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【休止中】魔法史  作者: ハザクラ(桜葉)
1章 集いし学者たち
5/7

王女様の捜索願


 俺たちは地竜の討伐後、拠点に戻った。


ギルドでの報告も済ませた。

結成したばかりのパーティが強力なモンスターを倒したことは、かなり驚かれた。

しかしメンバーは名の知れたものばかりで、ギルドの職員は疑うこともなかった。

地質学者と医学者、それに元Aランクパーティの犯罪者だ。有名だ。




 日が変わり、再びギルドへ向かった。

ギルド内は騒然としており、何かが起きているようだった。


「おい、何があった?」

「あ、ドランさん! それがローゼンブルクの王女様が失踪されたようでして!」

「なに? ローゼンブルク王女というと、アクアリスタ様か?」

「ええ、そのようです! ローゼンブルク王国内はもちろん、周辺の国々にまで捜索要請が出ているようです!」

「………それは一大事だ。 なあ、どうする?」


ドランは俺たちにどうするかを尋ねたが、どうするもこうするもない。

ドランの眼はやる気満々だった。


「乗るぞ」

「そうね、行きましょう!」

「そうか。恩に着る」




 「で、心当たりはあるのかしら?」

「あるにはある。アクアリスタ様を良く思っていない連中の仕業だとすれば、場所は見当がつく」

「ではそこへ向かうのね?」

「ああ。だがその前に会っておきたい奴がいる」


俺たちはツノーゼンブルクを出て、東に駆け出している。


東側にはローゼンブルクとの国境となる山脈がある。

そのままローゼンブルクを抜けてさらに東へ進むと海に出る。


「ローズ山脈に診療所があってな。そこにいる奴に確認しておきたいことがあるのさ」


ドランの言う仲間というのは、その診療所の人のようだった。


俺は『速度支援』の魔法を惜しみなく使い、3人の歩みを速めた。

真剣な表情を見れば、あまり余裕はないことがわかるからだ。

『捜索』を使えばすぐにみつかりそうだが、俺自身がローゼンブルク王女を知らない。

知らない人物を『捜索』する魔法は、少なくとも俺は知らなかった。




 「ここだ。かなり早く着いたな」

「不思議ね、あれだけ早く走ったのに全然疲れないなんて」

「昨日は2人に助けられてばかりだったからな。俺も少しは役に立ちたい」

「先生にはこれから滅茶苦茶世話になるかも知れん。その時はよろしく頼む。この通りだ!」

「俺でよければ。まだドランからの借りを返したとは思っていないしな」


そんなやり取りのあと、診療所の敷地に入る。

山奥に立つ木造建築は、立派な()()の奥にあった。

巨大な朱色の門をくぐり、診療所の前に立つ。


「俺だ! タキラは居るか!」


ドランは拝殿の前で叫んだ。


そう、ここは診療所などではない。

神殿だ。タキリ神殿だ。

約1000年前に作られた神殿で、タキリという女神を祀っている。


女神タキリというのは、人々に交流を与えた女神とされている。

街道の整備や馬車といった技術を人々に授け、繁栄をもたらした。

神聖教にも邪神教にも存在する女神で、何か元になった出来事があるのではないかと言われている。



「おお、ドランか。どれ、何かわかったかね?」


拝殿の奥から出てきたのは、真っ白な衣装を纏った女性だった。

この人がタキラさんだろう。


「いや、すまん。まだ答えは出てないんだ。だが教えてほしい!ローゼンブルクで何が起こっている!」

「それは、分からん。私が分かるのは、リディア様の教えのみ」

「そう、ですか…」

「り、リディア、様、だと…?」


俺は衝撃を受けた。

リディアというのは、邪神教の最高神の名だ。

このタキラという女は、邪神教の信者なのか…?


「そこの男よ。リディア様を知っているのか?」

「…少しだけならな」


邪神教の信者は何をする分からない。

だが、俺は古代魔法オタクを自負している。

邪神リディアは邪神であると同時に、史上最強の古代魔法の使い手。

知的欲求とドランの仲間という事実に後押しされ、隠すことはやめた。


「ほう。ならば教えてやろう。ローゼンブルク王女は生贄になるだろう」

「なっ!?」

「生贄? 事実だったのか!?」


邪神リディアは、定期に敵に生贄を要求する。

古代魔法の膨大なコストに使うためだとされている。

その古代魔法で世界を破壊し、終末を早めるのだ。


「まぁ焦るな。このままいけば生贄だ。それを止めるには、ローゼンブルク王女を解放しなくてはならぬ」

「やはり知っていたのか…!」

「だから焦るでない。これもリディア様の教えだ。いやこれはユミ様か?まぁ今はいい。

王族が行方不明になって周辺国に捜索願。この状況は歴史の中で何度も繰り返されている」


そんなことがあったか?と思い返してみると、確かに思い当たるエピソードはあった。


例えば約200年前、ミラドの戦い。当時跡取り息子であったサガーヌ王子が、隣国ミラドに渡った。

彼はそこで行方不明になり、それを口実にサガーヌ王国はミラドへ攻め入った。

実はサガーヌ王子は当時のサガーヌ王に幽閉されていただけであり、侵略のためのでっち上げだったのだ。


他にも約500年前のハーグ合戦。ローズ帝国(現在のローゼンブルク王国)が、ログデル国へ侵略戦争を仕掛けた合戦。

この時は王女が攫われたと周辺国に通達し、後にログデル国で発見したと報告。それを口実に侵略戦争を始めたのだ。


…そういうことなのか?

「そこの男は分かったようだな?」


俺の口から言うように、ということか。


「…侵略戦争のダシに使われている、ということか?」

「その通りだ。ログデル和平中立国にて王女を殺害するだろう」

「そ、そんなことをしたら…」

「戦争、だな。」


場が静寂に包まれた。


「ここまで教えたのだ。何をすれば良いか分かるな?」

「アクアリスタ様の殺害を食い止める。それしかない!」

「ええ、そうね!」

「行くしかなさそうだな、ログデルに」


「トキス調査団」は意を決して発とうとした。


「待つが良い。そこの男、名は何という?」

「俺か?」

「そうだ。お主だ」

「ハルートだ」

「ハルートか…。聞かぬ名だな。雨宮健(あめみやけん)という名に覚えは?」

「? ないな」

「そうか…。だが気を付け給え。お主の置かれた状況は、リディア様の良く知る状況だ」

「どういうことだ?」

「? 知らぬのか? そこまで精度の高い『速度支援』に『自律休息』を発動しておいて?」


タキラは俺の発動していた古代魔法を、ピタリと言い当てて見せた。

間違いなく古代魔法に精通している。

邪神リディアを崇拝するような口ぶりもある。

恐らくだが、その気になればツノーゼンブルクを一瞬で滅ぼすこともできるだろう。

…俺ができるのだから。


「本当に知らない。邪神リディアにはさほど詳しくないからな」

「ふっ。リディア様を邪神呼ばわりとは…。まぁよい。だが敵になるのなら容赦はせんぞ?」

「邪神と呼んだのは悪かった。俺には敵対する意思はない」


タキラを下手に刺激するのはまずい。

本当に都市が滅びかねないからな…。


「嘘はなさそうだ。ま、いずれまた会うことになろう。その時にまで、精々勉強しておくのだな」


偉そうな態度に少しイラっとしたが、邪神…ではなくリディアに対する知識が浅いのは事実。

史上最強の古代魔法使いはどのような存在だったのか…。

調べてみるのもいいかもしれない。


だがその前に、ローゼンブルク王女の救出だ。



「…行こう」


お読みいただきありがとうございます。


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