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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第四話

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闘神の牙(14)

「その機体はなんだ?」

 ホルドレウスは、ブレアリウスが乗っているのがシュトロンではないのに気付いたらしい。

「支族会議の肥大化した野望を食いちぎる牙だ」

「大言壮語を! 新型か」

「技術力で負けんという証明だな」


 設計図はシシルが生みだしたものかもしれない。だが、GPFをはじめとした星間管理局には短期間で製造できる技術がある。それを指摘したのだがホルドレウスは鼻で嗤う。


「猿に尻尾を振って餌を恵んでもらったのか? 醜いぞぉ、愚弟!」

 砲身過熱ゲージいっぱいの連射を交えてくる。

「餌に餌をねだるなど愚の骨頂! 牙を抜かれたお前など狼ではない。飼い馴らされた犬だ! 誇りある狼に逆らうな!」

「そうやって見くだしているうちは未来はないと知れ。怖ろしくて縄張りの中で吠え盛っているだけのくせに」

「なーにをー!」


 簡単に挑発に乗る。臆病の裏返しだと悟られていないと思っているあたりが侮られる原因だと分からないらしい。


(もう怖れはしない)

 兄の底が見える。成長と高性能アームドスキンの裏付けがブレアリウスの目を開かせたのだ。


「耳障りだな。すぐに黙らせる」

「うん、ブルーとレギ・ファングにならできる」


(落ち着いている。慣れてきたのか)

 デードリッテには不似合いな場所だと思っているのは神聖視している所為か。


 一射目を機体を傾けるだけで躱す。二射目は上体をたたんで抜けて前に出た。三射目は右半身にして左側を通過させる。四射目は側転して外させた。五射目はリフレクタで削るようにして上に弾く。


 その瞬間にはホルドレウス機の前。ブレードを光盾で押しのけ、右手のブレードグリップを跳ねあげた。左肩を根元から断ち切る。


「くおっ! よくもー!」

「終わりだ」

「まだぁー! 貴様ら、何をしている!」


 僚機に牽制されていた随伴機がリフレクタを前に強引に前に出てくる。指揮官である兄を後ろに下がらせ阻んできた。


「逃げた、味方を盾に! きたない!」

「そうとも言えん。戦法としては正しい」

「でもぉ」

 不満げな乙女を諭す。

「変わらん。君がくれたレギ・ファングなら大した障害ではない」

「だよね」


 随伴の四機は警戒してリフレクタの向こう。レギ・ファングは刹那前かがみになると弾けたように消える。連発する炸裂音を立ててパルススラスターが吠え、瞬時に左に位置していたボルゲンの横に現れた。


 相手が反応する間もなく右腕を刎ねる。ビームランチャーで腰を撃ち抜いてロールダウン。足下からもう一機を縦に貫く。

 下げた筒先から放たれるビームを掻いくぐって再び前へ。リフレクタを押しつけ合いながら(たい)を入れ替える。友軍機を盾にして動けない敵機を無視して膝を飛ばした。


「げぇっ!」

 苦鳴をあげてボルゲンが流れていく。


 その向こうには躊躇っていた敵機。幸いとばかりにビームを放つ。が、レギ・ファングは肘を突きつけて半身で突進。躱しざまに胴を両断した。

 四機目の頭部を彼のビームが捉える。同時にメイリーの一射も胴を貫いており、すぐに光球と化した。


「ブレアリウスぅー!」

「もう逃げ場はない」

「お前相手なんぞに逃げるものか!」

 虚勢を張る。

「尻尾が縮こまっているぞ」

「そんな訳ない!」


 正面から斬り結ぶ。二合、三合と打ちつけあう。舞い散る紫電が両機を照らし、宇宙に熱をこもらせる。


「おおおおー!」

「これでお終いだー、兄よ!」


 絡まった切っ先が下がる。すかさず手首を返して跳ねあげた。その場でスピンして横薙ぎにする。上半身に照星(レティクル)を合わせると躊躇いもなくトリガーを押しこんだ。


「この……!」

 続く台詞を放つ暇はない。


 ほどなくホルドレウス機は閃光と化し溶解した金属の雫だけを残して消えた。


「終わったぞ」

「…………」

 ひと息ついて言うが答えはない。

「ん?」


 隣ではオレンジのフィットスキンが首を横に倒している。激しく機動したために中身は失神してしまっているようだ。


「やり過ぎたか」


 失敗を悟った狼はヘルメットの中で耳を寝かせた。


   ◇      ◇      ◇


 無策のまま数だけを揃えたアゼルナ軍は特筆できる戦果もなく退いていく。


「何がしたいんでしょうかね?」

「それは自分にも……」

 サムエルの疑問に副司令からは予想通りの言葉が返ってくる。

「誰にも分からないでしょうね。彼らの都合というか精神性というか、そんなものが関わっているのでしょうから」

「それでしたら納得できます。当たってみないと分からないといったところでしょうか?」

「そんな感じでしょう。これまで機動兵器のパイロットとしては種族的に優位性を保ってきた。それが崩れた原因が掴めないから実戦の中で掴もうとしているのか」


(兵を消費してまでしなければならないことでしょうか?)

 肉食獣の精神性までは彼にも不明。


 現状を分析するより精神的な優位性を取り戻すのが重要と考えているのかもしれない。戦闘においてそれが優先事項とされるのが常識となっているのなら理解はできる。


(過信もしたくなるというものですか)

 透過金属窓の向こうには青い新型アームドスキン。注目されてからの彼はまたたく間に戦力の中心に躍り出た。


 立てた肘に頭を乗せたサムエルは感慨深く見つめる。


   ◇      ◇      ◇


 目覚めるとキャットウォークの上を抱えられて進んでいる。見上げると狼の大きな頭。


「わたし……」

 周囲に響く歓声。

「君への歓呼だ。レギ・ファングを作り上げた功績を讃えている」

「そんな、動かしたのはブルーなのに?」

「期待しているのだ、自分たちをもっと強くしてくれると」

 おずおずと手を振る。


(仲間だって思ってくれてる?)


 降りしきる賞賛にデードリッテは感動を覚えた。

次は第五話「戦場の徒花」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……駄犬一匹程度は向こうも痛手にならないか……。 そして、照準ではなく照星と言うところに拘りが!?
[一言] ここの兄弟のやり取り、好きです!
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