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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第四話

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闘神の牙(2)

「レーザー? しゃべれってことは通信機なわけ、ディディーちゃん?」

 ミードは製作者に質問する。


 すると離れた位置にいるシンディの身体が跳ねた。インカムに手を当てて彼をじっと見つめる、声が聞こえたらしい。


「正解です。この通り彼女には聞こえています。ではスピーカーもONにしてみましょう」

 デードリッテの合図でアウルド技術士官が操作を行う。

「あの……、聞こえてます?」

「お? はいはーい、聞こえてますよ」


 控えめながら透きとおった声がインカムから耳をくすぐる。と同時に、手に持っている制御器からも彼女の声が響いた。周囲から「おお」と感嘆の声が漏れる。


「うん、解るんだけど……」

 ミードも言い淀む。

「レーザー通信機って真新しい感じしないんだけど」

「ですね。汎用性は低いのですが珍しくもありません」

 周囲も頷いている。

「でも、こんなに簡単に繋がるものでもないでしょ?」

「お!」


 レーザーは指向性が極めて高い。簡単にいえば直進する。なので、少なくとも送信機は受信側に指向していないと機能しない。実用する場合は受信側が多数のセンサーを有し、どこからの発信も受けとれるような構造になってしまう。


「今、向き合ってなかったかも」

 指摘するとデードリッテが「ね?」と応じる。

「こんな感じで、ある程度の角度までなら正対してなくても繋がるレーザー通信機なんです」

「あー、そういうこと」

「案外単純です」

 彼女は言い切るがそうでもない。

「全然単純じゃないって。どうなってんの?」

「この二重丸の内側がレーザー送信器です。先端に変針機(ディフレクタ)を備えているんです」


 レーザーの元となる光も直進性が高い。高いことは高いのだが、割と簡単に偏向する。ガラスのような透過性のあるレンズだったり、果ては液体や気体の温度差の層があってさえ曲がってしまう。

 レーザーであれば偏向はしにくい。しにくいがしないわけではない。同じくプリズムといった変針レンズを用いれば曲げられる。


「レンズが仕込んであるんだ」

「ええ、自由な方向に変針させられる超小型(マイクロ)重力レンズを組みこみました」

 デードリッテが指を立ててウインクする。

「ここ、重要です」

「どゆこと?」

「変針制御が極めて簡単なのです」

 身体の向きを変えさせられる。

「こうして接続をずらしても」

「切れないわけ?」

「はい、聞こえています」

 シンディは感嘆の面持ち。


 互いの変針機(ディフレクタ)が作動して接続状態を維持しているという。二重丸の外側である受光部がレーザーのズレを検知して相手方に変針をリクエスト。それを相互にくり返してレーザー接続を続けるらしい。


「なるほど」

 ここまで来るとミードも気付く。

「こいつを使って今は近距離でしか使えなくなった交信を電波からレーザーに切り替えちゃおうってわけか」

「半分正解です」

「ありゃ、点が辛いね」

 導きだしたつもりだったが満点はもらえない。

「このレーザー交信機で相互通話もできます。中継子機(リレーユニット)を介せば通信士(ナビオペ)さん達とも接続できますし、部隊全体に走査(スキャン)させればデータ送信くらいは可能です。母艦からの戦術指示などできるんですよ」

「わーお!」


 電波攪乱物質『ターナ(ミスト)』を使用してない状態での電波交信ほどの広範囲は補完できない。だが、現状に比べれば戦闘宙域でも比較にならない通信網が整備できる。


「さすが『銀河の至宝』って感じかな」

 その場にいる皆が納得顔。

「そうでもないんですよ。これには原案があります。っていうか、このレーザー通信機そのものは流用なんです」

「誰かの発明品だってこと?」

「そうです。何なのかは今は言えないんで、またの機会に。わたしは変針機(ディフレクタ)を強化改良して広域通信機としても機能するようにしただけです」

 そう言って彼女は舌を出す。


 仮にそうだとしても、機器の特性を簡単に把握して、さらに改良して実用化まで持っていくのは凡人には容易なことではない。謙遜は不要だと思える。


(一から組み上げてないと誇れないっていうのも天才の天才たる所以なのかもね)

 まだ十代の娘のやることではない。

(若さからくる潔癖さもあるかも)


 喝采を受けるデードリッテに、ミードは子供な部分も見出していた。


   ◇      ◇      ◇


 設計図と試作品、検証動画をアウルドに託して生産に入ってもらう。彼は星間管理局傘下の信用できる工場で大量生産させると言っていた。


 レーザー通信機製作に三日を費やしていたのでしばらく狼の顔を見ていない。フードコートや娯楽室を巡ってトレーニングマシンルームで大柄な身体を見つける。ところが彼は今までの茶色いフィットスキンから青いものに着替えている。その胸には『GPF』のロゴが躍っていた。


「かっこいい!」

「でしょでしょ」

 一緒に走っていたエンリコが反応する。

「こういうことになっちゃったね」

「誰の差し金かは知らん」

「僕ですよ」

 立ち止まったメイリーチームの向こうに金髪の司令官の姿。

「やっぱり司令官殿ね」

「解っているでしょう、メイリー・ヤック操機長。先日お話しした通りです」

「うちの狼を放置できなくなったって件?」


 シシルの件は二人に伝えられたらしい。秘密にするには近しすぎて無理だと判断されたか。


「エンリコ・マクドランタ操機長補もその階級を与えられた意味を理解してらっしゃいますね?」

「はいはい、もちろんですよ」

 直立不動で敬礼する。

「これでも口は固いほうです」

「そう願いますね。いずれは明らかになっていくでしょうが、いきなり拡散したくはありません」

「秘密は守り切れないと思ってるんですか?」

 予想外の台詞。

「むしろリアクションがないのが不気味です。彼ら独自のネットワークがあっても不思議ではないんですが」


 サムエルの想像はデードリッテも得心できるものだった。

次回 『例の件はどうなっとるんかの?』

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ローテク(?)の方が役立つことも?
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