表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/224

人狼たちの戦場(12)

 接地音のあとにシリンダが緩衝スライドする音だけが伝わってくる。アームドスキンは反重力端子(グラビノッツ)を重量10%くらいまで上げておけばその程度の歩行音しかたてない。


 先頭をブレアリウスのレギ・ソード、続いて彼エンリコのゼクトロン、殿(しんがり)をメイリーのレギ・ファングが務める。一部は破壊された高層ビル群を歩いていると、まるで廃墟の中を進んでいるかのようだ。


「リーダー、重量0にして飛んだほうが早くない?」

「ばーか」

 編隊長に叱られた。

「こんな狭いとこで飛んでたら、加速した途端に建物に突っ込むよ。避難進んでるみたいだから多少は壊してもいいけど、がれきに埋もれたら一巻の終わり」

「はいはい、ただの的ですね」

「回避するにも足の踏ん張りがきいたほうが自由度高いでしょ」


 彼らにしても慣れた方法である。飛行できない前世代機動兵器アストロウォーカーであれば歩くか走るかジャンプするかしかできない。自然、もっとも多いのは歩く場面になる。

 ただしアームドスキンはシャープでパワーのある機体。咄嗟の行動も敏速で振りまわされかねない。逆にいうと、少々建物に突っこんでも破損しないタフさもある。


「高く飛んでも同じことだ」

 狼が言ってくる。

「へいへい、同じく的になっちゃうってね」

「あれみたいにね」

「あー、リレーくん」


 上空には中継子機(リレーユニット)が浮いている。それでターナ(ミスト)が戦闘濃度でも指揮系統を維持し、離れた場所との通信も可能にしている。


「わお、狙撃された」

「行くぞ」


 格好の的の中継子機(リレーユニット)だが、こんな状況だと案外狙撃されない。相手の指揮系統を寸断できるメリットはあるが、逆に射線から自分の位置も特定されてしまう。しかも自動回避も搭載されている。失敗しても敵が殺到してくるリスクだけは負わないといけない。


「ブレ君、曲がってすぐ!」

 レギ・ソードが飛びだしていく。

「気を付けなさい。敵機も寄ってくる」

「さーて、パーティーのはじまりはじまり」

「上!」


 続いた彼の上空を横切るように飛来するアゼルナ機。味方の援護にやってきたアルガスだ。

 反対側に横っ飛びしてビルに背中を打ちつける。破片を撒き散らしながら照星(レティクル)で敵機をポイント。胸の中央を狙ったビームは左腕を吹きとばした。


「上等!」

「リーダーにお任せ」

 ブレアリウスの援護に振りむく。

「っと、終わっちゃってるし!」

「そっちは?」

「もういい」


 レギ・ソードがボルゲンの上半身を斜めに両断している。誘爆しても推進機(スラスター)だけだろう。アルガスのほうもメイリーがブレードで鳩尾から斜め上に貫いている。


「おっと、ラッキーだったね」

「放っときなさい」


 倒れた機体からハッチが吹き飛んでパイロットが逃げだす。コクピットを外して制御部を破壊したようだ。


「案外いけそう?」

 市街地戦だとアゼルナンの得意分野の剣技勝負になるかと思っていた。

「ブルーがいるし。それに小回りの利く機体のほうが取り回しがいい。あんたの出力抑えたビームランチャーでも効果あるでしょ」

「なんとか。トリガー落とす瞬間に忌避感で背筋ピリピリしちゃうけどさ」

「割り切んなさい」


 25m級のボルゲンは市街地では動きにくそうだ。21mのアルガスや標準的に20m前後のGPF機だと多少の余裕がある。

 その後も散発的な遭遇戦を繰り広げ撃破を重ねていく。エンリコは思ったより敵影が濃いと感じていた。スレイオスの賛同者は意外と多いらしい。


(根深いね。そこまで人間種(さる)の風下に立つのは我慢ならないわけ?)

 特に若い世代が多いと聞く。

(全部が全部じゃないんだろうけどさ。ハテルカヌみたいな例もあるし。切っ掛けがないとダメかよ)

 和解の地では彼もブレアリウス以外のアゼルナンとも交流していた。


「さて、次は……、ん?」

 投影コンソールで緊急アイコンが点滅している。

「救援要請! 救援要請! 誰か奴を止めてくれ!」

「オポンジオだ。行くぞ。システムナビ、方向を出せ」

「あの白い狼君が頑張っちゃってるのかぁ。しょうがないなー」


 自動的にルート検索されて表示される。それに従ってメイリー編隊は走った。


   ◇      ◇      ◇


「今ひとつ手応えがありませんね」

 司令官が片眉をあげている。

「比較的優勢なのですから問題ないのではないかと?」

「それにしては自信満々でしたでしょう? 不気味なんですよね」

「根拠はなかったのかもしれませんし」

 タデーラは答えにくそうにしている。


(たしかにスレイオスは自信家だもんね。でも、サムエルさんの疑問も分かる。あの人だって技術者なんだから、まったく根拠のない自信は持たないはず)

 デードリッテもそう感じている。


 アウルド技術主任と共同してやった中継子機(リレーユニット)の自動回避システムは正常に作動している。撃墜されたのはわずか一基だけ。

 レギ・ソードの機体状態も問題ない。いつもより脚部の加熱が激しいが、走行をくり返している所為なので想定内。

 なのに妙な不安が付きまとってくる。なにかを見落としているような気がしてならない。


機動砲架(レギューム)は危険な武装。でも攻略した)

 レギューム搭載のオポンジオも退けている。

(あ、そうだ! あの武装の技術を奪われていたのにシシルは何も言ってくれなかった。もしかして、まだ拡散したくない技術を盗まれていたときは教えてくれないのかも!)


 頭をよぎった閃きにデードリッテは戦慄した。

次回 「先祖返り、お前の相手をしているとイライラする」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 やはり奥の手が?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ