第4話 『最初の術師と海の民』①
蛇<やっと名前を名乗るのだー!
これは、とある「名無し」と「蛇」と「心臓外科医」の話。
シリアスな展開が多いですが、ちゃんと最後は「めでたしめでたし」で終わります。
貴方の記憶と心に、何か残せたらいいなぁ。
(初投稿なので何か設定おかしかったら、教えて下さい・・・)
・・・クーに名乗るはずだったのですが・・・なんということでしょう・・・
(偉大なるヒトガミ様・・御子様・・貴方様の名は、何とおしゃるのですか?)
と、尊敬の念を込めて、尋ねてきたクーに対して、私はこう言いました・・・
(・・・・・・・・・・名前を忘れてしまいました・・・・)、と。
・・・あれほど、名は体を~うんぬん言っていたはずなのに、「人間の私の名前」が思い出せません・・・
私が名を言えず当惑していると、クーが慌てて大きな体と手足をばたばた動かして、(御子様、御子様、どうされましたか?)と聞いてきます。
・・・クーを助ける時に、私は「私の魂である蛇」を使い、「魂の一部」を失うことになりました・・・
「魂」とは、精神、知識、経験、意識、そして「記憶」を司るもの・・・・
「魂を失ったこと」で、「一部の記憶を失ってしまった」のでしょう・・・
今の私には、「長い時間を蛇として過ごしてきた記憶」と「六年しか生きていない人間の記憶」があります。
しっかり思い出さないとわかりませんが、「長い時間を蛇として過ごしてきた記憶」で失った量は、元々が膨大な量なので、多分、影響も微々たるもので・・・
しかし、「六年しか生きていない人間の記憶」で失った記憶は、大切な「自分の名前」を忘れてしまうという大きなものでした・・・
「・・・はぁ~・・・」、思わず、ため息が口から洩れます・・・・
(・・なぜ、人間って、ため息が出るのでしょうか・・いえ、そんなことよりも・・)
あれだけ頑張って海の中を彷徨って、いや助けられている間、必死に守ろうとしていた、大切な「人間としての記憶」が・・・「名前」は、「自分が何者」であるか決定づける大切なもので・・・
でも、失ったのは「人間の私の名前」だけなので、まだ良し!としましょう。
むしろ、クーを助けられたことで得られた喜び、満足感に比べたら、大したものではないと思えます。
それに何か・・・人間として生きていた時に感じていた縛りが、軽くなった気がしました。
(・・・それに、他の人間に会ったら教えてもらえるかも知れませんし・・・他の人間といえば・・・)
ちらりと、「あの方」の方に目を向けます。
「あの方」は、今、あの布の上にある様々な「十種の神宝」を調べているようでした。
・・・布の名は、確か「品物之比礼」・・・他の神宝と合わせて、クーを助けてくれました。
立派な白金色の布で、特別な力があるようですが、今は、ただの布ようで、また他の神宝も大人しくしてます・・・
(クーの魂を体に戻す時、手伝ってくれましたよね?・・・冷たいけど・・・悪い人ではない?)
そう思い、「・・・あのー、私の名前ですが・・・」、遠慮がちに私の名前をご存じないか尋ねますが・・・
「知らん、興味が無い。好きなように名乗れ。あと、私の名は、ナナシだ。そう呼べ」
こちらに振り返ることもなく、一方的に伝えてきます。
「そうですか・・・」、まあ答えて下さるとは思っていなかったのですが・・・逆に、この方の名が気になります・・・
(・・・ナナシ・・・名無し・・・名を付けられていない、という意味・・・仮の名前・・・?)
(普通の人間の親なら、子の将来を願って、名をつける習わしがあるはずですが・・・)
「詮索するな」
そう思案する私を読み取ったように、ナナシと名乗った方が、冷たく切り捨てます。
・・・その簡素で短い言葉を冷たい乾いた砂のように感じてしまいます・・・その裏に何があるのか、決して知らせない・・・そのような感じ・・・寒い・・・
「くしゅん!」
・・・寒いと言えば、私、濡れっぱなしですよー!また、くしゃみ出ましたよー!
クーが心配して、(御子様、御子様、大丈夫ですか!?)と聞いてきます。
「・・・寒いです・・・火でも起こして・・・」、ぶるぶる震える私。
・・・ですが、困ったことに・・・私、「火の起こし方」知りませんから~。
・・・あんなに長い時間を生きてきたのに、お恥ずかしい・・・人間の時は、近くの誰かが火の番をしてくれましたから・・・
(ならば!クーが!)、クーが胸を張って自分が火を着けますと、すごい勢いで、薪でも拾いに行くのでしょう、どたばた砂埃を立てて走っていきます。
・・・あっと言う間に見えなくなります・・・元気ですね・・・
「火なら、今、つけた」
淡々とした言葉に振り返ると、ナナシ・・の手の上に、火をまとった赤い玉が浮いています。
(あれは・・・クーを生き返らせたた神宝とは違う物?・・・火がつけられるなんて、なんて便利なんでしょう!)
驚きと共に感心してながら、火に近づいて横からナナシを見ます。
(あったかい・・・私のために、火をつけてくれたのですよね・・・?)
火に照らされるナナシは、何の表情も浮かべず、ただ黙っているだけです。
クーを生き返らせる時、クーの魂と私の魂が交わり、クーの記憶を見ました。
クーの記憶では、ナナシは、今とは違う姿をしていました。
(蛇の私のように、何か普通の方とは違うのですよね・・・)
他にも色々ありましたが、クーの記憶には私を助けた、という記憶はありませんでした。
クーを生き返らせる時、ナナシは積極的ではありませんが、色々と手伝ってくれました。
(・・・たとえ、その行為が感情からではなく、打算だとしても・・・)
・・・海で溺れていた私を助けてくれたのは、この「名無し」でしょう・・・
「名無し」が助けてくれなければ、「今の私」は無かったのです。
私の「人間の名は無くしてしまいました」が、それを引き換えにしても、惜しくないものを手にすることができました。
(・・・受けた「恩」は、返すもの・・・名前は、大切なもの・・・)
私は目を閉じ、考え・・・そして、決めました・・・
ナナシの正面に立ち、その顔を、その瞳を見つめます。
今のナナシの姿は、私にそっくりです。
ナナシの瞳には私の姿が、私の瞳にはナナシの姿が映っていることでしょう。
・・・「名前を無くした私」と「名無しのナナシ」・・・
私は、心が見えないナナシに向けて言います。
「決めました・・・今日から私は、仮の名である、御子と名乗りましょう」
そして、強い誓約の意を込めて、こうも続けます。
「仮の名である、貴方の・・・ナナシ様の本当の名が、願いが見つかるまで、一生、お側にお仕え致します」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・詮索するな、と言われましたが・・・しかし、そこには、ナナシ様の本当の願いがあるように感じられたのです・・・
ナナシ様は、一瞬、驚かれた表情をされ、ぽろり、と火のついた赤い玉を地面に落とします。
次の瞬間には、私の首にナナシ様の手が変化した刃が突きつけられていました。
「・・・お前は、分かって言っているのか?」
その言葉には、何者も寄せ付けない強い拒絶が、深淵を覗くような様々な思いが感じられました。
「・・・今の私には、今のナナシ様しか分かりません・・・ですが・・・」
私は怯むことなく、真っすぐにナナシ様を見つめ、首に突きつけられた刃を握ります。
・・・握った刃から赤い血が滴り落ちます。
「・・・痛いけど・・・こうでもしないと、ナナシ様の手は握れませんから」
私の唇と瞳は、優しい笑みの形を作っていることが、ナナシ様の瞳を通して映ります。
私の瞳には、ナナシ様が困惑されている表情が映ります。
砂に赤い水が染みていきます・・・例え、それが意味のない事であっても・・・
ナナシ様の乾いた心の砂に、わずかでも、私の思いの水が染みこむなら・・・
「・・・勝手にしろ」
ナナシ様の手が元に戻っていきます。
戻される刃は、私の手をそれ以上、傷付けませんでした・・・
(言の葉は、言霊、言葉の霊の力・・・どうか、私とナナシ様の名が見つかりますように・・・)
そう、私は願っていました・・・
「さーて、薙が戻って、私の願いはひとつ叶いましたが、また、ふたつに戻りましたよー」、と手が痛いけど、平気なふりで言っていると・・・
(ヒトガミサマー、ミコサマー!)、とクーの声がします。
クーが大量の薪を集めて、砂埃を巻き上げ、すごい勢いで戻ってきたのです。
その量は、クーの大きさの倍はあるでしょうか・・・
・・・・(ヌァアーーー!?)
・・・・・・・盛大にこけて、薪をまき散らしていきました・・・・・
ミコ<私は、鬼道少女ミコ!私の魂あげるから使い魔になってよ!
クー<それ逆じゃぁ・・・?
ナナシ<作中に少女の記載は無いぞ、よく確認するがいい
ミコ<な、なんだってー!?
拙い作品ですが、読んで頂いて、ありがとうございます。
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