第3話 『十種の神宝(とくさのかんだから)』③
蛇<吾輩は蛇である・・・名前は・・・
これは、とある「名無し」と「蛇」と「心臓外科医」の話。
シリアスな展開が多いですが、ちゃんと最後は「めでたしめでたし」で終わります。
貴方の記憶と心に、何か残せたらいいなぁ。
「でも・・・今、一時は、お力をお貸しください・・・」、そう「薙」に「願い」ます。
・・・・・・私の持つ「薙」が、光り輝き出しました・・・・
それと呼応するように、クーの傷口を塞いでいた布が光り始め、青緑色から元の白金色に戻っていきます。
布は勝手に解けると、そこから現れたクーの傷口は、出血が止まっていました。
すぼっすぼっうぼっ
そんな音を立てて、砂に埋もれたはずの玉が光り輝きながら、私とクーの周りをぐるぐると回り始めます。
そこだけ、時が止まったように波も止まります。
布が大きく広がると、クーの体がふわりと浮き上がり、その布の上に横たえます。
(・・・うん・・・わかった・・・お願いします・・・)
「薙」から、はっきりした言葉ではありませんが、「私の身」をゆだねるように、と伝わってきたので、私は全身の力を抜くようにしました。
(・・・あ・・・私の身体、勝手に動く・・・)
「私の体」が、「薙」を掲げます。
「言の葉とは、言霊、言葉に宿る霊の力である・・・」、鈴のような澄んだ声が響く。
(・・・普段と全然違う声・・・私、こんな声出るんですね?・・・)
無意識に私の口が言葉を発していきます。
「ひふみよ いむなや こと・・・」
・・・深緑色の玉がクーの頭の方に、黒色の玉がクーの胸の方に、青色の小さな玉を数個結んだ紐がクーの足元に移動していきます。
「・・・ふるべ・・・」
・・・青色の小さな玉を数個結んだ紐が、青い光の環となってクーの足の周りで回転し始めます。
「・・・ゆらゆらと・・・」
・・・深緑色の玉が、緑の光の輪となってクーの頭の周りを回転し始めます。
「・・・ふるべ・・・」
・・・最後に黒色の玉が、黒い光の輪となってクーの胸の周りを・・・・
・・・回転しません・・・
それどころか、今まで静かに動くことがなかったクーが、苦しみ悶え始め、今まで順調に回転していた2つの輪も動きを止めてしまいます。
クーの大きな体が、布から落ちそうになってしまいます。
「いったい、何が!?・・・あっ、私の声・・・『薙』、どうしたの!?」
突然の事態に当惑する「私」は、自分の声が出ることで、「薙」から「自分の身」が返されたことを感じました。
「薙」から何か伝えてきます。
(・・ひふみ・・・・・・とくさ・・?)
(その・・・こと・・・発しろ・・・?)
せっかく伝えてくれたのですが、よく意味が理解できず、クーのこともあり焦る私に・・・・
(それらは、十種の神宝、十種類あるらしい)
冷たい声が「薙」が伝えたかったことを明確にして私に告げます。
(言葉は、力を持つ・・・それらの名を呼ぶことが、力を引き出す鍵だ)
(えっ!?・・・なぜ、そのような事を・・・)、今まで傍観していた声の主の助言に驚き、私は尋ねますが・・・
(一度しか言わん、その布は、品々物之比礼・・・)
「あわわわ、わかりました、布は品々物之比礼です!」、聞こえた通り、自分の声を出して、慌てて繰り返します。
(深緑色の玉は、道返玉、青色のは、足玉・・・)
「はい!深緑色の玉は、道返玉、青色のは、足玉です!」
私がこの方に続き、十種の神宝の名前を言うと、それぞれの光が強くなっていき、止まっていた回転もまた動き始め、クーも大人しくなってくれました。
どうやら、本当に、この方の言った通りのようです。
(でも、この方、聞き逃したら、先ほどの言葉通り、二度と教えてくれな・・・)
(・・・嫌なら、言わんが?)
初めて、この方から、むっ、としたような気配が感じられました。
(!?、しまった!目に見えぬ声では、私の思っていることも筒抜け!?)
(・・・とりあえず、今そこにある最後の黒の玉は、死返玉だ)
「は、はい!最後の黒の玉は、死返玉です!」
最後の黒色の玉が、黒い光の輪となってクーの胸の周りを回転し始めてくれました。
すると、みるみるうちにクーの傷口が綺麗に塞がり、失った手足の場所にも光が集まってきて、元の手足に戻るようでした。
クーは助かるのでしょう。
「よかったぁ!」、思わず安堵の言葉が、私の口から洩れます。
(・・・それは、どうかな?・・・しっかり見ろ・・・遅かったようだな・・・)
安堵する私に冷水を浴びせるような声がします。
よく見ると、布の上にはクーがいるのに、半透明な姿のクーがその上にいるのではないですか。
その半透明なクーの頭の先から銀色の綱のようなモノが伸びており、布の上のクーの頭につながっています。
その綱は、徐々にほつれ、糸のように細くなり切れかかっていきます。
(おそらく肉体と魂をつなぐモノ・・・それが切れれば、例え、肉体が完全であっても魂がないのだ、死ぬことに変わりはない・・・治すのが遅かったな・・・諦めろ)
声は、淡々と事実だけを述べていきます。
(そんな!?・・・)
治ると思っていたのに、またしても困難が押し寄せてきます。
「・・ひふみよ いむなや こと・・ふるべ・・ゆらゆらと・・ふるべ・・」
(どうか!お願いします!)
何か手は無いかと、クーが生き返りますように、と願いを込めて、最初に「薙」が言った言葉を繰り返してみます。
その思いに応えてくれたかのように、またそれぞれの光が強く、また回転も速くなりますが、クーの魂の糸のほつれは、止まってくれません。
(魂の糸が切れちゃう!なんとか、糸をつなぎ止めないと!?・・・なんとかできませんか!?)
声の主の方に振り返りますが、無言で頭を横に振るだけでした。
(考えろ、私!魂をつなぎとめる方法、何かできないのか!?頭をいっぱい使え!・・・頭を?・・・)
他に何かないのか必死に考える私は、その時、「蛇」であった記憶を思い出しました。
遥か遠い昔、私が「自然の気(鬼)」から生まれた時は、一匹の蛇でした・・・
ですが、その体・・・頭と尻尾は、年を経るごとに一つずつ増えていったのです。
あることで、魂の量が増えたことにより、その肉体にも変化が訪れたのです。
(魂をつなぎ直すには・・・魂を・・・?)
なぜ、魂の量が増えたのかは・・・
「・・・いけない!」
・・・クーの魂の糸が切れてしまいました。
・・・クーの息も鼓動も止まります。
・・・・・私は、覚悟を決め、決断し、行動しました・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(みんな出てきて!)
出来るかできないか、わかりませんが、そう呼びかけてみます。
目の前に不思議なことが繰り広げられているのです、何故か、できそうな気がしました。
十種の神宝の力の影響でしょうか。
・・・私の「影」から、にょろりと7匹の「影の蛇」が現れます。
「私」の「魂の量」を示し、「私」自身の「魂」を構成するモノです。
できたことに安堵する暇もなく、私は、そのうちの1匹を左手で掴みます。
(ごめんね・・・)
・・そう言って、右手の「薙」を振り上げて、その一匹に振り下ろしました・・
「影の蛇」なので、血は出ません。
ですが、苦痛を感じているのでしょう、「ぬた打ち」回ります。
その苦痛は、もちろん「私」と他の「蛇」たちも感じています。
「意識」が飛ぶほどの苦痛です。
・・・いえ、「魂」を切り落としたのですから、「魂」が飛ぶほどの苦痛が正しいでしょうか・・・
私が考えたのは、「クーの魂の糸を自分の魂の糸で、つなぎ止められないか」でした。
幸いなこと(?)に、「以前の私」は、「魂の量が8つ」もある「蛇」でしたから、もしかしたら出来るかも、と考えたのです。
本当に出来るか、確証はありませんでしたが・・・
その激痛に耐え、急ぎ、右手から「薙」を放り投げて、離れようとするクーの魂の糸に向けて跳躍し、右手で掴もうとします。
・・・掴めるか掴めないか不安でしたが、私の右手には、しっかりした感触が伝わってきます・・・
私の右手が、クーの魂の糸を掴んだのです。
「いける!」、その感触をもって、自分の考えが正解だと感じました。
いつの間にか、左手の蛇は、黒い糸に変わっていました。
そして、その黒い糸をクーの魂の糸に合わせてみます。
ものすごい違和感、記憶、知識、経験など様々なことが伝わってきます。
おそらく、「私」と「クー」の魂が混ざっているのでしょう。
頭がくらくらしますが、今度は、クーの肉体の糸の方に合わせてみます。
今度は、肉体の感覚です。
まだクーが感じる痛みがあるのでしょう、私の体も苦痛を訴えます。
(うぅーーっ、我慢、我慢!・・・絶対に離さない!)
歯を食いしばって耐え、その甲斐あって、しっかり糸が結ばれました!
「糸が触れるなら!」、結んだ糸を手繰り寄せ、クーの魂を肉体の方に引っ張ります。
「ぐぬぬぅ・・・重い・・・」、クーは、すごく長生きなのでしょう、魂は年を経る分、大きく重くなるとか、ないとか聞いたことが・・・
「・・・これを・・・戻すぅぅ!」、今度は、手繰り寄せたクーの魂自体を掴むことに成功して、クーの肉体に戻すようにします。
「・・・もう、ちょっとぉぉ!」、ほとんど魂と肉体が重なりあって来ましたが、最後の一押しが足りません。
細い私の手が、腕が、限界を訴えるように、ぷるぷると震えてきます。
今、手を、腕を離したら、もう二度とクーを戻すことはできない・・・そんな予感がしました・・・
私の額に玉のような汗が、いっぱい生まれていきます。
「・・・押せ・・・」
突然、私の両脇から綺麗な翠色の腕が出てきて、押す力を貸してくれました。
(えっ!?・・・この腕は・・・・たしか・・・あの方の腕?)
驚く私を他所にクーの魂と体が完全に一体となり、眩い光に包まれます。
余りの眩しさに目を閉じ、次に開けた時には、完全な姿のクーがしっかり息をして、ゆっくり手を動かし、布の上に立ち上がろうとしていました。
「よかった!クーが生き返った!」、私は喜びのあまり、布の上にいるクーに抱き着きますが・・・
・・・次の瞬間・・・・
・・・クーの乗っていた布が、無情にも役目は終わった、とばかりに、すーっと砂浜の方に移動します・・・
他の神宝も変化前の姿に戻ると、同様にすーっと砂浜に移動し、疲れた、とばかりに布の上にぽろぽろ、と降りていきます。
支えの無くなったクーと私は、互いに目を見合わせ、仲良く海面に着水します・・・
ばっちゃーーん!
「うっぷっ!」
大きいクーが着水したことで大きな波ができ、私はまともに頭から波を受けてしまいます。
なんやかんやで、ようやく乾いていた私の服や髪が、また水に濡れて、目の前が見えなくなります。
・・・ですが、不快ではありません、むしろ清々しいと感じました。
「ふふっ・・・ふふふふっ・・・・はははははっ」、自然と私の唇は笑みの形を浮かべ、私の口から笑い声があふれ出します。
おそらく初めてではないでしょうか、こんなに嬉しい気持ちは。
その様子を見たクーは、慌てだし、こう「目に見えぬ力の声」で伝えてきます。
(ヒトガミ様、大丈夫ですか?クーを治して、何か起きてしまいましたか!?)
それに私は、(大丈夫、大丈夫・・・クーが生き返って・・・クーを助けられたことが嬉しいんです!)と、素直に喜びを伝えます。
クーと私の魂が結びついたとき、クーの記憶も垣間見ることができました。
クーの記憶の中で、「あの方」と「私」以外の「人間」に会ったことは無い、という感触がありました。
だから、「人間の私」が、急にこんな「笑い声」を出したことに驚いたのでしょう。
私は、クーの手を取り、(人間は嬉しい時、こんな風に声を出すんだよ)って教えてあげました。
クーの大きな目が理解の光を見せ、つないだ手を通して、クーからも喜びの感触が流れて来ます。
(そうでしたか・・・クーを助けていただき、感謝の言葉もありません。この御恩は、決して・・・)
クーは、その大きな目を潤ませ、その8本の手足を広げ、頭を下げ、大きな感謝の気持ちを伝えてきます。
そして、(偉大なるヒトガミ様・・・御子様・・・貴方様の名は、何とおしゃるのですか?)、と尊敬の念を込めて「私」に尋ねてきます。
(あっ、やっと名乗れることになった・・・すごく時間がかかったような・・・まあ、いいでしょう・・・では、この人間の時に名付けられた名を・・・・)
こほんっと咳ばらいをして・・・
胸を張って、こう言いました・・・・
・・・「名前を忘れてしまいました・・・」、と・・・
クー<(君の名は?)
蛇<(忘れた!)
拙い作品ですが、読んで頂いて、ありがとうございます。
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