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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

招く猫

作者: 竜谷 晟

これは、私が質屋で働いていた時の話です

当時私が働いていた質屋には、いわゆる訳ありと言われる物が持ち込まれることがありました。

傷物、部品紛失、動作不備。そして、曰く付き

これは、そんな曰く付きの骨董品のお話です


 その骨董品を持ち込んだのは、小金持ちの資産家でした

持ってきたのは古い懐中時計と小判を抱えた50センチほどの黒い招き猫で、店長は特に招き猫の方を気に入ったようでした

店先に飾って

「これでお客さんと福を招いてくれるな」

と朗らかに笑っていました。


その言葉通りに、それからというもの質屋の業績は大きく成長していきました

1日にくるお客さんの数は3倍以上にも膨らみ、私の主な仕事も骨董品の整理、掃除から接客へ変化し、

さらに不思議なことにお客さんの何人かは

「誰かに呼ばれた気がする」

と言ってこの店にやってくる事もありました

店長も大喜びで

「流石は招き猫やなぁ。凄いご利益や」

と口にしていました

そのころはまだ、私もご利益のある招き猫だとだけ思っていました


異常をはっきりと感じたのはそれから数週間後の話です

閉店後、ひっそりとした質屋の扉をどんどんと叩く音がしました

外に出て確認しても誰もいません

そんなことが何日も続き、私の精神は少しづつ衰弱していった頃、それは起こりました

まだ、多くのお客さんがいる中

一人のお客さんがやってきたのです

その人は右足を引きずって来店しました

黒いタイヤ痕が刻まれ、歪にひしゃげた右足を

頭から血を流したその男は、店に入るとキョロキョロと周りを見渡して、

「あれぇ、僕のこと、誰か呼びませんでしたか〜?」

というと同時にその場に倒れ込みました

外を見ると、長く伸びた血の線が、奥に奥にと続いていました

後で聞くと、彼は交通事故にあった後、この店まで数百メートルの道を歩いてきたそうです

その日、私は店長にあの招き猫は捨てたほうがいい、と言いましたが、店長は

「流石は招き猫だ、流石は招き猫だ」

と繰り返すだけで、私のいうことは耳に入っていないようでした

その目は狂気に染まり、首にはあの懐中時計がかかっていました

こっそりと何度も招き猫を捨てにいきましたが、次の日には元の店先に戻ってきているのです

毎日増え続ける客、夜な夜な扉を叩くナニカ

私の精神はついに限界を迎えました

招き猫に重りをつけて湖の底にしづめたのです


なぜ電話でこんな話をあなたにしているのかというと

私が今、何かに呼ばれた気がして、ゆっくりと、街を歩いているからです

さて、私はどこへ行くのでしょうか、どうか教えてください


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