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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第三話

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生きる意味(10)

『星間管理局は民族の分断を画策している! これはなぜか? 我らが怖ろしいからである!』


 新型アームドスキン建造チームとのミーティング中だったデードリッテは格納庫(ハンガー)に駆け付ける。そこでアウルド技術士官とフィードバック機能の検証をしていたブレアリウスと合流した。


『優れた身体能力を持ち、最先端兵器であるアームドスキンをも解する我らが銀河の中心に躍り出て、人間種(サピエンテクス)の天下が終わるのを阻止したいからである!』


「いいのか?」

 狼は忙しいのではないかと問ってくる。

「作業的に真新しいところの手順書はだいたい終わり。あとは主任(チーフ)ブリーフィングで吸い上げかな」

「疲れているだろう」

「わたしが直接手を触れるのは形になってからにしてるからそうでもないの」

 考案は彼女にとって日常すぎて作業のうちに入らない。

「それより戦局のほうが心配。来ると思う?」

「来るだろうな。ホルドレウス(あに)が出てきた」

「やっぱり、この人がお兄さん?」


 まさかと思って来たのだ。予想が的中してしまった。


『管理局の支配に楔を打ち込む時が来た! 勇猛な兵と、このアームドスキン「ボルゲン」がそれを実現する!』


「支配だなんて。仲介と調整しかしてないのに」

「そういうことにしなければならないのだ。自分たちの意見を通すためにな」


 彼ははっきりと『アームドスキン』と言った。類似技術でなく、最先端兵器を保有していることで力を誇示しようとしている。


『星間銀河の民よ、刮目せよ! 真に優れしは誰か! 真の導き手は誰か! さらに発展し、栄華を欲するならば誰を頂くべきか知る時だ!』

 アゼルナンの青年がカメラに指を突きつける。

『新たな宙区の台頭におののく民よ! 真の強さの何たるかをアゼルナンが教えよう! 勝利という形で!』


「シシルから盗んでおいて、どの口が言う」

 人狼の牙が軋みを立てる。

「褒められたものじゃないね。それを正すのはブルーでしょ?」

「俺が?」

「誰が本物か教えてあげましょ、二人で」


(彼に足りないのは自信だけ。確たる実績をつみ上げていけば本物になる)

 デードリッテはそう信じている。


キュベド アゼルナ(アゼルナに栄光あれ)!』

「キュベド アゼルナ!」

 高らかに復唱が響き、歓呼の声に青年が両手を掲げて応えた。


「少なくとも兄たちを打ち破っていかねばシシルを救いだせないか」

 その言葉は決意か決別か。

「お兄さんは強いの?」

「今はどうか知らん。鍛えられているのは確かだろう」

「支族長の家だから?」

 率直な疑問をぶつける。

「アーフは武門の雄とされている。後継を名乗りたいのなら力を示さねばならない」

「あー、アーフの家は有名だったんだ」


 以前、戦隊長のマーガレットが『アーフ』の名に言及したのはそういう意味だったらしい。改めて気付いた。


「大丈夫そう? 調整は上手くいった?」

 シュトロンの仕上がりも気になる。

「機能的には問題ないそうだ」

「テストする時間をもらえなかったのは面白くありませんけどね」

「お疲れさまです」

 アウルドに労いを投げかける。

「例のフィードバック以外も小さな問題がいくつか見受けられましたけど修正をかけました。これで本来の性能を発揮できるはずですよ」

「ありがとうございます。本場でブラッシュアップされてきたOSを流用しないとかおかしな話ですもんね?」

「解りますが、それは許してあげられませんか。彼らとてあなたと同じく矜持をもって仕事をしているのです。今回はマイナスに働いただけ」

 心理的には理解できる。

「管理局に登用されてやってる仕事が調整だけなのは我慢ならなかったのでしょう」

「公に批判したりしないようにしますから」


(テスト段階で洗いだせなかったのはわたしの責任でもあるもの。そう思えば、テストパイロットもアームドスキンを正しく理解していなかったって意味になっちゃう)

 人型機動兵器で格闘をやる意味が伝わっていなかったといえる。そもそもそんな観念がなかったのだから仕方ないだろうか。


 全パイロットに搭乗待機がアナウンスされる。先ほどの演説は出撃前の士気高揚策だととらえ、進撃と判断される。アゼルナの艦隊がどこに通常空間復帰(タッチダウン)してくるか分からない。


「無理しないでね、ブルー」

 シートに座り、ヘルメット被ってバイザーをはねあげた人狼の腕に手を置く。

「頑張ってシシルから預かった新型を組みあげるから。ゼムナの遺志から直接技術を吸いあげて作ったあの『ボルゲン』って機体よりシュトロンは劣っているかも」

「問題ない。あれは意外と作りが粗い。核心部分を奪われないよう彼女が抵抗しているんだと思う」

「そうだとは思うんだけど」


(ちょっと心配)


 デードリッテの分析でも似たような結果が出ている。アゼルナのアームドスキンが大型なのは、機能を搭載するうえで詰めこめず小型化できなかった所為だと感じた。そういう意味ではシュトロンのほうが優秀であると思いたい。


(相手は同じアゼルナン。同性能の機体に乘っても彼らのほうが上手く使う。仮に性能差があっても埋められちゃう)

 そこを危惧している。

(ブルーが性能差をそのまま活かせたとしても他のパイロットはそうもいかない。孤立するようなことにならなきゃいいけど)


 本当ならハルゼト軍にもアームドスキンを配備すれば劣勢を挽回できる可能性は高くなる。


(でも、渡したら彼が背中を脅かされちゃう)

 それが嫌で反対意見を言っている。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)


 ジレンマに苦しみつつ、見守るしかないデードリッテだった。

次回 「年を取ると変わるのが怖ろしくなるようで」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……詰まりは”新しい力(借り物)”を手に入れて”イキってる”のか……。
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