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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第三話

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生きる意味(14)

 ブレアリウスはホルドレウス機を狙って三連射。砲身過熱ゲージをにらんで、そこで指をとめる。

 兄は見切ったように最小限の動きで躱す。かなり戦場慣れしているように見えたし、アームドスキンの操縦にも自信をうかがわせる。


「何を知らない? お前が復讐でも告げたと言うか? 身の程知らずが!」

 誤解したホルドレウスが鼻で笑う。


(本当に知らんのか。誰がどこまで解ってやっている? 父上も知らんのかもしれん)

 オープン回線で無闇なことは言えない。


 予想が当たっていれば最悪星間軍の出動もあり得る事態。優位性の根拠として周知はされていないのかもしれない。変に怖気づいても困るだろう。


(支族会議にあおられて動いてるだけ? いや、最新機動兵器まで気前よく投入してみせれば気も大きくなるか)

 難しいことは考えていなさそうだ。


 斜め下から力場剣(ブレード)の残像が光の帯を描く。軌道上に刃を合わせて擦りあげる。手首を返して正眼に落とすが、力場盾(リフレクタ)で受けられた。

 膝を跳ねさせるも肘で止められる。鈍い衝撃音が響き、反動がσ(シグマ)・ルーンを介して伝わってくる。それでも壊れている気配もない。タフな機体だ。


「言われるがままに戦っているだけか」

 射線を読みつつ回避に集中していると、自然と呟きがこぼれる。

「ちっ! 知ったかぶりを! 星間管理局の看板を背負って大きくなったつもりか? お前は狼の誇りを忘れて公権力の犬に成り下がっただけなんだよ!」

「なんとでも言え。解らないなら支族会議に訊くといい。尻尾を引かれ、破滅へ向けて突き落とされようとしているのかもしれんぞ」

「そうやって動揺を誘うつもりか? 弱虫で卑怯者にはお似合いの戦法だ!」


 連射を五つまで数え、その分離隔を稼がれた。さすがに砲身冷却のトリガーロックがかかるまでの連射は控えるらしい。

 接近戦では分が悪いと感じているのだろう。実際にブレアリウスも五分以上にやれていると思っている。


(俺がGPF隊員になったと思っている? まあ、混ざってシュトロンに乗っていればそう誤解するか。ただの僥倖なのにな)

 デードリッテとの出会いという幸運以外の要素はないと彼は思っている。

(訂正する義理もない)

 血族とも敵として対峙する覚悟はできた。


「手管を使うまでもない。どうして支援が途切れていると思ってる」

 最前から彼と戦っているのはホルドレウスだけである。

「うん? なに!? 貴様ら!」

「友軍に押されている。手が回らないんだ」

「不甲斐ない!」


 メイリーやエンリコが兄の僚機を翻弄している。それどころか明らかに数を減じていた。


「餌に狩られてどうする! 我らは狩る立場なのだぞ!」

 いくら吠えても手遅れ。

「相手を餌と見下すからそうなる。敵対していれば追いやられると解れ」

「そんなはずはない! 捕食者だ、アゼルナンは!」

「あまりに外を知らん。全てで勝っているんじゃない。器用さでは遥かに劣っていると知れ」


 GPF機は新たにOSを改修されたアームドスキンに見事に馴染んでいる。得られる情報を駆け引きに用いているのだ。

 戦況は拮抗から優勢に転じている。逆に、様変わりに戸惑いを感じているのはアゼルナ軍のほうだろう。


(いい機体になった。一体感が違う)

 デードリッテやアウルド技術士官の努力は実を結んでいる。

(フェイントも読める。パワーで押されても抜きを利かせられる。それでいて押し負けもしない)

 元よりボルゲンに劣りはしない。


「劣る? はっ! 劣るものか!」

 現実もホルドレウスの目を覚まさせたりはしないらしい。

「テネルメア・ポージフ士族会議議長は我が民族の未来の覇権を約束してくださっている」

「ポージフの長が今の議長か」

「お前なんぞには理解も及ばない素晴らしい方だ」


 アゼルナの政治状況には注意を払っていなかった。目を逸らしていたというのが正解かもしれない。


「過去、アゼルナンは新しい世界のきらびやかさに目がくらみ道を誤った。猿の悪知恵に騙され、恥辱を甘んじて受けねばならなかったのだ」

 苦々しげに説く。

「だが今の我々は違う。ポージフ議長は、雌伏の時を経てアゼルナンが進歩の足跡を刻みはじめているとおっしゃっている。この戦いが第一歩だと」

「根拠を示さないままにか?」

「そんなものは不要! 生態系の頂点たる我々には栄光の日々しか待っていないのだ! 銀河の覇権へいたる歴史の幕は開いた!」

 酔ったかのような兄の台詞。


(その根拠を、どれだけ危険な橋を渡って手にしているのか解っていないな)

 怖気が先に立つ。


 狂気に駆られたように兄のボルゲンがブレードを腰だめに突進。見るからに必殺の斬撃を放つ構えである。

 ブレアリウスは断続的にペダルを踏んで間合いを詰める。下段にすえた切っ先を、ホルドレウスのモーションに合わせて跳ねあげた。


 ブレードとともに飛び去るボルゲンの手首を一顧だにせず踏みこむ。向けられるビームランチャーをくぐって接近し、顔面に肘を叩きこんで頭部を粉砕した。

 後退しつつ腹の機関部にビームを放つ。その瞬間に胸部の装甲が弾け飛び、ボルゲンの操縦殻(コクピットシェル)が射出されていた。


「逃げるか」

 運良く友軍機に拾われたコクピットは持ち去られる。


 血族に情の一つも湧かない自分を薄情だと思うべきかブレアリウスは迷っていた。


   ◇      ◇      ◇


 将の機が撃墜されたアゼルナ軍は機動部隊を格納すると時空界面突入(ブレイクイン)していく。GPFに追撃命令はでなかった。


「もー、また焦げ跡だらけ!」


 ブレアリウスの帰投にかけられたのは不平の言葉。しかし、その表情は笑顔以外のなにものでもない。

 膝をついて頭を垂れる。亜麻色の髪の娘はその大きな頭を抱きしめて頬ずりした。


(生きろという人がいてくれる限りは生きて戦おう)


 狼はそう心に誓った。

次は第四話「闘神の牙」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 「これで勝ったとおもうなよ~!」(典型的悪役(ヤラレ役)台詞)
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