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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ダメダメにしてくるサポーターを追い出したい

作者: よあけ
掲載日:2022/09/18


 「…すまないが、お前をここで置いて行きたい」


 目の前座った男がはっと息を呑んで何故かと問いかけてきた。

 突然二人で話がしたいと持ちかけた中身がこれなのだから、そうなるのも当然だ。


 「お前が居ると…」


 他のメンバーが駄目になるんだ…!


 血反吐も一緒に吐いているのではと思う声が出る。できればこんなこと言いたくはなかった。しかし、ここ数ヶ月、そして今日のことを鑑みるとこの決断を下さなければならいのは自明である。


 「そんな、ことは…」


 「ある!」


 でもレベルは上がってるよぉ…と食い下がってくるが、そんなことは百も承知だ。


 「ああ、レベルが上がる経験値は皆得ているな。()()()経験値がな!」


 悲痛な思いが言葉に乗る。最初はよかった…変わった魔法を使うこいつが入った時も皆興味はあれど研鑚を絶やすことはなかった。

 だと言うのに…こいつときたら!


 「何で世話係みたいなことばかり引き受けるんだ!ローテーション制だったんだぞ!」


 だって他に出来ることがないから…と俯くが、その重大さをわかって欲しい。最初こそ遠慮していても、当たり前になって、しかも疲労が溜まっているとパーティにいいことは起こらない。


 「だから、ヒーラーがあんなに我儘になったんだ!前は嫌々でもやることをやっていたのに!お前と言う都合のいい存在ができたから…!」


 あまりにも耐え難い激情に任せて両手をテーブルに叩きつけてしまう。騒がしい酒場とはいえ、一瞬注目を集める。しかし、そんなことは日常茶飯事なので好奇な視線はそのままで再びザワザワと煩くなる。


 「そんなことは…ヒーラーさんはいい人ですよ。少し力仕事と汚れ仕事が苦手なだけで」


 苦手じゃなくて面倒なんだ…!平民にしては裕福な出のヒーラーをものの見事に我儘お嬢様にした自覚が何故ないのか。そのせいか怪我をしても『え〜治して欲しいんですかぁ?』と治癒魔法をケチるようになった。

 俺はもう面倒なので、怪我をしないように立ち回ることにした。怪我をしても大枚叩いて薬屋さんでポーションを買っている。


 「他にもまだあるぞ!…聞きたいか?」


 別に病み上がりのこいつを責めるつもりで呼んだ訳じゃない。ただ、パーティを抜けてもらいたいだけだ。勿論希望するなら他のパーティへの斡旋や職業を探すことだって手伝うつもりだ。もとはと言えばリーダーである自分が不甲斐ない所為なのだから。

 しかし、こいつは聞かせてください…とまるで懺悔するかのように言った。…まあ、自覚できたら別の場所で繰り返さずに済むだろうとウィザードを思い出す。


 「じゃあ次にウィザードだ。」


 ゴクリと生唾を飲み込んだ音が聞こえた。何をやってしまったのかと手に汗を握っている様子に、こちらの良心が痛む。


 「はい…」


 「ウィザードはな、呪文の殆どを忘れたよ」


 なんとも悲しいことだ。ただでさえ年のせいでボケボケくそジジイだったのに、今ではもうこいつがいなければ最初の一節目すら出てこなくなった。

 中途半端に覚えている詠唱を唱えたウィザードは、魔力が変に身体を巡って心臓発作を起こしてしまった。ヒーラーのお陰で事なきを得たが…『はぁ!!楽園が目の前に…!』と乱心して酷かった。


 「そんな…!でも僕はただ、詠唱のアシストをしてただけなのに」


 それだよそれ。誰だってカンペが用意されるなら覚えなくてもいいってなるわ。


 「た、タンクさんは…?」


 一縷の望みを賭けるような目で先を促してくる。いいのか?この先は地獄だぞ?


 「タンクは…自分の力を過信して…教会に運ばれた。」


 えっという声が聞こえた。そうなるのもしょうがないのかもしれない。だってこいつが来てから誰も教会沙汰にはなっていないからだ。いつもは痛くも痒くもないからと、デーモンの一撃をまともに受けたタンクは…魂から粉々にされた。今はシスターさん達が必死に蘇生してくれている。


 「そして‥.最後に俺」


 信じられないものを見るような目で俺を見つめる。そうだよ。俺も駄目になっちまったんだ…!


 「俺はな…向上心がなくなったよ。朝の鍛錬も疎かにして、なあなあに済まして…お前のサポートを当てにしてたんだ!」


 「違います!だってリーダーさんは…。」


 否定してくれようとしているのか言葉を探しては、技の冴が良くなったとか夜遅くまで寝ずの番をしてくれているから仕方ないだとか些細なことを持ち出してくる。

 何でそんな所まで見ているんだ…そういうところが人を駄目にさせると気づいてくれ!


 「あのな…これは事実なんだ。さっき楽した経験値が貯まっているって言ってただろ。それはな、別名堕落ポイントと主にシスターさん達が呼んでいるものだ。」


 「だから、俺たちはその分だけ駄目になっているのは

間違いないんだ…!」

 

 あらぁそんなに堕落していけませんね♡と恐ろ…恩人であるシスターさん達の記憶をできる限り薄めながら言い切る。

 事実だからこそ、明言するのはキツイがこれは自業自得だ。


 沈黙がこのテーブルを支配した。ずっと喋っていたので、エールで喉を潤し腹を肉で満たす。


 「それでどうして…僕を追い出すんですか…!それで解決にはならないでしょう!どうして仲間外れにするんですか!」


 もっと早く言ってくれないのかと言わないのは俺が度々注意していたのを思い出したからだろうか。謙虚…過ぎるこいつは全て良かれと思ってやっていたのだから、理解できなかったのもある意味俺のせいかもしれない。


 「…今日久々にお前が居ない状態でのクエストだっただろ。それでこの惨状を目にして気づいたよ。『俺の責任だ』ってな」


 「だから、あいつらを見捨てるわけにはいかない。だが、更生させるのも一筋縄じゃいかないだろう。」


 堕落ポイントをすっかりキャンセルされてクリアになった頭で考える。あいつらはまだ時間がかかると言っていたから、俺より反動が大きいだろう。


 「解散するのが一番かもしれないが、最低限あいつらの面倒を見るべきだと思ったんだ。他のパーティに入れる位は…だが、お前は優秀な人材だ。それこそ大きなクランに入っても埋もれることはないだろう。だから…」


 「だから、僕を置いて行くと…」


 「…そうだ」


 ぐっと歯を食いしばって上げられた顔は初めて見るものだった。いつも眉を下げ困ったように、人の顔色を窺うサポーターではなかった。


 「駄目です。それは…僕の責任です。だから、僕が何とかします!」


 「何とかって…」


 何とかできるならこうなっていないんじゃないかとは言わなかった。あんなに決意に満ちた目を前に、そんなことを言うのは野暮というやつだ。


 「僕はもともと補助魔法を皆さんが快適に戦えるように使ってきました。それを今度は重りとして使います」


 「重り?」


 どういうことだと首を傾げる俺にサポーターは饒舌に語り出す。

 人が変わったんじゃないかと思う様子に少々気圧されつつ静聴の姿勢を取った。


 「はい。例えば、野営の時火を起こすのに魔法が使えないですとか、戦闘の時に詠唱の簡略化では発動しないですとか…」


 __エグいなというのが正直な感想だ。そんな苦労は初期も初期に経験してとっとと道具や経験で何とかしてしまう部分を、こいつはやらせようとしている。


 「…成る程。しかし、それだとそもそもあいつらは駄々をこねそうだが」


 「そうでしょう。なので、このまま教会に行って契約を結びます」


 お水を持ってくるのでサインしてくださいと言えばしてくれると思うんですよ!と爽やかに笑うこいつが恐ろしい。寝込みを襲うより酷い。拷問から助けてくれるのかと思いきや二次会へのご案内なんて絶望もいいところだ。

 リーダーとしてのなけなしの責任のお陰で軽めで済んでいて本当によかった。まあそのせいでレベルが低いと詰られていたが、低くて本当によかったと今なら思う。


 「いや、お前もまだ治りきってないだろう。そんな時に悪かったな」


 今にも飛び出してしまいそうなこいつを引き止める。流石に堕落しきったと言ってもその仕打ちは堪えるだろう。それなら、解散して各々多少の苦労をしながらリハビリするのがいい気がする。


 「あいつらに少し時間をやろう。考えることもあるだろうし、その後改めてどうするか決定しようと思う」


 じゃあと伝票を持って会計を済ませると、すみませんご馳走様ですと後からついてくる。スープ一杯なんて有ってないようなものだろうに。

 そのまま部屋に帰ろうと言う時にサポーターが俺を引き止めた。


 「そ、そういえばリーダーさん。貴方が僕を…優秀だというのは本当ですか…?」


 「…ああ、基本サポーター職は単に味方の力を底上げしたり、敵を拘束するとかがメインだがお前はそれより多くのことができる。サポートする対象に合わせて多くの魔法をカスタマイズできるのは聞いた事がない。確かに治癒魔法や攻撃魔法、防御魔法単体で見るとその役職には及ばないというのはよく言われるだろうが…」


 喜んだり落ち込んだりするのに忙しそうだが、そのまま続ける。


 「だが、ヒーラーが使う攻撃魔法はしょぼいし、ウィザードが使う治癒魔法は低級のポーションに及ばない。一方お前は全てを一定の水準で使うことができる。この強みは…わかりやすく言うなら、魔族との武闘会の個人戦で優勝できると言えばわかるか?」


 「優勝って…決勝は魔王ですよね?無理ですよ!」


 サポーターの少ない欠点として想像力が足りないことだろう。


 「考えてみろ。団体じゃなくて個人だぞ。ヒーラーは相手を倒せないから出ないし、ウィザードも接敵されたら終わるから出ない。だから個人戦に出るのは俺みたいなアタッカーが殆どだ…他だとシャーマン位か?」


 「ええ、大体そんな感じですね」


 頷きながら唾で喉を湿らす。最近は特に喋るということをしていなかったから少し疲れたかもしれない。


 「そこにお前が入ってみろ。回復はするわ魔法はバンバン飛んでくるわ、剣も使えるわ…負けねえってことは勝てるんだよ」


 乱暴な結論だったが、言いたいことは言えたので満足だった。

 いや〜いい気分だともう寝る気満々な俺とは反対にサポーターはまだ終わってなかったらしい。


 「…ありがとうございます。僕は…そんな風に考えたことがありませんでした。何をやっても中途半端で…。」


 何かを振り払うように首を振った。サポーター職は自己肯定感が低いという社会問題があるが、つまり中途半端だという自他からの評価が原因なのだろう。


 「僕…頑張ってみようと思います!」


 「…おお、そうか。頑張れよ!」


 何を頑張るのかわからなかったが、正直もう寝たかった俺はそう言って終わらせた。

 そういうところが駄目だと何度自覚すれば満足するのか…だから俺は後悔してばかりなんだ。


× × ×


 「…それでどうして俺はお前と二人でパーティを組んでいるんだ!?」


 急に何を言っているのかわからないといった様子でサポーターが首を傾げているが元凶はお前だ。


 「どうしてって…あの人達がパーティを辞めたからでしょう?」


 そうなのだ。結局サポーターはあの3人へのスパルタ更生プログラムを実行して、晴れて真人間になった彼等は一般市民に戻ることを希望した。

 幸いにもプログラムの対象から外れた俺だが、見ているだけでも辛いものだった。最初は恨みがましい目を向けて来ていた彼等が、助けを目で訴えて来た辺りで俺もとうとう音を上げた。


 『お前ら…今やりたいことって何かあるか?』


 ある時、ヒーラーが泣きながら着けた火を囲んで俺は言った。するとタンクは街の兵士を、ウィザードは森で隠居を、ヒーラーはうちに帰ることを願った。

 はっきりとした願いを持っているのに、縛り付けるのは意味がないとサポーターを説き伏せ、俺達のパーティは解散した…はずだった。


 「僕、リーダーさんとなら団体戦優勝できると思うんです!」


 「いや、お前は個人で優勝できるって言っただろ。てか二人を団体と言っていいのか…ただのペアじゃないか」


 何を言っているんだと零しても、何故か俺たちは魔族主催の武闘会のエントリーを済ませてしまった。

 いや、了承したわけでなくサポーターが全部済ませたことを今さっき聞いたのだ。


 「お前が『折角なので、武闘会一緒に見に行きましょう』と言うから着いて来ただけだったんだが…」


 「あはは…騙し討ちみたいになってすみません。でも僕はリーダーさんが活躍しているところを目の前で見たかったんです!」


 俺の活躍って何?思わず間抜け顔を晒していると、サポーターは気にせず力説を続けた。


 「リーダーさんは最初剣を振る時余計な力が入ってました。以前僕が技の冴が良くなったと言ったのを覚えていますか?リーダーさんは自分が怠けたと言っていましたが、睡眠が増えて十分な休息を得たので返ってよかったんですよ」


 「へ、へぇ〜…」


 そうなのかと少し引きながら頷いておく。スパルタ指導も併せてもこいつはサポーターより育成職の方が合っているのかもしれない。テイマーとか。


 「それにリーダーさんは余り統率とかが好きではないのではないですか?」


 「まあ…好きじゃないが、出来ないわけじゃなかったからな」


 多くのパーティがアタッカーをリーダーにしていることや、戦闘面でも俺が緩衝材となる方が効率がよかったからそうしたまでだ。


 「僕と二人ならそんなこと考えなくても大丈夫ですし、僕ならリーダーさんが欲しいものを欲しいタイミングで渡す事が出来ます」


 まるで売り込みを受けているようだ。そんな事をしなくてもこいつは何処にだって行けるはずだ。その力を持っている。


 「例えば…リーダーさんが前に出た時、僕は周りの撹乱と奇襲を行えます」


 「それは…いいな」


 リーダーとして清廉潔白を心掛けていたが、本来俺は楽しい事が好きだ。勝つのも、敵を驚かせるのも楽しい。

 しかし、パーティとしてそれを指示出しで実現するのは難しいし、特にタンクがそういうのを嫌っていたから出来ないでいた。


 「それに、こういうことだって出来ますよ」


 そう言って俺に手を翳すと、俺の手の周りに魔法陣が展開している…。


 「それは付与魔法を改良したもので、銃身のない銃の様に思ってください。他だと、剣自体にも出来ますしテレパシーを使った意思疎通も可能です!」


 万能過ぎるだろ。逆にこいつは何が出来ないんだ?

 試しに、遠くに見える訓練所と思しき場所にある的へ撃ってみる。そこにいた魔人達が驚いていて申し訳なさを感じる。トリガーは銃と違って『撃つ』というイメージというか感覚を明確に持つことだそうだ。少し慣れないが、十分実践で使えるものだ。


 「お前は…あーいや、クラウス。試合はこの後だったな…頼むわ」


 「…!ええ、任せてください。アレイさん!」


 役職で呼んでたのは戦闘中に咄嗟に出てこないからそう習慣付けただけで、二人なら何の問題もない。

 久しく忘れていたこの高揚感に任せて闘技場へと向かった。








 その年の魔境最大のお祭りである武闘会では、目玉である団体戦が異例の結果を残した。

 たった二人しかいないパーティが大人数相手に、飛んでは吹き飛ばして、縦横無尽に薙ぎ倒す快進撃が起こり色んな悲鳴が観客席から飛び交った。


 対魔王軍との決勝では、魔王含めた六名の相手にその二人が対峙した。魔王が個人戦の決勝も控えているという事を抜きにしても、二人は絶妙に嫌がらせとパフォーマンスの間を行くような無駄のない戦闘スタイルで互角、もしくはそれ以上に戦った。


 しかし、魔力で肉体を強化できる魔族と連戦続きの人間では疲労度合いが全然違った。

 汗一つ流していない魔王と疲労困憊の二人では誰もが魔王の勝利を疑わなかった。


 アレイという男が剣を捨てて魔王に接近した。素手でも相方による魔法で油断ならないのいうことはとうに知られているにも関わらず愚直に突っ込んできた。

 クラウスという方は姿が見えないが、魔力の動きを感じられる魔族にとってそれは脅威ではなかった。


 …結果膝を着いたのは魔王の方だった。


 何が起こったのかわからないという顔をする魔王に取っ組み合いをしていたアレイが爽やかな、満面の笑みを浮かべて手を伸ばして引っ張った。


 「助かったよ、あんたが膝を着かせれば俺の勝ちだと言ってくれなかったら負けてたな。いやぁ、ナイス膝カックン!」


 魔王を立ち上がらせると、アレイはクラウスの方に向かって喜びを共有していた。

 これを境にサポーター職はその評価が一転し、サポーターブームが巻き起こった。


 サポーターのみで構成されたパーティにメインアタッカー一人と他全てサポーターのパーティ、サポーター饅頭…などなど。

 しかし、このブームを述べる時にバディ制が流行ったのは外せない。パーティに比べて意思疎通が容易いが、逆に不仲になった時の対処が今後の課題である。


 そんなバディ制の象徴とも言えるアレイとクラウスは人間や魔族問わず一躍有名になった。

 以前から彼らを知る人はそんな人間だったか?と首を傾げたが、悪戯小僧のような笑みを浮かべて敵を翻弄するアレイと、射殺すような眼差しで敵を片付けるクラウスの人気はアイドル並みだ。


 二人程噛み合うバディは無い…と多くの人…だけでなく魔族も言う二人だが、誰もアレイがクラウスを追い出そうとした事を知らない。

 逆にヒーラー、タンク、ウィザードを捨てたという噂の方が多い位だ。





 「アレイさん!今度は北の方に行きましょう!雪像コンテストがあるみたいですよ!」


 「俺は芸術家じゃないんだが…雪は積み上げてやるから、後はやれよ!」

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