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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第五話

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戦場の徒花(3)

 オリーブドラブの人型が宇宙を舞う。先ほどまで乗艦していたエントラルデンを迂回し、取材班の乗る視察艦の左舷を縫って飛ぶとビームランチャーを一射。見事にデコイを貫いて破壊した。

 続くデコイは噴射をくり返して逃げるも、肩に「1」のナンバーを記したシュトロンは容易に追いすがっていく。半透明の力場剣(ブレード)を軽やかに振るとデコイは両断された。


(こんなの見せられたって、広報映像にあるのと同じじゃない)

 エレンシアは映像としての面白みを感じない。


 戻ってきたアームドスキンは華麗に報道船の傍らに停止する。まるで人間のように一礼をすると、見事な敬礼のあとに着艦口へと消えていく。


「以上、リットニー操機隊長による模擬戦闘でした。あのように星間管理局独自開発新機軸機、アームドスキン『シュトロン』は巨体に似合わない動作を実現しております。よって白兵戦闘も可能となりました」

 GPF担当官のポールが力説する。

「ホールデン博士の協力により建造された新たな機動兵器は戦場を大きく変えようとしています。どうなっていくのかは皆さんが自分の目で確かめていくことになるでしょう。どうぞご期待ください」

 締め括った彼に散漫な拍手が送られる。


(つまんないショーだったけど、あの人間っぽい動きだけはちょっとドキッとしちゃったわ)

 それ以上、心は動かない。


「本日のスケジュールは以上となっております。割り当てになった部屋でおくつろぎください」

 ポールが軍帽を取って一礼。

「なにか質問のある方がいらっしゃれば遠慮なく私のほうへ」


 他社の取材班はそれぞれに散っていく。撮った素材を見直して足りない部分を検討するのだろう。


(見せられるものから必要な部分を拾っていったってつまらない映像にしかならないわ。本番はこれからじゃないの)

 目標を見定める。


「ステッドリー担当官、少しよろしいですか?」

 近付いて肩に手を添える。

「あ、ポールで結構ですよ。ご質問ですか?」

「ええ。では、わたくしのこともエレンとお呼びください」

「いえ、そんな訳には……」

 ボディータッチと親しげな笑顔に頬を赤らめている。

「あまりに門外漢ですので、あなたのおっしゃった戦場の変化というのがピンときませんの。詳しく教えていただけません?」

「そうですか。具体的には……」

「お時間ちょうだいできるのでしたらお茶でもしながらでいかが?」


 すでに他の取材陣は散開している。彼女に付いていたカメラマンとディレクターも言い含められて部屋に帰ったことだろう。懇願に屈してポールは首肯した。


 場所を変えてカフェテリアのテーブルに着く。取材用の端末を傍に置き、マイクを向けて隣に座る。促すように流し目を送った。


「どんなふうに変わるのかしら?」

 少しずつ口調を崩していく。

「そうですね。さっき説明した通りアームドスキンは白兵戦を行えます。使用時には彼我の距離が近くなるわけですね」

「今のわたくしたちみたいに?」

「ええ、まあ、何というか。こうですね……」

 テーブル上に手を立てて敵味方を表して説明している・

「この距離を保つんですが、互いに回避も考えなくてはなりません。戦闘には案外スペースが不可欠になってきます。解りますか? これって市街地だと難しくなるのですよ」

「まあ!」

「砲撃戦なら遮蔽物の多い市街地は有用性が高い。問題は倫理になります。ところがアームドスキンは物理的に制約がかかるんです。意味するところは……」

 エレンシアは彼の手を握る。

「解りましたわ。民間人の被害者が出やすい市街地戦が避けられるようになりますのね?」

「その通りです」


 さも感動したかのようにポールを見つめる。軽く瞳が潤んでいるはず。


「あ、あくまで私個人の考えですよ。希望的観測が混じっているのは否めません」

 予防線を張ってくるが、まんざらでもなさそうだ。

「素晴らしいと思いますわ。ポールは市民のことを第一に考えてアームドスキンの普及を早めたいのですわね?」

「はい」

「素敵。あなたは星間平和維持軍の名を体で表すような方ですのね」

 彼女は肩に縋って見あげる。

「ああ、もっとお話を聞きたいのにこんな時間。わたくし一人が勤務時間を奪ってはいけませんね。でも……」

「私はもうオフの時間になります。お気になさらず」

「それだったらお夕食もご一緒していただけません?」


 鼻の下を伸ばした彼は戸惑いながらも首を縦に振る。ゲストエリアの高級店に誘うとテーブルをともにした。

 長広舌を繰り広げる男をおだてつつアルコールを勧める。機嫌が良くなった彼はいつの間にか結構な酒量を口にしていた。


「僕ぁ、この銀河にねー……」

「あらあら、ダメよ。足元がおぼつかなくなっているじゃないの」

 しなだれかかりながら支える。

「どうせならわたくしのお部屋で飲みなおしましょう?」

「部屋ぁ?」

 もう判断力は失われている。


 彼女は自室にポールを連れこむ。軍服を脱がせるのに苦労はしたが首尾は上々。アストロジャケットとアンダーウェアを脱ぎ去ると隣へと忍びこんだ。


「わ、私は!」

「んふ、素敵でしたわよ。あなたの理想もベッドの中も」

 翌朝、ポールは青褪める。

「なんてことをしてしまったんだ」

「憶えていないの? まさか無かったことにしろと言うの?」

「そ、それは!」

 涙ぐんでみせると絶句する。

「ねえ、色々教えてほしいの」


(これで準備は完了。あとは思い通りになるわ)


 エレンシアはほくそ笑んだ。

次回 (素敵な番犬だこと)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……あぁ~あ……。
[一言] これまでのシリーズだとゼムナの遺志が見てられましたけど、今回はそうは行かないかもしれないんですよねぇ…どうなるのやら
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