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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第二話

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さまよえる魂(11)

 背筋の毛が逆立つ感覚。アゼルナンにとって凶兆となる感触をブレアリウスは味わっていた。


 少し前からGPF回線が騒がしい。警告の言葉が飛び交っている。友軍機に損害が出ているようだ。

 星間銀河全圏に共通する軍用オープン回線は静かなもの。アゼルナ軍は伝統的にあまり使用しない。警告や勧告は不要と考えているのだろう。


(妙だ。嫌な予感しかしない)


 勝利の勢いで全体が前がかりになっている。気持ちは解らなくもないが、慣れない戦法でやるには危うさが際立つ。


「メイリー、下がれ」

 再びワントップにしておきたい。

「ヤバいの?」

「たぶん」

「悪い空気が漂ってるじゃん」

 戦友たちも傭兵(ソルジャーズ)だけあって鼻が利く。


 警戒しつつ前進すると、そこはかつて見たことのない戦場と化していた。20m超えの人型機動兵器同士が格闘戦をやっている。それも一方的な近接戦ではない。ほうぼうで斬り結んでいるのだ。


「ちょ! こいつは!」

 エンリコが悲鳴をあげる。

「これ……、なんなの?」

「見ての通りだ」

「分かんないよ!」

 メイリーの声も裏返っている。

「あれができる理由は一つだけ。相手もアームドスキンを持っている」

「いやいや、そんな馬鹿な!」

「受け入れるしかないって言うの? 目を逸らしたら終わり?」

 動揺が激しいが実情も理解してくれている。

「そうだ」


 答えたブレアリウスは戦場へと分け入っていく。放置すれば自軍は崩壊しそうだ。収拾の機を作らねばならない。


(少し大振りな機体だがアームドスキンだろう)

 アゼルナ軍の灰色に塗られた人型は25m近くに見える。

(数はそんなに多くない。だが、あれに乗ってるのが俺と同じアゼルナンなら……、圧倒的に不利だ)

 それが現実。


 種族的に反射神経、動体視力といった狩猟に根差す能力は高い。そのうえ故国では伝統として剣技を学ぶ風潮がある。主な武器を銃器とする文化が定着してしまっている人類とは力場剣(ブレード)の扱いが比較にならない。


「ヤバいヤバい。ヤバいなんてもんじゃない」

 焦りで早口になっているエンリコ。

「前に出るな」

「無理無理。出たくたって出れないって!」

「無茶すれば命がないね」


 右手のビームランチャーを腰に戻しブレードグリップを握らせる。逆に左手はランチャーに変えた。ブレード戦闘をするつもりでないと切り抜けられないと感じたからだ。


「エンリコ、ブルーを援護するよ」

「マジかー。逃げたい」


 戦況は完全に反転。灰色のアームドスキンがGPF機を蹂躙する形。


(このままでは壊滅的な被害を受ける)


 ブレアリウスの噛みしめた牙が軋みをあげた。


   ◇      ◇      ◇


(まいりましたね)

 思わず言葉にしそうになったのを何とか止める。

(あり得ないって言ってしまうのは楽なんですけど、それはできないんですよ)

 通信士(ナビオペ)からの信じがたい報告に顔を顰めるにとどめた。


「う……そ……」

 デードリッテは愕然としている。


 無理もない。難航するアームドスキンの実用化から、星間管理局が彼女に協力を要請したのが一年余り前。輸入した機体の現物に直接触れ、独自開発に没頭すること一年。


(『銀河の至宝』とまで言われる才能をしても一年の月日が必要だったんです)

 ところが実戦投入してみれば敵軍も追いかけるように導入したとあれば平常心ではいられない。

(アゼルナ軍がシュトロンを確認してまだ二週間ほど。その期間で開発するなど馬鹿げてます。かと言って、あれはゴート宙区の輸出機でもない)

 登録にもない新型だという。独自開発としか思えない。


「これは……」

 副司令(ウィーブ)も絶句している。

「何か裏がありそうです。でも、今は言及している暇はありません。早急に対処が必要です」

「申しわけありません。ですが、どうすれば?」

「即時撤退ともいきませんね」


 シュトロンでも厳しい敵だ。引き連れて戻ればハルゼト軍部隊など一蹴される。


「数で劣ってはいないようです」

 それだけが救いである。

「浮き足だった部隊の立て直しを。冷静になれば対応できるはずです」

「全機に通達! 一度距離を取って立て直せ!」


 現状、サムエルには期待することしかできない。


   ◇      ◇      ◇


 大上段から力任せの斬撃を頭上で受ける。噛みあった力場刃が紫電を散らす。

 ブレアリウスは敵機のブレードを横へ逸らしながらペダルを踏む。スラスターが唸る振動がコクピットまで伝わってきた。

 懐に入って前蹴りをくり出す。まともな剣技で応じられるとは思っていなかったらしく相手は不用意に受ける。


「もーらい!」

 流れた敵機にエンリコの放ったビームが刺さる。


(意表を突けるのは最初だけだ。パワー負けしている)

 正直な感想である。

(繊細さはない。シュトロンに比べて動きが重そうな印象がある。自軍はそれに気付ける状態じゃない)

 それが致命的。


 もう一機と斬り結ぶ。数合ぶつけあい、切っ先を滑りこませようと手首を返すも強引に押しこまれた。

 アゼルナン流の剛剣とパワーのあるアームドスキンは相性がいいようだ。受けそこねないようにするのにも神経がすり減らされる。

 回りこんだメイリー機が頭部を刎ねる。瞬時に下がって泳いだ敵機の胴をなぎ払った。


(こんなことをしてるだけでは事態は好転しない)

 彼ら三機で数機を相手どるのが限界。


「善戦してると思ったら狼くんか」

 聞き覚えのある声。

「ロレフだったか?」

「そうさ。うちの編隊(チーム)と連携して立て直さないか?」

「無理だ」


 接近してきたGPFのエースに否定の言葉を投げた。

次回 「その場合、シュトロンを持ち去るのだけは阻止しないといけなくなるね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……さてさて……同程度の天才が二人も! とは考え難いですし? ……”遺跡”……か?
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