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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第五話

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戦場の徒花(5)

 レギ・ファングは逆手に持った力場剣(ブレード)を背後のシュトロンへと叩きこむ。コクピット付近を貫いた一撃で相手は無力に漂うだけ。


「まったく! 手が付けられない!」

 ロレフが言葉と同時に浴びせてきたビームをするりと躱す。

「どうしてそこまで動く?」

「ディディーに訊け」

「そういう問題じゃないって!」


 彼を中心にした編隊(チーム)が散開して追いこもうとしているがメイリー編隊は悠々と網を抜けていく。ブレアリウスが食いつくたびに撃墜判定をもらって数を減らしていた。


「こんな模擬戦、受けないでほしいな」

 苦り切った様子のトップエース。

「メグは嬉々として二つ返事だったそうだ」

「あの人のこと。どうせ発破かけるくらいのつもりなんだろうさ。もっと剣闘術を磨けってね」

「だろうな。全体に腕をあげてきている」

 つい喜色が混じる。

「連中も連中だと思わないか? 刺激的な映像()が少ないからって現場に負担をかけないでほしいもんだ」

「取材班か。これで圧が抜ければいいが」

「そう願いたいね」


 急遽決まった模擬戦。タフィーゲル監督官が各社の圧力に負けて企画したのだともっぱらの噂である。


(注意を逸らす意味もあるか)


 デードリッテが強引な取材を受けてから三日。自粛はしているようだが、各社とも世界的に人気の彼女の周辺は虎視眈々と狙う影が絶えない。

 格納庫(ハンガー)で突っ立っている新型らしい機体は取材厳禁の対象になっている。そのアームドスキンが動いている様を見せればガス抜きくらいにはなるだろうという配慮か。


「魅せてやるしかないなってね!」

「甘いな」


 頭、腰、胸と狙ってくる突きを捌く。流れでくり出す斬撃は大きく後退して躱された。振り向きざまにビームランチャーの一撃を送りこむ。

 ロレフが彼の相手をしている間にメイリーたちを仕留めようとする動きを牽制する。思いがけず背後から攻撃を受けたシュトロンはエンリコとの挟み撃ちで撃破された。


「ほらほら、後がないよ」

「油断しない。まだ数残ってる」


 背後からのビームを後頭部にかざした力場盾(リフレクタ)で弾く。即座に転回(ターン)して斬撃にも刃を合わせた。


「見えてるのかい?」

「ヒゲがちりちりする」

 感覚的に攻撃を察知している。

「今度、グロフ医師にそのヒゲを研究するよう進言しておくさ」

「勘弁してくれ。引っこ抜かれるのは堪らん」

「ほう? 弱点を見つけたかな?」


 軽口とブレードをぶつけ合っていると終了の合図がかかった。軽く切っ先を合わせて別れる。


(これで満足して帰ってくれないものか)

 ブレアリウスは視察艦のほうを窺う。

(こんなケースで俺はディディーの役に立たない。軍事的な脅威からしか守れないのだから情けない)


 溜息まじりにブレードグリップを格納した。


   ◇      ◇      ◇


 なかなかの結果を土産に意気揚々とエンリコがパイロットシートから腰を上げるとハンガー全体がざわめいているように見える。何事かと見まわしていると整備士(メカニック)のミードが駆け寄ってきた。


「おいおい、何事だい?」

「ヤバいかもしれないぜ、エンリコ。ディディーちゃんを隠せ」

「はぁ?」


 まったくもって意味が解らない。首をひねっていると、持っている個人端末の投影パネルをクルリと回してきた。


「見ろよ」

「なになに?」


 女性キャスターが何事かを発表しようとしている。スタジオの雰囲気は深刻なものではない。顔ぶれからして芸能ゴシップのコーナーのそれに見えた。


『センセーショナルな話題が飛びこんできました』

 思わせぶりな笑みを浮かべて続ける。

『現地からの報告です』


 画面下には派手なテロップが現れる。そこには『銀河の至宝、熱愛発覚!』と書かれていた。


「うげ!」

「マズいだろ、これ」


『お相手は星間(G)平和維(P)持軍(F)の美形将校との話。アゼルナ紛争取材中の我がZBCクルーが衝撃映像を入手した模様です。まずはご覧ください』


 デードリッテが一室を訪っている映像。画面中の時間表示が赤く明滅し22時すぎを表している。中から誰かが現れるが顔はぼかされている。ただ、その金髪からサムエルであることは容易に分かった。

 二人は二、三言交わし、彼がデードリッテの腰を抱いて部屋に招きいれる。ドアがスライドして二人を隠す。


『深夜の密会を捉えた映像です。部屋の主はGPF将校で軍団長補の階級を持つSさんとのこと。時間にご注目ください』


 赤い時間アイコンが二時間後のほぼ0時を示す。開いたドアから現れたのはデードリッテ。続いて青年将校が見送りに顔を出す。彼が肩に手を置くと理系少女は微笑みを返す。二人は親しげに微笑み交わすと別れる。通路を歩きだしたところで映像は途切れた。


『銀河の至宝と名高きデードリッテ・ホールデン博士は新型機動兵器アームドスキンの開発主任者の一人として実戦投入の現場に技術指導の名目で赴かれているようです』

 そこで意味ありげに一拍置く。

『ですが、民間の技術者がこのような深夜に、派遣艦隊司令官とはいえ打ち合わせなど行うものでしょうか? 逆にいえば、指揮系統の頂点であるS司令官と技術的な話をする必要性はないように思われます。専門家である技術士官も帯同していることでしょう。さて、お二人は深夜の密室でどんな打ち合わせをしていたのでしょう?』

 下世話な含みを持たせて言葉を切る。


「違う違う! 取材陣が追いかけるからディディーちゃんは深夜くらいしか自由に動けなかったんじゃん!」

「でもなぁ、エンリコ。このニュースショーを観ている連中にはそんな事情は伝わらないんじゃないか?」

 どんな騒ぎになるのか想像するだけで嫌な汗が出る。


『では、現地からのリポートです』


 大きめのワイプ画面に現れたエレンシアの姿にエンリコは臍を噛んだ。

次回 『はい、エレンシア。現場の様子はどう?』

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ……捏造(冤罪)記事(博士と軍の離間)が本命?
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