討伐の後は王子殿下とティータイム!〜病弱王子に一目惚れした超ネガティブな侯爵令嬢フィスティリアが、きっかけつくりに選んだのはS級冒険者ライセンス。殿下とお話できるなら、ドラゴンだってお相手します〜
「ごきげんよう、殿下」
「やぁ、フィスティリア。今日も………………凄いな?」
ダンジョンでのモンスター討伐後はマッハで王城に向かい、トリスターノ殿下の執務室に飛び込みます。
「そうですか?」
装備を含めた自身を見下ろしますが、今日はいつもより小綺麗にしている気がします。
パーティーメンバーが一人休んでいたので、ダンジョンは早めに引き返しました。
討伐してきた敵で一番強かったのは、ファイアドラゴンでしたが、小型だったのでそこまで苦戦しませんでした。
多少の擦り傷と返り血は浴びましたが、多少ですし?
「今日は竜だったのか!」
「ええ――――」
――――ふふっ。食いつきましたわ!
トリスターノ殿下が、執務机から身を乗り出し、オレンジ色の瞳を輝かせて『聞かせて!』といった雰囲気を出されました。
ゆっくりと紅茶を飲んだり、お茶菓子を堪能したりと、ちょっと焦らしつつ、トリスターノ殿下にダンジョンであった出来事やモンスターの様子などをお話ししました。
◆◆◆◆◆
殿下は体がお弱く、幼い頃からとにかく全てにおいて気力がありませんでした。
第三王子だったこともあり、国王陛下も王妃殿下も『本人の希望通りに過ごさせて』という対応でした。
興味あるのは冒険ものの物語のみ。
婚約者の私がどんなに話しかけようと、無視。
寝込まれたと聞いてお部屋にお伺いすると、背を向けて眠られてしまう。
体調がいい日にお茶をしても、私の顔をチラリと見ては、無視。
殿下の笑顔が見たいのに、いつも無表情か横顔ばかり。
私は、出逢った日に一目惚れしたのに……。
『殿下は、私に興味がない』
それが悲しくて、悔しくて――――。
十二歳のころ、冒険者になることにしました。
「は……? 冒険者に、なる?」
「ええ! 冒険者になり、S級ライセンスを得て、殿下に楽しいお話をお届けいたしますわ!」
――――そして、私にゾッコンになって、暫く経った頃に、こっ酷くフッてやるのですわ!
◇◇◇◇◇
計画は半ば成功しています!
この一年で王子殿下は、私にメロメロリン♪なのです!
冒険者になって五年と半年、私はマジのガチで冒険者組合のランキングでトップランカーになりました。
平民の話し方が板に付いてきていると、パーティーメンバーに褒められています。
当国は、婚約期間が十年以上経っても結婚していない場合、特別措置として本人達の希望で婚約解消ができます。
解消後に相手が見付からない場合は、国が開催するお見合いパーティーに参加できるシステムになっているのです。
そして、私達もその『特別措置』の対象になっています。
そこら辺もチラつかせて、焦らせてやるのですわ。
私の計画上では『フィリア、すまなかった。どうか私を許してくれ!』と跪き、手の甲にキスをするはずなので、そこで仕方なさそうに許して差し上げるのです!
愛称のフィリアで呼ばれたことはありませんが……たぶん、呼ぶはず。
「――――では、私はこれで失礼いたしますわね」
「あぁ……帰ったら湯殿に入れよ? ケガの手当もちゃんとしろよ?」
戦闘服だとしても礼は美しく。
それが私のポリシー。
左足を後ろ内側に引き、右膝を曲げる。
腰をスッと落とし、背筋はピンと伸ばしたまま。
「はい、ありがとう存じます」
「ん」
王城を出て馬車に乗り、ガッツポーズです。
殿下は間違いなく、私にメロメロですわ。
そろそろ、計画を進めてもいい気がします。
「あら? 今日もフルプレートアーマーさんは来られていないのですね」
「ああ、何やら忙しいらしい」
フルプレートアーマーさんは、その名の通りフルフェイスタイプの甲冑を着られています。ずっと。
顔も素性も分からず、とても寡黙な方ですが、たまにくぐもったお声でお話ししてくださいます。
そして、私よりも少しだけ強いお方です。少しだけっ!
「タンク担当の彼がいないのであれば、今日もまた深追い禁止ですわね」
「うーん。お前、アイツの正体……本当に気付いてないのか?」
「仲間内で秘密を探ったり、暴いたりするのは禁止ですわよ!」
シーフ担当の短剣使いを説教しましたら、両手を頭の横に上げてごめんごめんと軽く謝まられました。
フルプレートアーマーさん以外の仲間五人とダンジョンに行き、いつものように討伐、そして王城にある殿下の執務室へと急ぎました。
「ただいま戻りま――――あら?」
トリスターノ殿下が執務室にいらっしゃいません。
隣の休憩用の小部屋から何やらガチャガチャと金属音がします。
「殿下、何をされていますの?」
気になってノックと同時に扉を開けてしまいました。
「フィスティリア! 入るな――――!」
「もう入っていますわよ? あら、殿下も甲冑をお持ちなのですね」
「……あ…………ああ」
「まぁ、私のパーティーメンバーの甲冑とそっくりですわ」
「……おん」
どうやらフェイスガードの部分が壊れたらしく、何やら手入れをしていました。
こういったものって、自分でせずに使用人に任せるのかと思っていました。って、それはどうでも良くて。
本当にデザインも色もそっくりな甲冑です。
そういえば、彼は殿下に似たとても美しい所作をされていましたわね。
もしかしたら、彼は訳アリの貴族とかなのかもしれませんね。
「訓練でもされるのですか? また“ゼーゼー”になって寝込みますよ?」
「私を何歳だと思っているんだ。呼吸の病は既に治っている」
殿下が妙にプリプリしていますが、ほんの数年前までベッドの上の住人だったくせに。
フン、と鼻を鳴らして爆弾を投下することにしました。
「私、ヘタレた男性って、とても嫌いなのですよね。例えるなら、殿下みたいに全てを病のせいにして、嘆いて、他人の事を考えないようなお方」
「…………」
「殿下に振り向いて欲しいと思っていました。昔は。私、『長期婚約者特別措置』を使用しますわ。そして好きな方に告白します」
そう言った瞬間、殿下が足早に私に近付き、壁ドン。
巷で流行りの壁ドンです!
「……誰に?」
「へ?」
「レイノルドか? それともジャンか?」
レイノルドは魔術使い、ジャンはシーフ、どちらも私の所属するパーティーのメンバーです。
なぜに彼らの名前が…………? あ、でも、丁度いいかも。
「フルプレートアーマーさんですわ! 紳士的な振る舞いがとても素敵ですの。戦闘中、必ず前に出て護ってくださいますし、険しい道などは手を握って支えてくださいますの。ああいう方と一生を共にしたく存じます」
「っ……あ…………」
何故かトリスターノ殿下が百面相されていました。
イライラ、きょとん、困惑、にやにや、真っ赤。からの、しょんぼり。
何なんでしょう?
「そ……そうか。その、『特別措置』を使う前に“彼”がどういう人物か探るといい」
「秘密は暴いてはなりません!」
「だが、誰かわからないのだろう?」
殿下が妙に悲しそうなお顔をされています。
「……もっと頑張るから」
「へ? 何をです?」
「フィリアに気付いてもらえるよう、にだ」
殿下が何かを決意したようなのですが、よくわかりません。
いろいろと、わからんちんです。
そもそも、フルプレートアーマーさんはたしかに紳士的で素敵な方ですが、恋愛感情は持っていません。
なので、今後も正体を探るつもりはないのですが。
「はぁ……」
おかげで、気の抜けた返事をしてしまいました。
これは成功と呼べるのでしょうか?
思っていた感じで、引き止められも懇願もされませんでした。
「え?」
壁ドンのままお話ししていましたら、顎クイッもされました。
これ、巷で噂のエモい展開とかいうやつでしょうか?
――――ちゅ。
柔らかく温かいものが、頬に触れました。
「覚悟してろよ?」
「っ!?」
あれ? やっぱり引き止められてます!?
私の計画は完璧だったみたいですわね!
殿下、私にメロメロリンですわ!
「そうそう、前から思っていたが、下町言葉が異様に古いぞ」
「へ?」
あら?
下町言葉、殿下の前で出したことあったかしら――――?
―― fin ――
タイトルを頂いて、書きました。
サモアさん、楽しいお時間をありがとうございました!