さまよえる魂(10)
アゼルナの防備艦隊は大量のアストロウォーカーをばら撒いてきた。組まれた戦列は正面に電子戦を強化された狙撃タイプの『アルゴア』という機体を並べている。遠距離砲撃戦まではその陣形で、崩しが効いたら後ろの『オロムド』が散開して襲ってくる戦術。
「ひょおー! ビームの雨あられじゃん」
「ここが我慢のしどころさ」
星間平和維持軍の機動戦力が前面で突き進む。編隊を維持しながら力場盾を前に掲げて各個に接近。距離を詰めていった。
「もらったね」
「あれあれ、対処ができてない感じ?」
アームドスキンが実戦投入された情報は知れわたっているはずである。しかし、有効な対処法は編みだされていない様子。セオリー通りの攻撃しかしてこない。
リフレクタ同士が激突する。展開に使用されている電荷が弾きだされて紫電が散った。突きだされるビームランチャーを削いでから力場剣を腰まで引き、機体中央に突きたてた。
「そのまま行け」
「ついてくよー」
メイリーはブレードでリフレクタの表面を削るとシュトロンを沈ませる。くるりと回転して肘で砲口を逸らすと回し蹴り。流れた敵機の腰をビームで貫いた。
エンリコはビームの一撃を防がせてから回りこみつつブレードを一閃。間合いを外されて向けられた砲口にリフレクタを合わせて体当たりする。脇から突きを入れて撃破した。
(エンリコのほうがまだ慣れないか。思いきりが足りない)
動きに無駄が多い。剣の間合いもつかめていない。
アゼルナ軍はアルゴアを下げながら狙撃させつつオロムドを前面に出してくる。しかし、シュトロンの波に飲まれ、ハルゼト軍の『ロロイカ』からの牽制で狙撃も有効に作用していない。
「前に出られるか、メイリー?」
「やれるよ。エンリコ、援護」
「ほいほーい」
フォーメーションをツートップに切り替える。打撃力を増してオロムドの戦列を崩しにかかる。
(なぜ選択を誤った?)
遠く見える故郷の惑星は答えを返してきたりはしない。
◇ ◇ ◇
サムエルの前の戦術モニターパネルはアゼルナ艦隊が後退していく様子を投影している。通信士からの損害報告が集計されて実数で流れてきた。
(損害は軽微ですか)
こんなところでつまづいてはいられない。
副司令のウィーブの席が傍らにある他は右に戦術参謀の卓と、今はデードリッテが使っている参謀用の予備卓。前方には艦長席と操舵士の卓と横並びに火器管制士卓が二つ。その向こうには通信士の列がずらりと並んでいる。
観測および分析などはかなりの部分が自動化されて艦橋の人員は二十名を超えることはない。その半分以上がナビオペである。
主戦力たる機動兵器対応だけは自動化されていない。技術的には十二分に可能ではあるが、中間に人を置くか否かでパイロットの士気が浮沈する。割いてはならない人員なのだった。
(さすがはプロです。作戦までには仕上げてきますね)
彼が想定した通り、アームドスキンの部隊は機能している。
(ただ、初めての実戦での精神疲労は馬鹿にできないでしょう。これからはいかに彼らパイロットを休ませるかが重要です。僕の見極めによる押し引きが大事ですね)
状況に応じて臨機応変にいかないといけない。
戦術パネルに新たな観測情報が表示される。それは軌道エレベータの稼働状況。シャフトの過熱による赤外線の放出を示すものだった。
(第二陣は軌道基地から発進してくるようです。ここを乗り越えてから一度撤収させましょう)
エレベータで繋がった軌道基地の占拠を思いえがく。
(っと、アームドスキンは軌道エレベータを使用しなくても大気圏降下させられるのでしたね。つい忘れてしまいそうになります)
アストロウォーカーと同じ運用をしようと考えていた。
(反重力端子とは便利なものです。近々宇宙戦闘艦でさえ大気圏内を自由に飛びまわるようになるんですね)
ごく近い未来に。
反重力端子という新たな装置の分析には時間を要した。バランス計算から難航し、独自に戦闘艦を建造するには至っていない。
(そう考えるとホールデン博士は本当に天才です)
わずか二年でアームドスキンは実用段階。
(模倣しただけとはいえ、彼女は反重力端子の理論と構造を含めて解析したということ。星間銀河にも優れた知性があるのです)
十年しないうちにゴート宙区の脅威は取り払われると目算している。
サムエルは新機軸機の運用に心を砕けばいいだけと思っていた。
◇ ◇ ◇
「機動基地から敵機の発進が予測されるみたい。命令は戦闘継続」
ナビオペがノイズ混じりに告げてくる。
「ああ、どんとこい。いくら出てきたって敵じゃないぜ」
「大きいこと言うじゃない?」
「アームドスキンはいい。ここが稼ぎどころだ。撃墜増やして昇格すりゃギャランティも上がる。楽しみにしてな」
気が大きくなるというものだ。新型の戦闘性能は比較にならない。
「奢ってくれるの?」
「おお、好きなだけな」
機体に馴染めた自分は勝ち組になれる。
「その台詞、後悔しないでよ」
「しないって。任せとけ」
「遊んでないで見てみろ。奴ら、登録にない新型を出してきた」
僚機からの声。
「へっ、今更なにを出してきたって、アストロウォーカーじゃアームドスキンに敵わないと分からせてやる」
「そりゃそうだが」
ここまでの戦闘パターンから彼は不用意に接近する。牽制砲撃を挟んでブレードを一閃させると同じ力場剣で阻まれた。
「なに?」
「おい、こいつは変だぜ、相棒!」
「まさか!」
驚いた瞬間にブレードは絡めとられて宙に舞う。流れる動作で彼のシュトロンは縦に割られる。
「こいつもアームドスキ……!」
爆炎が続く台詞まで焼き尽くした。
次回 「受け入れるしかないって言うの?」




