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4月25日 11:01

   7


 生徒会室に戻り、会長席に座った猪鹿月(いかづき)水無月は珍しく溜息を吐いた。


「フッ。流石に疲れたか? 水無月」


 未種学園高等部生徒会副会長――三年一組、阿津地(あづち)ミチル。

 日本一有名な電機メーカーの御曹司。一言で言えば俺様な性格で、現代に蘇った曹操と一部では呼ばれている。


「えへへ。うん。ちょっと、ね」


「当然です! 地震が起こったと思ったら、次はドラゴンさん。安全の為に生徒達を講堂に集めたら、訳の分からない女の子が現れて――スキルとか……」


 未種学園高等部生徒会書記――二年一組、火乃宮火乃花(ほのか)

 小さく明るい、生徒会のムードメーカー。大財閥の末娘だが、聞かなければ分からない程に純真無垢な性格で――会長の水無月とは別ベクトルで人望と人気を集める美少女。


「そう、ね……。……はぁ~。もう、夢なら早く覚めて欲しいわ」


「あら、随分弱気な発言ですわね。だったら、確かに夢ですわね。(わたくし)の知る猪鹿月さんは、こんな些細な事で二回も溜息を吐きませんもの」


 未種学園高等部生徒会会計――二年一組、内空閑(うちくが)空満子(くみこ)

 日本海運の雄と尊称される貿易会社の次女。高飛車な性格だが、根は生粋の努力人。何事にも常に全力で当たる姿勢から、周囲の信頼は厚い。


「……」


「……な、何ですの?」


 目を丸めた水無月に直視され、空満子の腰が退ける。


「……えへへ。ううん、別に」


「……何ですの、もう」


 一転して嬉しそうな笑顔を浮かべる水無月。空満子は、最後まで紅潮した顔を背け続けた。


「――じゃあ、始めましょうか」


 水無月の芯がブレない声は、常に生徒会を適度な緊張感で包み込む。各々の役職が明記された席に座り、日本の将来を背負って立つ子女達から選抜された四人の会議が始まる。


「今日の議題は三つ。――ミチル君」


「水と食糧だな」


「火乃花ちゃん」


「えっと……スキルに関して、ですね」


「空満子ちゃん」


「今後の生徒会の在り方。――特に、教員陣との関係性ですわね」


「……あぅ……」


「辛いのね、火乃花ちゃん……」


 最後の議題を聴き、火乃花が目を伏せる。席を立った水無月は、小さな後輩を背後から抱き締める。


「火乃花ちゃん、優しいもの。私も、いつも頼っちゃってゴメンね」


「そ、そんな……っ。火乃花の方こそ……」


「ううん、私の方こそ――去年の文化祭は、講堂利用のスケジュール調整の為の折衝役を任せちゃったし。受験や入学式では率先して現場に立ってくれて、お陰で今年は一般の方の混乱が少なくて助かったって教員の方々も火乃花ちゃんを褒めてたわ。……それなのに、私は火乃花ちゃんの為に何もできなくて……」


「そ、そんな事ありません……っ! 猪鹿月会長には、いつも勉強を教えて頂いて……!」


「……他には?」


「え……? えっと、他には……。えっと、えっとぉ……――た、沢山助けて頂いてます……っ!」


「ごめんね、頼り甲斐の無い先輩で……っ」


 水無月の目尻が小さく光る。


「そ、そんな事ありませんっ! 猪鹿月会長は頼り甲斐の有る先輩ですっ!」


「本当?」


「ほ、本当です……っ」


「あら、嬉しいわ。だったら、ちゃんと行動で示してくれなきゃイヤよ?」


 水無月は目尻をアッサリ拭い、小さく――しかし大きな胸を張ってウィンクを決めた。


「ふぇ……っ? ……ふふ。はいっ」


 火乃花と笑顔を交わした後、水無月は会長席に戻った。


「――それじゃあ、再開しましょう。ミチル君」


「ああ。未種学園に非常用として備蓄された水と食糧は、総じて千人三日分だな。校舎と体育館、そして講堂――併せて十ヶ所の地下に貯蔵されてる。炎谷山(ぬくたにやま)先生から資料を貰ってきた」


「少ないですね……」


「仕方ないですわよ。だって私達は、災害時には優先的に救助される事が決まっていますもの」


「私達は、この三日間で徐々に体力を失う。だから、そうなる前に動かなきゃいけないわ。幸い、今日の分の弁当は全校生徒が持ってる。猶予期間を四日間と仮定して、水源を優先的に探しましょう」


「細菌類の消毒に関して、地球法則をベースに計画を立てる。俺様達が違和感も無く呼吸できている以上、神経質に考える必要は多分ないだろう」


「そして食糧は……」


「あのドラゴンですわね。……えっと、マジですの?」


「マジよ。焼けば大抵の問題がクリアされる肉は、サバイバルでは重宝するわ。ミネラル的な成分も摂取できれば御の字ね」


「毒味は必要だがな」


「あはは……。あの先輩ですか……」


「去年は、気球で世界一周していらっしゃいましたわね」


「ふふ、本当に頼もしいわ。――じゃあ次、スキルに関して」


「正直、俺様には未知の領域だ。――だが、ある程度自分のスキルは把握している。あの女の所為でな」


「あはは……。凄かったですね。痛い記憶は全部消してくれたみたいで……。火乃花も、自分が死んだ事を他人事に感じられます」


「この際、使えるモノは何でも使いますわ。猪鹿月さん、スキルの調査には私達のクラスを使いましょう。あの女に加えて、少し気に掛かる娘が居ますの」


「ええ、分かったわ。それから、調査と並行して警察を組織します。とは言っても、厳格な組織化は無理ね。連帯感の強い部活単位で警邏(けいら)隊を作る。そんな所ね」


「火乃花と空満子も見ただろうが、先の講堂騒乱の際――女が俺様達のスキルを誘発する所とは別で、己が意思でスキルを使っている者が確認できた。バカで、その上ガキが銃を持った。頭の痛い話だが、早急に対策せねばならん」


「その為にも、スキルの調査は急務ですね。……そういえば、あの場に居なかった先生方ってスキル持ってるんでしょうか?」


「十中八九持っているでしょう。その使い方を私達が教えられるかどうかは別問題ですが」


「――最後に、私達の今後ね」


「結論から言えば、俺様達は俺様達で動く」


「……火乃花達生徒の意見は、恐らく二極化の範囲で収まります。帰りたいという意見と、帰りたくないという意見。火乃花達は子供で、だから時間的な猶予も将来的な展望も充分に見込めます」


「でも、教員は違いますわ。年齢的な問題や家庭的・社会的問題から早く帰りたい。又は年齢的な問題や家庭的・社会的問題――更に能力的な問題から積極的に残りたい。スキルという超常的な力の存在が、世の中で居場所を作れなかった大人達の麻薬と成り得るかもしれませんわ。……まあ、そんな調子で我が校の教員を務められるかどうかは別ですが。問題は、生徒より教員の方が目的の振り幅が大きいという事ですわ」


「車と一緒ね。アクセルを踏み込めば、踏み込む程にスピードメーターは大きく振れる。……でも、霧の中でアクセルを踏む事は勇気ではない。私達は、何度でもブレーキを踏み込むわ。……例え――」


 水無月は、金地に黒い文字で『生徒会長』と刻まれた卓上プレートを指先で撫でた。


「……ええ。例え――誰が反対しようとも、よ」


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