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鳥と女と宇宙船
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2-1
道端で倒れているロディの頭を、ちょいちょいと小突く物があった。それ、のおかげで日陰になり、少しだけ心地よい。気力を振り絞ってロディが目を開けると、ばかでかいセキセイインコがロディの顔を覗き込んでいた。
心配そうに覗き込んでいた、というのが事実なのだが、ロディにはセキセイインコの心配そうな顔というのが読み取れなかった。そのせいで、でっかい鳥が無表情に見下ろしている、それも逆光で、というふうに見えて。思わず「ひぃ!」と悲鳴を上げて跳ね起きた。跳ね起きた、と言うほどの勢いにもならなかったが、腕の力で這って距離を取った。が、立って走って逃げる生命力は残っていなかった。
なにはともあれ、それ、に助けられ(ゴザのようなもので簀巻きにされ、足で掴んで空輸される、といういささか乱暴な手段でもって)、治癒系マジックアイテムの消費までして介抱され、ロディは翌日の朝には立って歩き回り会話できるほどに回復した。
そして、ニオルクゴールが祖母エルティスの古い知り合いだと告げられる。
「……宇宙って、案外狭いもんなのね」
虚空に目をやって、半笑いでロディは言った。それまでのMA事務員やらファミレスのウェイトレスやら雑貨店バイトやらといった平々凡々とした暮らしからオサラバして、一念発起、まったく新しい生活が待っている。そう思ってたのが一週間ほど前のことで。思ってたのと違う新しい事態であっさり死にかけて。助かったと思ったら、偉大なる祖母の手のひらの上で踊ってた、そんな思いを抱く。
もっともロディは、サイコンのこの街を紹介してくれた祖母には、最初からこのインコのことも念頭にあった、などということを知るよしもない。なので、あたしは自力でここまできた、と思ったら大好きな祖母の庭の中だったんだなぁ、と感じた。さすが評価5ハンライス、勝てる気がしない。
「エッちゃんに手紙を書くよ。あんたが無事だと伝えないと」
「……え、エッちゃん」
「エルティスさんのこと」
「わかるけど」
何者だこのトリ、とロディは少しビビる。
「あたし、このまんまガンセントに帰るっきゃないのかなぁ」
「ん~……」
自分の小ささに打ちのめされ、あからさまに落ち込むロディを見て、でかいインコは何か思案げに首をかしげる。
「なんなら、つきあうよ。宇宙船ねぇ、持ってたらなにかと楽しそうだし」
どこまで本気だこの見知らぬ巨鳥、とロディは、その表情から本心を読みかねた。まず、表情がわからん。が、帰るにしてもその手だてがない。お金もない。最悪、体でも売って稼ぐか、みたいなこともちらっと考えたりするこの一週間だったが、猫人間の星ではその需要も見込めなかった。引退冒険者ロディ35才女性、魔法使い、なんか全方位から生き抜く自信を奪われるサイコンでの経験だった。
「つきあうって、なにをどこまで?」
「なんとなく、なにからなにまで。面白そうじゃない。あんた、魔法使いなんだろ、一応」
「……一応」
せっかく更新して(ついでに降格して)来たハンライスの認定証も、まるごと奪われて手元にはない。
「宇宙船を手に入れたいんだろう。なんとかなるかなと」
「お金、あんの?」
「こんな星にしては、わりと良い生活してるほうなんだよ、僕。中古でよければ、なんとかなると思うよ」
「あたしのために、なんでそこまで」
ロディは、もっともなことを尋ねた。するとセキセイインコは、胸を張って言った。
「昔、冒険者やってたんだ。エッちゃんの世話になったこともあってね。その恩返し、というより、やっぱ好奇心かな。あんた、面白そうだ」
2-2
うわぁ…。と、ロディは、上機嫌で先を歩くニオルクゴールを見て、思っていた。
とことこ? よちよち? いや、のしのし、といったオノマトペが似合う感じ。首にかばんを下げている。かばんには、貯金おろしてきた、ほぼ全財産が詰まってるらしい。ロディの全財産はまたたくまに奪われてこのサイコンのどこかへと霧散していったのだが。なるほど、コレ奪いに行こうって気にはならんよなあ、と納得させられる。
じゃなくて。確かにニオルクゴールは、ここサイコンにしては良い暮らしをしてたのだ。良い仕事してたから。一流ホテルのホテルマンだったそうだ。それをあっさりやめて、今は意気揚々とロディを中古宇宙船屋へと案内しているところ。自分なんかのために、そんな簡単に安定した生活を捨てられるものなのか、とロディは、素直に感謝したものか、それともとんでもない変人に気に入られたかなにかなのかと、警戒心を解く気になれない。
とはいえ、自分も似たようなもの。思いつきでバイトやめて全財産かかえてここに来たのが、ほんの先週の話だ。よく考えると、ガンセントとサイコンでは物価相場が違いすぎる、あっちの雑貨店バイトとこっちの一流ホテルのホテルマンの給料なんて、案外大差ないのかもしれない。とはいえ、そこらで売ってる日用雑貨の相場ももちろん違うので、相対的にはやはり、ここの一流ホテルマンのほうがよほど裕福ということになるのかもしれない。
「まだ信用できない?」
ニオルクゴールが振り返って行った。ロディ、そんなような顔をしてたようだ。インコの表情はわからないが、インコは人間の表情がわかるらしい。もちろん、単純に信じる信じないといったことではなく、自分自身のこれまでの境遇などもふまえて、悶々とややこしいことを思っていたわけなのだけど。
そうしていると、ニオルクゴールは不意に立ち止まり、地べたにかばんをおろして、足の指を使って器用になにかを取り出した。それは、ハンターライセンス証だった。評価は4、ロディの目が丸くなる。
「……マジで?」
「信用した?」
そういう問題じゃないのだが、とロディは思うが口には出さない。万にひとつも怒らせたらヤバいかな、などと思ったりもした。
この日、二件目の中古屋に到着する。商品がデカいので、たいがいは町外れの砂漠みたいなところにある。なので、二人、一人と一羽は、街の端から端まで歩いた。1日に二件も回れば精一杯になる。
宇宙船の大きさや用途は多用で、大雑把には大きな船ほど大出力でやすやすと遠くに行けるし、恒星間を渡るのでなければもっと足の遅い小型船でもかまわない。まれにデカくて鈍足とかってのもあるが、小型俊足というのは、まず滅多にない。
「ってのはね、可視記述されてるわけじゃないけど、宇宙船ってのは船全体に魔方陣が描き込まれているんだ。魔方陣の規模がほぼそのまま船の性能になる。表面積というのは船の全長の二乗に比例するわけだから、つまり船のサイズが二倍になれば魔方陣の規模は四倍になる。基本的には反重力関連の魔方陣、固有形状維持関連の魔方陣、魔界ゲート生成用魔方陣、居住空間保持用魔方陣、そしてそれらを統合制御する知性化魔方陣が描き込まれるのだけど。たとえば知性化魔方陣のスペースをけちれば船がバカになるから危なくて乗ってられないし、居住空間保持用と固有形状維持関連はだいたいワンセットで必要な機能を持たせておかないと、船は飛びながらバラバラになるし、宇宙空間において乗組員の生存は不可能となる。それに当たり前の話、反重力を生み出せなければ船は飛ばない。と、いうことは、だよ。魔方陣記述スペースとしてケチってもかまわない部分といえば?」
「せんせー、きいてませんでした。わかりません」
ニオルクゴールは得意分野のスイッチがオンになり、聞き手が興味を失ってるのも気づかずペラペラ喋りつづけた。ようするに、ちっこい船は遠くまで飛べないよ、という話らしい。
「簡単なこと。ただでさえスペースを食う魔界ゲート制御系をケチればいいんだ」
言ってから、ニオルクゴールは中古屋の主人に紹介された船を見つめた。全長2~30メートルほどの小型船、お値段はリーズナブル、予算におさまる。が、ここまでのご高説によれば、こんなので恒星間航行は不可能なはず、なのだが。
「オジサン、これ本当に長距離いけんの?」
「ああ、行けるっちゃ行ける」
ちっさ。と、ロディでさえ思う。が。
「よし! これ、もらうわ!」
ニオルクゴールは言った。
「ええー!?」
渋い顔をしていたロディは、思わず声をあげた。
「正気かい、お前さん?」
中古屋の主人も、思わず声をあげた。
2-3
(ねえ、これ本当に大丈夫なの?)
ロディはこそこそ声で中古屋の主人にたずねた。
(二回、返品されてる)
(二回?)
(そんときは、一週間以内で)
(了解。あなた、いい人ね)
(ウチはそれでやってる)
ちゃんと話を聞いてみれば、やはりというか、ロディがもともと貯金はたいて持ってきた全財産のほうが、ニオルクゴールの全財産よりいくぶん多かった。それがあれば、さすがに100メートル未満級ほどの恒星間としても一番下のグレードぐらいは買えた、かもしれなかった。タラレバの話なのだが。
その半分以下のサイズでまともに飛べるのかどうか、主人もよくわからないそうで。ただ、最初に持ち込んだ者も、そのご返品してきた者も、長距離性能について不満は言ってこなかった。問題があるのは、船の性格だそうで。たいそう、態度が悪いらしい。ニオルクゴールの講義によるなら、つまり頭の良さのあたりの魔方陣がケチられた、変態仕様の欠陥船という可能性が……。
ただ、ニオルクゴールが職を捨て貯金をはたきロディのために買ってあげられる恒星間船が、これしかない、という残酷な現実もある。しかも、魔法オタクのニオルクゴールは、この規格外の小ささの船をいたく気に入った様子なのだ。
ロディは、一目見て、この船が気に入らなくなった。ちっさ。そういう印象は、もちろん受けた。が、問題はその外観デザインだった。アシンメトリーなのだ。ありていに言えば、ぱっとみ左右でちぐはぐな形をしてる。どこのどいつがどんな思惑で設計したら、こういうのを思い付くのだ、と、ロディはこれを作った船大工の神経を疑う。ロディは宇宙船にはまったく詳しくないが、今まで見てきたのがそうであるように、せめて左右対称で前後がどっちか見てわかる、そういうのが普通なんじゃぁないのかオイ、と思った。
「ひどい格好だろ? だから、安い」察するように、主人が言った。「おそらくは、増築だろうな。なんかで壊して、雑に修繕したのだろうと思う。俺だって、こんなのは他に見たことがない。実際、修繕するならもうちっともとの形に寄せるもんだろうが。これは、違う」
「あぁ、はぁ、なるほどねぇ」とロディ。
「なんと言うか。修繕そのものは、えらく上手くやってるんだ。どっからどこまでがつぎはぎした跡なのが、よくわからん。まるで、最初からこうデザインされた、とでもいうようにな」
「そう思ってたわ」
「……ま、ある意味、その感覚のほうが正しいわな」
セキセイインコはすでに勝手に飛んでいって、キャビンにもぐりこもうとしている。小さな船は、でかい巣箱のように見えた。興味津々、と全身に書いてあるよう。
「あるいは、この妙な形が、チビのくせにゲート開ける秘密があるのかもしれんが。俺の経験だと、そんなのは聞いたことがない。俺もこのきたねぇ街で、中古の船を買って鑑定して値をつけて売る仕事をしてきたわけだが、コイツばかりはどうしたもんかわからん」
「だから、とっとと売り払いたい。かといってタダで誰かにくれてやるわけにもいかない」
「そう、そう。物わかりがいいな、あんた。どこの星から来た?」
身長1メートルほどの直立二足歩行をする猫人間は、平均的背格好にあたる人間のロディを見上げてたずねる。
「ガンセント」
「大都会じゃないか。なんでもっといい船を買わないんだ」
「そこは、ちょっと、いろいろと」
到着早々に全財産かっさらわれて無一文になりました、とは打ち明けがたい。限りない間抜けに思われて、急に態度を変えられても、交渉しにくくなる。
「一応……」
乗り気じゃない雰囲気を遠慮なく撒き散らしながら、ロディは、中も見せてもらおうかしら、と言おうとしたそのときだった。
「これをください」
スポンサーのニオルクゴールが、甲板に顔を出して、言った。
言葉を失うロディの肩に、同情するように中古屋の主人がポンと手を置いた。猫人間なので、うんと背伸びしてくれていた。
2-4
ダイニングテーブルに、肘掛け椅子が4脚。壁面にはちょっとした収納戸棚がいくつか。正面には観音開きの窓が二つあって、そこから進行方向の様子を見ることができた。壁は特に飾り気はなく、素材の木材が剥き出しになっている。天井からは、ややオレンジがかった裸電球が二つさがっていて、魔法により淡く発光していた。
それが、この小さな宇宙船のメインブリッジだった。ロディには、常識に照らしてとてもそうは見えなかったのだが、船自身がそう言ってるのだから、たぶん、そうなのだ。
「よく、こんなのが宇宙を飛べるわね」
「そうだろう。たいしたもんだよ。僕、もっとじっくり調べてみたい」
そういうニュアンスで言ったわけではないのだけれど、とロディ。ここはもう大気圏の外なのだ。が、まだ衛星軌道上にあって、すぐには離れる予定はない。衣食住に必要な最低限のものは買いそろえなければならないし、水や食べ物といった備蓄もゼロだ。とりあえずまともに飛べるのかどうか、というのを確認するため、ここまで飛ばしてみただけ。それで不具合でもあれば返品の口実になったのだが、船はすんなりと飛んでニオルクゴールを上機嫌にした。
宇宙船を自分の物にするには、船に名前をつければいい。ニオルクゴールは、これはロディの船だからロディがつけるべきだ、と主張した。それで、ほぼ乗り気でなかったロディは、適当にシップと名付けた。ところが、船はその名を嫌がった。格好悪い、と言うのだ。
「あのさ、魔法にくわしいトリさん」と、ロディは無表情にニオルクゴールに尋ねた。「これって、こういうもんなの?」
「確かに、シップはないよな」
「そっちでなくて。船の魔法知性体って、持ち主になろうって人のコマンド入力に、気分で逆らうものなのかしら」
「少なくとも僕は聞いたことがないな」
「あたしもよ!」
「そう怒るなよ、ロディ」
「怒る怒らないでなくて、混乱してるの! 大丈夫なの、この船?」
「まあそう怒るなよ。ロディっていうのか、お前」
「だから、怒る怒らないの問題じゃなくて……じゃなくて、なんであんたが自然と会話に参加してくるのよ。船のくせに」
「がーん。俺、ちょっと傷ついたかも」
「ロディ、今のはさすがに言い過ぎだぞ」
「いやいやいや。魔法知性体って、そもそもこういうもんじゃないでしょうよ。なんか、こう、機械的で無感情で、っていうかそんな感じ」
「まあ、一般的なイメージって、そうだね」
「え、そうなの?」と船。
「君は君らしいままでいいよ」と鳥。
「だから返品されたのでは」と女。
とにかく名前をつけねば、とロディは思う。もしかするとそういうのがキーになって、もうちょい素直に言うことに従うようになるのかも、といったわずかな期待を込めて。今はともかく、ロディもかつては評価3の魔法使いだったのだ。魔法関連については、ズブの素人というわけではない。そのロディの知る限り、名前、というファクターは魔法の様々に影響したりすることもわりとある感じのそれなのだ。
ロディは船を指差して言った。というかダイニングテーブルのあたりを指差して言った。
「チグハグ! あんたの名前はチグハグ!」
「やだよ、さすがに」
「ぴったりじゃないの。じゃあ、ワンコ」
「却下。真面目にやれ」
「あんたにだけは言われたくないわ。キャサリン!」
「女の名前じゃないか、それ」
「船に性別あるわけないでしょ、なに男の子ぶってんのよ」
「いやぁ、なんとなく。俺のアイデンティティーがそう訴えるもんで」
「そもそも船って女の名前つけるもんじゃなかつたっけ。チェリー!」
「惜しい、けど微妙に印象違う」
「サンフラワー!」
「のどかすぎる」
「ダンデライオン!」
「なんで、のどか側に振るの」
「ユリバラ」
「やけくそ?」
「そーよ。オイスター!」
「お、いいね」
「ったく! じゃあ……え?」
「それで。俺の名は、オイスター」
そんなのでいいのか、とロディが肩を落とすと同時に、確かに、船全体に生気がみなぎってきた感じがしてきた。その感じこそが、仮にも元評価3(現在評価2)ハンライス魔法使いの感覚というやつで、魔力の気配みたいなのを察知する、その素人なら気のせいで見落としがちな感触を魔力感覚なのだと経験的に知っている、そういうところに現れていた。現役で冒険者をやっていたとき、ロディとその仲間には自分たちの船があって、その船で移動していた。だから、船が稼働してるときの魔法感覚というのは、知らないわけではない。
が、この船から感じる雰囲気は、どことなく異質な気がした。が、ひとまず気にしないことにした。
こうして恒星間航行用小型宇宙船オイスター号は、晴れてロディの持ち物となり。今は、生活必需品を何一つ積んでないまっさらな状態で、サイコンの衛星軌道上をふわふわしているのだった。
当面は、この船で寝起きすることになる。この先どうなるか、まだわからない。買い物もしなければならない。ごはんも食べたい。やることはたくさんあった。だが、まず最初に、なにも考えずにいられる時間が欲しかった。ほんの、しばらくだけでいいから。
「ちょっと、外でも眺めてくるわ」
ロディは言って、メインブリッジから甲板に出ていった。
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甲板に出ると、頭上には満点の星空が広がっていた。こういうのには、素直に心が洗われた。振り返ると、キャビンの向こうに視野の半分近くを占める半円形に、惑星サイコンが見えていた。ちっぽけな星、に見える。いくぶん、気持ちは大きく、楽になった。
こうして剥き出しの宇宙空間に生身で出ていても平気なのは、いわゆる居住空間維持系の魔方陣は正常に作動している、ということ。返品理由は、そこじゃなかったのだろう。もっとも、もしそこなら、出発早々に乗組員全員死亡してコイツは難破船になっていただろうから。まあ、性格のせいだろうな、とロディは改めて思う。
甲板に大の字に寝転んで、しばらく頭を空っぽにしてみた。いい気分だった。これが忘れられなくて、また冒険者を目指す気になったのかもしれない。わからないけど。
どれだけそうしていたのか。仰向けに寝そべっているロディの視界に、セキセイインコがヌッと割り込んできた。
「まだ、ご機嫌斜めかい、ロディ」
「よくわかんないわ」
「ちょっとだけ、話を聞いてもらえるかな」
ロディは、めんどくさそうに体を起こした。
「なによ」
「この船、たぶん、なかなかの掘り出し物だぞ」
「まあ、ホントに?」
ロディが変に嬉しそうに言うので、ニオルクゴールはやな予感がした。
「売りましょう、別の中古屋に」
「ちょっとまて!」
「あら。あんた、自分の見立てに自信がないとか言い出すつもり? 今さら」
するとニオルクゴールは、勢いよく首を左右に振った。
「そういう生易しい話じゃないと思う。本当にまともに買ってくれるところがあるとしたら、国家レベルの研究組織とかそのてのところかもしれない」
「デカすぎる嘘は本当っぽくなる、って話法?」
「だから。まだ確証はないけど、そう簡単に手放すもんじゃないよ、たぶん。変わったデザインしてるだろ。アシンメトリーの」
「ぶつけて壊れて修繕したんだろうって、オジサン言ってたけど」
「それなら、修繕した継ぎ目がどこかにあるはずなんだ。だが、そうした痕跡がどこにもない。さっき見てきた。と、言うことは」
そういや、オジサンもそんなような話をしてたようなしてなかったような。
「工業デザイナーが頭のおかしい人だった」
「ちがう。自己修復したんだよ。わりと大きな破損を、かなり無理やり」
「……いや、まさか」ロディは、半笑いで返した。「軍艦じゃあるまいし」
軍艦だとか、政府要人みたいのを乗せるようなとんでもない高級船なら、そのての能力もある。魔界を介して何もない空間から修復物資を生み出し、損傷箇所を生き物の負傷回復のように修復できる。だがそれにはかなりの規模の魔方陣を仕込む必要があるので、それだけで小型船には不可能だし、しかもごく小さな破損を仮に塞ぐ程度が普通、外観のシンメトリーなシルエットが崩れるのうな船の半分まるごと生み出すような技術は、ちょっと聞いたことがない。
「他に説明のしようがない」
「工業デザイナーが頭のおかしい人だった」
「そのほうが可能性低いとは思わないのかい?」
「……じゃ、マジで?」
鳥は、うなずいた。
「こんな、ちっさいのに?」
鳥は、二度こくこくとうなずいた。
「わけがわからない」
「だろ?」
ロディはしばし考え込んでから、改めてニオルクゴールにたずねた。
「じゃあ、なんでそんな凝った船のメインブリッジが、ダイニングキッチンみたいなの」
「それは、わからない」
そっちは調べてないんだ、この鳥、とロディは理解した。
つづく