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カリカガン

作者: 小城

 この物語は、フィクションであり、実在の人物、団体、事件等とは、一切、関係ありません。

 内向的な性格は、悪い訳ではない。人と話すのは、嫌いではないが、疲れてしまうのが、たまに傷である。

 本当は、家で寝ているのが、一番、楽なのだが、そういう訳にも、いかないので、働きに出た。

「行き先は、カリカガン島。」

 アメリカ合衆国所属のアリューシャン列島にある無人島である。周囲の長さは、約1.6km。小さな島である。

「仕事内容は、国家建設…。」

 

 アラスカから船で、ティガルダ島へ、その後、小舟で、カリカガン島へ上陸した。

「始めるか。」

 ブリザードほどではないが、雪混じりの風が吹いている。私は、仕事を始めた。島の周りに、有刺鉄線を張り、バリケードを作って行く。物資は、いくらでも調達できるし、労働力もある。思えば、念じれば、願いは叶う。思考は現実となる。島を囲い終わると、私は、電波をジャックして、独立を宣言した。カリカガン国の建国であった。


 アメリカ合衆国に所属する海岸線延長1.6kmのこの島を不法占拠した。数日後には、海上警備艇が派遣されて来た。私は、それを、遥か南の海上へと飛ばした。願いは叶うものである。誰の命も取らず、国を建国すること。それが、私の仕事内容だった。


 私が、カリカガン島に来るより、前の頃。ある日の深夜、ネット上でこの仕事を見つけた。

「そこでは、思考は現実化する。」

 という条件だった。


 島の周囲に、見張りを付けて眠った。その間にも、この小さな島には、私の願いにより、建造物が建てられて行く。翌朝、目が覚めると、沿岸海域には、船が多数出現していた。私は、それらをひとつひとつ、南の海へ移動させた。


 島へ一歩、足を踏み入れると、他の国へ移動してしまう。この島には、誰一人入ることはできない。すべては、願いのままに。創造することも、選ぶこともできる。


 数年の内に、周囲1.6kmのカリカガン島は、私の王国となった。すべての国と地域に、物資を輸出する。輸入は0。独立王国である。私は、思った。

「願えば叶う物だと。」


 20年後、私のもとに書類が届いた。カリカガン島での仕事の詳細情報であった。そこには、この仕事の本来の目的が記されてあった。

『量子力学的コペンハーゲン解釈の現実世界への応用。』

 それが、今回の仕事の目的であった。何故、私は、願えば叶うのか。その原理は、量子力学の不確定性原理に基づくだった。

 量子量子力学のコペンハーゲン解釈では、観測者が実際に、観測し、認識するまでは、その対象は、不確実で確率的な存在であると言われる。物質を微視的極限まで、突き詰めると、その存在は曖昧な物となる。

『それは、物質は、本来、人間の細胞がそうであるように、塑性を持った無垢な存在であり、同時に、あらゆる物への存在の可能性を秘めているのではないか。』

「『願いという、人間の意識のエネルギーを受けて、物質を意のままにする。それは、世界を意のままにすることでもある。』か。」

 書類本文は、そう締めくくられていた。


 それは、そう思った瞬間、そうなる。もし、そうであるならば、私が、そう思うものは、現実なのだろうか。そう思った瞬間、私が築いていたカリカガン王国は、崩壊した。そう、すべては、私の思う幻想でしかなかったことを、その時、私は、認識したのであった。

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