トキス調査団、始動
このあたりからいわゆる「無双展開」が始めります。
いよいよここから。そんな感じです。
トキス平野の現地調査の翌日。
前日話し合っていたように、狩りに出ることにした。
「準備はいいな!」
「ああ」
「問題ないわよ!」
いつも以上に張りきったドランは、いつも以上に軽装だった。
白い法衣を羽織っていたのだが、今日はそれを脱いでいる。
宛らシーフだ。
「ドランはそれでいくのか?」
「おう! この相棒がいりゃどうとでもなるぜ!」
そういって見せてきたのは、刃の短いナイフだ。
メスと言った方がいいかもしれない。
対するレーノは、いかにも調査員という恰好から、いかにも魔女という恰好になっていた。
本人曰く「形から入るタイプなのよ」とのことだった。
ギルドで依頼を探している時だった。
「おいおいおいおい、そこにいるのは犯罪者じゃねぇかぁ!?」
「ひえええっ! 女は全員逃げろぉ! ヤられちまうぞ!?」
大勢の前での弁明のチャンスとも考えたが、レーノが動く方が早かった。
「この方は私が雇った研究者です。彼を貶める発言は私に向けられた言葉としても扱いますので。そのおつもりで」
毅然とした態度をとって見せた。
あの言葉は嘘ではなかったのかと、少し嬉しく思ってしまった。
「ああぁん? どこの誰だか知らねぇが、優しい俺たちが警告してやってんだぞ?」
「Aランクパーティのくせにロクに攻撃もできねぇ犯罪者を雇う女だ、頭トんでるだけだろ!」
ギャラリーが笑い声と失笑と愛想笑いに包まれた。
「ようお前ら。元気そうだな?」
「あん? 誰…アニキ!?」
「お、おお久しぶりですアニキ!! 今犯罪者の取り調べ中でして!!」
彼らの背後から現れた男に、チンピラたちは大慌てだ。
何を隠そう、用を足していたドランが戻ってきたのだ。
「そいつはご苦労だった。で、犯罪者ってのは誰だ?」
ドランの笑顔とゴミを見る目が混在した表情は、チンピラを脅すには充分すぎた。
いくらチンピラとは言え、ドランの表情で事情が大方分かってしまうのだ。
だが頭は理解を拒んだようで。
「あ、あいつです!あの元Aランクの奴です!!」
「そ、そそそうですあいつです!!攻撃出来ねえって噂ですけど、何か卑怯な手を用意してるかもしれません!!アニキは逃げて下せえ!!」
とにかくドランをこの場から離す作戦に出たようだ。
「それは俺がAランク冒険者に勝てねえってことか?」
拳を合わせながらドランが言い放つ。
チンピラが脅しに使う動作を逆にやって見せることで、今の状況を嫌でも理解させるつもりだった。
「そんなことねぇっす!!アニキは最強っす!!!」
「こ、ここはアニキにお任せしやす! あざっした!!」
綺麗に一例すると、流れるような動作でギルドから出ていった。
ドラン、正直カッコいいと思った。
ひと悶着のあと、「トキス調査団」はマーマードと呼ばれるエリアに来ていた。
ツノーゼンブルクから南にしばらく行った地点である。
昨日の調査ポイントからさらに南下したエリアだ。
「さっきはありがとう。正直助かった」
言うタイミングを逃していたお礼を、休憩の隙に切り出した。
「気にすんな! 先生は堂々としてりゃいい!」
「その通りよ。ハルート先生の無実は知っているもの」
「ありがとう」
心強い。素直にそう思った。
だが、1つ疑問もあった。
「なんでそんなに信じてくれるんだ?」
俺は事情を説明したことがない。
恐らくだが、俺を牢獄から連れ出した時点で何か知っていたのだろう。
「俺の情報網を侮ってもらっちゃ困るぜ? フェリ…悪い、旧友に接触した仲間がいてな。そいつから色々情報を得たのさ」
「フェリシア、無事だったのか…」
「悪いな、嫌なことを思い出させちまった」
「気にしないでくれ。元はと言えば俺が振った話題が原因だ」
ギルドでの一件で、嫌でも思い出していた。本当にドランが気にすることではないのだ。
それにしれも、フェリシアは無事だったのか…。
最悪アイツらに殺害されたパターンも考えていただけに、少し嬉しい情報だ。
しかも恐らく、フェリシアは何か知っている。
俺が投獄されたのは、フェリシアが失踪した後だ。
フェリシアがドランの仲間に告げた内容は、少なくとも俺が無実だと断定するに充分な情報だったというわけだ。
場合によっては会いに行く必要があるのかもしれないな。
「いたわよ! こっち!」
レーノの『ダウジング』に反応があったらしい。
予想はしていたが、やはり地属性魔法の使い手らしい。
『ダウジング』も地属性の現代魔法だ。
古代魔法の『索敵』や『探査』、『探知』と違い、範囲が狭い分包括的な把握が可能である。
より便利に使いやすく、効率的に魔力消費を抑えている。現代魔法らしい魔法だ。
ちなみに俺も『索敵』で援護すると申し出たのだが、今回は2人の実力を俺に認めさせたいらしく、やんわりと断られてしまった。
「! 来るわ!!」
地面が細かく揺れる。
だんだんと揺れは大きくなる。
大地にヒビが入る。
ドーーンという爆音と土煙とともに、茶色い竜が姿を現した。
「地竜」と呼ばれるモンスターである。
今回「トキス調査団」が受けた依頼は、この地竜の討伐。
トキス平野の濃厚な魔力は、モンスターの成長を早めていることが分かっている。
そのため、散発的ではあるが強力なモンスターが発生してしまうのだ。
この地竜が街を襲う前に倒してしまうことが今回の依頼内容だ。
「ヒュー! こりゃでけえなぁ!」
「ドラン2人分はありそうね?」
「高さはそんなもんだが、体長はもっとでかいと思うぜ!」
グオオオ!という嘶きは迫力満点だ。
あまり思い出したくないが、「ミナクの同志」であれば、バルバラの「アースソード」あたりで切り裂くことになっただろう。
もちろん俺の補助ありきでの話だが。
…考えるのはやめだ。
「ハルート先生はとりあえず見てて頂戴! サンドホール!」
レーノは地竜の足場を陥没させた。
レーノの指示通り、俺は静観する。
地竜は少しバランスを崩す。
ドランが眼球に向かってナイフを投擲するが、何かの魔法で遮られた。
今の、『遮断』か?
ドランの投擲は陽動だったようで、自身は尻尾へ回り込んでいた。
尻尾の付け根を狙い、思い切り切り裂く。
鮮血が舞う。
「奮発するわよ! サンドボックス!」
周囲の地面に魔力が急速に浸透していくのが分かる。
地竜は尻尾の斬撃に怯みながらも、足元の変化を察知しているようだ。
直後、地竜の周囲に足場がなくなった。
周囲の地面が中空を舞い、鋭い刃物を形作る。
地上に逃げ場を失った地竜は、地面に潜ることを選択したようである。
「させるかよ!!」
地面に潜るには、必然的に体勢を下げる。
それを見越したドランの、首筋を狙う連続ナイフ投擲が襲う。
全て何かに防がれるものの、時折眼球やら腕の関節を狙う攻撃が混じることで、動きを止めざるを得なくなっていた。
「アースハンマー!」
地竜の頭に、巨大な槌が迫る。
表情のない地竜であるが、驚いているのが見て取れる。
それもそのはずだ。先ほどまで鋭利な土塊を作っていたのだ。
それで突き刺してくるだろうと考えるのは当然だ。
だがレーノはそれを、巨大な槌の柄としてみせた。
遠心力を載せて、勢いよく振り下ろされる。
ズーーーンと空気が揺れた。
周囲の地面がなくなっているため、その振動を逃がす場所が制限されている。
後で知ったことだが、この時地竜の立つ地面にも魔力を流し込んであり、超強固な地盤としていた。
地質学者レーノによる容赦のない一撃だった。
頑丈なはずの地竜は頭を完全に均され、絶命した。
「ちょっとやりすぎたかしらね?」
「ま、お披露目会にはちょうどよかったんじゃねえか?」
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