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不思議な世界の日常的なお話

俺はモテる

作者: nite

 諸君、最初に言おう。俺はモテる。


 今日はバレンタインだ。高校生になってから、俺がバレンタインにチョコを貰えなかったことはない。既に、俺のバッグの中には三つほどチョコが入っている。

 朝に、廊下を歩いているだけでこれなのだ。モテていると言っても、過言ではない。


「蓮真、今年もいつも通りだね」

「そうだろう。俺はいつもこうだからな」


 俺の名前は恒任蓮真(つねとうれんま)。そして、隣にいるこいつが林田俊太(はやしだしゅんた)。俺と俊太は、高校三年間ずっと同じクラスだったという縁がある。


 俺と違って俊太はモテていない。なんせ、俺の周囲にいるというのに、女子たちからは見向きもされていないからだ。可哀そうだから、俺は毎年友チョコということで、俊太に一つ市販のチョコを渡している。


 もちろん、最初から貰えないと決まっているわけではないので、渡すのは帰る途中の店の中だ。その場で買って渡している。

 とはいえ、俊太は期待していないようだし、俺もいつも通りだと思っているので、朝に渡してしまっても大差ないのだけど。今のところ、去年一昨年共に、俊太のチョコ記録はゼロだ。


「あ、あの、先輩!」

「ん?どうしたのかな?」

「チョ、チョコです!」


 名前も知らない、後輩の一人にチョコを渡された。

 チョコを渡した彼女は、俺に一礼したあと、友達と思われるグループのところまで走っていった。


「四つ目?」

「そうだな。俊太にも渡してくれる人がいるといいのだが…」


 俺は別に、俊太を引き立て役として置いているわけではない。仲の良い友達だから一緒にいるのだ。

 なので、俺だけがチョコを貰うという現状は、友として複雑な心境にある。男性としては、この上なく優越感があるがね。


 しかし俊太は、いつも同じことを言う。


「僕はなくてもいいよ。蓮真、楽しそうだし」


 こいつの性格が、なんと良いことか!!


 こんな性格をしているから、毎年こいつに渡すチョコだって小さいものではなく、板チョコくらいの大きさのあるものにしているのだ。


 だが、嘆いたところで現状は変わらない。流石に俺から、俊太にも渡してくれと言うわけにもいかないからな。


 現に、俺たちの行く先に一人、女子が待ち構えていた。こちらをチラチラ見ながら、様子を伺っているようだ。


 俺も俊太も、あの子が何を目的にしているか察したうえで放置する。こちらから声をかけるのは、相手を緊張させてしまうからだ。

 しかし、その子は奥へと逃げて行った。どうやら、今は逃げの一手ということらしい。たまによくあることだ。


「逃げちゃったね」

「待てばいい。こちらから急いては、欲しがりのようだからな」


 周囲を幻滅させるようなことはしない。

 なぜなら俺は、モテているからだ。


……


 昼休み。

 俊太と一緒に弁当を食べることを、ルーティーンとしている。俺の話に合わせてくれる、気が楽な友は俊太くらいしかいない。


 なんせ、バレンタインということもあって、周囲の男子が俺に敵意を剥き出しにしているからだ。そんなに野蛮では、女の子は更に遠のいてしまうと言うのに。


「ねえ、恒任くん」

「おや、中村?」

「はい、チョコ。お返しも期待しているわ」


 それだけ言うと、中村は自分のクラスへと戻っていった。あれは、同級生だな。


 目の前で、しかも同級生がチョコを渡したとあって、周囲の男子の視線は更に強くなった。いやはや、どうしてこうなるかね。


「あの人、去年は渡してこなかったよね?」

「よく覚えているな俊太。そうだ。この一年で俺に惚れたということだろう」


 大学の二次試験も間近なので、中村から貰ったチョコは市販品だったが、それでも嬉しい。


 既に推薦入試で合格している俺には、それなりに時間がある。ホワイトデーには、既に卒業しているが、なんとか中村にもお返しをするとしよう。

 俺はちゃんと、貰った分はお返しをするようにしているのだ。人によっては、ホワイトデーに俺に告白してくることもある。


「蓮真は今年も誰も選ばないの?」

「俺が心動けば、もちろん受けるさ。しかし、今のところそれもないからな…」


 今までも、何度も告白されてきたが、これだと思うような人物には出会わなかった。

 今の二年生に、結構美しい女子がいるのだけど、そちらは俺に惚れてすらいないらしいので、残念だ。まあ、話してみたら合わないかもしれないが。


 俺は見た目だけでなく、中身もちゃんと見て決めている。

 俺のことを、ちゃんと見ている人物は中々いないのだ。基本は、成績だとか容姿なんかで判断しているのは、俺からでも分かってしまう。


 そういう意味では、俊太は素晴らしいな。もし、俊太が女性だったなら付き合っても構わなかったんだが。


「今年も彼女なしで終わるのかい、蓮真」

「かもな」


 とはいえ、一日はまだ半分だ。放課後あたりまで、こうしたチョコ贈りの機会があると考えれば、まだ俺が見ぬ女性が現れるかもしれない。


……


 放課後になった。


 高校三年生の二月ともなると、放課後はすぐに家に帰って受験勉強だとかなんだとかをすることが日課となる。部活などとうの昔に引退している。


「先輩、チョコのプレゼントです!」


 とはいえ、部活仲間との繋がりが切れるわけではない。今も部活の後輩からチョコを貰ったところだ。


「部活引退してからも、こんなふうにチョコを貰えるなんてすごいね蓮真」

「とはいえ分かりやすい義理チョコだ」

「僕は一個も貰えないんだからいい方でしょ」


 俊太は典型的な文化部だった。

 文化部だから上下関係の繋がりが薄いわけではないと思うが、残念ながら俊太は今のところ一度もチョコを貰えたことがない。引退する前も、した後もだ。


「あ、またあの子だ」


 朝、そして昼に顔を出した女の子がこちらを見ている。

 しかし、俺たちが気が付いたことに気が付くと、みるみるうちに顔を赤らめてしまい、そのまま逃げ去ってしまった。もしや、このままチョコを渡さないつもりだろうか。


「なんなんだろうね」

「学校を出てから渡すつもりかもしれん。なに、待っておけばいい」


 このまま渡さないというのも、あちらの選択だ。俺が何か言う理由はない。


「あれ、戻ってきた」


 走り去った女の子は、なぜか踵を返して戻ってきて、逆の道へと走り去った。


「え?」


 茫然とする俊太。俺も少し困惑気味だ。


 ふと、最初に女の子が逃げ去った方向を見ると、そこには男女が一組。何かを話しているようだが…なるほど、逢引の場面に出くわしてしまい、戻ってきたと言うことか。


 逢引している女子の方は、昼に俺がチラリと話題に出した学年が一個下の話題の女子だ。ふむ、黒棘姫だなんて呼び名もあるらしいが、あの男子に対しては柔らかい笑みを浮かべている。

 男子の方は俺も知らないが…まあ、あまりとやかく言うものでもないだろう。チョコを貰った男子はとても嬉しそうである。彼氏、か。


「俺もああいう関係を作りたいものだな」

「蓮真もきっとできるよ。というか、蓮真が頑張れば簡単にできるんじゃないの?」

「俺が作りたいのは、双方が満足する関係だ。どちらも好き合うからこそ、強い絆になるのだ」


 俺が作った性格や、笑顔で女子に接すれば、きっと相手は満足するだろう。俺が告白すれば、きっと了承する。


 しかし、それではだめなのだ。俺が満足していない。そして、俺だけが満足する関係というのもいけない。相手のことを考え、両者が幸せになれるような選択をする必要がある。


「いこっか」

「うむ」


 校門を出た。俺の家と俊太の家は離れているが、途中まで同じ道である。


 貰ったチョコについて雑談していたら、とうとう例の女の子が現れた。意を決した表情で、俺たちの正面に立っている。


「あ、あの…先輩!」


 見た目から察していたが、やはり後輩だったか。俺は同世代よりも、下の年齢にモテるからな。


 女の子はゆっくりとこちらに近付いている。チョコを二つ持って…二つ?


「こちらを、渡します!」


 俺たちは、同時にチョコを渡された。どちらも同じ見た目で、多分中身も同じだろう。


「私、あなたたちの関係がすごいすこで!もうまじ尊いので、これからも、お願いします!」


 それだけ言うと、女の子は走り去った。


「…」

「…」


 俺と俊太は茫然とする。何が、起こった?


「…あ、そうだ!蓮真、僕、初めてのチョコだよ!」


 俊太、それは喜んでいいものなのだろうか?いや、初めてのチョコということでテンションが上がるのは仕方のないことだが、あの女の子明らかに変だったぞ?


「きっとあの子は、僕たちに惚れてたんだね」

「そのポジティブシンキングは見習いたいな」


 多分あれは噂に聞く腐女子だぞ。俺たちの関係を見てハアハアしているタイプだ。


 だが、まあ…俊太も喜んでいるし、俊太のことを見ている女子がいると分かったのは良かったかもしれないな。


「で、今年のチョコはいるか?」

「ああ、そうか…くれるの?」

「俊太が欲しいというのであれば、やらないこともない」

「なら欲しいかな」

「よかろう」


 どうやら、今年の俊太のチョコは史上初の二個になりそうだ。

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BLのような雰囲気はありますが、二人はただの友達です

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