人狼たちの戦場(19)
正確には花ではないとメイリーは気付いた。
二人に迫っていたビームが多数の菱形の薄片に変わっている。それが放射状に折り重なって彼らの前に浮いているので水色の花が咲いたように感じたのだ。
次々と迫ってくるビームもすべてが花に変わっていく。彼女の前はあっという間にお花畑になっていった。
(なんだかファンシーなんだけど)
危機感が振り切れて笑いがこみあげてくる。
花といっても横向き。根元に当たる部分がメイリーのほうを向いていて、レギューム側に開いている。
花畑の増加はやんだ。気付くとビームの雨もやんでいる。不審に思って砲撃をやめたのだろう。
(あたしだってなにが起こってるんだか解んないんだから、あいつらだってね)
不可思議な状態に置かれている。
途端に爆音がした。咄嗟に振り返るとがれきが空高く舞っている。粉塵までもがふきとんでしまうと、そこには青い影。白いカメラアイをまばゆく光らせながら浮きあがっていく。
「ブルー!」
「ブレ君!」
僚機が復活した。
◇ ◇ ◇
「ブルー!」
少女が歓喜の声をあげる。
「よかった!」
(驚きました)
サムエルも瞠目する。
(自力で復活してくるとは)
『これで決まりましたわ』
美女の声が福音のように彼の耳をくすぐる。
◇ ◇ ◇
『Cシステム、防御モードで起動中』
システムナビのサポート音声だが意味は不明だ。
『任意制御モードに変更しますか?』
支族会議堂の上にはアレイグの姿。八基のレギュームも健在だ。間にはメイリーのレギ・ファングとエンリコのゼクトロンが絡まるように転がっている。危機的状況なのは変わりないらしい。
「あれを倒せるのならなんでもいい。よこせ」
『空間エネルギー変換システム、任意制御モードに切り替えます』
衝撃で半欠けになっていた頭部カメラガードが中央から割れて開く。そこから縦並びに二本の放出器らしき円柱状の端子がせり出してきた。前面のメタル状のパーツが光の輪環を前方の空間に発する。
手の甲の装甲がはじけ飛ぶと、そこにも同様のパーツが現れた。光の輪環を放出するとブレアリウスの意識に大量の情報が流れ込みはじめた。
(なんだと?)
一瞬飲まれそうになるが気を取りなおす。最近は慣れた感覚だったからだ。
かなり広い空域に手が伸びている感触。そこには色んなものが混ざっている。それを一つひとつつまんで動かすことができそうである。
試しにメイリーたちの前に浮かんでいる放射状のエネルギー塊を意識して手を振ると、薄片は散らばってレギ・ソードのところへと飛んできた。
(こういうことか)
言葉通り、空間のエネルギーを変換したり制御したりできる装置らしい。デードリッテが頭をひねっていた搭載装備の用途がつまびらかになったのだ。
「ブルー、平気?」
「ブレ君、遅いよ」
僚機が立ちあがる。
「すまん。待たせた。もう大丈夫だから下がっていてくれ」
「これ、やっぱりあんたが?」
「そうだ」
メイリーも納得した様子でレギ・ファングを飛行させるとレギ・ソードの後ろ側にまわった。邪魔になると解ってくれたのだろう。
「なにをした、貴様ぁ?」
ベハルタムの恨みがましい声。
「お前が俺を怒らせた。だからレギ・ソードが目覚めてしまったんだ」
「怒らせた? ふざけているのか?」
「ふざけてなどいない」
八基のレギュームが一斉に青いアームドスキンを指向する。集中砲火は八輪の花を咲かせるだけ。彼が手を振ると花びらのような薄片となってレギ・ソードの周りを彩っていく。
「待て、ベハルタム。無闇に撃つな。様子が変だ」
「たいしたことない。すぐに黙らせる」
白狼らしくない反抗をする。
「忠告には従っておくものだ」
「うるさい! 墜ちろと言った!」
「無駄だ」
今度は十字砲火がまとめて浴びせられる。しかし、結果は変わらない。小振りな放射状エネルギー塊の数が増えただけで薄片が舞い散っていく。
「ぐうぅ……、くそぉー!」
「あまり溜まっていくのも良くないようだ。使う」
菱形の薄片を制御する。回転させると青白い円盤を形成し、湾曲軌道をとりながら飛んでいく。それでレギュームを斬り裂いた。
「なに!?」
「そんなおかしいことでもない。元はビームなんだぞ」
次々とレギュームを寸断していく。エネルギーチャンバーが誘爆しそうになるが、それも薄片に変換して回収した。アレイグは為す術もなく兵装を剥がれていく。
「やめろと言っている、ベハルタム! 別の攻略法を……」
「うるさい!」
今やレギ・ソードの周りには無数の薄片が飛んでいる。スレイオスはそれ一つずつがビームの破壊力を秘めていると気付いた。しかし白狼は止まらない。
「食らえ!」
「攻略法など無い。これはそんなシステムだ」
アレイグの胸部から放たれた大口径砲が大輪の花を開かせる。それも狼の制御下に入った。
円盤に変えるとアレイグへと飛ばす。背後へとまわすと、球体との接続を断ち切った。別の薄片数枚でそっと受け止めると自分のところへと運ぶ。
「ようやく助け出せた。待たせすぎだな」
『わたくしの時間では刹那でしてよ』
シシルの球体を左腕で抱く。申し訳なさが力加減をソフトにする。
「さて、もういいな? 覚悟しろ」
ブレアリウスは視線をゆっくりとアレイグに据えた。
次回 「え、ちょ、なにこのエネルギー量!」




