登山家と砂場の子供
山の頂上まで登った人が双眼鏡でふもとをみると、子供が砂場で山をつくっていた。ちらちらとこちらの山のほうを見上げている。
「かわいそうに、この高みを知らないなんて。あの子はまだ小さいから、山に登れない。だから山をつくって遊んでいるんだ。」と思った。
ところで子供のほうは、点のような登山家を見て、「かわいそうに、あの山に汗水たらして登るなんてばかげている。それより、あの山の格好いい形を砂でつくるほうが楽しい。」と思っていた。
そのとき、登山家には山の美しさはどうでもよく、子供には山の高さはどうでもよかった。
山が美しいから山に登ったのであり、山の崇高さが砂場に山をつくらせたので。