表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第三話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/224

生きる意味(11)

通常空間復帰(タッチダウン)反応多数。レーザースキャン圏外です。電波レーダー探知は不能』

 システムナビゲーションが伝えてくる。


「ターナ(ミスト)まで導入してきましたか。戦場が様変わりしてきましたね」

 サムエルはヘルメットを被るべきか否か手を伸ばしてから迷う。

「ゴート宙区の探知システムを調査させなくてはなりませんか」

「重力場レーダーですか。あれはフィールドドライブ検出システムの類似機能なのではありませんか?」

「重力波検知レーダーなので大差ないかもしれませんね」

 ウィーブが言うようにおそらく中央は独自に開発に着手していると考える。


 その分野の技術的な遅れはないはずなので独自開発も悪くはないだろう。


「探知戦も然りですが、有視界戦闘が当たり前になってしまうのが怖ろしいと自分は思うのですよ」

 副司令の言わんとするところは解る。

「これまでのように砲撃の訓練だけである程度は練度をあげられていた状況は一変しますね。個人の才覚が重要になってくるでしょう」

「パイロット間でのヒエラルキーが生まれたりしないか懸念されます。そこで分断が起こるようであれば用いる側としては難しくなるでしょう」

「少なからず有ったのではないかと僕は思っていますよ。彼らも命が懸かっているのですから上下にこだわってなどいられないのではありませんか?」

 上手に折り合いをつけてきたのだと考えている。

「そう願いたいものです。年を取ると変わるのが怖ろしくなるようで」

「あなたもまだ四十二ではありませんか」


 そう言うサムエルが二十六であれば年を感じるのだろうが、まだまだ働き盛りだと思える。


「どうやら彼らの立場で考えていたようです。自分もパイロット上がりですので」

「なるほど」

 現場を知っているだけ彼は親身に思ってしまうらしい。

「不安は見せないように願いますね。若造の司令官など反発の対象。あなたのような繋ぎ役がいてくれないと機能しません」

「非才ながらお助けしたいと思っています」


(正直、パイロットたちがどう感じているのか掴みかねています)

 アームドスキンという兵器に慣れられるのか否か。


 内心は微塵も見せずにサムエルは戦況モニターへと目を移した。


   ◇      ◇      ◇


(多少は感触が違うが、当たってみねば大きな差は感じられんか)

 ブレアリウスは飛行感覚の違いを味わっている。


「あれあれー、やっぱちょっと違うかも?」

「そりゃ調整くわえたらしいから変わってるだろうね」

 僚機も差は感じているようだ。


(センシティブな部分は人間種(サピエンテクス)のほうが敏感なのかもしれないな。アゼルナンのような獣人種(ゾアントピテクス)がアームドスキンに向いているとは一概には言えないか)

 そうも思えてきた。


「接触すると差が出ると思う。気をつけてくれ」

 警告しておく。

「どう変わってるか楽しみだね」

「さてさて、ぼくの可愛い子ちゃんはどんな変貌をしたのかな? ブレ君の提案なんだからさ、感覚的なものなんだろうけど」

「乗りこなせるかどうかは、あんた次第じゃない?」


 メイリー編隊は先行気味。慣熟の時間を与えられなかったGPFパイロットは少し控えているらしい。


「増えてる増えてる」

「嬉しくないね」


 ボルゲンという名称が判明したアゼルナのアームドスキン。前回は千機に満たない数だったが、今回はそんなものではなさそうだ。


「戦力差が圧縮されてきちゃってるか」

「カウント出たよ。およそ千五百」


 ガンカメラデータを統合しての推定数が表示される。厳しい数だ。


「やられちゃった分の補充が間に合ってないもんね。こっちは二千二百ってとこ」

 メイリーは不利と見ている。

「もう一隊も同じ規模とか言わないでほしいもんだね」

「いやいや、あれはアストロウォーカー部隊でしょ。ハルゼト軍に任せようよ」

「エンリコが正解らしい」


 新たに通常空間復帰(タッチダウン)してきた艦隊のことだ。そちらの分析もきた。同時にハルゼト艦隊が対応する旨も告知される。


「やれやれ、艦隊から離れすぎてユーリンちゃんの声も聞こえないっていうのに」

 データ伝送でしか状況が伝わってこない。

通信士(ナビオペ)にいいとこ見せたいからって押しこまれた芝居なんてするんじゃないよ」

「そんな余裕ないって」

「くるぞ」


 彼我が接近するほど緊張感は上がっていく。互いにビームの射程に入った。


「きたきた! 派手に撃ってくるね」

「まだ当てずっぽうさ。無駄に食らうんじゃないよ」


 まだ目視でビームの射線が読める距離。この間合いで被弾するようでは話にならない。


(戦法がアストロウォーカーのそれだ。相手も不慣れなのは変わらん)


 問題は白兵戦。そこにこちらのビハインドがある。接触しなければ表れない差だが、接近戦をやらないのではアームドスキンのスペックは活きない。


「ぶち当てな!」

「ひょおっ!」


 接敵する。

 真っ向からブレードで競りあう。やはりパワー重視で押してきた。ペダルを踏みこんで拮抗したのは一瞬。押しこもうとしている相手をすかして、半身で左に抜ける。すれ違いざまに脇腹に蹴りを放った。

 泳いだ敵機はメイリーの前。体勢を立て直す間もなく横薙ぎで両断された。


(いける。相手の押しこみ具合まで感じられた)

 だからこそ抜きのタイミングも絶妙だったのだ。

(フィードバックは成功してる。ならば)

 アウルドの働きに応えるしかない。


 エンリコも対峙している敵の斬撃を力場盾(リフレクタ)で弾きつづけている。と思えば、すかして流れたボルゲンに向けてビームランチャーを放つ。


(器用だな。心配ないか)

 今回の改修は彼に最も効果的だったかもしれない。


 僚機の調子を確認するブレアリウスは、視界の隅に紋章をつけた機体を発見した。

次回 「おやおや、知り合いかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ある意味”生身”での殴りあい……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ