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【休止中】魔法史  作者: ハザクラ(桜葉)
1章 集いし学者たち
6/7

ソルバラート温泉郷 sideハルート

徐々に明らかになる歴史。

お楽しみいただければ幸いです。


 タキラと別れ、「トキス調査団」は北へ進路を変えた。

ツノーゼンブルクから見て東にはローゼンブルク、北にはログデル和平中立国がある。

東西に長いログデル和平中立国は、南側でツノーゼンブルクとローゼンブルクに接しているのだ。

そのツノーゼンブルクとログデルの国境にある温泉街、ソルバラート温泉郷を目指す。


「川沿いを北上しましょう!水に困ることも迷子になることもないわ!」


レーノの提案で、ミドラー川を遡っていく。

ミドラー川はソルバラート温泉郷付近を源流に、ローゼンブルクの中心地を抜けて海へ出る大きな川らしい。

川沿いの岩石がどうという話は、残念ながら俺にはわからなかった。


「こっちよ!」


幾度となく分岐していく川を、レーノは正確に見極めていく。

「支流は見ればすぐわかるわよ」とのことだが、俺にはさっぱりだった。

ドランの表情も俺と似たようなものだった。



「なんでこんなにグネグネしてるんだ?」


ドランが気になったことを聞いていた。

確かにかなり蛇行している。

もういっそ真っ直ぐ行ってしまった方が早いのではというくらいに。


「このあたりは平たんな盆地だからよ。大雨のたびに氾濫を起こして、流路を変えるのよ」

「そりゃ大変そうだ…」


レーノの説明に、思わず納得した。

以前ワンジュ遺跡を調べていた時、洪水の跡を発見したことがあった。

古代魔法脳の俺はてっきり『大降雨』の魔法(当然禁忌扱いだ)の痕跡だと思ったが、どうやら大昔に近くを流れる川の進路が変わり、遺跡を飲み込んだのだという。

現地のお爺さんが教えてくれた。




「ここね。ここはまっすぐ行くわよ」

「ここは太い方じゃないのか」


支流が細い川のことだとなんとなく理解したころ、レーノはその細い川を示した。


「太い方が支流扱いなの。ソルバラート温泉郷が古くから栄えていたから、そっちの名前が今でも残っているのよ」

「ほうほう」

「なるほどねぇ」

「さ、行きましょう」


 


 レーノは心強かった。

このあたりの地理が完全に頭に入っているようで、ソルバラート温泉郷まで一度も迷うことはなかった。

俺の『速度支援』と『自律休息』の支援で高速で走り続けたこともあり、半日で着いた。

このスピードで走り続けると、途中で何かに襲われることは稀になる。

今回も厄介事なく目的地に到着した。


「本当にソルバラートに着いちまった…」

「思ったより早かったわね。いくらハルート先生の補助があるとはいえ、日が暮れるだろうと思っていたのに」

「レーノのお陰で迷わなかった。それが大きいだろう」


ツノーゼンブルクからソルバラートまで、通常は馬車で2日かかる。

途中に宿場町がいくつもある主要街道を通るルートで、決して川を遡って行くルートではないと言っておこう。

ちなみにその街道は「ミチク街道」と言う。

北は遠くブラックストーンまで、南は巨大都市トキスまで続いている。


「今日のところはここで休みましょう。時間はあまりないけれど、焦りすぎは禁物よ」

「…そうだな!焦りはここ一番での失敗に繋がる!」

「そうしよう」


俺たちはそこそこの温泉宿に泊まることにした。

一応断っておくが、全員別の部屋だ。




 明日朝まで各自自由行動ということになったので、ソルバラート温泉郷を探検することにした。

まだ日が傾いたばかりだ。時間は充分ある。


変な奴に犯罪者だの言われるのも面倒なので、『反射阻害』で変装しておく。

顔に当たる光を調整することで、顔の見え方を変える古代魔法だ。

古代魔法による広域破壊魔法を中断させる工作員を送り込む…というのが基本だった古代の戦争において、『反射阻害』は工作員の基本的な魔法だったと言える。


 言うまでもなく歴史好きの俺は、ソルバラート温泉郷の一番古い温泉に来ていた。

ここには「炎神風呂」と呼ばれる風呂が存在する。

風呂と言っても常に90℃で保たれており、人が入るには熱すぎる。

ちなみにもっとも古い炎神風呂は、カホ温泉郷にある。


「おや、お客さんですかい」

「ええ、まあ」


炎神風呂の周辺には観光客など1人もいなかった。

中心地から離れている上に、入ることのできない温泉だ。無理もない。


「こんなところまでよく来たねぇ。卵かい?」

「いえ、ソルバラートの炎神風呂を見学してみたかったので」


お爺さんのいう卵は、炎神風呂で作るゆで卵のことだ。

固ゆでの卵が一部のファンに大人気らしい。

だがわざわざここまで買いに来なくても、ソルバラート中心地で買えてしまう。


「炎神様に会いに来るとはのう。いい心がけじゃ」


お爺さんは何度も頷いた。そして語りだした。


「炎神様はのう、ソルバラートの救世主なのじゃ。

レディオフォンス様の時代じゃ。ソルバラートは未知の病に侵されたのじゃ」


レディオフォンスというのは、トキス平野を拠点に世界を平定した英雄ヤハフォンスの末裔と言われている王だ。

トキスピラミッドを建築したのもこの時代と言われ、トキス王朝の黄金期とも言われている。

4000年以上も昔の話だ。


「川は人々の嘔吐物で溢れ、町中に死体が転がっておったそうじゃ。

その時ここに訪れたイツクシヒメ様が、当時のソルバラートの状況にひどく心を痛められたのじゃ」


酷い有様だ。尤も、この手の伝承には尾びれがついているが…。


「イツクシヒメ様は、そのお優しい心で人々に話を聞いて回られたそうじゃ。

ご自身がその病に侵されるかも知れぬことを顧みずに…。

そしてイツクシヒメ様は、ついに原因を突き止められたのじゃ!

なんと炎神様にしか浄化できない()()だったのじゃ!

そこでイツクシヒメ様は、炎神様を招き入れるために、炎神様のお風呂をお造りになった。

炎神様は甚く気に入られ、それ以降ずっとこの炎神風呂からソルバラートを守ってくださっているのじゃ」


それで炎神風呂という名前がついているのか…。


「…しかし話には続きがあってのう。

イツクシヒメ様は、結局瘴気に倒れてしまったのじゃ」

「っ…」


少し言葉を失ってしまった。

あまりにも悲しいではないか…。


「ソルバラートの人々はイツクシヒメ様の死を悲しんだ。

そして作られたのが、現在のイクシード神殿じゃ」

「イクシード神殿と言うと…ホワイトリヴの?」

「その通りじゃ。当時はライトルート山脈はなかったのじゃ。ソルバラートとホワイトリヴは1つの街で、イクシード神殿はホワイトリヴ側に作られたのじゃ」

「そうか…。そういえばそうでしたね」

「なんじゃ、知っておるのか?若いもんにこの話をしても、誰も信じようとはせんがのう」

「古代魔法を研究していまして。ライトルート山脈は良く知っています」


ライトルート山脈は、何を隠そう古代魔法『天空落石』による破壊跡だ。

トキス王国とノーザンレギオン帝国の衝突で、トキス王国の魔術師たちによって行使された。


当時は軍を編成する文化が未発達で、専ら古代魔法による破壊をメインにした戦争ばかりだった。

その時代の『天空落石』や『隕石』による山はいくつか知られているが、ライトルート山脈は面影が強く残るため有名だ。


「古代魔法の研究者じゃったか。炎神様に会いに来たことと言い、嘘ではないじゃろう」


お爺さんは感心したように頷いた。


「トキス王国もイクシード神殿の破壊は避けたかったのじゃろう。

イツクシヒメ様の慈愛は、きっとレディオフォンス様の子孫にも届いておったのじゃろう」


お爺さんは南の空、トキス平野の方を見つめた。

それに釣られるように俺も視線を移した。

横目に沈んだ陽と()()()()が映る。


「…長々と語ってしまったのう。話を聞いてくれた礼じゃ。卵をやろう」

「いえ、貴重なお話をありがとうございます。歴史好きとして、大変興味深い内容でした」


本心であった。

俺は旅の醍醐味の1つに、現地の昔話を聞くことがあると考えている。

むしろ感謝だ。


完全に陽が沈み、()()()()が輝きだす。


「今日はこの辺で。ありがとうございました!卵も頂いてしまって」

「どういたしましてじゃ! 炎神様はもういいのかい?」

「炎神様にお会いするのは暖かい日がいいと聞いていますので」

「ふぉふぉふぉ。よく知っておるのう!ますます気に入ったわい!」


お互いに会釈して戻った後、宿で卵をいただいた。

4つあったので、今夜1つ。明日3人で食べ切ろう。


固ゆでの卵はホクホクで、どこか暖かかった。

ブックマーク登録をありがとうございます!

誰かが読んでくれているという事実が励みになっております。

今後ともよろしくお願いいたします!


追記:2021/4/13 タイトルを修正しました。


~地理情報整理~


本格的なものは1章終了時にまとめます。

今回は仮のものです。


1.国編

・マイヴィ王国

タキス、ミナクを含む王国。

歴史的建造物や古戦場が多く、その手のマニアの憧れの地でもある。

観光名所筆頭はトキスピラミッド。

トゴーの大洞窟もあることから、歴戦の勇者も集う。

・ツノーゼン国

ツノーゼンブルク、ソルバラート温泉郷を含む国。

マイヴィ王国とは古くから繋がりがある。

太陽神殿が立地する国でもあり、神聖教の信者たちが集う。

・ローゼンブルク王国

海に面した首都ローゼンブルクを筆頭に、海運と河川運輸で栄えた王国。

ローゼンブルクは中心をミドラー川が貫いており、街の中心部まで船での運搬が可能になっている。

現在(本話時点)、王女アクアリスタが行方不明。

ツノーゼン国からローズ山脈を挟んで東側に位置する。

・ログデル和平中立国

ツノーゼンとローゼンブルクからみて北側に位置する。

かつての戦争で疲弊した人々が集まり、ちょうど争いの中心であった地に中立国を築き上げた。

ライトルート山脈はログデルとツノーゼンの国境である。

・トキス王国

数千年以上の歴史を持つ王国。首都トキスは巨大な都市で、周囲の街と市街地で繋がっているほど。

そのためトキス平野内部であっても魔物住むことができず、より住みやすい環境になっている。

半面、冒険者ギルドは衰退の一途である。


2.街編

・ミナク

「ミナクの同志」が活動拠点としていた小さな町。トキス平野の北西部に位置する。

・タキス

「ミナクの同志」が良く活動する大きな街。トキス平野の北部にある。

ツノーゼンブルクからみて西側である。

・ツノーゼンブルク

「トキス調査団」が活動拠点としている大きな街。トキス平野の北部にある。

タキスからみて東側である。

・トキス

トキス平野の中心やや南側に位置する巨大都市。古くから栄え、4000年前のトキス王朝の王城跡が残る。

・ローゼンブルク

トキス平野の外、東側に位置する海沿いの街。

中心部をミドラー川が貫き、船での運輸が盛ん。

・ソルバラート

古くから栄えた温泉郷。炎神風呂があり、そこでの卵が有名。

湯治の冒険者で常に賑わっている。

また中心を街道が通っており、交易でも栄えている。

・ホワイトリヴ

ログデル和平中立国の南の都市。

ソルバラートとライトルート山脈を挟んで隣の街。

イクシード神殿がある。

・ノーザンレギオン帝国

約4000年前の帝国。現在のログデル以北全体をまとめ上げ、トキス王朝と争った。

現在ログデル戦争と呼ばれるこの戦争で、魔物の種類が激減したと言われている。

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