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人狼たちの戦場(9)

 首都ディルギアは騒然としている。

 一部市民はスレイオスの専横を快しとせず、勝手に軍を指揮下に置く行状を糾弾する。彼らは指揮権を支族会議に返還するよう求め、行政機関周辺でデモ活動を行っていた。


 軍本部ビル周辺でもっとも激しい活動が繰り広げられている。スレイオスはその様子を見降ろしながら、苛立たしげに鼻頭に皺を寄せていた。


「解散させろと言ったはずだ」

 補佐官をにらむ。

「呼びかけてはいるのですが、一向に散会する様子もありません。今は侵入させないようにするのが限界かと」

「ちっ、どこぞの支族長の飼い犬が混じっているな。必ず扇動している者がいる。見せしめに捕縛してやれ」

「市民をですか? それは反感を買うだけです」

 制しようとしてくる。

「誰が全員捕らえろと言った? 旧弊の走狗を選りだせ。ちょっと締めれば真相をしゃべるだろう。既得権益に執着して民族の未来に影を成すものなど罪状と一緒にさらしてしまえばいい」

「ですが支族長による共同統治は我が民族の発展の基盤となった体制です。軽視するのはいかがなものかと」

「因習に従って繁栄の道を閉ざせと? 貴様も群れのしきたりから逃れられない愚物か? それでは銀河を制するなど不可能だぞ」


 革新なくして進歩はない。管理局を排して星間銀河の雄を目指すならアゼルナンは変わらねばならない。人間種(サピエンテクス)とて使いこなせねば統治など無理である。


「命じますが更なる武装の許可をお願いいたします」

 思いなおしたのか、耳を寝かせながらも進言してくる。

「数が違います。彼らにも身を守る術をお与えください」

「仕方あるまいな」

「ありがとうございます。使用は慎むようにさせますので」


 補佐官は指示に向かう。明らかに気の乗らない後姿に失望する。


(首都の事情に通じているだろうと行政官を登用してみたが、あれでは使いものにならんな)

 考え直さなければならないかもしれない。

(民族の未来に対する気概が足りない。必ずや成し遂げようとしなければ何も起こらない。中途半端ではただの夢に終わるだけだ)


 志が薄いと感じる。本星の者より民族統一派のほうがよほど思い切った行動ができると思えた。封じられていようとも、それはそれで住みよいと満足でもしていたか?


「本物の気概というものを見せてやろう」


 正面玄関の警備に当たっているのは彼直属の統一派の兵たちだ。道理を心得ている。


「ふん」

 玄関前を眺める。


 重火器に持ち替えた兵が前進して散らそうとする。押し寄せるデモ隊は腰が引けたように一度下がった。しかし携帯端末に『支族会議を尊重せよ!』という投影パネルを表示させて掲げた市民の数名が勇敢にも一歩踏み出してきた。


(そいつらだ)

 ターゲットが判明する。


 スレイオスの意思が通じたように警備兵はその数名を銃口で制する。捕らえれば、要を失った民衆は勢いを失うと考えていた。


「む?」


 ターゲットを救いだそうとする者が現れる。掴みかかる警備兵との間に身体を割りこませようとしていた。その手が銃身を掴む。

 脇に構えたハイパワーガンを奪われると思ったか、その男に向けてストックを振りあげて殴りつけた。もんどりうって倒れた男を助けようと一人がレーザーガンを取りだす。そこへハイパワーガンの高出力レーザーが集中して射殺した。


「ちっ!」

 正当防衛だが状況が状況だ。


 デモ隊が雪崩を打って殺到する。応じて発砲が繰り返される。弾ける悲鳴と怒号。暴動が勃発した。

 彼の位置からレーザーの小さな発射音など聞こえない。やもすればレーザー光さえ微かにしか見えない。しかし確実にデモ隊は撃たれている。


「度しがたいな」


 武器を持たない市民が文字通り牙を剥く。掴みかかり爪を走らせ、そして牙を突きたてた。警備兵は武器を奪われまいと警告と発砲を重ねる。腰からハンドガンを奪われ射殺される者も頻出してきたのが分かる。


「くだらん」

 呆れが度を超す。

「ただの獣だな。ベハルタム、聞こえるか?」

「なんだ?」

「軍本部ビル前を制圧しろ」


 オポンジオに乗せている白狼を呼びだす。暴動鎮圧にアームドスキンを投入する決断をした。見苦しい惨状などこれ以上放置できない。


「警備はどうする?」

「続行だ」


 ベハルタムを待機させていたのは、支族会議派の連中が機動兵器を持ちだす可能性を危惧してのこと。


「追い散らす」

「やれ。そうしたら逃げた奴の中から機動兵器を動かす輩が出てくるだろう」

 容易に想像できる。

「もう撃破していい」

「鎮圧するんじゃなかったのか?」

「ディルギアは諦めた。ここを戦場に設定する。古い因習にとらわれた都市など破壊して構わない。次代の民族の象徴は新たに建設すればいい。GPFを退けてみせればいくらでも協力は得られるであろう」


 要は能力を見せてやればいい。支族長体制にしても、根っこの部分は能力主義が基本。管理局を圧倒する技術さえ示せば納得させられると本気で考えている。


「別に厭世的になったのではない。市街地戦となればGPFも派手な戦闘を避けたがるはず。奴らはそういう制約を受けた部隊だ」

「なるほど。スレイオスは頭がいい」

「そちらは任せておけ。お前は私の思想を実践してくれればいい」


 金眼に獰猛な光を灯らせたスレイオスは非情な命令をくだした。

次回 「ケツを叩いて動かすにも限界があるからね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 あぁ!? 最悪の一手を……。
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