声」が、聞こえないので、いまいち意味がわかりません・・・新たな作戦でしょうか?
「御子様、何でしょうか?」
そう言って私は、御子様の空いている左手に触り、いつものように会話をしようとして・・・寒気を感じて、直ぐに手を離します!
私が触った御子様から伝わって来たのは、いつもの優しい感触とは程遠い異質なモノでした!
選ばれた者しか触れてはならない・・・触れたモノは、容赦なく切り捨てるような鋭利さ・・・
恐ろしく冷たく堅い・・・生き物とは思えない、異質な冷徹さが伝わってきたのです。
(これは絶対に御子様じゃない!?全然、別の何かが、御子様の中に!?)
ひゅん・・・
動揺する私の耳が、風切り音を捉えました。
ぼとぼと・・・びちびちびちびち・・・
・・・続けて、床に数本の黒い触手が落ちてきて、また跳ねていました。
いつ黒い触手が伸びてきて・・・また、それをいつ御子様の体を借りたモノが、切り捨てたのか・・・私の目では捉えることが出来ませんでした・・・
(御子様は、あの黒い玉に皆の魂が囚われていると言われました・・・
では、本物の御子様は・・・御子様の魂は、あの玉の中に・・・?)
そう考える私に「漆黒の刀身」が、それを肯定するかの様に「黒い煌めき」を示しました。
・・・私が、御子様と接した時間は、そう長くありませんが、娘ちゃんと同じような寂しさを御子様から薄々感じていました・・・
決して、「寂しい」とは口に出されませんでしたが・・・
(何と言うことでしょう・・・寂しいという気持ちを利用されて・・・)
じゅわぁっじゅわぁっ
また切断された触手が蒸発して・・・ゆっくりと黒い玉から複数の触手が伸びて・・・捕まえるための形であった触手が、鋭い刃のような形状に変わっていきます・・・
御子(ミコ・代)様が無言のまま、「漆黒の刀身」で下がる様に合図されます・・それぐらいは、理解できます・・
(そこで、この方が、御子様の代わりに?・・・守って下さったから、良い方ですよね?)
まだ寒気が収まりませんが・・・私はそれに従い、ゆっくりと後ろに下がり・・・
びゅっという風切り音を立てて、鋭い触手がこちらに迫ります!
キンッ!キンッ!キンッ!
部屋の中に硬い物同士が打ち合う音と、火花が舞い散ります!
黒い刃は、四方八方から御子(ミコ・代)様を襲います!
しかし、御子(ミコ・代)様は、それを見事に切り返し、反らし、打ち返していかれます!
(何て動きを・・・剣の得意な長男さんでも、こんな動きは・・・!?)
その全ての動作に一切の乱れなく、漆黒の光跡を魅せる舞踏のようで・・・私は、瞬きすら出来ず・・・
ばんっ!!!
しかし、瞬きをしていないはずの私の目から御子(ミコ・代)様の姿が、消え失せます!
先ほどまで、御子(ミコ・代)様がおられた部分の床が、大きくへこんで・・・
どすどすどすどす!!!!
そこに遅れて、黒い複数の刃が突き立てられますが・・・無論、そこには御子(ミコ・代)様はおられず・・・
次の瞬間、御子(ミコ・代)様が、その黒い橋を渡って、間合いを詰められて!
しゃきんっ!
更に黒い橋を新たな足場として背面で跳躍!・・・跳躍中に漆黒の光跡が円を描き、その橋を全て切り落とし!
跳躍と回転の力を合わせ、黒い玉の本体に向けて、その小さな身体ごと当てるかのような勢いで、その「漆黒の刀身」を振り降ろされます!!!
がきんっ!!!ぴしっ!・・・じゅわわわわっつ!!!
・・・その間、一瞬の事で、音の方が後に響いてきて・・・
(凄い!・・・やった、これで!?)、私は、御子(ミコ・代)様の勝利を確信するのでした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・淡い桃色の花が、か細い枝にも力強く咲いており、それが幾重にも重なり、優美に咲き誇っていました。
しかし、その優雅さは、大地にしっかりと根を張り巡らせて、何年もかけて培ってきた命の証を示しています。
何とも心地よい気分でした・・・じんわりと温かい気持ちが、胸に込み上げてきました。
「もう、ずっと一緒だ、・・」「もう、どこにも行かないでね、・・」
私を抱きしめてくれる二人を見上げると、とても優しい笑顔を、慈愛に満ちた眼差しを注いでくれていました。
満開の八重桜の下、私はお父様とお母様に優しく抱きしめられていました。
枝の先からは新緑の芽が吹き出でて、新しい命の始まりを告げ、風が吹けば花びらが、優雅に舞い踊っています。
穏やかに晴れた春の陽気が、ふたりから贈られる愛情が、ぽかぽかと私を包み、何もかも満ち足りた『夢』を見せてくれていました。
・・・そう、『夢』です・・・「今の私」は、これを『夢』と分かってしまったのです・・・
(ここには、お父様とお母様がいるよ?・・・ずっと、このままでいいよね?)
・・・「人間の私」の部分がこのまま、この幸せに浸っていようと言ってきます。
その言葉に私は、「人間の私」の記憶を思い出して、こう感じていました。
((・・・寂しさを口に出すことは出来なかった・・・それよりも務めを果たすべき、と周囲からの期待もありましたから・・・))
・・・「人間の私」は、その生まれの立場上、普通の子供とは違いましたから。
(寂しかったよね?・・・二人が、私の寂しさを埋めてくれるよ?)
その二人が、愛情を込めるように、更に私を強く抱きしめてくれます・・・とても温かいのです・・・
その抱擁が、とてもとても心地よく・・・私の胸に沸き上がってくる「幸せ」を感じていました。
・・・「人間の私」は、純粋に「その幸せ」を望んでいるからでしょう。
「人間の私」から続く、「今の私」は、まだ六歳の子供でしかなく・・・寂しさを抱え、それを満たすための「親からの愛情」を強く求めているのだと感じていました。
「私の魂」が「人間の私」だけであったならば、この『夢』を都合の良い『現実』として捉え、その幸福感から抜け出すことなく、ずっと捕らえられていたことでしょう・・・
しかし、その一方で、もう「一人の私」・・・「化け物」の私が、冷たく告げてくるのです・・・
(状況をよく見よ・・・これは有り得ぬことと理解しているはず・・・人の感情に惑わされるな・・・我は蛇である・・・化け物なのだ・・・)
「蛇の私」の部分が冷たく、これが『夢』であると告げてきます・・・人を否定せよと・・・
「どうしたんだい、・・?」「そうですよ、・・?」
二人は、敏感に私の思いの変化を感じたのか、慈愛に満ちた眼差しと、愛情に満ちた声で問いかけてきます。
しかし、その言葉の最後が・・『呼びかける言葉』が、どうしても聞き取れないのです・・その言葉とは、おそらく・・私が、無くしてしまったもの・・・
満ち足りたはずの胸が、ざわざわした波を打ちます・・・私は、その言葉を確認するために、二人に問いかけます。
「・・・お父様、お母様・・・お恥ずかしいことながら、私は、自分の名前を忘れてしまったのです・・・大切な方々から頂いた名前だというのに・・・本当に申し訳ありません・・・どうか、私の名をお教え下さいませんか?」
心から申し訳なく・・・温かさを与えてくれる二人に問いかけますが・・・
「名前など、どうでも良いではないか?」「えぇ、名前など無くても良いではありませんか?」
あぁ、やはり、二人は『私の名前』を呼んでくれません、答えてくれません・・・
父母二人そろって『我が子の名前』を呼ぶのをためらうでしょうか?・・・忘れるでしょうか?
その子の将来を、未来を願って付けた『大事な名前』を・・・『愛情の証』としての名を・・・
((・・・名の無い方・・・あの方は、親の愛情を受けたことが無かったのかも知れない・・・))
私の脳裏に私の命の恩人である、『名の無い方』のことが浮かび上がっていきます。
砂の様に乾いた心を持つ方・・・冷たい氷の様な心を持つ方・・・刃の様な心を持つ方・・・
((この温かさを感じたことが無いということは・・不幸なのでしょうか?))
二人から受けた温かさは、本当だったと、本物だと思っているのに・・・思っていたかったのに・・・
私は、抱きしめてくれていた『人の輪』から抜け出します・・・温かさが失われていきます・・・
((感じたことが無いということは・・もしかしたら、幸福な事かも知れませんね・・・)
それが作り上げられた幻と分かってていても・・・名残惜しい・・・悲しい・・・寂しい・・・
そう思ってしまうほどの温かさが、失われていくことを感じていました。
((こんな喪失感を感じなくて済むのなら・・・だから、ナナシ様は、詮索するなと・・・関わるなと言われるのでしょうか・・・?))
二人は、その腕から離れる私を引き留めようと、こちらに腕を伸ばしてきます。
(どうして!?・・・行かないでよ!・・・もう、化け物って呼ばれることもないんだよ!?)
「人間の私」も、引き留めようと必死に訴えてきます・・・
((なぜ、「化け物」と呼ばれた事が、こんなに辛かったのか・・・「人間の私」の心が、魂が、訴えていたのですね、傷付いていたのですね・・・))
「・・・申し訳ありません、お父様、お母様・・・私は、ここから出て行かねばなりません・・・」
正直に言うと、またその腕の中に抱きしめて欲しい、と葛藤しながらも私は、二人に告げます。
「何を言ってるんだい、・・?」「そうですよ、・・?」
二人は、「慈愛」に満ちたような声を伝えて、私に聞こえない「私の名」を呼びますが・・・
(愛情など、心など理解できるはずがない・・・人の輪の中では、生きて行けぬのだ・・・あの時と同じ言葉をまた浴びせられるだけだぞ?、化け物と・・・)
また「蛇の私」が、無情にも「人間の私」の胸にある「幸せ」を否定し、奪っていきます。
((そして、「蛇の私」の心が、魂が、「人間の私」の心を、魂を否定するために、あの夢を繰り返し見せていたのですね・・・やっと、わかりました・・「今の私」の中には、ふたつの魂が、せめぎ合っているということを・・・))
しばし瞳を閉じて、「今の私」の心の、魂の内を想います・・・
((「人間の私」は、「蛇の私」を、「蛇の私」は、「人間の私」を怖がっているのですね・・・お互いに変わってしまうことを恐れている・・・ですが、「人の温かさ」も、「蛇の冷たさ」も共に「今の私」を形作っているもの・・・))
私は、この先の未来を見て行きたいと思い、瞳を開け、しっかり前を見ます。
「だけど、私は、変わっていきたい・・・心をわかりたい・・・だから、私は「今の私」になったのです・・・「今の私」は、「今」やるべきことがあるのです!」
そう、はっきり言葉にしていくことで、「今の私」の覚悟も固まっていきます。
(・・・・・・・・・)、(・・・・・・・・)
もう、「今の私」には、「人間の私」の声も「蛇の私」の声も聞こえて来ません。
「大丈夫・・・ふたりを否定したりしないから・・・ふたりとも私の中で生きているから・・・」
(・・・コ・・サ・・ミ・・マ・ミ・・コ・・サマ・・・・御子・・・御子・・・)
「そう・・・今の私は・・・『今の私の名』は、『御子』!・・・今、この一時は、海の民の方々を助けるために・・・尽力させていただきます!」
決意を込めた眼差しで、二人を見つめます!
(・・・御子様・・・御子(ミコ様)!・・むぅ、こうなったら仕方がない・・・御子様、すいません!)
何やら声が聞こえて来たような・・・そう宣言する私に向かって、二人が阻止するかのように、その手を上げ下ろしてきます。
ぺち、ぺち・・・弱々しい音と感触を感じます。
(余りにも弱すぎて親しい者同士がじゃれあっているみたいで・・・むしろ、逆に親しみを覚えてしまいそうな・・・やったこと無いんですけどね・・・)
「えっと、どう反応したものやら・・・ですが、私は、行かねばならぬのです!」
二人に私の決心を示すため、両の拳を胸の前で、ぐっと握ります。
(・・・うーむ、駄目か・・・ならば、御子(ミコ様)、お覚悟を!)
また何やら声が聞こえて来ましたが・・・何か聞き覚えのある声ですね・・・
べち、べち、べち、べち
・・・私の前にいる二人が、確かに先ほどまでより強く叩いてきますが・・・・全然、効きませんよ?・・・ただ笑顔で叩いてくるので、ちょっと嫌かも・・・
「駄目です!止めても無駄なのですよ!・・・許しは請いません!」、否定するように頭を横に振り・・・
(・・・あぁー、これでも駄目か!・・・仕方がない!最終奥義!千手観音!!!)
またまた、何やら声が聞こえ・・・えっ、この声の主は・・・この聞きなれた声は!?
べし!べし!べし!べし!べし!べし!べし!べし!
(ちょっ!?痛い!?・・・待って、待って!?いきなり強くなりすぎ!やり過ぎ!)
二人は、いきなり、その手を八本にして、私を憎しみ込めて叩いてきますよ!?
いくらなんでも、そりゃー目も覚めますよ!?
「・・・いたい!痛いよ、クー!?」、そう叫び、がばりっと身を起こします。
「もう・・・お父様、お母様にも叩かれたこと無いのに・・・」、涙目になりながら、ぼそりと呟き・・・
・・・しっかり目を開けると、想像通り、そこには見慣れた八本手足の海の民がいました。
「良かった・・・やっと目を覚まされましたか!」、黒いものに飲み込まれたはずのクーが、嬉しそうに言いました・・・見た限りでは、何も変わりがないようで・・・
「クー、無事だったんだ、良かった!・・・でも、ここは・・・?」、クーが無事であったことに安堵し、辺りを見渡します。
私の目に移る風景は、先ほどと打って変わって・・ずっと平坦な黒い地面が続き、頭上には星の無い黒い天球が広がる世界・・・生きているモノのない寂しい空間・・・果ては見えません・・・
何処にも二人の姿はありません・・・見事な桜も、春の陽気もありません・・・
「やはり・・・夢でしたか・・・」、思わず溜息が、私の口から洩れます・・・
本当に良い夢でした・・・ずっと覚めたくないと思うような・・・目を閉じると、その光景が甦るようで・・・
「御子様!もう、また寝ないで下され!」
ばしっ!ばしっ!ばしっ!ばしっ!ばしっ!ばしっ!
勢い余って?、クーが私の頭たちを六回も叩きました・・・目を閉じたのが駄目でしたか・・・
・・・むう・・・しゃーっ!
「もう!大丈夫ですから!寝ませんから、叩かないで下さいますか!?」、ちょっと不機嫌になり、威嚇のために口をくわっと広げますよ?
「ですが、御子様、いつも叩かないと起きて下さいませんぞ?・・・そんなに起きないと御子様でなく、寝子様と呼ばれてしまいますぞ?」
しかし、そんな私の威嚇を怖がることなくクーは、平然と指摘してきて・・・私は、頭同士を突き合わせて、もじもじします・・・
「むむむ・・・確かに自分の寝起きが悪いことは一応、自覚しているのですよ?・・・昔、寝ている間に酷い目に会ったことがありましたから・・・何とかせねばっとは思うのですが・・・いかんせん、こうも頭が多いと・・・」、話しながらも、何か自分の身に違和感を感じつつ、自分の姿を確認して・・・
「・・・って、私、今、蛇!?」
その自分の目に映る姿・・・クーの大きな目に映る私の姿は・・・鬼灯のような真っ赤な目をした、一つの胴体に六つの頭、六つの尾を持つ「蛇」の「化け物」の姿・・・先ほど、神宝の鏡に映った姿で・・・
「・・・これは、私の魂の姿・・・もしかして、ここは、死返玉の中?・・・娘さんと玉を取り合って・・・魂が囚われてしまった?・・・だから、私は魂の姿になっている・・・?」
・・・囚われたはずのクーが、ここにいることなど、これまでの事を思い出すと、その可能性が高いでしょう・・・助けようとした者が、逆に囚われてしまうとは、何ということでしょう・・・ですが、それよりも気になることが・・・
ゆっくり視線をクーの方に戻します・・・
「そのようですな・・・色々試してみましたが、我々以外は皆、囚われ動くことも出来ず・・・何とかしたいのですが・・・御子様、何か手はございますか?」、そんな私に気にすることなく、顎に手を当て、思案する様子で・・・
クーは、いつもと変わらぬ態度で平然として「蛇の私」に接してくれるのです・・・
(クーの娘さんを始め・・・海の民の方々は、化け物の私を見て、怖がられてしまったけど・・・)
「クー・・・私の姿見て、怖くない?・・あの・・私、今、蛇なんだけど・・?」、複数の頭を小さく縮めて、おずおずと尋ねます・・・
クーは、きょとんっとして、「はて、なぜでございますか?・・・むしろ我々、海の民と姿が近くなった感じで、親しみが湧きますぞ?・・・ほれ~ほれ~」、本当に気にしない様子で、その手足をにょろにょろ動かします。
「・・・まぁ、確かに・・・数があるから似てるような、似てないような・・・疑って悪いのですが、本物のクーですよね?」、クーを真似て、にょろにょろ複数の頭を動かしてみます・・・久しぶりの元の体(魂?)のせいか、ぎこちない動きになりましたが・・・本物のクーか真偽が不明なので、合わせて尋ねますが・・・
「はい!間違いなく、本物のクーでございます!・・・これが証拠に!・・・画材が少ないので、彩色は出来ませぬが・・・」、クーがどこに持っていたのか、紙束と筆を取り出し、あの凄まじい勢いで絵を描き、私に渡して見せてくれます。
・・・その紙には、見事な出来で「人間の私」と「蛇の私」の二つが、そろって描かれていました。
「クーは、どちらも大切な御子様と思っておりますからな!」、その大きな目は、私の不安を読み取り、私を気遣う優しい光を宿しています・・・間違いなく私の大好きなクーです・・・間違えようがありません。
(化け物だと恐れられても・・・何も迷い、動じる必要なんて無かった・・・こんなにも私を支えてくれる者がたくさんいるのに・・・)
「・・・クー・・・ありがとう・・・」、手の代わりに左右の頭を使って、上手にクーから絵を受け取ります・・・その絵は黒一色ですが、なぜか温かさを感じるのです・・・気持ちが伝わってくるのです。
「とりあえず、先ほどから色々な物が、落ちて来まして・・・使えそうなのは、この紙束と筆と・・・あと、この鏡で・・・他には特に無く・・・」、クーが紙束と筆、そして、寝台の上に置かれていた楕円の鏡も渡してきます。
「神宝の辺津鏡かぁ・・・翠がいないけど、使えるかな?」、紙束と筆、鏡を受け取り、その鏡に念じてみますが・・・駄目です、ただの鏡のようです・・・
(せめて、外の景色が見れたり、私たちの様子を見せたりできたら良かったんだけど・・・仕方ない・・・)
「ところで、クー・・・皆さんの魂も、ここに囚われているのでしょ?どこですか?」、まずは状況確認を兼ねて、周りをきょろきょろしながら、クーに尋ねます。
「囚われた同胞たちはここです、御子様・・・クーがいくら叩いても駄目でした・・・何とか出来ますかのぅ?」、クーは、地面を示します。
「えっ?・・・下・・・?」、怪訝に思い、私が足元の黒い地面をよく見ると・・・
地面の下は、大量の液体があり、その中には手足を丸めた格好で、海の民の方々が数多く沈んでいたのです・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
御子(ミコ・代)様が、斬撃を黒い玉に打ち込みます!!!
が・・・しかし、黒い玉の上方に細かなひび割れを生じさせるだけでした・・・
(・・・あれで、それだけしか傷付かないなんて・・・何て硬さなの・・・)、驚愕します・・
御子(ミコ・代)様は、新たに本体から発生した刃を掻い潜り、また一撃を与えようとされますが・・・
ますます、黒い触手の動きは激しくなり、後退せざるを得ず・・・本体に至ることが出来ません。
激しい攻防により、御子(ミコ・代)様の衣服も切り裂かれて・・・部屋の至る所が傷付いていきます・・・
それは部屋に残された、残り少ないクー様の描かれた大事な御家族の絵であっても・・・
(・・・あの絵は・・・!?)、攻防によって生じた風が、1枚の紙を空中に舞い上がらせます。
それは大事な大事な、娘ちゃんが生まれた時の絵です・・・まだ、奥様が生きておられた時の・・・
気付いた時、私はその絵を手に取り、切り合うふたりの間にいました・・・自分の命を顧みず・・・
ぐさっ!
刃が肉を突き刺す音がしました!
ですが、その音は、私からでは無く・・見慣れぬ赤い滴が、辺りに飛び散ります!
「御子様!?」、私の前に御子(ミコ・代)様が立っておられます・・・
御子(ミコ・代)様が、私を庇って下さったのです!
ずぼっ!
黒い刃が引き抜かれ、また新たな赤い滴が飛び散り・・・御子(ミコ・代)様の右肩が、真っ赤に染まっていきます。
かしゃんっ!・・・右手を離れ、「漆黒の刀身」が床に倒れます。
「あぁ、私は何て軽率なことをっ!・・・御子様!?」
ぐらりと先ほどのように、魂が抜けた時と同じように御子様が倒れかけられ・・・抱き止めます!
・・・にょろり
ぐったり脱力した御子(ミコ・代)様と、それを抱きしめる私に複数の黒い刃が狙いを定めます・・・
ミコ<真面目な話かと思ったら・・・ヒドい起こされ方をしました・・・
クー<いやー、寝坊助なミコ様ですからな・・・ちょっと痛くしないと・・・
お姉さん<(ミコ様のケガ、まだ知られてない・・・?)
拙い作品ですが読んで頂いて、ありがとうございます。皆様の応援が生きがいです!
ブックマークやコメント、誤字脱字、こうしたらいいよ、これはどうかな?、何でもお待ちしております。