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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第七話

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憎悪の鎖(11)

 チェルミは次々と留置室のロックを解除して捕虜を解放していく。まるで予定通りの行動であるかのように整然と。


(なんで警報が鳴らないの?)

 驚愕の事態にデードリッテは意識を奪われる。

(監視装置がくらまされてる。この区画の自動検出センサーがカットされてる? だから、わたしがうろうろしてても見つからなかったのね)

 偶然居合わせてしまったらしい。

(でも、警戒センサーは有線独立系のはず。外部からのハッキングでの制御は受け付けない。あ、チェルミさんはソフトウェアエンジニア! メルゲンス内の有線ネットワークへもアクセスできたかもしれない!)


 おそらく彼女が留置スペースの警戒センサー系統を分析し、停止させているのだと思われる。


(でも、十分か十五分おきくらいにセルフチェックが行われるはず。そっちは統括警戒センターの上位権限だから、容易には止められないと思う)


 集団脱走が露見するのは時間の問題。しかし、女人狼と共謀しているらしい数名も迅速に行動し、全ての捕虜を脱走させようとしている。


(早く気付いて!)


 デードリッテが念じた頃、やっと警報が鳴りだした。


   ◇      ◇      ◇


 司令室のコンソールがアラート音を奏でる。思考に沈んでいたサムエルは落ち着いて消音操作を行った。


「ようやく網にかかってくれたみたいですね?」

 席を立って横にきたウィーブに表示をしめす。

「留置室はほとんど開放されておりますな」

「どうやらセルフチェックのタイミングさえ分析されていたようですね。明らかに内部犯行です。まあ、想定内ですけど」

「では、想定通り警備隊員に出動をさせましょう」


 彼らが自機に向かうのは間違いないと思われる。そのために一番近い収容区画に鹵獲アームドスキンを置いてある。


「警戒センサー全復旧しました。脱走者は要員を拉致して逃走中だそうです」

 副司令はインカムから入る報告に耳を傾けている。

「アゼルナンであろう人質は同時に確保させてください。おそらくそれが民族統一派のエージェントです。負傷者が出ても構いませんので」

「了解……、は、なんだと? もう一度確認しろ!」

「なんです?」

 肝が座っているウィーブが顔色を変えているのは珍しい。

「想定外の事態です。人質の中にホールデン博士らしき人物が混ざっているとの報告。今、確認させております」

「は? そのためにGPFの要員には立ち入り禁止を徹底させていたはずですよ?」

「どうも博士は禁を破って留置室付近にいた模様。録画映像で確認できました。ご本人です」

 顔色を変えるのは今度はサムエルの番だった。

「警備隊員に命令変更! ホールデン博士の無事を最優先させてください!」


 事前に人質の安全確保について重要視しないよう命じてあった。先ほどのは再確認の指示だったのだ。


「ホールデン博士の安全を確保しつつ捕虜の脱走を阻止しろ!」

 ウィーブがインカムに吠えている。

「手数を増やします。全戦闘要員に博士の救出を指示してください。武器の携行を許可。捕虜の生死は問いません。確実に救助してください」

「自分も現場で指揮を行います!」

「お願いします。僕はここで全体の状況の把握に努めます」


 自分の卓からレーザーガンを取りだした副司令は命令を伝えながら駆けだしていく。サムエルは統合警戒システムにログインして全ての情報を閲覧可能にした。


(なぜ彼女があんな場所に?)


 いくら考えても理解できない行動だった。


   ◇      ◇      ◇


「なんでどうしてディディーちゃんが!?」

 エンリコの疑問にブレアリウスも答えを持たない。

「理由はどうでもいい。助けるだけだ」

「そうよ! 走れ走れ!」


 トレーニングルームにいたメイリー小隊の三人は即座に駆けだしている。訓練用に耐衝撃防刃効果のあるフィットスキンを着けていたのは幸いだが、いかんせん武器を調達するのは無理だった。


「メイリー」

「なあに?」

 走りつつ呼びかける。

「警備隊員に無理しないよう言えないか?」

「心配しなくてもディディーの無事が最優先よ」

「いや、アゼルナン相手では自分の身が守れん」

 彼の懸念は別にある。

「う、確かにね」

「集団脱走ならば誰かが手引きしてる。武器も所持している可能性が高い」

「最悪だわ」

 エンリコも「ヤバいヤバい」と連呼しながら続く。


 デードリッテが人質となると銃器の使用は困難だろう。必然、肉弾戦も覚悟しなくてはならないだろうが身体能力にあまりの差がある。脱出を阻止しようと身体を張れば死傷者ばかりが増えそうだとブレアリウスは考えたのだ。


「一応忠告だけしてみるわ」

 メイリーが請け負う。

「でも警備隊員はそっちのプロでしょ? たぶん聞き入れてくれないわね」

「仕方ない。先回りする」

「そっちは内殻スペースだよ、ブレ君!」

 優男は悲鳴をあげている。

「ショートカットする」

「上がるわねえ」


 通路上にある非常設備からヘルメットを入手する。内殻壁の向こうはドッキングエリアなので気密がされているかどうかは半々くらい。その内殻壁内を移動するとなると宇宙装備は必須となる。


「怖気づいているならついてこなくていいわよ、エンリコ」

「いくいく! 置いてかないでちょうだいよ!」


(待っていろ。必ず助ける)


 バイザーをはねあげたブレアリウスは内殻壁のエアロックに非常コードを打ちこんで開けた。

次回 (もう駄目かも)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……次兄だけなら煽れば行けそうなのに?
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