現地調査-トキス平野
「学者」同士の会話がメインになります。
お互いの専門分野を生かしていく雰囲気を楽しんでいただければと思います。
「ところでここはどこなんだ?」
冤罪で投獄されていた俺を、レーノとドランが連れてきた。
俺は寝ている間に連れてこられた関係で、どこなのか把握できていないのだ。
「ここはツノーゼンブルク。トキス平野の北西の街ね」
「俺たちの拠点ってところだ。この辺りは魔力が比較的穏やかだからな。トキス病にはならないと踏んでの立地だぜ」
ツノーゼンブルク。ツノーゼン国の首都である。
トキス平野の北西の街で、タキスからみて真西に当たる。
間にはトキスピラミッドや太陽神殿、ワンジュ遺跡、トキス城など、歴史的観光名所が多い。
そのため古くから街道が整備され、人の往来が盛んだ。
トキス平野北部の2大都市とは、タキスとツノーゼンブルクのことである。
ちなみに、タキスがあるのはマイヴィ王国で、ミナクやらトゴーの大洞窟もマイヴィ王国の範疇だ。
「ハルート先生の体調がいいのなら、さっそく調査に向かいましょうか」
「おう、腕が鳴るぜ!」
「体調は大丈夫だが… 他は大丈夫なのか? 俺は脱獄犯なわけだ」
俺が冤罪で捕まったのはミナク。マイヴィ王国だ。
ツノーゼンブルクは国外とはいえ、両国は同盟。
法には疎いが、脱獄犯の引き渡し協定があっても何も不思議ではない。
「大丈夫よ。私はこう見えて貴族なの。多少のことならなんとかなるわ」
「そ、そうなのか…」
頼もしいような後ろめたいような、なんとも言えないバックである。
「そもそも冤罪なんだろ?堂々としてりゃいいさ!」
それもそうかと開き直ることにした。
ドランに顔を向けると、歯を見せて来た。憎めない奴だ。
ツノーゼンの拠点から出発し、南の平野に出た。
新規で冒険者登録を済ませ、3人でパーティ申請も終えている。
チーム名は「トキス調査団」。一応は駆け出しパーティということになる。
「このあたりよ」
レーノが最初に古代魔法の跡説を考えだした場所に来ていた。
地形が不自然だというが、素人の俺にはよく分からない。
「この石、軽いでしょう?」
「! 本当だ」
「軽石と呼ばれる石よ。噴火の時に火口から飛んでいくの。」
「その軽石があると何が分かるんだ?」
「過去に近くで噴火があったということがわかるわ。でも周囲に火山はないのよ」
確かにそれは不思議である。
噴火の痕跡はあるのに、肝心の火山がないということだ。
「ハルート先生。『噴火』という古代魔法は存在するでしょう?」
「ある。かなり凶悪で禁忌に指定されていた魔法だ」
ちなみに、俺も使うことができる。
だが念には念を入れ、公表はしないでおいた。
「その『噴火』をトキス平野で使ったとしたら、どうなるのかしら。古代魔法使いとして意見が欲しいわ!」
質問内容に驚きはしたが、レーノの眼は完全に学者のソレだ。
俺も1人の時間はほぼ必ず古代魔法研究に充てていた。
学者と呼ばれる人々の眼は、よく知っている。
「恐らく周囲の畑が全滅する。近くの街は人が住めなくなる可能性もある」
「やはりそうなるわよねぇ」
「知っているのか?」
「いいえ、私が知っているのは自然に発生する噴火よ。古代魔法によるものじゃないわ」
レーノは地質学者だ。知っていて当然である。
「もし自然に発生した噴火があったとして、トキス平野みたいな地形ができるのか?」
今までのレーノの話からするに、トキス平野の地形は噴火が関係していると考えているのだろう。
もしも火山があれば、古代魔法による『噴火』がなくてもこのような地形になったと考えることができるはずだ。
「そうね。超大規模な火山であれば、理論上は出来るわね」
「できるのか…」
地形を変えてしまうほどの古代魔法は、実はかなり多く存在する。
だがここまで大規模となると、少なくとも俺は知らない。
「もしもだけれど… 『破局噴火』みたいな古代魔法ってないかしら?」
「『破局噴火』か?俺は聞いたことがないな」
「それもそうよねぇ。実在したら人知を超えたなんてレベルじゃないものね」
「そ、そんなに危険なものなのか…?その破局噴火ってのは」
「自然に発生した記録だと、大地を氷漬けにしたとの記録があるわね」
「ん?『噴火』なのに大地を氷漬けにするのか?」
おかしな話だ。
『噴火』は、火属性と地属性を混合した魔法だ。氷の発生に必要な水属性は含まれていない。
いや待てよ?そんな話をどこかで聞いたような…
「火山灰と呼ばれる大量の灰が、空を覆いつくすと言われているわ。結果として太陽が昇らなくなって、気温がどんどん下がると言われているの」
「太陽にまで影響を…?」
「ええ。太陽が動かなくなってしまうそうよ」
実にとんでもない話だ。
黙って聞いていたドランも、神妙そうな顔つきである。
その後も一通り現地調査をして、俺たちは意見を交換し合った。
ドランは俺の想像以上に医学に精通していた。
臓器の名前さえ知らない俺に、どこにあって何をしているのか詳しく教えてくれた。
そうでもしないと、トキス病について理解できないからっていうのもあるだろうが。
ツノーゼンブルクの拠点では、空き部屋を1つ丸々用意してくれていた。
独房での寝泊まりが終わったのだと痛感した。
ちなみにあと2つ空き部屋があるが、今は倉庫である。
「明日は狩りに行こうかと思うのだけれど。どうかしら?」
「おう、腕が鳴るぜ!」
「了解した。でも俺は攻撃参加できないかもしれない」
「先生の支援魔法、知ってるわよ? それにこう見えて私たち、結構強いのよ!」
「明日は実力のお披露目会ってところだ!」
「ん。頼もしい限りだな」
攻撃魔法を使えない…というよりは使いづらい俺にとって、非常にありがたかった。
2人の実力も楽しみだ。
精々足を引っ張らないようにしないとな…。
ブックマーク登録をありがとうございます!
誰かが読んでくれているという事実が励みになります。
引き続きよろしくお願いいたします!
また上記の通りモチベーションに直結しているため、ブックマークや評価をお願いします!
私が個人的に非常に喜びます。
追記:2021/4/5 タイトルを修正しました。